No.1銃手ですがオペレーターとしてA級を目指そうと思います 作:宮川アスカ
あの後は、特に何事もなくデートを楽しんだ2人。
楽しい時間というものはあっという間にすぎていくもので、時間は既に夕方になっていた。
普通のカップルならばこのまま夕食。といくのだろうが、2人の場合はそうも言っていられない。
那須は病弱だ。ただでさえ、生身の状態でこれだけ長く外出できているが奇跡のようなものなのだ。この季節の夜は冷え込む。あまり長居は出来ない。
「ごめん。ちょっとトイレ」
駅に着くと、柚月はそう言い少しの間席を外す。
しかし、これが柚月にとって今日最大の失態。
柚月がトイレから戻ると──
「ねぇ。今暇?」
「すっげー美人。高校生?」
「あれ、黙っちゃった」
「あっはは。怖い?」
「いやいや。怖くないでしょ〜。ねぇ?」
「そうだ。名前教えてよー」
「これから俺らとご飯行かない?」
那須が明らかにチャラそうな大学生らしき男3人に囲まれていた。所為、ナンパというやつだ。
(おいおい。こういうのはアニメや漫画だけの話だと思ってたんだが……)
実際現場に居合わせてみると、その男達のイタさに若干ひく。
困惑はあるものの、那須が絡まられているにしては、柚月は意外と冷静だった。
その理由は、その那須にある。
彼らに特別反抗的な態度をとるわけでもなく、彼女のその瞳には、柚月といた時の様なハイライトは写っておらず、凍えるような冷徹な目で男達の事を見ていた。
ただ、自分に酔った男達には、緊張して話せないか弱い少女にしか見えていないのだろう。
柚月は呆れながら那須の元へ向かう。
向こうがテンプレ的な行動を取るなら、自分もそれに習うまで。
「すみません。彼女、俺の連れなんで」
柚月はそう言うと、那須の事を優しく自分の方へ引き寄せる。
2次元の知識を辿りながら、見様見真似でやってみた柚月だが、その姿は意外と様になっている。
そんな柚月を見て、男達はあからさまに嫌そうな顔をする。
「なんだよ。彼氏連れかよ」
「なんか冷めたわ。行こうぜ」
「こんなヒョロガリが彼氏とかないわ〜」
ヒョロガリ。流石そこまでではないが、柚月はどちらかといえば華奢な体をしている。
引き込もり気質で運動があまり好きではない柚月は、体育以外での運動はほとんどしない。
那須に男がいると分かった男達はこの場を去ろうとする。このまま一件落着と思った柚月だが、男達の足を止めたのは意外にも那須であった。
「こんな時間から駅でナンパはどうかと思いますよ? それにさっきから手当り次第に声かけてるみたいですし。場所変えたらどうです? まぁ、貴方達みたいな軽そうな男について行く人なんていないと思いますけど」
(えっ、ちょっと玲さん?)
このまま終わると思っていた柚月は、那須の言葉に目を見開く。普段から物優しい那須からは想像も出来ない様な毒舌。
自分がナンパされる分には我慢出来たが、柚月の事を馬鹿にされるのは那須にとって許し難い事であった。
「てめぇ……こっちが下手に出てれば調子乗りやがって」
自尊心を傷つけられた男達。その内の1人が、那須に向かって拳を振り上げた時。
柚月が咄嗟にその腕を掴む。
「これ、正当防衛って事でいいんですよね?」
「あ?」
そう言った直後、男の視界がグルリと一回転する。
男には何が起きたのか分からぬまま、背中から地面に叩きつけられる。
「まさかレイジさんに教わった護身術がこんな形で役にたつとは……」
柚月は運動が嫌いではあるが、決して運動神経が悪いわけではない。
とはいえ、これだけ一通りが激しい駅で一本背負いなんてしては周囲の注目が集まるのも事実。
「玲、逃げるぞ!」
「ちっ、おい! 逃がすな!」
柚月は那須の手を引き、駅の改札を抜ける。
チラリと後ろを向くと、男達もこちらを追いかけてきていた。
「おいおい、まじかよ……」
駅内だというのに、いきなり始まった鬼ごっこ。
那須がまともに走れないいじょう、このままでは捕まるのは時間の問題。
「玲、しっかり捕まってろよ」
「えっ、柚月くん? キャ!」
柚月はそう言うと、那須の事を背負い、駅のホームまで駆け抜ける。
周りの人に当たらないよう、すれ違う度に謝罪を入れながら、人並みをかわしながら走っていく。
エスカレーターは人が多くて使えない。脇にある階段を、柚月は死ぬ思いで駆け上がる。
那須の体は心配になる程軽かったが、誰かをおぶって全力疾走というのは、普段から運動しない柚月には辛いものがある。
「あれ? お兄ちゃん?」
何とかして電車に乗り込むと、そこにはゲームセンターであった男の子の姿があった。
「すいません、彼女の事よろしくお願いします!」
急に体を動かしたせいか、心做しか那須の顔色が悪い。柚月はそう言うと、男の子近くにいたあの時の母親に那須の事を預ける。
『ドアが閉まります。駆け込み乗車はおやめ下さい』
発車のアナウンスが流れる。しかし男達は目の前まで来ている。恐らくこのままではギリギリ間に合うだろう。
(こんな騒ぎおこして、バレたら絶対、根付さんにドヤされるやつだわ)
しかしだからといって、ここでノコノコと男達に捕まる訳にはいかない。
「どうしたもんかね……」
那須の辛そうな顔が余計に柚月の思考を焦らせる。
柚月だけが残り、この場で男達を抑えるのが1番手っ取り早いが、那須を1人にする事は出来ない。
周囲に目を回し、何とかして打開策を探しだす。
そんな時。柚月の目に映ったのは、あの時柚月が男の子にあげたエアガンだった。
「少年。そのエアガン、少し貸してもらってもいいかな?」
「え……? ……うん」
男の子は、いきなりの事に戸惑いの表情をみせるが、柚月のその真剣な顔を見て力強く頷く。
「ありがとう」
柚月はニコリと微笑み、男の子からエアガンを受け取ると、そのエアガンをドアの方向。正確には、男達の方に向ける。
「いいか? 俺が今からやるよ事は真似しちゃだめだぞ?」
柚月はそう言うと、一瞬にして3度引き金を引く。
「「「いって!!」」」
エアガンから放たれたBB弾は見事に3発とも男達の眉間に当たる。
予想していなかった急な痛みで一瞬、男達の足が止まる。それと同時に電車のドアは閉められた。
人にエアガンを向けるなど褒められた行為では無い。
誤って目にでも入ったら、失明は免れないだろう。しかし柚月には確実に額に当てるという自信と技量があった。
まるで映画のワンシーン。そんな非現実的な場面に出くわした車両の中では、歓声と拍手が飛び交っていた。
「疲れた。もう絶対あんな事はしない」
帰り道。那須を家まで送り届けた柚月はそう呟いた。
「私は意外と楽しかったわよ」
那須はふふっと微笑みながら、そう告げる。
あれから少し休んだ那須の体調は、何とか落ち着いていた。
「柚月くん、ちょっと来て」
那須邸。その前で、後は帰るだけの柚月を、那須は呼び止める。
「はい、これ」
柚月は那須に言われた通り、彼女の目の前に行くと、1つの細長い箱を渡される。白を基調とした箱には、赤いリボンが施されており、箱だけ見てもオシャレな事は柚月にも分かった。
「これは?」
「誕生日プレゼント。遅くなっちゃったけど、ハッピーバースデー柚月くん」
「玲…… ありがとう。中、見てもいいかな?」
「うん」
リボンを解き、箱を開けると、そこには2つのネックレスが入っていた。
その内の1つを取り出し、那須は柚月にネックレスをつける。
「うん。やっぱり似合ってる。これ、ペアネックレスなの。もう1つは、柚月につけてもらいたいわ」
「ああ」
柚月はそう言うと、那須の後ろに腕を回し、ネックレスをつける。
「どう、かしら?」
「似合ってるよ。何時にもまして綺麗だ」
恋愛が苦手な癖に、いや苦手だからこそ、こういうクサイセリフを恥ずかしげなく言えるのかもしれない。
ただ、ほんのり赤くなった那須の頬に、柚月は気づかない。
「今日はなんだか疲れちゃった。おやすみ柚月くん。また今度」
「ああ。なんだかんだで楽しかったよ。それじゃあ、また」
那須はそれだけ伝えると、早足で家の中へと入っていく。
そして扉を閉めた所で、その場にへたり込んだ。
(凄いドキドキしてる。自分の心臓の音が聞こえる)
1度落ち着かせたはずの心臓は、また激しく動き出す。しかし今度は病気から来るものではない。いや、強いて言うのであれば、恋の病といったところだ。
(顔、近かった。まつ毛もあんな長くて……)
思い出しただけで熱くなる。
今日の出来事だって、自分があんな事を言わなければ、あそこまで大袈裟にはなっていなかったであろう。
けど、自分の手を引いてくれた柚月はかっこよかった。柚月におぶられて、ものすごくドキドキした。
何時だったか、彼女は熊谷にこんな質問をされた事がある。
──そんなに好きなら付き合っちゃえばいいじゃない
ただ、那須はそうしない。その時言われた言葉を、熊谷は今でも覚えている。
──私だって女の子だもの。告白。されたいじゃない?
いつだって可憐で、触れてしまえば壊れてしまいそうなのが、那須玲という少女だ。
可愛いよりも美しいや綺麗という言葉が似合うのが那須玲という少女だ。
しかしそんな彼女も、好きな人の前ではいつだって恋する乙女なのだから。
皆さん、エアガンは人に向けてはいけませんよ。
投票の結果、ストーリーの方を進めていきますね。この機能良いですね。読者の需要が分かりやすい。投票してくださった皆様ありがとうございます。