No.1銃手ですがオペレーターとしてA級を目指そうと思います 作:宮川アスカ
私が住んでいる世界は籠の中だった。
周りの人達が当たり前の様に生きて行く様を、籠の中から見つめるだけの人生。
だけど昔から籠に囚われた私には、籠から見えるそれが当たり前。
危険と安全を天秤にかけ、安全を選んだ私には、いつも難しい顔をして、籠の外で悩んでいる彼らの方が窮屈に見えた。
だけど私の安寧は、所詮籠の中の自由。その小さな世界で自分は自由だと思って生きていることにも気づかないというのは本当の幸せなのだろうか?
笑って、泣いて、怒って、悩んで。そして、人を愛する彼らを見て、いつしか私は、外の世界を羨ましいと思う様になっていた。
だけど臆病な私には、自ら安全を選んだこの世界を壊すのが怖かった。
そんな時、私の小さな世界を、籠を壊したのが貴方だった。
広い世界で、本当の自由を生きる事を教えてくれたのが貴方だった。
私に、恋を教えてくれたのも、貴方だった。
2月2日。とある喫茶店で、柚月はスマホを触っていた。
いつもと変わらない筈なのだが、今日の柚月はいつもの様な適当な雰囲気では無く、不思議と、どこか神秘的な大人な雰囲気を持ち合わせていた。
窓側の席ということもあり、喫茶店を横切る女性達の視線が、チラリチラリと柚月の事を見ては通り抜けて行く。
そんな柚月に、声をかける少女が1人。
「ごめんなさい柚月くん。待った?」
その声に、柚月が顔をあげると、そこには柚月の待ち人の姿があった。
「玲。うん。まぁ、少しだけ」
那須玲。B級、那須隊の隊長。
物静かで清楚な雰囲気を纏い、ボブにした色の薄い髪が特徴的な彼女は、正真正銘の美人と言えるだろう。
「そこは、嘘でも待ってないって言う所じゃない?」
「玲の前で飾っても意味が無いからな」
那須は不満を漏らしながらも、どこか満足そうに微笑みながら柚月の目の前に腰掛ける。
べつに那須も集合時間に遅れたわけではない。それどころか、10分は余裕がある。
一応、柚月も女性より先に集合場所に着くという知識は持ち合わせていた。柚宇の助言ではあるが……
「体の方は? 大丈夫なのか?」
「うん。今日はなんとも」
那須な体が弱く、病弱で、外出もあまり出来ない。だが不思議と柚月との予定がある日は彼女の体は比較的安定している。さらには、病弱の為か普段あまり見られる事の無いはずの瞳のハイライトも、柚月の前では、心無しかうつっている様に思えるのだ。彼女をよく知る人物には、想像もつかない事であろう。
「別に玲の家まで迎えに行ったのに」
「それも悪くないけど、やっぱり待ち合わせがデートの基本じゃない?」
「デッ……!」
デートという言葉に、柚月は顔を赤らめる。
柚月は恋愛が大の苦手である。
ギャルゲーは得意だと自負しているが、ゲームとリアルは違う。
戦闘での相手の感情や思考回路を読み解くのは得意な癖に、女心には死ぬほど疎い。
「それにしてもまさか、柚月くんが玉狛に入るなんてね。しかもオペレーターで」
「まぁ、所属は本部のままだけどな。驚いたか?」
「ええ。私も誘ってたのに」
「志岐がいるんだから無理だろ」
「ふふ。それもそうね」
那須隊のオペレーターである志岐小夜子は、極度に男性が苦手だ。
仲間思いの那須の事だ。いくら柚月の為でも、志岐の事を切り捨てるという判断は絶対にしない。
故に、柚月は那須が冗談で誘っている事を分かっているし、那須も柚月に断られる事は分かっている。
柚月は珈琲、那須は紅茶を口にしながら、そんなたわいもない話をする。
「それじゃあ行きましょう。今日は私がエスコートするわ」
その後も、少し談笑した2人は、店を後にする。
他の客が見たものは、恋愛に疎い初々しい彼氏と、それを分かっていながら、あえてからかう彼女。ブラックコーヒーすら甘く感じられる光景。
国近柚月は那須玲の事が好きだ。
那須玲は国近柚月の事が好きだ。
しかしこの2人、付き合ってはいない。
嘘のような話だが、紛れもない真実である。
「ストーリーも作り込まれてたし、最後の最後でどんでん返し。続編も楽しみだわ」
「あぁ、戦闘シーンも迫力あったしな。その時はまた一緒に見に行こう」
「ええ」
カフェから出て、2人が向かったのは最近出来たという大型の複合施設。
この大型複合施設には、映画館も内蔵されており、2人はたった今、映画を見終えた所だ。
那須は普段からあまり外出が出来ない事から、映画鑑賞が趣味だ。女子が好きな映画と言えば恋愛映画等が多いが、那須は意外にもSF映画やアクション映画も好きである。
柚月も映画は好きだが、やはり恋愛映画よりかはアクション映画やミステリー映画の方が見ていて楽しい。まぁ、柚月の場合は、那須と映画に行くと、那須が映画を見て楽しんでいる横顔をチラリと見ては、その度にドキリとして映画に集中出来ない事が時たまあるが。
2人が映画の感想を話し合いながら歩き、ゲームセンターの前を通りかかった時、小さな子供の泣き声が聞こえた。
何事かと思い、柚月が泣き声のする方を向くと、そこにはクレーンゲームの前で泣く女の子と、困り果てた顔をした男の子。
「どうかしたのか?」
その光景を見た柚月の足は、考えるより先に動いていた。
男の子の元へ行き、そう問いかけると、彼のそばに居た母親らしき人物が現れ、恥ずかしそうに、そして何処か申し訳なそうに、柚月に話しをする。
どうやらこの2人は兄妹らしい。母親の話によると、彼の妹がクレーンゲームの景品であるぬいぐるみが欲しいらしく、妹の為に挑戦したものの、そう簡単には取れず。勿論、お金も無限では無い為、妹が母親に諦めるよう言われた所、妹は泣いてしまったのだと言う。
「なるほどね」
柚月はそう言うと、男の子が挑戦していたクレーンゲームの前に立ち、財布を取り出し、100円玉を投入する。
そこからプレイする事わずか3回。あっという間に、ぬいぐるみを景品口へと落とし、落下してきたぬいぐるみを取り出す。
柚月からしてみれば、クレーンゲームもゲームである以上お手の物。
「ほら。これお兄さんからのプレゼント」
柚月はそう言うと、女の子の目線までしゃがみこみ、女の子へとさしだす。
「わぁ! お兄さんありがとう!」
ぬいぐるみを受け取った女の子は、先程まで泣いていた事が嘘かの様に、ぬいぐるみを力強く抱きしめ、太陽の様な笑顔を見せる。
柚月もニコリと微笑み、どういたしまして。と言いながら立ち上がり、そのまま隣の台へと移動する。
すると、またしても数回で景品を落とす。そして、今度は男の子の方へと向かう。
「ほれ。これあげるよ」
「これは?」
「エアガン。完全に俺の趣味だけどな。かっこいいだろ?」
柚月はそう言うと、男の子の頭に手をのせ、ワシャワシャと撫でる。
「妹の為によく頑張ったな」
柚月も小さい頃に柚宇の為にクレーンゲームを練習した事がある。柚月だって最初っからなんでも出来たわけでは無い。
例え取れずとも、妹の為に頑張る姿を見て、柚月はなんとなく彼を昔の自分と重ねていた。
「ありがとうございます。本当にありがとうございます」
「いえいえ。ただのお節介ですので」
母親からも感謝され、親子を見送った柚月。しかし彼は重大な事を忘れている。
何か嫌な予感がした柚月が後ろを振り返ると、そこにはニコニコと笑いながら此方を見る那須の姿が。
(……やべぇ)
笑顔であるはずなのに、その後ろからはまるでゴゴゴゴとでも聞こえてきそうな、謎の黒いオーラが柚月には見える。
「ねぇ、柚月くん? デート中に私を放ってどこかに行くのはどうかと思うんだけど?」
「いや、その……」
「せめて一言、声をかけてくれても良いんじゃないかしら?」
「はい。すいません」
「はぁ。まったく」
那須はどこか呆れた様なため息をつき、「けど……」と言葉を繋げる。
「柚月くんのそういう所、私は好きよ?」
普段から合理的な判断でしか物事を見ない柚月だが、ふとした時に感情的に動く事がある。たとえそれが自分になんのメリットがなくとも。
──無茶で無鉄砲。そうやって私を外の世界に引っ張り出してくれたのも貴方だから。
──そんな貴方を愛せるのは私だけなのよ?
──だからね、柚月くん。私だけを見ていて。
あれ?那須さんの様子が……
こんなはずじゃ無かったのになぁ。まぁ、いっか!
あと1話続きます。
感想にて、柚月の戦闘シーンの有無についての質問があったのですが、B級ランク戦以外ではあります。てか皆さん見たいんですかね?
ランク戦で戦わないので、原作内での戦闘は大分後になってしまうんですよね〜。なので質問です!
那須さんとのデート回の次は
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オリジナル団体戦
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そんな事よりストーリー進めろ