余録・決勝血戦
Side~リライヴ
一人目との出会いは、自分の力を何一つ疑っていなかった、疑う余地も無かった、むしろ全力で振るえば世界すら壊すと思い上がっていた頃だった。
少女達を庇う為に雷撃に気付いて飛び出した、そんな気概は買っていたが、弱さと男嫌いもあって目にもかけていなかった少年。
私と比べれば大した魔力も無かった筈の彼は、磨いたモノを以って私を破ってみせた。
世界の理によって叶える事を許されない願いを叶える。たとえ平和な世界の秩序と敵対しても。
そう在り続けた私は管理局とその味方には思う所は無かったけど、平和な世界とあぶれた人達両方救おうと、粉骨砕身どころか文字通り粉砕骨折しようと突っ走っていた少年の姿に、死んでも頭は下げまいと抗っていた私はやがて彼には心を許した。
二人目との出会いはそれからしばらく、世界規模のJS事件が終わって少しの騒ぎが起こるだけの平和に見える時間だった。
強くなれる要素なんて微塵も感じない普通の子供。
けれど…ううん、だからこそ、彼には身につけられた強さがあった。
それは、不可能を前にしても心折れない異常な精神力。
何しろ、才能では誰より劣る中で世界を滅ぼしかねない力を相手にすると決めたのだ。
計算上、理論上不可能。でも諦めないとは決めている。
その意志を以って進み続けた結果、彼は二つの力を手にいれた。
一つ目はそれを予想した師が組み込んだ、普通の全てを誰より速く扱う能力。
二つ目は師の予想すら超えた、敵の優勢を予想外としない為に起こる劣勢下での超反応。
多才で強かった全てを救おうとしている少年と、非才で弱かった一人への想いで動いている少年。
どちらの力が、想いが…強いものなのか分からない。
けれど…願わくば…
『デタラメな戦いの数々を繰り広げてくれた文句なしの英雄達の頂上決戦!高町速人さん対フォート=トレイアですっ!!』
歓声の中に現れる二人の願いがどちらも叶って欲しいと、不可能なのを知りながら願わずにいられなかった。
勝敗を決める戦いでどっちも何て、きっと…私が、夢見る少女みたいに甘ったるいせいなんだろう。それでも願わずにはいられないんだ。
評価とか、進路とかじゃない、二人の存在理由そのものが…まして、あれだけ身を削ってまで進んできたのに、それを間近で見ていたのに、そのどちらか叶わないなんて…
しょうがない、とはどうしても思えなかった。
Side~フォート=トレイア
なのはさんとやった時みたいに思い入れのあるフィールドにするというだけなら、ずっと篭もっていた修行地である森がよかったが、折角観客が見れる状態にしてあると言うのに上全面木々で塞がるような状態は著しく配慮に欠けるという事で、所々に木々のある林程度の状態にして貰った。
『これまでの試合から血戦になる事は想像できるので、気分が悪くなりそうな方はお気をつけくださーい!』
サラッとおっかない解説をしてくれるアクア。
俺が否定できたもんじゃないが、明るく言う台詞じゃない。
「さてと…準備と覚悟は出来てるか?」
「競技選手じゃねぇんだから、いつ何処で誰と何があっても対応できて当然だろ?」
「対応出来てる奴が一戦一戦骨折出血するかよ。」
俺の返しを笑いながらぶった切る速人。
喰らった誘導弾も魔力ダメージだった速人の方はここまで怪我も無いみたいだし、それを言われると少々口答えし辛い。
とは言え初めから口で負けて試合開始ってのも…あ。
「ここまでで奥義抜いて一杯一杯だった奴がよく言うぜ。」
「ぐ…」
まぁ誰も彼もエース級以上なんだからおかしい話じゃないが、俺は予選突破にフォースドライブ使っただけで、試合では使ってこなかった。
なのはさん相手にしたから使わざるを得なかった…とは言わせない。俺だって世界チャンピオンと近接最強の局員を破ってきたんだから。
少し顔をしかめた速人は、その後に笑みを見せる。
「舌戦はこれ位にしとくか、客席に楽しい訳でもないしな。」
「それには同感だ。」
速人は既に腰にナギハを装備していた。
俺は左腕に盾、右手に剣を展開して構える。
『準備いいみたいなので…それじゃ決勝戦!!レディー…ゴーッ!!!』
アクアの合図と共に、俺は全力で地を蹴った。
「はぁっ!!」
袈裟斬りで斬りかかるも左斜め前に潜るようにして距離を詰めてくる速人。
俺は裏拳気味に左腕を振るいぶつけにかかる。
「それで倒せるなら競技者にも負けるっての。」
右腕が動き、刀が盾の内側…俺の二の腕に迫るのが見えて…
バリアバーストを行いつつバックステップで無理矢理距離をとる。
直撃したら腕落ちてたからしょうがないんだが…
くっ…そ、分かっちゃいたがいきなりバリアバースト使わせるかよこの野郎。
二丁拳銃を展開して構える。
「バレットスコール!」
射撃の連射をそれこそやったらめったらという感じに撃つ。
完全に外れる弾があるような腕だからかえって見切りづらいかとも思ったが、片手間と言わんばかりに直撃軌道の弾だけ切り払いながら接近してくる。
「昨日と比べて欠伸が出るぞ。」
だろうな。
と、言うしかない三桁誘導弾を思い出しながら、俺は斜め後方に跳躍しながら銃を構える。
「フォトンバースト!」
二丁構えた銃を使っての同時砲撃。
二本の砲撃を放つ事で速射ながらに範囲を大きくするのは勿論として、後方跳躍しながら砲撃を放ち、『身体を固定しない』事で反動による加速をかける。
「旋空壁。」
木に着地するように足をつけた上で枝を片手で掴んだ所で、直撃コースではあったのだが、いつかあっさり俺の砲撃を流した受け技で二発放った砲撃を逸らす速人の姿が見えた。
二丁拳銃から変えたソードウイングを8本全部射出。
降り注いだ剣を速人は納めていた刀を抜いて器用に周囲に逸らす。
「鳳仙花。」
「は?…っ!」
直後、速人の周囲を舞っていたデバイスの機能を用いて『魔力によって構成された』8本の剣は全て魔力散弾に変化して速人に降り注いだ。
…ここだ。
殆ど同時に木を蹴って、魔力弾の雨にさらされている速人の前…丁度刀の間合いをぎりぎり外れた位の距離に着地する。
降り注ぐ魔力弾の雨を、刀を持ちながら器用に持った翠色のマントを振るって凌いだらしい速人に向かって俺は両手を向けて…
「フォトンバーストッ!!!」
両手から二発の砲撃を放った。
デバイスによる補助があったほうが威力は出るが、腕やら拳やらでも撃てる砲撃魔法。
高難度の代物じゃないため俺でも普通に制御できるし、このタイミングならかわせない。
…普通には。
当たり前のように砲撃着弾前に視界から消えた速人は、俺の右に回りこんでいて…
水平に引いた左の刀を突き出しながら突っ込んできた。
どうせそれ位やるだろうと砲撃前既に両腕に展開しておいた盾。
その右腕の盾で突きを受け…とめきれずに後方に吹っ飛ばされる。
ビリビリと腕が痺れるような衝撃と共に、背中から木にぶつかって止まる。
そんな俺を見ながら、速人は顔をしかめつつ右手に持っていたマントを羽織い直していた。
顔をしかめている理由は当然分かっている俺は、わざとらしく笑ってみせる。
「俺のフォースドライブより先に使っちまったな、あの高速移動術。」
「…嬉しそうだな、ったく。」
小さく息を吐いた速人は、ナギハを両の腰に仕舞いなおして左手の指を鳴らす。
パチン。と、乾いた音がすると同時に、俺の右腕の盾が砕けた。
深くは無いが、腕に届いていたらしい刃。僅かに血の伝う感触がする。
こいつ…出力は俺と同じでそんなに高くないはずなのに、俺の生成した盾っつっても金属質の防御を身体強化による突きだけで…
「射抜。…御神の奥義の一つだ。前も使ったし、模倣したフレアが見せてたな。」
「槍使いで特に突きの破壊力に定評のあるあの人の方が真似る突きかよ…どうりで。」
魔導師、としての攻撃力は俺と大差ない…どころか砲撃とか使わない分俺より低いかもしれないくせに、あのオリハルコン製の太刀じゃなく小太刀を使って盾を破壊するデタラメな威力。
だが、それもあのフレア空尉が真似る代物と聞けば納得だ。
「けど、本当に大したもんだよ。」
「あ?なんだよ急に?」
「急じゃないさ。お前の望む場所が俺でなければ当の昔からずっと褒めちぎりたかった。そして今となっては、俺の力を引きずり出す実力になってるんだ。馬鹿にしたら自虐になるだろ?」
俺を褒めるなんてロクにしてこなかったはずの速人からの賞賛と、その理由に納得がいった俺はどうにもむず痒い気分になる。
嬉しいと言えば嬉しいが…慣れないからか落ち着かない。
「まぁ…今わざわざ言っといたのは…二度と言えなくなったら心残りだからなんだがな。」
「何?」
「死ぬなよ、フォート。」
珍しく真面目な顔を見せたと思った次の瞬間…
速人の顔から表情が掻き消えた。
Side~ジークリンデ=エレミア
デバイスの特性上『使える』思ってずっと訓練しとったらしい薊の魔法である鳳仙花。
才能に乏しい彼はずっと使えずに困っていたらしく、事件後に薊に教わりに来たらしい。
そんな話を知っとるのは、隣の薊が解説してくれたから。
綺麗に使いこなしたとこまでは感心して見とれたんやけど…
「今…何が起きたんか分かる?」
「殿方に鼻効くはずのウチにもよく…」
呆然と、その隙間だらけの林を眺める。
フォートが『一人』、あちこちに視線を彷徨わせていた。
ふざけてる。意味が分からない。
だって…数百年分の戦闘記憶の中に何一つ…
今の状況を作れる手段が無いんだから。
一人…と言うんは少し語弊がある。
時々黒と翠の姿は見えているから。
けど、見えているのに、人がいる事が感じられない。
「完全気配遮断。」
いきなり聞こえてきた声に視線を移すと、そこには王様達の姿があった。
「マスターの試合に間に合ったのはいいけど、まさかこんなのまで使ってるなんて。」
レヴィちゃんですら複雑そうに林を眺めている。
さすがに気になったんと、わざわざ来てくれた事もあって聞いてもいいのかと思い聞いてみる事にする。
「王様達はコレ知っとるんよね?」
「うむ。速人の切り札の一つ。生命活動を限りなく抑えた上で自身の心を封殺する事で、気配と言う気配を消滅させた状態で活動する。」
遠目に見ていても『人がいる』と言う認識に至りづらい位や、対峙した状態や屋内で使われたら見失ったら最後何処におるか全く分からんと思う。
「それより…なんでそないなもん身に付きはるんどす?聞く限りあん方は英雄としてずっと活動しとった筈…」
「幼少期に身に付けたもので、10に満たない頃の話だそうです。」
薊の鋭い疑問に淡々と応えてくれたのはシュテルちゃんやった。
幼少期に、心を封殺する。
ウチ含めて回り皆色々ある身やけど…あまり聞き難い話やった。
ただ、その『色々』のある身として一つ分かる事がある。
それは、特殊な出生でわざわざ持っとる力の凄さ。
ましてあの人は、それを使わんでもヴィクターやハルにゃんを圧倒した英雄。
当然その異常なスペックをあのフォートに振るうなら…
死角からの首への一閃に、きょろきょろしとったフォートは咄嗟に前転する。
立ち直った頃にはまた視界から外れ、またフォートは周囲に気を配る。
その首には、軽く出血が見える。皮一枚やないんかアレ…試合で済まん気が…
「心を殺す関係で、殺人に関して呼吸や歩行と同じ位、何も感じなくなる。無論普段使う時はその当たりを制御するのだが…」
「わざと躊躇い無く扱っているようですね。フォートが相手だからでしょうが。」
「ちょ、それ感心して見とる場合やないって!」
異常極まりない話に殆ど反射的に立ち上がる。そんなウチの腕を掴む小さな手があった。
「ユーリ?」
「大丈夫です。」
小さな、けれどはっきりとした声。
「ヒーローは…簡単に墜ちませんから。」
何処か悔しそうにすら聞こえるユーリの声と共に、フォートの体が淡い紅い光に…フィールド防御魔法に包まれた。
そして、直後再びフォートの死角から迫る速人さんの姿が見え…
紅い光に触れた瞬間、フォートはその光の全てを魔力弾に変えた。
鳳仙花…っ!?しかも待って、死角から急所狙われてるのにやること攻撃って!?
魔力弾を直撃した速人さんやったけど、フィールド防御に刃が触れた瞬間にその防御を攻撃に変換したため、当然のように首に届く刃。
惨劇を想像したウチは、フォートの首の皮の内側から僅かに覗く銀色の光を見て固まる。
「くっくっく…あの馬鹿首に狙いを絞って皮膚の内側にリベリオンで膜を張りおったな。」
楽しそうに笑う王様の言葉に、ウチは口を開けて呆然と突っ立つ他出来んかった。
リベリオンの…設計図が組み込んである、あるいは体内構造にあわせてならいくらでも形状を変えて展開できる言う特性については聞いてある。
せやけど…だからってそんな…
皮一枚で繋がる、どころか皮は完全に切断された首の内側の器官だけ守るなんてアホな事をして見せたフォートに、ただ言葉をなくして突っ立っている事しか出来なかった。
Side~高町速人
完全気配遮断の状態で直撃なんて貰った経験はあまり無い。
そんな事出来たのは、これまでは完全に上と認める御神の剣士位だ。
オマケに非殺傷設定までかけてくれやがったフォートを、俺は地面を転がった後で立ち上がって見据える。
フォートは俺を振り返ると、皮を完全に切られて出血する首を無視して、マントを掴んで俺に見せてきた。
「何勘違いしてんだよ。」
フォートは俺を睨むようにして見て、言葉を続ける。
「お前が俺からコイツを取り返す『チャレンジャー』だろ?」
「は…」
あまりの台詞に呆然と息を吐く俺を見ながら、フォートは自慢げに笑みを浮かべると、掴んでいた手から放るようにしてばさりとマントをはためかせた。
「隠し技の小出しでテスト…なんてやってないで、全力で来やがれグリーン。主人公のレッド様が相手になってやるぜ。」
それは俺がレヴィなんかと話していた、陳腐で幼稚な子供の…そして、それ故に目指すべきヒーローの資料としていた日曜朝の物語の定番。赤を主役とする主人公達の物語。
「っ…はは…あははははっ!!!」
声を出して盛大に笑った。
おかしくておかしくて仕方なかった。そして、ちょっとばかり悔しかった。
だって…その通りだから。
ヒドゥンとの戦いの中、馬鹿みたいな理由で勝てると言い切って皆を動かしたのは誰だった?
俺の始まりである妹を一時的とは言え任せる羽目になったのは誰だった?
皆が動かなくなった最後の最後、歌に応えて俺より先に動き出したのは誰だった?
出来る事が多い俺よりもずっと多く、不可能への反逆を成して来たのは…誰だった?
「っはぁっ!!!」
風翔斬。
笑いをとめると同時に一気に抜き放った右の一閃から風の刃を飛ばす。
が、フォートは高速移動魔法によって回避した。
発動が速過ぎる、フォースドライブだ。
俺は移動先を見据え、神速に入る。
師弟などと言ってはいられない…コイツの言う通り、全力で打ち倒す!!!
Side~リライヴ
神速とフォースドライブの戦い。
フェイトやヴィヴィオのアクセルドライブすら人間離れした反応速度を用いた代物なのに、更にそれを昇華した領域。
それは最早、人の戦いにすら思えなかった。
砲撃の雨を瞬間移動の如き移動で潜りぬけて接近を図る速人。
間合いが詰まった直後刀が振るわれる前に高速移動魔法でその場から消失して速人の死角に移動するフォート。
死角への移動の魔力光の軌跡を目で追いながら振り返り、そのまま振るった刀から風の刃を飛ばす速人。
視認不可能なほどの風の刃に向かって構えた銃から砲撃魔法を放つフォート。
風の刃を貫いた砲撃を消失するかのごとき跳躍で回避する速人。
これらの交錯が、認識するのも困難な速度で行われている。
威力としては何処でも見られるかもしれない、ただ、圧倒的に速いんだ。
しかも移動速度とかでなく手数、手の回りが。
処理時間の無い魔法の乱射に、生身で瞬間移動の如き身のこなし。
どちらも人の所業じゃなかった。
そして、人の戦いと思えないこの戦いは、同時に人の戦いでもあった。
人が行う人外の所業…つまり…
どちらも限界を超えていると言うこと。
仕切りなおすような距離を開いて構えた二人は、揃って肩で息をしながら目に見えて汗を滴らせていた。
普通の人の短距離走だって、20秒全力なんて早々ありえない。
限界を超えての全力をぶつけ合えばこうなるのは必然だった。
ここまでは五分に見える。でも…決定的な差があった。
普通に駆け出した速人に対して、フォートは大剣を精製して投げる。
速人が直線状を外した所で鳳仙花を発動させるフォート。けど、その瞬間に神速に入った速人は全ての弾を置き去りにフォートとの距離を詰めた。
素直に零距離で剣技の交錯となれば絶対に神速を使う速人に届きようがないフォートは即座にフォースドライブにて高速移動魔法を使用。距離を取ったところから砲撃を放つ。
対して『神速を切った』速人は、迫る砲撃を旋空壁で逸らす。
その差は、それぞれがその神業を組み込んで戦ってきた期間。
要所、使い所を弁えておかなければあっと言う間に人間の限界値に辿り着いてしまう代物を使うまではいいが、相手より長い時間扱えばその分一気に消耗していく。
神速の近距離戦をやらせないために離れるのはいいが、離れた状態ではいくら魔法を連射できても常時神速を使わせるには至らない。結果、要所でのみ使う事に慣れている速人の方が消耗が軽くすむ。
まぁ…どっちも人の域は外れているから軽く済むって言ったって相手よりってだけでぜんぜん軽くは無いんだろうけど。
フォートの射撃が途切れた瞬間、速人の姿が消失した。
遠巻きに見てても移動がほぼ分からない。多分神風ではなく二段掛けの方。
それも…その状態で薙旋。
どうにかフォースドライブで障壁を展開したみたいだけど、元々射撃が途切れるほど魔力に余裕のない状態、壊れる度の連続展開による絶対防御なんてできる訳も無く…
最後の一撃が、フォートの身体を薙いだ。
完全に入った。これで…
「っ…はあああぁぁっ!!!」
「え…」
振り切られた刃が身体を通り過ぎたかも怪しいようなタイミングで、フォートは高速移動魔法を使用した。
ブレーキなしで前方へ。
肘鉄気味の突進となったフォートは、そのまま勢いをとめず飛行で速人を押しながら木の一つに体当たりした。
よりにもよって鳩尾に吸い込まれるように肘が入っていて、二人が衝突した木に罅が入るほどの衝撃。
元々防御力が高い訳でもない速人は口から盛大に血を吐き出した。
あれはまずい、って言うかこれ以上は無理だ。
追撃とばかりに右拳を構えているフォート。そして、木にもたれかかった速人の顔面目掛けてその拳を放つ。
膝を折って崩れ落ちるかのように身体を沈めて回避した速人は、そのまま拳を突き出したフォートの懐に左手を当て、吹っ飛ばした。
おそらくは、寸掌。それも、さっき斬撃を直撃させた傷口に。
直撃したフォートはそのまま吹っ飛ばされて地面を転がり…殴りつけるようにして無理矢理立ち上がった。
「何処まで予想通り?」
唐突に隣に居たなのはがそう声をかけてきた。
明らかな血戦を前に何処か楽しそうですらある彼女に、私は答えに詰まる。
「…フォートが斬られるまで。」
「そっか。私はその後フォートが動くんじゃないかなーってちょっと思ってた位。」
近接戦での流れの読み合い、なんてものはする必要の無いなのはにしてみれば詰め手までの流れは漠然としたものになるのもしょうがないのだろう。まして、人の範疇を外れて、思考を挟む戦術の域が機能しない、獣より速い反応で決定した行動同士をぶつける戦闘で、戦術予測なんか立つ訳が無い。
でも…なんとなく、なのはが見ているのがそんな所じゃない気がした。
「意識が無くなる位になっても、その前の強い思いに突き動かされるように勝手に動く…偶にある話だよね。」
「そうだね。」
常に思考や判断が必要な任務とかよりも、引くと言う選択肢が薄い試合なんかで極限状態まで行くと見れる光景。
だけど、身内の試合で今そんな状態なのを素直に喜んでるって言うのも、怪我で酷い目を見てるはずのなのはにしては意外に感じて…
「それってさ…何も感じなくなる事が出来るようになっちゃってた速人お兄ちゃんが、フォートと同じ位に何かを強く思えるようになったって事だよね。」
「あ…」
全く意外でもなんでもないことに気がついた。
なのはは、速人が名乗るヒーローって言うのが、粗雑な物真似だっただろう頃から知ってるんだ。元々の速人の本当は、生き物なら持ってて当たり前の死にたくないって気持ちすら完全に閉ざしてしまうことが出来る暗殺兵器だったんだから。
それが、ただ強い思いだけを糧に限界を超えることを旨としてきたフォートと同じように切り返せたと言うのなら…
「理由なんて何でもいいんだ。ただ…考える所を超えるようになったのが…ちょっと嬉しくて。…見ての通り、危なっかしいんだけどね。」
仕方のない子供を見るみたいに笑うなのは。でも、とても嬉しそうだ。
自分の身体のことだってあるだろうに、その危なっかしいものを見て速人の変化の方を素直に喜ぶ事に気持ちが回るなんて…なんだかまた負けた気がした。
Side~フォート=トレイア
意識が明滅してるのはいつもの事だが、直撃放り込んで打撃を返されるってのはちょっと予想外だった。
当たらないとかダメージ通らないとかは結構あるんだが…この野郎…
俺よりずっと長く遠く不可能事を追ってきたって事実を改めて思い知り…
『負けないよ、負けるはずない。』
昨晩のアイシスの言葉を思い出して笑う。
だ…な。俺がコイツに及ぶかどうかじゃない。
俺の理由がコイツの理由に及ぶかどうか…だ。
世界も英雄も関係ない、俺がフェアレの前で誰が相手だろうと負けてたまるか!!
俺はプットアウトで取り出したオリハルコンの剣を両手で握り…
「っ…」
リンカーコアから直接魔力を込める。
ここまで来て加減も何もない、渾身の一撃を…
速人が俺と同じようにあの太刀を抜いて、真っ直ぐに構えていた。
やがて、太刀から『魔力ではない光』が立ち上り、混ざるようにして魔力が加わっていく。
「さすがに技術がどうのって段階じゃねぇが…それでも俺のありったけだ。とめられると思うなよ!!!」
命の光を思わせるような、そんな力の塊と化した太刀を思いっきり振りかぶる速人。
「誰がとめるか…破るんだよっ!!!」
かわして斬りかかるような逃げに走るつもりは無い。そもそもそんな調整効くような力でも体調でもない。俺も鏡あわせのように剣を振りかぶる。
「おおおぉぉっ!!!」
「紫電楓陣刃ぁ!!!」
同じモーションから放った命丸ごと吸わせたような一撃が衝突し…
周囲の作られた林の葉が剥げて、俺と速人は互いに後方へはじけるように吹っ飛んだ。
視界が明滅する。手に感触が何も無い。
いや、麻痺していただけらしく、次第に痛みが伝わってくる。
同時に戻ってくる視界で見れば、ぐしゃぐしゃになった手で破片のようなモノを握っていた。
血だらけだ。砕けては無いが骨もいくらかいかれたらしい。
視線を自分から前に向けていくと、『刀身だけ』になった剣が二本、地面に突き刺さっていた。
さすがに俺や速人の力で壊れるなんておかしいとは思ったが、オリハルコンでない柄の部分が砕け散ったのか。
とは言っても質のいい金属で作ってはあるだろうに砕けるとは。そりゃ掌位ずたずたになるか。
でもまだだ。二本とも打ち合わせた位置で落ちて突き刺さってるなら…拮抗したはずだ。
座ってる場合じゃない。
傷だらけで血だらけの手をワザと握り、痛みを気付けに立ち上がる。
「お…まえなぁ…魔力だけの一撃で拮抗してんじゃねぇよこの野郎…」
同じように立った所だった速人が、血みどろの手をだらりと下げた状態で俺を見て苦笑している。
笑ってる余裕があるのか、それともこの状況を楽しんでるのか、全く…
「アレコレ使って互角のお前が悪いんだろうがっ…俺の知った事か。」
「…なんだよ、互角にならずに負けたかったのか?」
「まさか。」
握った拳を持ち上げると、そんな俺を見ながら少し息を吐いた速人は…
同じように拳を握って、地を蹴った。
Side~トーマ=アヴェニール
今の俺だって負けるかもしれない…って言うか、多分負けそうな二人の高速戦闘からの全力の打ち合い。
それでも決着がつかずにろくな力も残ってない状態まで行った二人は、揃って拳を握って駆け出して殴り合いを始めた。
本来なら高等技術を多数使えるんだろう速人さんもああも傷だらけの手や腕、ダメージと疲労で駆け出すのがやっとの足じゃそれもままならないのか、泥仕合を得意とするフォート相手に真正面から殴り合いに付き合う羽目になっている。
「昨日も思ったばっかりだけど…男の子って奴は…」
隣でアイシスが頭を抑えながら呟く。
どうしてか御酒をあおったらしく試合中から不調みたいだったけど、ここへ来て不調の頭でも見える殴りあいになったからなのか、少し笑みを見せている。
…あ、フォートの右拳を左拳で逸らして、右拳を鳩尾に叩き込んだ。
アレなのはさんの時にもトドメにやってた技だ。あのふらついた状態でもあんな真似が出来るのか速人さん。
今の直撃はさすがにフォートでも…
とか思ってたら、今度はフォートがジャンピングアッパーを繰り出した。
震えてる足じゃ余り力が入らないのか飛び上がるのもまともに出来なかったが、それでもあんな強打を直撃した速人さんは後方へ吹っ飛んで倒れる。
が、飛び上がったフォートも着地出来ずに地面に転んだ。
「ぼんやりと…覚えてるんだけどさ。」
「んー?」
「あの二人が…やってくれたんだ。あの時の戦い。」
ヒドゥンを倒した時の戦い。
生命力って点ではほかの皆より図抜けていたはずなのにあまり力になれなかった俺の前で、今みたいに傷だらけで力を使い切った筈の身体で二人は飛び回っていた。
「なんか…今見てるとさ…あの時から戦ってたのは、負けたくなかったのは、二人だった気がするんだ。」
ボロボロの様相で動く二人を見ていると、直接戦っていたわけじゃないのに焼き直しみたいに見える。
「…やっぱりそう言うの、同じ男の子だから分かるもんなのかな。」
「え?」
「なんでもない、あってるってだけだよ。」
拗ねたように言うアイシスは、こっちをワザと見ないように二人の試合を眺めていた。
倒れた二人は立ち上がって、よろよろと近づきながら殴り合って揃って倒れて、また立ち上がって…
そんな事をしばらく繰り返して、二人揃って立ったまま動かなくなった。
…倒れて終わらないあたりもなんか二人らしいや。
医療班的にはすさまじくまずい状況なのか、あわただしく会場に飛び込んでくる医療班の人達を見ながら、俺は根拠も無いまま大丈夫な気がしてただ呆れていた。
SIDE OUT
ミセラレナイヨ(笑)な大惨事。…エミュレートとはいえ競技でも女の子が骨折るわ病院送りだわの世界なので少しは大らか…に、なれないでしょうか(汗)