余録・選ばぬ選択者
Side~高町速人
「起きてるか?ってか生きてるか?」
「生きてるし起きてるよ。なのはといいお前といい、捨て身で迫られるのも大変だぜ。」
予想通りと言うか何と言うか、試合とは到底呼べない戦いになった。
そこまでやってケリがつかない当たり、こいつ兄さんより手ごわかった事になるんだよなぁ…
アレと比較をすると納得し辛いのは、未だに兄さんにトラウマめいたイメージがあるんだろうか俺。いい加減払拭しないと。
「ったく…粘るのは俺の専売特許だろうに、お陰で俺の計画台無しだぜ。」
言いつつフォートはベッドから身を起こす。
別に俺に今すぐ起きる理由があるわけじゃないが、先に起きるのを見送ったら引き分けた試合まで負けた気がしてくるため俺も身体を起こした。
「計画?っと…」
言いながらフォートが投げ渡してきたのは、真紅のマントだった。
「倒したお前にソイツを突っ返して、コイツを羽織ってから勝利宣言してやるつもりだったんだけどな。」
起き上がったフォートが白を貴重にしたいつものバリアジャケットを展開する。
そしてその背に、取り出した白いマントを纏った。
どんな白率だ、とかちょっと思った所で気付いた俺は思わず微笑む。
「ヒロイン御手製の、しかも結婚用か?」
「まぁな。どっかの夢見る女の子が考えてくれたデザインのジャケットのお陰様でしっくり来るし。」
「違いない。」
今頃くしゃみの一つもしていそうなリライヴの姿を思い出して吹き出すと、フォートも笑っていた。多分同じ理由だろう。
少しの間をおいて、俺は手元に帰ってきた真紅のマントを見る。
勝って取り返さないとお情けみたいで格好つかないと思ってたんだがな…
そうは言っても、多分フォートにしても俺から渡して貰ってたものじゃ超えた証明にならないから満足はいってないだろうし…引き分けたんだから痛み分けなんだろうな、互いに。
「…こっちから素直に返しておいて言うのもなんだけどな、一つ条件がある。」
「あ?」
唐突に、真剣な声で妙な事を言い出すフォートを俺は訝しげに見る。が、軽く気圧される位真剣だった為、突っ込んだりはせずに聞く事にした。
「お前のヒロインに…大切な人達に答え返してやれ。」
余計なお世話だとは、思ったが言えなかった。
「馬に蹴られたって死んだりしないから言わせて貰うが、お前を好きで、その願いを知ってる人がお前に手を出す、縛る訳には行かないんだよ。ソイツを背に飛び回るなら、ついていく事しか出来ないだろうが。何をどうしたってそれ以外足かせになるんだから。」
俺が手にした真紅のマントを指差して言い切ったフォートは、片手剣を展開して突きつけてくる。
「望んだ答えを返せとまでは言ってやれないが、答える事すらこれ以上サボるって言うならソイツを返すつもりは無い。…今度は何があってもぶっ倒して奪い取る。」
俺とは決定的に違う、フェアレの…彼女との約束の為にと進む事を決めたフォートならではの、譲れない、譲る気のない点なんだろう。
そして、的外れと言う訳でもない。
決めるのに二の足を踏んでいたのは俺だし、皆からは散々に慕われ、状況に甘え続けた事にもなる。
「試合結果が引き分けになっちまった今、俺が唯一、師匠様に絶対勝ってると誇れる点だ。コレだけは素直に聞いとくことを薦めるぜ。」
自分がやることなすことは全部不可能への反逆だったフォートだが、それら全てを成して突っ走ってくるための原動力としてきた思いについては絶対の自信を持っているらしい。
そして…さすがにこの面では俺もフォートには勝てる気がしなかった。
「…まったくだ。大事にさせてもらう。」
師とは、ある物事について相手より精通している事が前提条件。
大切な女性への思いと行動についてだけなら比較にならない大先輩だろうフォートのアドバイスに逆らう理由などなく、俺は素直に頷いた。
Side~高町なのは
休み、としては基本的に皆3日間。
つまり、明日出勤するのに戻っておいたほうがいいんだけれど、『我等も混ぜろ』と遅れて合流する事になったディアーチェちゃん達がアースラを出してくれる事になったので、明日朝ここを出る事にした。
ま、普通の局員さんはともかく、ダメージ抱えてる私や速人お兄ちゃん達見たいな非正規の協力組なんかはそんなに時間に決まりやらがあるわけでもないから、元々朝食まで頂いて子供達と皆で戻る予定だったんだけど。
って…事で…
「フェートちゃーん…隠すと為ならへんよぉ?ほれほれぇー。」
「はやて絶対飲みすぎだよぉ…」
「酒やないもん!乙女の興味や!!!」
全員が全員じゃないけれど、何人かしっかりと出来上がっていた。
婚前旅行かねているフェイトちゃんに対して何かあったんじゃないかとニヤニヤしながら詰め寄るはやてちゃん。
いや、はやてちゃん…酔いが原因じゃないんだったら聞いてる事完全にオヤジだよ。
「情けないぞ小鴉。男の一人や二人、貴様が自力で捕まえればよかろう。」
「んー…」
自分の分身みたいな所もあるはやてちゃんの状態に納得いかないのか、呆れるディアーチェちゃんに首だけ向けてニヤリと笑うはやてちゃん。
「…胸あったほうがええかなぁ。」
「知るか!…何をする気だ、よるな酔っ払い!おい!守護騎士共なんとかしろ!貴様等の主人だろうが!!」
「女の一人や二人自力で逃げたらどうだ?」
「き、貴様ぁっ!!」
思ったけど『わざわざ』何も突っ込まなかったのははやてちゃんの的になるのが目に見えていたからなんだけど、それも察せず藪をつついたディアーチェちゃんは、遠巻きに見ているヴィータちゃん達にもにやにやと助けを拒まれてはやてちゃんに纏わりつかれる。
酔っ払ってる上に片目をなくしてるはやてちゃんを下手な突き飛ばし方なんかしたら頭でも打ちかねないからか、拒む事もまともに出来ずに絡まれている。
少し離れてそんな様子を眺めていると、私の前にひょっこりと顔を出してくる影があった。
「にゃ!?どうしたのヴィヴィオ。」
「んー、ちょっと変だからどうしたのかと思って。何かあったの?」
聡いと言うか何と言うか。
ヴィヴィオの接近に思いっきり驚くほど物思いに耽っているようじゃ『なんでもない』なんて言えたものじゃない。
「アリシアさんとシュテルさんがあんな調子だから想像出来ないって事もないんだけどね。なーんて、ちょっと背伸びした事言ってみたりして。」
とぼけたように笑うヴィヴィオの言葉に従って二人の姿を探すと、パーティーの騒ぎそっちのけで二人で衣服を漁って楽しそうにしていた。
…あれじゃ隠せないなぁ。
パーティー前に速人お兄ちゃんに呼び出された私とリライヴちゃんとアリシアちゃんとシュテルちゃんは、揃って告白された。
恋人、夫婦、そういう関係性や繋がりについて、それほど理解出来ている訳でもないだろう速人お兄ちゃん。
けど、私達に対して告げられたのはそんな速人お兄ちゃんからの言葉としては最上級の物だった。
『離したくない、離れたくない、渡したくない。』
そう思った皆を呼び出し、その素直な思いを告白とした。
助けた…助けて『あげた』人が幸せになる形なら誰といても何をしていてもいいと思うタイプ…って言うか、助けた全員傍にいないと気がすまないなんて言ってたらキリが無い速人お兄ちゃんの選択として、それは本当に最上級の物だった。
例えば、ディアーチェちゃんが国を作ると自分の傍を離れても、頑張れ、手伝う。と見送るだろう。
そんな速人お兄ちゃんに、見送って傍を離れるのが絶対に嫌な人として選ばれたのだ。
普通ならいい加減極まりない上に選択と言えないけど、その普通じゃない事も、そして変ではあっても冗談やいい加減でそれを告げた訳じゃない事も、私達はよく分かっている。
感極まっていきなり、何てノリじゃなく、一旦持ち帰って後で答えをって事でこうして夕食を挟んでいるわけなんだけど…
「私やエフスの事考えてるんじゃないかと思って。」
ここで頷こうものならヴィヴィオが思いっきり怒るのは目に見えている。
昔我慢を選んだから分かる。確かに寂しいのは嫌だったけど、だからと言ってもし『私の為に』なんて恭也お兄ちゃん達が剣を捨てて、お母さんがお父さんを一人ぼっちにしてたら…絶対自分が許せなかった筈だ。
「まぁね。」
それを分かった上で、ケロッと頷いて見せた。
目に見えて眉を顰めるヴィヴィオに、私は手を伸ばして頭を撫でる。
「ヴィヴィオだって私を気にせず好き放題何でも…なんてしないでしょ?」
驚いたように固まるヴィヴィオ。
私はそのヴィヴィオの様子を見ながら息を吐く。
ヴィヴィオの母親になって初めて、異世界なんかにサラッと見送ってくれたお母さんやお父さんの器とか懐とか実感している。
「…それは分かった。でも、やっぱり怒るよ。」
ヴィヴィオは拗ねたような表情で私を見て、続ける。
「変だけど、速人さんいい人だもん。普通とかだって、今さらだし。」
心配していることそのものが必要ないのだってヴィヴィオの方から伝えられて、私は苦笑いするほか無かった。
そんな事、私が一番知ってなきゃダメなのに…まったく。
「ありがとね、ヴィヴィオ。」
「えへへ、どういたしまして。」
少しの気がかりも完全に晴れたし、もう躊躇いすらなく動ける。
折角だからノリノリの二人に混ざってしまおうかと思い至って…
二人?
足りない一人…あの二人のテンションに混ざる事が出来るかどうかはおいておいて、全く姿が見当たらないリライヴちゃんに、ちょっとの違和感を覚えた。
真面目…って言うのとも違うけど、関連するトラウマを抱えているリライヴちゃん。
ちょっと心配…かな、探したほうがいいかも知れない。
Side~リライヴ
私は一人で速人を先に捕まえていた。
…こう言うとなんだか抜け駆けとか出し抜きとか言われそうだけれど、多分皆にも私がそういう事を企んでするタイプだと思われていないだろうし、実際そういう女の争い的な仕掛けがしたくて動いた訳じゃない。
速人の一人を選べないという答えは予想の内にあったものだし、むしろ、手離したくないと言ってくれたのは私だって嬉しいものだった。
「一回持ち帰って貰ったのに真っ先に来るってちょっと意外だったな。そんな積極」
「聞きたい事があって来たんだ。」
答えを返すだけならきっと真っ先に一人では照れや恥ずかしさで少し無理があっただろう。
…さすがに、返事なんてすっ飛ばすかの如く寝着選びに拘っているアリシアやシュテルほどあっさり大胆にはなれない。
けれど、そんな明るい話題じゃないから、かえって動きやすかった。
「誰か一人でも断ったら…どうするつもり?」
私の問いに速人は何も答えなかった。
沈黙は肯定とみなす…何て言葉があるけれど、分かりやすい状況だった。
答えられる事なら、答えて何の問題もない事ならすぐに答えてくれている。
「一人去るつもりだった?」
「…おいおい、なんだってそんな皆怒りそうな事を俺が」
「全てか無か、リスクをずっと負ってきたから。」
私の正答にすぐに返せなかった軽口を断ち切るように、私は予想できてる理由まで告げる。
今度は、軽口も返ってこなかった。
普段、あちこちに救いの手をと、降りかかるリスクを承知で手を伸ばしてきた速人だったけれど、今回に関してはこのままだとただ男性側に都合がいい。人によっては、『恋人になりたい奴だけ抱えてやる』なんて思いあがった台詞にすら取られかねない。
私は勿論、高町速人が何をしてきたか知ってる人が、そんな自分だけにノーリスクでリターンを求めるような人間なんて一切思わないし、責める気も非難する気も全く無いのだけれど…
それと、自分で自分が許せるかどうかは話が別である事はよく知っている。
私だって、皆に呆れられるほど夢見る少女扱いされた所で、未だに綺麗だと素直には思えないんだから。
「怒ったりはしないよ、逆なら私だって少しは分かるし。でも…」
私は手を握りこんで、気の悪さを握りつぶすようにこらえながら次の言葉を続けた。
「なのはまで含む必要があった?」
まともに速人の目を見ながら聞けなかった。ある意味で一番重要で譲れない事は知っていたから。
速人にとって始まりの…手離せないって意味では多分尤も大事な人。
でも…そうじゃない。そういう意味じゃない。
「ヴィヴィオやエフスを抱えて、局内でも立場とか色々あるはずのなのはに、その色々を無視するように答えられる訳が無い。体裁とか…あるし。」
全部知ってれば無理も無い関係と理解してくれる人もいるかもしれないけれど、表面上の噂だけ知れるなんて世間的にはざらだ。
そして…持ってる色々を投げることが出来ないって言うのは速人自身も同じだから分かる筈だ。
「私達…元々エメラルドスイーツに居た皆は、今更って事も含めて何一つ躊躇う理由も何もないけど…」
そういう訳にも行かないなのはの選択で、まして、速人のこの覚悟を誰一人知らないままで全部終わってしまうって言うのは…あまりに悲しかった。
なのはには声をかけるな、って意味じゃない。怒るつもりも無いのだけれど…
ただ…意味が無い事は分かっているはずのリスクを負うのに、単純な要因以外を沢山抱えているなのはの選択まで絡ませるのは…
死角の動きすら感知する『心』を使う速人達ほどじゃないけれど、見ていなくても手を伸ばそうとしたのはなんとなく分かった。
でも、他の皆からの答えも待つって言った身で私だけに手を伸ばすのは違うと思ったのか、速人はそのまま動かずにいて…
「ちょ、まっ、バレ」
「うるさいっ!!!」
外から聞こえてきた声に私達が扉に視線を向けたのと、その扉が壊れそうな勢いで開かれたのは殆ど同時だった。
開かれた扉の先には、仁王立ちでもするかのようになのはが立っていた。
Side~高町なのは
リライヴちゃんがいない事に気付いた私がシュテルちゃんとアリシアちゃんに声をかけると、二人は抜け駆けを心配して探すと決めてすぐさま動いた。
むしろそれは二人の発想なんじゃないだろうか、と思っていた私は変なことにならないようにと思ってついて回っていたんだけど、二人の予想通りかのように速人お兄ちゃんと二人きりで話をしているのに気付いたアリシアちゃんが集音機を使って盗み聞きを始め…
予想通りに抜け駆けなんかではなく、予想外に好き勝手な事を言ってくれているのに頭に来た私は、ばれるだのなんだの一切知った事じゃなく思いっきり扉を開いてずかずかと踏み入った。
目を瞬かせるリライヴちゃんを一瞬だけ睨んだあと、速人お兄ちゃんとの距離を詰めて…
「んっ…」
口付けした。
逃がさないようにと思ってちょっと無理矢理気味に行った上、経験なんて全く無いため歯が衝突しそうだったけど、速人お兄ちゃんの方が距離の調整をしてくれる。
近接戦闘の距離感性だろうけど、なんか手馴れてるみたいでちょっと複雑だった。
「あー…なのは?」
「コレで問題ないでしょ。」
目の前で困惑している速人お兄ちゃんから、脇に立つリライヴちゃんに視線を移す。
目を丸くして呆然と、本当にビックリしたらしく何の力も感じられない位だらりと腕をたれ下げて私を見ているリライヴちゃんに、ちょっと照れながら、でも自信満々に言い切った。
『でも…そう思うなら、今度あったらちゃんと素直に話さないとね。』
『…うん、そうだね。会えたら…ね。』
速人お兄ちゃんがいなくなって、フェイトちゃんを愚痴に付き合わせた時から決めていたんだ。
どれだけ失う事に耐えられない人だったのか、大切な人だったのか。
大事件、大騒動と続いてようやっと落ち着いてきた今、速人お兄ちゃんから先に動いたのにはちょっとだけ驚いたけれど、元々このタイミングで伝えるつもりだった。
出来るなら…その前に一度位力でも届いてからの方がよかったかなーなんて、ちょっと思ったりもしてたんだけど…それを…
「勝手に悲惨な予想してくれちゃってもー…モラルとかの話なら今更一つ二つ位っ!」
「そもそもあの恭也ですら似たようなものですし。」
「あ…え?」
私に続くようにしていつもの冷静さで告げられたシュテルちゃんの言葉に目を白黒させるリライヴちゃん。
言われて思い出したけど、そー言えば恭也お兄ちゃんも恭也お兄ちゃんで、お姉ちゃんとのごたごたとか、ノエルさんと忍さんと揃って…その…
と、とにかくっ!私や速人お兄ちゃんが特別変とは言えない状況ではある。
「まぁ、確かにちょっと心配はあったよ?告白とかしたって今の身体でついて回るのも足手まといだし、ヴィヴィオとかエフスを飛び回らせる気もないから家で待ってる感じになってもいいのかとか。でも…」
そこまで言って、私は速人お兄ちゃんを真っ直ぐ見て微笑む。
「私を始まりに皆守ろうって決めてくれた速人お兄ちゃんなら、それで上手くやってくれるって信じてもいいでしょ?」
あえて質問の形で投げかけると、速人お兄ちゃんは肩を竦めて微笑み返してくれた。
「…そう言われて答えない訳には行かないな。」
重苦しくなってた空気はもう無かった。
いろんな心配が杞憂だったと分かったわけだし、それも当然なのかもしれない。
「さて…と!」
パン、と手を叩いて明るい声を出したのはアリシアちゃんだった。
「私とシュテルの答えは聞くまでもなし、色々丸く収まった訳だし…」
言いながら速人お兄ちゃんの元に歩みよろうとするアリシアちゃん。
その襟元を掴んで歩みを止めたのは、シュテルちゃんだった。
「今日最大の功労者はなのはですし、銀賞もマスターの心中に気付いていたリライヴでしょう。私たちは浮かれて何も気付いていなかった訳ですから。」
「ぅ…それを言われると…」
シュテルちゃんの言葉になにか納得を示したアリシアちゃんは大人しく止まって、揃って私を見てきた。
意図が分からず困惑する中、二人は揃って執事のように掌を上にむけた腕を速人お兄ちゃんのほうに向ける。
「「お先にどうぞ。」」
数瞬、理解が追いつかなかった。
理解が追いついた瞬間頬が変に強張ったのを自覚する。
「にゃ!の、ねっ…」
言葉やら舌やら色々回らなかった。
そんな私を前に二人は続ける。
「経験値ゼロで動揺するなとまで言いませんが、そこまで狼狽するのもどうかと思いますよ?」
「いい大人なのにねぇ。」
心底楽しそうなアリシアちゃんに、私を見て呆れ気味ですらあるシュテルちゃん。
返す言葉は無い。けど、でも、言う通り経験値ゼロなんだから平静にはなれなかった。
「あ、あのー…一応俺今日フォートとの試合で半死半生まで行ったばっかなんだけど…」
「明日午後からもうまた動き出すんだからそんな事言ってる暇ないじゃない!折角皆揃ってる上に記念日なんだし!」
「期待に応えるのはヒーローの仕事でしょう、マスター。」
恐る恐ると言った感じで口を挟んでみたお兄ちゃんだったけど、ちょっと怒ってるアリシアちゃんと冷静なシュテルちゃんに畳み掛けられるように告げられた言葉に何も言えなくなる。
ま、まぁ…一足飛びな感じは否めないけど…覚悟は決めるしかない…かな、うん。
「な、なのは?あの、こんな状態で本当に?」
意を決しようとした所で展開に気付いたリライヴちゃんが私に問いを投げかけてくる。
元はといえば一体誰が勝手に人の事決めて不安がって突っ走ってくれたせいだと。
ちょっとの怒りとイタズラ心におされ、私は…
「あー、確か一人でも嫌がったら行方くらましちゃう予定なんだって誰か言ってたっけなー。」
ワザと棒読みになるようにそう言ってやった。
私に向かって手を伸ばした状態で真っ赤になった上で微動だにしなくなるリライヴちゃん。
自分でこんな事を言っちゃった以上、もう引く訳も無く…
「えーっと…よろしくお願いします。」
動揺収まらないまま、それでもはっきりそう告げると、速人お兄ちゃんの方も頷き返してくれた。
Side~フォート=トレイア
朝。
怪我もあったがどーせ魔力の回復には栄養必須な俺は、昨晩散々に飲み食いして、その場所で潰れてたらしい。
俺以外にも、特に酒を嗜んでいる大人勢はどうしようもない感じだった。
と、足の感触に目をやると毛布がかけられていて、その傍の席でフェアレが眠っていた。
俺が寝た後にかけてくれたみたいだな。
感謝しながら席を立った俺は、足にかかっていた毛布を机に突っ伏すようにしているフェアレの肩にかける。
三日も馬鹿騒ぎする連中ばっかじゃないらしく、競技者の子含めて何人かは健康的に外に朝練に出ているようで、外から小さく音が聞こえてきていた。
そう言えば、途中去ったっきり速人の奴の姿を見なかったが…
ちゃんと言った通り動いたんだろうか?
気になって速人の部屋まで行ってみると、丁度扉が開いた。
出てきたのは、幽鬼の如くゆらゆらと揺れている速人だった。
俯いてその顔が見えないが、何故か気配遮断のときみたいに生気を感じない。
「お、おい…」
「ヒーローは…期待に…応え…る…」
ふらふらと現れた速人は、そう言いながら開いた扉も閉めずにぶっ倒れた。
空きっぱなしの扉から中を覗くと、綺麗にベッドに並んで眠る女性達の姿。
俺は無言で扉を閉めて足元でぶっ倒れてる速人に視線を向ける。
俺との試合で半死半生になった日からろくに休まず、彼女達を寝かせて毛布までかけた所で今出てきてぶっ倒れたんだろう。
いや、うん。答えを返せと言ったのは俺だけど…
「なんか違うだろコレは。」
意志する方向性を間違えてる気がする馬鹿を微妙な気分で眺めながら呟く。
そんな俺を通り過ぎるかのように現れた人影が、速人を抱え上げた。
「…お前、凄いな。」
人影…恭也さんは、眠りこけている速人に何故か凄く感心しているようで…
あぁ…そう言えば雫の父親だったっけ。
夜の一族について思い出しながら、関わるべきじゃないと判断した俺は後を任せてその場を去った。
SIDE OUT
ちなみに、学生時代の恭也ですら疲れるそうで(爆)。