余録・凶の守護者として
Side~トーマ=アヴェニール
さすがに緊張する。
感染者としての…感染兵器としての力を使ってリリィと生きていくと言うのだけは決めていた俺だけど、そんな事がし続けられる場所なんてものは元々選択肢にそう無くて…
「お、おじゃましまーす…」
「おじゃまします…」
俺とリリィは、揃って緊張をそのままに、飛空挺フッケバインに入った。
地球の非合法ギリギリの治安維持部隊の次元世界支部として、管理局相手にすら敵対するかもしれない位置付けにあるフッケバインの皆。
俺はその、次元警防隊に所属する事になった。
「いらっしゃーい。」
「どうも、お世話になります。」
「なりますっ。」
笑顔のカレンさんに迎えられて、俺達はお辞儀を返す。
こんな人でも、仕事そのものは物騒な代物のはずなんだ、覚悟はしておかないと。
「準備は出来てるから、行きましょ。」
「「へ?」」
いきなり仕事なのかと身構えて案内されたのは、近い世界の訓練場で…
完全に戦闘準備万端の状態でサイファーとアルナージが揃っていた。
「えー…と?どういう?」
「そりゃテストに決まってるでしょ?」
「て、テストぉ!?」
あっさり仲間…とは行かないのはいい、そこまで驚くことじゃない。
けれど、俺は思いっきり驚いた。
だって、二人が戦闘準備って…サイファーとアルナージ二人に纏めて勝てって事…だよな?
そんな無茶な…二人とも感染者なのに…
「…エクリプスを極めた唯一無二の完全体だろう?その力をこの場で使って行こうと言うのに、不完全体二人相手に尻込みするものじゃない。」
「オメーが結構撃てるのは知ってるし、容赦しねーぞ坊主。」
一瞬考えたものの、俺はリリィの手を取った。
目を閉じる。
閉じた視界に浮かぶ光景を脳裏に焼き付けるように思い出しなおし…
「『リアクトっ!!!』」
リアクトを済ませる。
模様の域を超え全身を赤黒い色が染める、完全に変質した今の俺の本来の姿。
「ふ…む、さすがにすさまじい力だな。」
「後は…どこまで使えっか…だな!」
「分かってる!行くぞ二人とも!!」
ディバイダーを構え銀十字を傍らに、俺は二人と向かいあった。
Side~サイファー
「クリムゾンスラッシュ!!!」
トーマから放たれた一閃を、私は両手の剣で受け止める。
ただの一撃だというのに、二刀に罅が入った。
さすがにまともに受けに回れんか、すさまじい力だ。
だが…
「おらあぁぁぁっ!!!」
アルがナパーム弾を撃っている間に接近、直撃を避けて移動したトーマの行く先に回る。
氷村遊とやらと同じく、本人が経験不足だな。
「っ!」
「ふ…」
振るわれた一閃をかいくぐり、左右の剣で連続で斬りつける。
直撃した筈だが、皮を裂いた程度に終わった。
強度もすさまじいな…なで斬りではまともに通らんか。
「シルバーハンマーっ!!」
戦技を習ったのが魔導師だからか、感染者にしては素直すぎる砲撃を回避する。
「私の剣もディバイダーなのでな。」
剣として使うべき形状だがディバイダー…銃剣。メインではないが、当然砲撃も放つことが出来る。
撃った直後で回避も間に合わないかと思ったが、私の砲撃は回避された。
「へっ、墜ちろ!!!」
「っ…銀十字!!!」
が、丸見えの状態でアルが放ったミサイル郡にさらされたトーマ。
回避できる状態でもなく、書から多量のエネルギー弾を放つ事で相殺を試みる。
私は再び接近。
…既に先の斬撃による傷が癒えている、生半な攻撃では負かすこともできんな。
「おおおぉぉぉぉっ!!!」
此方に向く前に突進から左の突きの一撃。どうにか脇腹に突き刺さったが、それでも貫通には至らなかった。
馬鹿げた身体強度だ。だが!
続けざまに右の袈裟斬りを放つ。狙いは首。
完全に落ちなくても頭と身体を繋ぐ首を捕らえられれば動きを制限…
剣を、左手で掴まれた。
斬れなかったのではない、目の前には血を流す手があるし、感触から骨まで達しているのも分かる。
感染者同士ならよくある展開だ、驚く必要もそうは無い。無いのだが…
管理局に居たトーマがこんなものに慣れるような経験を、一体いつ積んだ?
「俺が…こんな事で下がれるかあぁぁっ!!!」
右の剣をそのまま握りつぶしたトーマは、突き刺さっている右脇腹の剣を無視する如く接近してきて、私の顔面にディバイダーでなく右肘を叩き込んだ。
切断ではないのにしっかり急所は捉えられ、斬撃よりかえって頭がふらついて…
側面から振るわれたディバイダーの峰で殴られ、首が折れる感触と共に意識を失った。
Side~トーマ=アヴェニール
試合前に思い返したのは、フォートと速人さんの一戦。
力とか技とかそんなんじゃなく、『人として』勝てる気にならなかった二人の一戦。
動けない状態で立ち上がって終わった、あの二人の一戦。
俺が呑気に寝ていた時にヒドゥンを討った…生身の人間同士の一戦。
人に『アレ』が出来るのに…俺が出来ないなんて言って良い訳がない!!!
「なろ…」
「っ…おおぉぉぉぉっ!!!」
「どおぉっ!?」
完全に貫通されてる脇腹が滅茶苦茶痛い。けど、言ってはいられない、言えるはずが無い。
俺はこっちに向かってガトリングを向けていたアルナージに向かってディバイダーを構え、引き金を引きまくる。
射撃としての制御は銃とリリィに放り投げ、俺はただ必要なエネルギーを垂れ流しに近い勢いで送りながらひたすらに引き金を引きまくった。
射撃の雨にさらされたアルナージだったけれど、その間にガトリングをプラズマ砲に変えていた。
多分一撃でこっちを上回る必要があるって考えたんだろう。
「やりすぎ…なんだよっ!!!」
直線状の全てを焼却する一撃に俺は…
「クリムゾン…クロスっ!!!」
あの日フォートと二人掛かりで使った重ね斬撃を仕掛けて放たれたエネルギーを断ち切った。
そのまま一直線に突き進んで、前方で砲を構えていたアルナージの肩を貫いた。
「が…っ…」
「う…おおぉぉぉっ!!!」
そのまま零距離で砲撃を連射。三発ほど打ち込む。
爆煙に飲まれたアルナージは、千切れた腕を残して後方へ吹っ飛んだ。
「ってしまっ!つい…大丈夫!?」
どう見てもやりすぎたと悟った俺は慌てて吹っ飛んだ彼女に向かって腕を拾って駆け出した。
「見事に完敗だな。」
「くっそぉ…痛ぇ…」
すがすがしそうに笑うサイファーの横で吹っ飛んだ腕を再生させるアルナージ。
汚れまではなくならないため、後始末とばかりにリリィが布を取り出して彼女の身体を拭っていく。
「ご、ごめんアルナージ、つい…」
「アルでいいよ。なげーし。」
「試合でプラズマまで使って返り討ちにあったんだ、片腕程度で済ませて貰えてありがたく思っておけ。」
ふてくされている様子のアルナージ…アルを横目に呟き首を鳴らすサイファー。
う…そう言えば首の骨折れたような感触もしたような…よく考えたら俺こうなってから戦ったのってヒドゥンだけだから、力加減わかんないんだよな…
殺さないで止める加減覚えておかないと、被害減らすどころか本当に殺戮兵器になるな、気をつけよう。
「見事ねぇ…さすがにあの子が推すだけの事はあるわ。」
「あ、カレンさん。」
テストと言うだけあってしっかり見学していたカレンさん。
やりすぎを怒られるかと思ったが、感染者だからかその辺はざっくりしたもので、一切責める事無く、ビデオレターのように笑顔だった。
「貴方を晴れて次元警防部隊『監査員』として認めるわ。…ちょーっとは勘弁して欲しいけどね。」
「ありが…え?」
「…監査員?」
全く聞き覚えの無い名に、俺とリリィは揃って首を傾げる事になった。
Side~カレン=フッケバイン
「って訳で、戦闘力は合格も合格。ちょーっとへたっぴって言ってもあたしらがやりあった遊よりは全然上手いし、感染者専用技術をまだ覚えたりしないといけないけど、文句のつけよう無いわね。」
「完全感染体とは恐ろしいですね。逆を言えば出力だけでそんな彼をはるかに上回った遊も恐ろしいものですが。」
呆れたように呟くフォルティス。
あたし等の中でも物騒な力量なのは間違いないから気持ちは分かる。
が…
「その物騒な子に監査員って話が全く伝わってないのにはさすがに驚いたわ。どーりでテストに驚くわけだわ。」
普通に一緒に行動する気で来たのなら、サイとアルの二人を纏めて相手にするなんて必要は無い。
けれどあの子…八神はやてから振られたらしい監査員という役割を考えると、『あたしらが問題だったとき止められる力』が必要になる。
「しっかし局の連中はアイツに俺らの監査なんて勤まると思ってんのか?」
「思ってないわよ。」
「あ?」
残念なコメントを漏らすヴェイロンの言葉をばっさりと断ち切る。
「単にあたし等を見張るって役目があれば、安易になんでもかんでも協力して、自覚無い内に染まるって事が無いからでしょ?完全に引き込めないのは残念だけど、あの子が監査役って事で一緒にいる間はほかのヤバイのが来るよりやりやすいしね。」
言いつつ、あたしは映像データのディスクをヴェイロンに渡す。
ヴェイロンは適当にそれを受け取って空間モニターに再生させ、目を細めた。
映っているのは、トーマ君が持ってきた英雄さんたちの試合映像。
トーマ君はただ、見せてもいいって許可が出たとパーティーの映像を持ってきてくれただけなんだろうけれど、違法な位危険なため身内以外に教材としてすら公開できない試合の映像をトーマ君に持ち出させたのは…
「あたしらに文句、問題があったら『ソレ』が敵になるって言う、軽い警告よ。翡翠の英雄さんに至っては、あの技量であたし等専用の装備と戦闘方法を保有してるしね。」
面倒ではあるが、逆に言えば派手に逆らわなければトーマ君しかつけないでおいてあげるって譲歩でもあるあたり、あの小狸ちゃん中々染まってきてると複雑な感心交じりの感想を抱いていたんだけれど…
「…クックック。」
試合映像を見ていたヴェイロンが楽しそうに笑いだしたのに驚いた。
「あらま、英雄さんの試合映像を楽しそうに見るなんて、混ざりたかったの?」
「ちょっとな。」
「へぇ…」
殺し合いの最中できる相手に力を振るうのを楽しそうにするのはよく見たけど、人の試合映像を楽しげに眺めるなんて意外な光景だった。
Side~トーマ=アヴェニール
監査役…かぁ。
末端に加えられるならまだしも、そんな大層な役を貰って一緒にいる事になるんじゃあの難易度のテストも無理は無い。何しろ、何か起きたのならここの皆を俺が止める必要もあるんだから。
とは言え、全く何も知らされなかったわけで、監査と言っても何が良くて何が悪いとなっているのか自体を知らなきゃ注意とかすらできない。
管理局の決まりの方は把握してるけど、俺は次元警防隊として特別許可されている事例についても把握しなきゃならない。
命と違法が絡む以上、簡単に行かないのは分かるんだけど…
「…苦い話…だね。」
「そうだね…」
殺害許可状況や裏取引、拷問なんかの話が普通に載っている辺りが俺達が居る場所が全うでない事を実感させてくる。
だからと言って、普通のところでエクリプスの力なんて活用できる訳でもない。
しっかりやっていかないと。
「邪魔するぜ。」
俺とリリィがあてがわれた部屋で資料を読み込んでいると、ヴェイロンが入ってきた。
まさかわざわざ顔を出すなんて思わなかった俺は少し驚く。
「ヴェイロン。どうかした?」
「あのガキの試合、中々面白ぇじゃねぇか。」
試合、と言うと、俺が持ってきた速人さんとフォートの試合映像だろう。
そう言えば、初めてあったときにも戦ったし、フォートとはそれなりに縁があったっけ。
「あの馬鹿餓鬼、何かになる気はしてたが、噂の似非英雄と引き分けるたぁ…」
「危ないけど…本当に凄いと思う。フォート、生身のはずなのに。」
楽しそうに話すヴェイロンに続くように、少しの心配を混ぜてリリィがそう言った。
俺もそれには同感だった。アレがあったからさっきの二対一も『負けた、しょうがない』とかって思わずにやりきる気になれたんだと思う。
「で?お前はどうなんだ?」
「えっ?」
「エクリプスの力を使う為にここにきて、真っ当でいる為に監視者を引き受ける、そんな半端な状態でいいのかってんだよ。」
それは、引き込むためなのか引き離すためなのか、どっちかまでは分からないけれど…
なんとなく、フォートがいつも俺に告げてくれていたような、耳に痛い『俺の為』の話と同じような感じを受けて、俺は問いかけてきたヴェイロンに笑みを返していた。
「ちょっとわからない。けど、一つだけ半端じゃない事があるんだ。」
「あ?」
「悲劇を、破壊を、当たり前にするのが、憎くて憎くてたまらない。」
これは憎悪、嫌悪、怒り。
正義とか信念なんて明るいものじゃなくて、頭の芯から煮え立ちそうな暗い炎。
けれど…それを分かってるから、俺は狂わない。
「だから、この力で、それらを断ち切るって決めたんだ。リリィのドライバーとして。自分で決めたから、俺は完全に変われたんだと思う。」
半端なんかじゃないから心配いらない。そう思って出た言葉だったのだけれど…
「あ、い、いや、別に皆が半端だって訳じゃなくて!」
俺以外誰も変わりきってないんだから、コレだけだとフッケバインの皆を半端者扱いしてるようで、慌てて取り繕う。
けど、ヴェイロンは小さく舌打ちして肩を落とした。
「…半端なんだろうよ。」
覇気の感じられないその呟きだけ残して、邪魔したな、と言ってヴェイロンは部屋を後にした。
Side~ヴェイロン
あの時の餓鬼も、ここにきた坊主すら、進んでいる。
それぞれ正負間逆の力ながら、真っ直ぐぶれる事無く。
救いが無いと憎んでいながら、救いになれと言われそれにも苛立っている俺が…
「半端…か。」
いつかの黒チビに言われずっと引っかかっている。
いや…結論が出ているから苛立っているんだ。
救いになれ。
こんな事になっちまってる世界が憎くて仕方ないのならする事は…
「ぁの…」
「あん?」
ぼそぼそと話しかけられた俺は視線を移す。
案の定ロゼリアとか言うあのクソカスのリアクターが俺を俯き気味に見ていた。
「無理はしなくても…私も…助かった…から…」
感謝されているのは分かって、それも苛立って…
殴り飛ばしたくはなったがこいつを滅茶苦茶に扱ってたあのクソカスを思い出すと被るようでそれすらばつが悪く…
「おいこらロゼリア勝手に…あん?なんだてめぇ?やっぱリアクター狙いか?それともコイツみてーのが好み」
「黙れクソカス。」
丁度いいタイミングで殴ってもいいヤローが殴られる台詞を言い出しやがったのでむしゃくしゃしてた分を纏めてくれてやるつもりで全力でディバイダーを振り抜いた。
「ぁ…」
「無理しなくてもいいんだろ、それの後始末はオメーに任せる。」
側頭部に直撃を食らってぶっ倒れたクソカスを放って俺はさっさと部屋に戻る事にした。
少し歩いた先で軽く振り返って様子を見ると、悪態つきながらも手当てされているクソカスの姿がみえた。
無理するな…か。
餓鬼の言葉ばかりが引っかかる事にすら苛立ちを感じながらも、それでも否定も出来ずに部屋に戻って酒を煽った。
SIDE OUT
皆体の一部がふっとんでも再生する方々なので、テストも血戦な筈なのですが…普通の試合に見える気がするのは何故でしょう(苦笑)。