あべこべショタマスターの人理修復   作:あんころずんだ餅

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「なるほど、状況から察するにセイバーのサーヴァントがこの事態を把握してるかもしれないと判断したと」

 

 

「おう、街が火に包まれてからすぐに俺以外の五騎を薙ぎ倒しちまった。あっという間だったぜ」

 

 

「まるでこうなることが分かっていたかのように、ってことね」

 

 

『そしてそのセイバーはこの特異点の中核をなす大聖杯がある地下空間でアーチャーを従えて待ち構えている…』

 

 

「アーチャーがその場に居るかまでは分からんな。セイバーは大聖杯から動いていないようだが」

 

 

「バーサーカーは?まだ倒されていないのでしょう?」

 

 

「あいつもセイバーと似たような状態だな。陣取ってる場所に近寄りさえしなけりゃ手出しはしてこねぇ。下手につつかねぇのが懸命だな」

 

 

「サーヴァントを汚染したという泥も気になるけど…大聖杯の調査で同じく明らかになる可能性が高いわね」

 

 

 

 

道中、幾度かの戦闘はあったものの、無事に霊脈地に到着した一行は休息と情報交換を行っていた。

レイシフトして以降、孤立無援の緊張状態が続いていた立香とマシュもようやく腰を落ち着けることが出来ていた。

未だ無尽蔵に湧き出てくるエネミーは居るものの、キャスターの手で造られた簡易的な結界のおかげで眼を逸らすことが出来ている。

 

 

 

「______?」

 

 

「核心を突いてくるねぇ坊主。ま、確かに問題は勝てるかどうかだな。アーチャーは俺に任せてくれていい。問題は…」

 

 

「セイバーのサーヴァント…ですね」

 

 

沈痛な面持ちで重く呟くマシュ。

自分でも理解しているのだろう、セイバーとの戦闘に臨む時、前衛で戦うのは自分であると。そして自分の実力では力不足だと。

 

 

「確かにセイバーはサーヴァントの中でも最優と呼ばれる存在だけど、マシュのサーヴァントとしてのスペックも負けてないんじゃないの?」

 

 

『アーチャーを先んじて撃破出来れば数的有利も取れる…理屈だけで言えば無謀な話では無い様に思えるけど…」

 

 

「お前さんらは英霊ってもんを根本から間違えてるな。頭で考えて出す結論じゃ永劫答えにゃ辿り着けねえ問題だ」

 

 

「…どういうこと?」

 

 

現状を打破するための考察を頭から否定され、訝しげにキャスターに眼をやる所長。

ロマニも自分の考察に可笑しな点があっただろうかと首を傾げている。

 

 

「死地を乗り越え、理不尽を跳ね除けて、観衆から喝采を浴びて英雄と称えられた連中。例外も多く居るが、英霊、サーヴァントってのはそういうもんだろ?」

 

 

「サーヴァントとしてのスペックの考察、戦術の構築、決してそれらを無駄とは言わねぇ。だがサーヴァント同士の戦いは詰まる所、意地のぶつかり合いみたいなもんだ」

 

 

「成した一つ。後世まで語り継がれるその一つをぶつけた時そいつが活きるかどうかだ。そしてそいつを活かせるかどうかはマスターにもかかってくる」

 

 

「ま、要はセイバーに勝てるかは坊主と嬢ちゃん次第ってこった」

 

 

俺の持論だがね。と、話を締めくくったキャスターを前に一同の表情は様々だ。

所長は腑に落ちないのかキャスターを睨み付けている。

ロマニも同じように納得は出来ていないらしく、困り顔で頬を掻いている。

肝心の立香とマシュは、

 

 

「______……」

 

 

「私たち次第……」

 

 

神妙な顔つきで俯き、固まってしまった。

三騎のサーヴァントとの戦いを経たとはいえ、そのどれもが辛勝。

いや、キャスターの助力が無ければとうに命を落としていただろう。

そして次に相手取らなければならない敵は最優と呼ばれるセイバー。

その事実が二人の表情に暗い陰を落とさせている。

 

 

「私は正直…自信がありません。戦闘経験は訓練生レベル、恐怖を拭えていない、宝具も扱えない。サーヴァントとして及第点にも満たない私が勝つことなんて出来るのでしょうか…」

 

 

訥々と口から零すように不安を述べるマシュ。

 

 

「______!」

 

 

 

そんな事はないと、自分達を守るために立派に戦ってくれていると言葉をかける立香。

自分こそ何も出来ていないことが不甲斐無いと懸命に激励の言葉を紡いでいる。

 

 

「へぇ、坊主。お前さんは嬢ちゃんを信じられるか?」

 

 

「______!」

 

 

無論だと即答する。

出会ったばかりの自分を命がけで守ってくれた事もそうだが、他の人とは違う何か。

言葉に出来ないけれど、他の大人とは違って自分を真っ直ぐ見てくれているマシュを信じたいと熱弁する。

 

 

「先輩…」

 

 

「ほう、マスターとしての心構えは十分だな。なら坊主、ちと背中を見せてみな」

 

 

「______?」

 

 

唐突な脈絡のない提案ではあるが、素直に従う立香。

その背中にキャスターはぼんやりと光を灯した指先を滑らせ、文字を刻んだ。

 

 

「これでよし、と」

 

 

「あの、キャスターさん?一体何を…」

 

 

「Guooooooooo!!!!!!」

 

 

「ひっ!?な、何こいつら急に!?明らかにこっちに…いや、立香君に向かってきてない!?」

 

 

認識妨害の結界のお陰で一行を捉えられないはずのエネミーが一斉にこちらへ向かってくる。

 

 

「今、坊主の背中に刻んだのは厄寄せのルーンだ。そら気張りな嬢ちゃん。ぼさっとしてるとあっという間にマスターを殺されちまうぞー」

 

 

「______!?」

 

 

「キャ、キャスターさん!?何故!?」

 

 

「ほんとに何考えてるのアナタ!?」

 

 

余りにも唐突且つ理不尽な仕打ちに一斉に抗議の声が上がる。

矛先の向けられている当のキャスターはというと、どっこらせと腰を下ろして我関せずといった顔だ。

 

 

「嬢ちゃんに力を託したのが何処の英霊か知らんが、嬢ちゃんがサーヴァントとして成立している以上、その英霊の力は十全に振るえるはずだ。当然、宝具も含めてな」

 

 

「宝具も…!?くっ、危ない先輩!」

 

 

話してる間に接近してきたエネミーを捌きながらどうにかキャスターの話に耳を傾ける。

 

 

「それでも宝具が使えねぇってのは全力の出しようがまだ自分でも分かってねぇんだろう。嬢ちゃんはまだ腹の底から声を出せている()()()でいるだけってこった」

 

 

「手をっ!抜いているっ!余裕なんてっ!無いんですけどぉー!?」

 

 

エネミーを吹き飛ばしながら叫ぶマシュ。

なんとか話は耳に入れているものの敵の数が多く、半ばやけになっている。

 

 

「いや、声云々は物の例えで言っただけなんだが…ま、でもその調子だ嬢ちゃん。人間ってのは追い詰められた時にようやく心の底から()()()ことが出来る」

 

 

戦いながらもキャスターの言葉を理解しようと考察するも抽象的な表現の真意を測りきれない。

 

 

()()()って…!?とにかく、エネミーを倒さなきゃ…!)

 

 

困惑を押し止め、戦闘に意識を割くことを選びエネミーを蹴散らしていくマシュ。

一体一体は然した相手ではないものの、次から次へと襲い来る物量は終わりが無いのかと錯覚してしまう。

 

 

「いくらなんでも無茶苦茶じゃないのこれ…!?宝具どころかこのままじゃマシュが保たないわよ!」

 

 

「そん時ゃそれまで。どの道この程度の物量に押しつぶされちまうようなら逆立ちしたってセイバーにゃ勝てんよ」

 

 

「______!」

 

 

冷酷に、まるで他人事のように言い放つキャスターの言葉に憤慨する立香。

荒療治が必要と判断したとはいえ、自分から引き起こした事態にまるで興味すら抱いていないのかと。

 

 

「悔しく思うか坊主?何も出来ない自分がもどかしくて情けないか?」

 

 

「______……!」

 

 

当然だと。

自分を守るために命懸けで戦う人をただ見ていることしか出来ないなんて。

罪悪感と無力感で気が狂いそうだと腹の底から声を絞り出すように呟く。

 

 

「だがお前さんは弱い。ただでさえ人間とサーヴァントのスペック差はそう簡単に埋めれるほど浅いもんじゃねぇ。その上お前さんはまだガキだ。はっきり言ってちょろちょろ動き回られるだけでも嬢ちゃんからすりゃ厄介だろうな」

 

 

「______!」

 

 

そんな事は分かっている。

この燃え盛る街にマシュと共に放り出されて嫌というほど思い知った。

自分に出来ることなんて無い。助けられてばかりだと。

 

 

「それが分かってるなら不安そうな顔をするな。泣き言を言うな。何度も嬢ちゃんの戦う姿を目の当たりにして嬢ちゃんを信じると言ったろ?それとも嬢ちゃんが勝つことは信じられねぇのか?」

 

 

「______……」

 

 

「いいか坊主、お前はあの嬢ちゃんのマスターだって事を自覚しなきゃならねぇ。嬢ちゃんが倒れる時は坊主も倒れる時。その逆も然りだ。ただ戦う嬢ちゃんを見ていることしか出来ないとしてもせめてどっしり構えていろ。信じると口にしたなら信じ切って見せろ。嬢ちゃんが肝心な時に泣きそうなお前さんの顔を見ちまったら後ろ髪引かれて戦えねぇ。違うか?」

 

 

「______……!」

 

 

キャスターの言葉を受けて思わず息を呑む。

その通りだ。実際に前に出て敵と対峙しているのはマシュなのに自分が弱音を吐いてどうする。

マスターと呼ばれる事の重みを理解していない自分が恥ずかしく、腹立たしくなる。

マシュは自分を守ると言ってくれた。その言葉を信じると口にしたなら不安を表に出すわけにはいかない。

ならせめて自分に出来ることは?

今も尚、恐怖を押し殺し、奮闘する己のサーヴァントを信じ切ってみせることだ。

伝えなくては。

マシュの強さを信じている。誇らしく思う。

だからマシュもマシュを信じて欲しいと。

 

 

「………頑張って!勝って!マシュ!」

 

 

「…!、はい、先輩!」

 

 

今はまだ自分が何も出来ないことは変わらない。戦うマシュを信じて待つことしか出来ない。

いや、それだけなら出来る。真っ直ぐマシュを信じる心が少しでも彼女の背中を押せるなら。

それだってきっと、()()()()()()()だ。

 

 

立香の言葉を受け奮起するマシュ。

迫り来る敵の波をものともせず蹴散らし、幾許かの時間が過ぎた頃。

 

 

「これで…終わりです!」

 

 

己を鼓舞させる為にも張り上げた声と共に盾を振るい、敵を薙ぎ払う。

あっさりと吹き飛ばされた骨の骸は二度と動かず、その身を横たえた。

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 

「ヒュウ、正直、こいつは予想外だな」

 

 

辺り一面を覆いつくす程の骨の残骸。

その只中に一人、マシュは悠然と立っていた

息は荒く、埃に塗れ、髪は汗で顔にへばり付いているが、足取りは力強く、その身に傷一つ負うことなくエネミーを殲滅してみせた。

少なくともその姿は、立香の眼には凛々しく、雄々しく、猛々しく、尚且つ美しい英雄の姿に映った。

 

 

 

「…完全に打ち止め、って訳じゃねぇだろうが、こりゃしばらく結界もいらんな」

 

 

「______……!」

 

 

「すごい…」

 

 

立香と所長の口から思わず感嘆の声が漏れる。

迫りくる敵の物量をものともせず、遂にその身に傷一つ負うことなく戦い抜いてみせた姿は正に一騎当千といえる。

 

 

「だが、まだ合格はやれんな」

 

 

「なっ…!?」

 

 

言葉と共に巨大な炎塊をマシュに向けて放つキャスター。

驚きつつも半ば反射的に盾を構え、防ぎきってみせる。

 

 

「マシュ!」

 

 

「______……!」

 

 

「嬢ちゃんの心配じゃなく、攻撃を仕掛けた俺(倒すべき敵)を見極めんとしたか。そうだ坊主。それでいい」

 

 

防いでみせるだろうと己がサーヴァントを信じ、奇襲を仕掛けたキャスター()から眼を逸らさず、所長と共に距離を取る立香。

 

 

「ちょ、ちょっとアナタいい加減にしなさいよ!?本気でマシュを殺すつもり!?」

 

 

「おうその通り。なんだ、お前さんらこれから敵さん相手にハーリングの試合でも申し込むつもりか?」

 

 

「で、ですがキャスターさんと戦う理由なんて…!?」

 

 

「理由か?欲しいならこれでいいだろっ!」

 

 

「っ!?先輩危ない!」

 

 

言葉と同時に瞬時に空にルーン文字を刻み、火球を立香へと飛ばすキャスター。

咄嗟にマシュが庇いに入るのが間に合ったお陰で難を逃れたが、一瞬遅れていれば今頃、立香は物言わぬ焼死体と化していただろう。

それほどの威力が確かにあった。今の一撃は間違いなく立香を殺すつもりで放った一撃だった。

 

 

「キャスターさん!いくらなんでも…!?」

 

 

思わず非難の声を上げようと前に出るマシュ。

だがキャスターの気迫に息を呑み、思わず足を止める。

 

 

「言った筈だぜ。死地を越え、理不尽を跳ね除けてみせてこそ英霊ってな。敵が全員、行儀良く戦いに応じてくれると思うか?マスターが死ねばサーヴァントは負けだ。特にお前さんら、坊主が最後のマスターなんだろ?」

 

 

「言っとくがセイバーとアーチャーは理性までは呑まれてねぇ。自分の宝具すら忘れていた先の三騎とは比べ物にならんぞ」

 

 

「つまりこれから戦う相手は本当の意味で同じサーヴァント。そこらの骨でもなく泥に飲まれた出来損ないでもない、正真正銘の英霊だ」

 

 

杖で地を叩き、生き物の如く根を操り、

空に浮かべたルーン文字は炎へ変貌する。

何処からか現れた2頭の白狼は低い唸り声を上げながら獲物を睨む。

 

 

「喜べ、癪だがこの俺が前座を務めてやるってんだ。そら、死ぬ気で守らねぇとあっという間に黒焦げになるぞ!」

 

 

言葉と共に振るわれる凶刃と殺意。

迷う暇も躊躇う猶予も与えられず、頼もしい味方はその強さそのままに立香達に牙を剥いた。

 

 

 

 

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