あべこべショタマスターの人理修復   作:あんころずんだ餅

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「起きてください、先輩、起きないと殺しますよ」

 

 

 

「_______!!??」

 

 

 

「おはようございます先輩、いえ、マスターとお呼びすべきですね」

 

 

 

「……???」

 

 

 

「困惑するのも無理はありません、しかし申し訳ありませんが説明よりも先に周囲に目を向けてください。」

 

 

 

目に写るのは炎。

耳に聞こえるのは火花の爆ぜる音と瓦礫の崩れる音。

肌に感じるのは異常なまでの熱気。

 

 

意識を失う前は炎で覆われた管制室に居たはず。

だが今はどうやら屋外に居るらしい。

燃え盛る炎に包まれた街中。

空は暗く、どうやら今は夜の様だが火災によって発生した黒煙は空を覆い、星空を隠している。

視界が確保できているのは皮肉にも周辺を取り囲む様に燃え盛る火災のお陰らしい。

 

 

 

そして自分達を取り囲む存在を見た。見てしまった。

 

 

人の骨だ。

 

 

赤黒いぼろぼろの布を体に巻きつけ、その手には立香の背丈と殆ど変わらない剣を持っている。

歩くどころか身動きも取れないはずの人骨が二本の足で立ち、武器を携えている。

確りと、とは言い難い覚束ない足取りで、見る眼も持たず、聞く耳も持たないはずのそれは明確にこちらへ向かってきている。

 

 

 

かたかたと歯を打ち鳴らし、手に持った剣を振り上げ、こちらへ振り下ろし―――――

 

 

 

「マスター!」

 

 

 

その剣は立香を斬り付ける事なく阻まれた。

振り下ろされた白銀の剣とは対照的な、大きな黒鉄の塊。

マシュが立香を守るように立ちはだかり、身の丈ほどもある大盾を以って凶刃を防いでみせた。

 

 

 

「ふっ――――!」

 

 

 

十字架のような大盾を振るい、剣ごと骸骨を吹き飛ばす。

 

 

「しっかりして下さいマスター!立てますか?」

 

 

未だ状況は掴めないものの、明確な殺意に晒され、半ば反射的に立ち上がる。

骸骨は先の一体だけではなく、二体。

動きは緩慢ではあるものの、体格差もあり、立香を何なく両断出来るだろう。

 

 

「直接の戦闘は私が。指示をお願いします」

 

 

戦闘の指示。

勿論、そんな経験があるはずもないただの少年である彼がこなせる芸当ではない。

 

 

「シュミレーションを思い出してください。貴方ならきっと」

 

 

「―――――――…」

 

 

カルデアに入館する際に受けていたシュミレーション。

確か、三人の人に戦闘の指示を出していた。

ゲームのような物と認識していたがまさか現実に起きた事態に対応する為の物だったとは。

人員も敵も状況も何もかも違うが、必死に混乱を拭い、ただ一度の経験を基に最適解を探る。

 

 

「_______!」

 

 

「はいっ!」

 

 

先程弾き飛ばされた骸骨は体勢を立て直せていない。

動きが緩慢であることがこちらが突ける隙であると判断し、こちらへ向かってくるもう一体の骸骨を同じように吹き飛ばすよう指示を出す。

 

 

「_______!」

 

 

「っ、はい!」

 

 

吹き飛ばした反動そのままに、ようやく体勢を立て直した骸骨の元へ跳び、反撃の間を与えず押しつぶすように仕留める。

 

 

「_______!」

 

 

「やあぁーっ!」

 

 

同じ要領で跳ねるように二体目の骸骨の元へ翻り、大盾を突き立て止めをさす。

まるで墓標のように突き立てられた大盾は骸骨の頭蓋を砕き、骸を在るべき姿に還したかのようだ。

ゆっくりと盾を引き抜き、こちらへ歩み寄ってきたマシュは呼吸を整えながら報告を述べる。

 

 

「敵二体、完全な沈黙を確認。戦闘終了ですマスター」

 

 

「_______……」

 

 

一先ずの脅威が取り除かれたことにほっと息を吐く。

 

 

「御怪我はありませんか先輩。お腹が痛かったり腹部が重かったりはしていませんか?」

 

 

「_______!」

 

 

「あ、いえ、違うのです先輩、決して拾い食いを疑ったわけでも子ども扱いした訳でもなくてですね」

 

 

「_______…?」

 

 

「先輩の疑問はご尤もです。正直、私も事態を完全に把握出来ている訳ではないのですが…」

 

 

見覚えのない場所、襲い掛かる骸、そしてそれらを難なく撃退してみせたマシュ。

彼女の服装も見覚えのない物に変わっている。

黒く光沢のある軽鎧を身に纏い、眼鏡も無くなっている。

 

そして何より眼を惹くのは十字架に円を重ねたような巨大な大盾。

一見しただけでもマシュの細腕では振り回せないであろう重量があると推測できる。

しかしつい先程、難なくその盾を振るって敵を薙ぎ倒してみせた。

 

冷静に考えてみれば訳がわからない事ばかりだ。

 

 

『やっと繋がった!聞こえるかい立香君!?』

 

 

「_______!!??」

 

 

突如浮かび上がった人影に驚き、思わず後ずさる。

見れば青みがかったロマンの影の様なものが空中に浮かび上がっている。

 

 

『おっと、ごめんよ立香君、驚かせるつもりはなかったんだけどね。それより無事でよかった』

 

 

「こちらAチームメンバー、マシュ・キリエライト、特異点Fにシフト完了しました。エネミーと遭遇、戦闘行動に移行しましたが無事、撃破に成功。両名とも心身に問題ありません」

 

 

『マシュ!良かった、君もレイシフトに成功していたのか。二人とも良く意味消失に耐えてくれ…って戦闘!?』

 

 

「はい、先程、武装した骸骨のようなエネミーと遭遇、先輩の戦闘指示のもと、損害を出すことなく撃破に成功しました」

 

 

『ちょ、ちょっと待って色々理解が追いつかない、立香君の戦闘指示って事は立香君はマスター?ならサーヴァントは?というかマシュのその破廉恥すぎる格好はいったい!?私はそんな子に育てた覚えはないよ!?』

 

 

「…ドクター、少し黙って。私の数値を確認してください、説明するよりそちらのほうが早いかと」

 

 

『マシュの状態?…ってなにこれ!?身体能力も魔術回路も格段に数値が跳ね上がっている!この数値は人間というよりむしろ…』

 

 

「はい、サーヴァントそのものです。詳しい経緯は私自身も不明ですが、サーヴァントと融合することで私は一命を取り留めることが出来たようです」

 

 

『英霊と人間の融合、デミ・サーヴァント…カルデア6つ目の実験がようやく成功したのか。なら君の中に英霊の意識があるのかい?』

 

 

「残念ながら。彼は自身の宝具と能力、そしてこの特異点の排除を私に託して消滅しました」

 

 

『…そうか、サーヴァント全てがこちらに協力的とは限らない以上、君自身がサーヴァントとなったと事は不幸中の幸いかもしれない』

 

 

「_______…?」

 

 

 

マシュとホログラム映像のようなロマンの会話が繰り広げられるものの、専門用語が多く難解な内容の会話に立香は首を傾げるばかりだった。

 

 

 

『って、すまない立香君、ほとんど訳の分からない状況だよね。とにかくそこから2キロほど移動した先に霊脈の強いポイントがある』

 

 

「了解しました。先輩、申し訳ありませんが移動しながらの説明になります」

 

 

『こちらとしても想定外の事態でね、そもそも君には避難して欲しかったんだけど…』

 

 

 

ここに至るまでにロマンの避難指示を無視したことを思い出す。

立場に因るものでもあったのかもしれないが、こちらを憂慮してくれていた事。

それを蔑ろにしてしまったことに今更ながら罪悪感を覚える。

 

 

「_______…」

 

 

『…そんな顔して謝られるとこちらも弱いなぁ…、でも戦闘に遭ったって事はもう分かっていると思うけど、今、君は命さえ落としかねない危険な状況に陥っている。きちんとこちらの指示に従って行動して。それとマシュから離れないように。何かあればマシュが守ってくれるからね』

 

 

「…あまり期待されても困ります、私自身が手にしたこの宝具の詳細も、彼の真名すら不明な新米サーヴァントですので。」

 

 

「_______!」

 

 

「一緒に乗り越えよう、ですか。…不思議です、先輩は私より危機的な状況の筈なのに、先輩の言葉はなんというか、勇気を与えてくれます」

 

 

『マスターとサーヴァントの信頼関係は必要不可欠なものだ。君達の様子を見る限りその心配……そう……』

 

 

突如、ドクターの声が不自然に途切れ始める。

ドクターが映し出されている映像にノイズが走り始め、音声も途切れだしている。

 

 

 

「ドクター、通信が乱れています。推定十秒で通信が途絶します」

 

 

『しまっ…、予備電源のせ……シバの出……とにかく移動を……』

 

 

 

ロマンの姿に一際大きなノイズが走った後、テレビの電源が切れるように掻き消えてしまった。

 

 

 

「_______」

 

 

「はい、移動を開始しましょう。正直とても怖かったので先輩が一緒だと心強いです」

 

 

 

残された二人はどちらからでもなく眼を合わせ、現状を打破するため歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

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