あべこべショタマスターの人理修復   作:あんころずんだ餅

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「それで?この状況、改めて理解出来るように説明してくれるんでしょうね」

 

唇の端をひくつかせ、笑顔を浮かべながら穏やかに問いかける銀髪の美少女。こめかみの青筋さえなければ見惚れるほどの美貌の持ち主は、目の前に正座している苦い笑顔を浮かべた気弱そうな()()を睨み付ける。

 

「いやぁ、あはは…」

 

「あははじゃないのよ!」

 

冷や汗を流しながら誤魔化すように薄ら笑いを浮かべる女性は一喝され、びくりと肩を震わせ、後ろで一房に纏められた髪が跳ねるように揺れる。

 

「よりにもよって今日!この日に!なんて厄ネタ持ち込んでくれたのよ!」

 

銀髪の女性が怒りの声と共に叩き付けたのは一人のプロフィールが書かれた資料。

 

藤丸立香。

 

それが資料に書かれている人物の名前だ。

 

ある二つの部分を除けば特に変わった内容はない、平凡な一般人のステータスだ。

 

そのある二つの部分とは、年齢、そして性別。

 

年齢は一桁。

 

そして性別、男性。

 

「分かってるの!?()()()()()()()()()じゃない!」

 

古来より男性は守るべき存在であると認識されてきた。時には繁殖以外の用途など不要と過激な管理を行おうとする者が現れ、非人道的であるとされ排斥されてきた。翻って男性はその存在そのものが神聖なものであると奉り上げ、それに反発する女性の手によって神格化は否定されてきた。

 

1:100、前者の数字が男性、後者が女性の出生率の数字である。

 

貴重で希少な存在。そういった認識で落ちついた近年、その希少価値の高さゆえに不遜な男性が跋扈する世の中。

 

近年にいたって世界各国で男性保護法と呼ばれる法が制定されており、男性の扱いは世界的に非常にデリケートだ。どんな組織であってもVIP待遇で扱われ、男性一人存在するだけで否が応にも衆目が集まってしまう。その男性に対しての扱いに少しでも問題があればバッシングは避けられず、組織そのものの解体にまで到ったケースもある。

 

もちろん、藤丸立香も例外なく保護対象だ。

 

保護対象者である男性を施設に招き入れてしまったこの事態は到底看過できるものではない。

 

秘匿すべき魔術を扱う機関であるこのカルデアという組織。ただでさえ魔術の存在が露見すること自体が避けねばならない事であるにも関わらず、男性が在籍している組織というだけで各国からの調査が入る可能性が高いのだ。とはいえ魔術協会の力を借りて秘匿を守ることも不可能ではない。

 

しかし、未来を観測し保障するカルデアであるが2016年の人類滅亡が証明され、100年先の未来の保障がなくなってしまった。この事によりカルデアには協会やスポンサーからの非難の声が山の様に届き、大きく信用を損なう事態に陥ってしまった。

 

これ以上失態を晒す訳にはいかなくなったカルデアは、過去2000年までの情報を洗い出し、2015年までの歴史には存在しなかった“観測できない領域”である過去の特異点事象を発見。カルデアはこの特異点を人類絶滅の原因と仮定し霊子転移レイシフト実験を国連に提案しこれに介入して破壊する事により未来を修正するための作戦を始動した。

 

…までは良かったのだ。

 

「あぁもう、こんな小さな男の子を危険な目に遭わせたなんて話が公になってしまったら…!」

 

 

未来の観測が出来なくなり、人理の保障が叶わなくなった。その時点で魔術協会やスポンサーからの非難が殺到する事態になってしまった。信用を取り戻すための作戦が国連を通して承認され、ようやくレイシフトを行うテスト要員を集めた矢先に巻き起こった大事件。危うい立場に立たされたカルデアが男性の存在そのものを隠蔽する為に魔術協会の力を借りるわけにはいかなかった。

 

人理修復どころかカルデアそのものが解体されかねない事態である。

 

このカルデアの所長であり責任者である彼女、オルガマリー・アニムスフィアは尋常ではないプレッシャーと胃痛に苛まれていた。

 

「…とにかく、幸いまだ事は露見していないわ。関係者に催眠魔術を使ってでも証拠と痕跡を徹底的に削除、誰にもばれないようにその子を親元に送り返さなければ」

 

「ボクも賛成です所長。こんなことになるとは想定していなかったけどまだ間に合います!」

 

「どの口が言ってるのかしら…?」

 

ひぃ、と怒気に当てられた女は情けない声を漏らす。

 

「そもそも貴方の言う”こんなこと”になったのは貴女が原因でしょう、ロマニ」

 

そもそも何故、藤丸立香がここ、カルデアに足を運ぶことになったのか。

 

擬似霊子転移レイシフト。現代に存在する人間を存在しないものとして世界に誤認させ、その人間の魂をデータ化し、異なる時間軸、異なる位相へ送り込みこれを証明する空間航法。現代にある肉体、魂の情報を一時的に意味消失させるこの方法は誰にでも行えるものではなく、実行のためにはレイシフトへの先天的な適正が必要となる。適正を持たないものが行えばよくて転移の失敗、最悪の場合は存在の証明に失敗し、意味消失に耐え切れずに消滅しかねない。

 

多大な危険性を孕んだ方法ではあるが、人理の保障および特異点の修正には不可欠だ。

 

特異点で活動するための拠点や現地の協力者などを募る先遣隊とも言うべきAチーム7名。選りすぐりの魔術師である彼ら7名をはじめとして、拠点の維持やカルデアとの連絡、補給などを担当するBチーム以下41名。総勢48名のメンバーで当たる今回の大規模な作戦だがレイシフト適性を持つ人員は限られており、魔術に関わりのない一般人からも捜索、選別し、チームに加えていた。

 

最後の候補者を決定する責任者は?

 

結局のところ、軽んじていたのだ。

このカルデアを形成するスタッフの中には魔術師ではない人間もいる。

だがこの組織、人理継続保障機関カルデアはやはり魔術師の組織。

 

「候補の最後の一人?ああ、一般枠の。そういえば居たっけ」

 

「魔術師ですらない素人に任せることなどないだろう、レイシフト先の雑用など適性さえあれば誰でもいい」

 

「ただの数あわせなのだろう?そもそも神秘の秘匿を脅かしかねない愚策だと思うが」

 

最後の候補者に対しての評価は著しく低く、プロフィールに禄に目も通さず流していたものが大半。

最終的に候補者を決定したのは誰なのか。

 

皆が口を揃えて挙げた名前が

 

「貴方の名前が挙がっているのよ、ロマ二・アーキマン」

 

医療スタッフのトップである彼女も当然、藤丸立香のパーソナルデータには目を通していた。しかし本来なら彼女は決定権を持っていなかった。だが組織の、そして人類の存亡がかかっている極度の緊張状態はカルデアスタッフ各員の体力、気力を奪い、期待の出来ない候補者の選別に冷静な判断力をもって当たる事が出来る者は居なかった。

 

曲がりなりにも医療スタッフのトップである彼女、ロマニ・アーキマンに最終決定権が回って来たのだが、

 

 

 

 

 

『年齢は一桁、そのうえ性別が男性になってる…まぁでも皆のチェックが通ってるって事はただの誤植だよね』

 

 

 

 

「死にたいのかしら」

 

「滅相もございません!」

 

かくして無事(?)、藤丸立香はカルデアに招き入れられた。

 

「…これ以上は時間の無駄ね、レフ!」

 

「彼を送り届ける手続きなら既に進めているよ、オルガ」

 

部屋に入ってきた深緑のコートを纏った長身の女性が応える。柔和な笑みを浮かべ、淡々とした口調はこの緊迫感溢れる状況においても余裕を感じさせる。

 

「流石ね、レフ。私はこれからレイシフトメンバーの説明会に向かいます。彼の事を見ていてあげて」

 

「子守の経験はないのだけどねぇ…、まぁ放って置く訳にもいかないし引き受けたよ」

 

「ごめんなさいね、レフ」

 

「しかしいいのかいオルガ、彼をメンバーから除くのであればチームメンバーが47名になってしまうが」

 

「これ以上時間の浪費は許されないもの、ロマニ!レイシフトのチームメンバーに異常があった時に呼び出すまでの間、貴女もレフと一緒に彼を見ていなさい」

 

「はい!誰にも指一本触れさせないと誓います!」

 

背筋をぴんと伸ばした姿勢で敬礼するロマニに呆れた様子でため息をこぼすオルガマリー。僅かな間だけ子供の面倒を見ておくくらいなら失敗もないだろう、と部屋を出ようとした矢先

 

「それで?その件の少年は何処に?」

 

「「…え?」」

 

「私が部屋に入ってきたときに居たのは二人だけだったけれど」

 

部屋の中を見渡しても居るのは三人。影も形もなく少年は姿を消していた。

 

「あ、あれ?確かについさっきまでここに…」

 

わなわなと握った拳を振るわせるオルガマリーの姿を見たレフはこれから起こる惨状を予測し、そっと部屋を出た。助けを求めるような視線に気付かない振りをして。

 

 

 

 

 

「いい加減にしなさいよアンタはああああああ!!!!」

 

 

 

「ごめんなさいいいいいい!!!!」

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