朝比奈さんは今日も生きる。   作:芦野

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とある放課後

1

学校が終わってから適当におやつを買って、私は家に帰った。

「……」

家に帰ると私はほとんど自室にこもっている。

まあ、単にそれが一番居心地がいいからってだけだ。

「ふー」

さて、今日は何しよう。

とりあえず、溜まっているアニメでも見るか。

テレビをつけて、ベッドにもたれかかったところだった。

「ねーねーあーちゃんゲームしよー」

ノックもなくドアを開けて妹が部屋に入ってきた。

「えー今からアニメ見ようと思ったんだけど」

「いーじゃんいーじゃん、ほらいこいこ」

一度言い出したらこの妹は引き下がらない。それは私の経験上確かなことだった。

「……分かったから服の袖を引っ張るな、伸びる」

仕方ない、この妹とやらのゲームに付き合ってやるか。

 

「で、またこれなの」

「そーなのだー今日は(あかね)が勝つまでやるかんね!」

……さてはこいつ、この前こてんぱんにしたことを根に持ってるな。

「おりゃー! とー!」

「叫んでも火力はあがんないよっと」

私は今やってるようなパズルゲームは、苦手な部類なんだけど、流石に小学生(こいつ)に負けるほどではない。

はずだったんだけど。

「見たかー! 茜のスーパーコンボを!」

「おーすごかったすごかったよー。茜の完全勝利だおめでとう」

口では平静を装いながらも、結構内心では傷ついていた。

確かに最初は露骨に手加減していたけど、途中からは結構本気になっていたのに。

茜の成長が著しかったっていうのもあるけど、こうも簡単に負かされてしまうとは思わなかった。

「じゃあ私は部屋に戻るから」

「いつでもリベンジに来てもいいかんねー」

得意げに笑う妹に、本気でイラッとしている自分がいることに気づいた私は、なんだかちょっと恥ずかしい気持ちになっていた。

「……」

動画でも見てこっそり特訓、しようかなぁ。

そんなことを部屋に戻ってからも私は考えていた。

 

2

「はぁ……」

体育の授業というやつは、私みたいに運動オンチな人種には一番辛い授業だ。

特に球技は最悪で。

──いや、やめておこう。今日の授業のことを思い出すと、本気で死にたくなる。

もう痛くないはずなのに、思わず鼻をさすってしまった。

「いらっしゃーせー」

コンビニに入ると、入店音と店員さんの声が私を迎える。

まずは雑誌コーナーを見ようと思って視線を向けると、そこには見知った顔があった。

「よっ」

向こうも私に気づいたらしく、右手を軽く振ってきた。

「いい加減立ち読みしないで買ったらどうですか?」

「いやー今日ちょっとギャンブルですっちゃって」

「いつもそうじゃないですか」

このいかにもダメ人間っぽい女性は、黒川恵(くろかわめぐみ)

年は多分20代で、職業は……この人今何してるんだろ。

まあそれはいいとして、私は彼女とは会うとよくこうしてたわいもない会話をする。

唯一の気のおけない年上の友人。彼女との関係を端的に表現するのならこんな感じだろう。

「それよりさ〜今日も暇でしょ?」

「なんで私が暇なこと前提なんですか」

「せっかく会ったんだからさ、買い物終わったらでいいからちょっと付き合ってよ」

「えー」

別に最初から行くって言ってもいいんだけど、あえて一回乗り気じゃないふりをする。

「いいじゃんいいじゃんお願い」

「まあ、どうしてもって言うなら、付き合ってもいいですよ」

「やったーじゃあ外で待ってるね〜」

そう言って彼女は嬉しそうにレジに向かっていった。

「……さて」

一応は人を待たせてるわけだし、ささっとガムとかお菓子を買ってコンビニを出た。

「お待たせしました」

「いいよそんな別に、じゃ行こうか」

「朝比奈ちゃんってさー今気になってる人とかいないの?」

「いないです」

私達は近所の行きつけのファミレスに来ていた。

「えー花のJKなのに?」

「おばさん臭いですよ、その言い方」

「……おばさん? 今おばさんって言った? ねぇあたしまだアラサーだからさ、アラサーっておばさんじゃないでしょ?」

「知りませんよ、そんなの」

「……朝比奈ちゃんはもうちょっとあたしに優しくしてくれてもいいと思うなぁ」

「十分優しいと思いますよ。今ここにいること何よりの証拠ですよ」

自分でも不思議なぐらい、彼女に対してはちょっと失礼な私でいられる。

それは年上の女性への態度としては正しくないんだろうけど、私なりの親しみやすさの表れということだと思う。

絶対に口にはしないけど、彼女は気をつかわないでいられる貴重な存在だ。

「それより、恵さんはどうなんです? 好きな人いるんですか?」

「あーそれ聞いちゃう? というか聞いてよねえ」

「なんですか」

「実はいまだに好きなんだよねー別れた恋人のことが」

「……なるほど、その恋人さんには振られたわけですか」

「いーや違う、いや違わなくもないけど……とにかく振ったのはあたしからだし」

「……」

面倒くさいなこの大人。

「なんだろう、その人はお金持ちの家の人だったからさー色々ずれてるっていうかなんというか」

「そうなんですか」

「そう。でも、めちゃくちゃ顔がいいんだよね〜いまだにたまに夢に出てくるんだよぉ」

恵さんはそう言ってコーラを飲み干した。

「連絡とったらいいじゃないですか」

「そうだけどさー。でも、自分から連絡したらなんか負けた感じがするじゃん」

「……面倒くさいですね」

「ほら、朝比奈ちゃんには分からないかなーこの複雑な乙女心ってやつがさー」

「どうなんでしょう」

いわゆる恋愛というやつに、興味がないわけじゃないけど、いまいちピンとこないというかよく分からない。

「そういえばさ、最近学校はどう? 友達とか出来た?」

「聞きます? それ」

「……いや、やめとく」

思ったより話が長くなって、帰る頃には夜になっていた。

「いやーありがとねー長話に付き合ってくれて」

「いいですよ、別に」

なんだかんだ、友人との会話は楽しいものだ。

「じゃ、またねー」

「また」

コンビニの近くまで歩いて、恵さんと別れた。

「ただいまー」

玄関には靴がなかった。茜はどこかに行っているんだろう。

──今日は静かな夜になりそう。

そう思いながら私は制服を脱いだ。

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