「さて、こうして格好付けておいてなんだが…」
杖を手で弄ぶようにくるくると回しながら横目にマシュを見る。
「嬢ちゃん、そっちと代わってくれ。あの猪突猛進ランサーよりそっちの方がやりやすいんでな」
「えっ、あっ、は、はい!」
「…ちょっと、大丈夫なんでしょうねアンタ」
「______…」
「かっかっか、坊主まで冷たい目で見てくれるな。嬢ちゃんもランサーの方がやりやすいだろうしな」
『…まぁ、確かにそうかもしれないけど、本当に格好付かないなぁ…』
ランサーは総じて敏捷性に長けたものが多く、得物のリーチと併せて先手を取りやすい傾向にある。
相手に体勢を整える隙を与えない速攻性を持ち味とする者が多い。
キャスターが相手取るには分が悪いだろう。
対して搦手で相手を撹乱し、隙を突く戦法を主とするアサシン。
陣地作成スキルによって己の領域を構成し、迎え撃つスタンスが基本のキャスターはやり辛い相手だろう。
「ソレヲ黙ッテ見テイルトデモ…!」
「アンサズ!」
「ヌゥ!?」
ダークを投擲するべく構えるアサシンの足元から炎が上がり、思わず後退するアサシン。
しかし必然、ランサーに無防備な背中を見せる事になり、猛然とランサーが突進をしてくる。
「オオォォッ!!」
薙刀を上段に構え、標的を両断すべく大きく振りかぶった得物を振り下ろし、
「させません!」
素早く駆けつけ、割り込んだマシュの盾によって防がれる。
「ナイスだ嬢ちゃん。そんじゃ選手交代と行くか!」
「先輩を、お願いします…!」
「任せとけ、嬢ちゃんも気張れよ」
とん、と軽く跳躍し、アサシンの前に躍り出るキャスター。
アサシンは既に体勢を立て直し、複数のダークを投擲してくる。
しかしキャスターは慌てる様子もなく、己に向かって来た物は杖で打ち払い、立香達を狙う物は魔弾で叩き落とす。
「オレを相手に飛び道具頼りの戦法とは。運悪くそれ以外に手立てがないのか阿呆なのか、お前さんはどっちだ?」
「ホザケ!」
ダークを投げつつ短刀を構え、接近するアサシン。
変わらずダークは無力化されるものの、懐に潜り込む。
喉笛を掻き切らんと振るう無慈悲な凶刃。
しかしそれすらあっさりと杖で受け止められる。
「確かにキャスタークラスだからな、接近戦にゃ向いてねえ。だが…」
杖と短剣。
鍔迫り合いながら睨み合う両者。
拮抗する力のぶつかり合いは終わりがない様に思えたが、不意にキャスターの持つ杖に炎が灯る。
「ヌ…!?」
「オレとしちゃ、こっちの方が性に合ってんのさ!」
一瞬緩んだ意識を見逃さず、相手の短刀を腕ごと打ち払う。
素早く杖を構え直し、突き出した杖はアサシンの胴体を貫く。
「グゥ、オォ…!」
「燃え尽きな」
突き刺さった杖から猛然と燃え上がる炎がアサシンの身を焼き尽くす。
「グゥアアアァァァァ!!」
断末魔と共に灰となったアサシンはそのまま消滅した。
「いっちょ上がりってな。さて、嬢ちゃんの方は…」
杖で肩を叩きながら振り返ると、ランサーとマシュが繰り広げる攻防が視界に入ってくる。
「ヌンッ!」
「やあぁっ!」
槍で突き、薙刀で薙ぎ、二刀で斬りかかる、刀槍矛戟を以って齎される凶刃の嵐。
それを正面から受け止め、逸らし、押し返し、捌き続ける。
大きく息を乱し、大粒の汗を流しながらも必死に喰らい付くマシュ。
徐々に攻撃を捌く精度が上がり、相手が体勢を崩す事もあるが、ランサーも攻めよりも守り、耐える事に長けているらしい。
体勢を崩しつつも退がり、得物を持ち替えて受け流す。
決定打に欠ける二人の攻防は千日手に陥っていた。
「ようやく見れる程度の白兵戦になってきたか。とはいえ流石に助太刀してやらにゃ厳しそうだな」
目前の空間にルーン文字を刻み、複数の火弾を射出する。
「退がりな嬢ちゃん!」
「は、はい!」
マシュが後方へ大きく跳躍すると同時に火弾がランサーに直撃する。
「ヌルイワ!」
着弾と同時に爆ぜる火弾。
しかし大半は構えた薙刀によって受け止められてしまう。
幾許かのダメージにはなっただろうが、仕留め切れる威力とは言えない。
「だが、本命はそっちじゃねぇ」
杖を地面に突き刺すと同時に、ランサーの足元から木の根が伸び、両腕両脚に絡みついて身動きを封じる。
「ヌゥ、シャラクサイ!」
引き千切ろうと両腕を振り回すも、太くしなやかな根は一本一本に魔力が込められており、如何にサーヴァントの膂力を以ってしても容易く断てるものではなかった。
その隙を見逃さず、立香は高らかに手を掲げ、告げる。
「令呪を以って命ずる」
紡がれた言の葉に呼応し、立香の手の甲に刻まれた紋様が紅く光を放つ。
サーヴァントのマスターである証。
サーヴァントへの絶対の命令権。
英霊すらも縛り付ける、マスターの生きる時代と座を繋ぐ楔。
三画の楔はそれそのものが強大な魔力の込められた物。
それを解き放つ事により一時的にサーヴァントへの強力なブーストとする。
三画の内の一画を用いて己の唯一のサーヴァントへ。
請い、願い、命ずる。
「敵を倒せ!マシュ!」
「はい!」
キャスターが作りだしてくれた攻撃の機会を最大限に活かすべく、
呼吸を整え、意識を研ぎ澄まし、出せる力の全てを四肢に込め、
紅く輝く令呪の光に背中を押されるように、ランサーへと吶喊する。
「これで、倒します!」
大楯を前面に構え、愚直に突進する。
「グッ…ガハァ……」
鈍い音と共に直撃を受けたランサーはマシュとの体格差により、低い位置から突き上げられるように衝撃を受け、そのままに宙を舞った。
空中に逃げる衝撃があってなおそのダメージは霊核を破壊するに至り、ランサーはそのまま黄金の粒子と共に消滅し、彼がもう一度地を踏むことはなかった。
「…敵サーヴァントの、消滅を、確認…やりました…」
息も絶え絶えになりながらも消滅を見届けたマシュはそのまましゃがみ込んでしまう。
「______!」
「マシュ!」
慌てて立香とオルガマリーが駆け寄るもマシュの顔色は悪い。
だがその顔には弱々しくも笑みを浮かべている。
「先輩…令呪のブースト、ありがとうございます。先輩のお陰です」
「______…!」
「彼の言う通りよマシュ。そんな事より回復に努めなさい。まだ貴女には働いてもらわなければならないのだから」
「はい…まずここから移動する方針でいいでしょうか」
「そうね、先刻のサークルに移動しましょう。何処も危険だけどあそこが一番マシでしょう」
「______!」
「わかっていますよ先輩。先輩は純粋に私を心配してくれているんですよね」
自分の心配を歪曲してとられた事に憤慨するも、柔和な笑みを浮かべたマシュに諭され毒気を抜かれる。
立香が言葉に詰まり、話の途切れたタイミングを見計らったかのようにキャスターが声をかけて来る。
「団欒の場を乱して悪いんだが、ちっといいか」
「______!」
「キャスターさん、先程はありがとうございました」
「なに、礼はいらねぇよ。こっちも訳ありでね。聞くにこれから移動か?なら互いに戦力として手を組まねぇか」
『それはこちらとしても願ったりです、キャスターのサーヴァント』
「お?そういやお前さんさっきも居たな、そりゃ魔術的な連絡手段か?」
『ご推察の通りです、改めて初めましてキャスターのサーヴァント。御身が何処の英霊は存じませんが、我々は尊敬と畏怖をもって…」
「あーそういうのはいい、長ったらしい前口上を並べてる場合じゃねぇだろ軟弱者。移動しながら必要な情報交換だけでいい」
『な、軟弱者…初対面で言われてしまうなんて…』
「確かに彼の言う通り、移動が最優先ね。…正直、少し信用ならないけど。道すがら互いの情報交換を済ませましょう」
今後の方針を定め、一行は移動を開始する。