No.1銃手ですがオペレーターとしてA級を目指そうと思います 作:宮川アスカ
「〜♪」
ボーダー本部。鼻歌を歌いながら自販機の前に立つ柚月は、1人の少年と遭遇する。黒髪のその少年は、柚月もよく知る人物であった。
「おっ、秀次。久しぶり」
「……国近さん」
三輪秀次。A級7位三輪隊の隊長であり、柚月が以前オペレーターを勤めていた旧東隊の元チームメイトである。
「今日は防衛任務なんだって? さっき米屋が言ってたよ」
「ああ」
素っ気ない返事。三輪はあまり他人と話すようなタイプではない。同じ部隊の米屋とは真逆で、堅物かつ真面目で、気難しく融通の効かない性格である。
ただ、これでも柚月には比較的、心を開いている方である。
「秀次、少し丸くなったか? この前の大規模進行で修を助けたらしいじゃん」
「……あの眼鏡を助けた覚えはない。ただ俺はネイバーを駆除する為に動いただけだ」
三輪は第一次大規模侵攻の際に、目の前でネイバーに姉を殺された事から、ネイバーに対し人一倍の敵意を抱いている。城戸派の象徴とも言える彼は、故に玉狛支部、特に迅の事を一方的に敵視しているのだ。
「俺はあんたの実力を認めている。だが玉狛に入った事は理解できない。ネイバーは全て敵だ」
三輪は、その鋭い眼光で柚月を見つめる。そしてそれだけ言い残し、柚月の元を離れていく。
「……秀次」
「?」
「ほれっ」
柚月のはそう言うと、手に持っていた缶コーヒーを三輪に投げる。
一瞬此方を振り向いた三輪は、その缶コーヒーをキャッチすると、そのまま歩きだす。
「なんだ。やっぱ丸くなってんじゃん」
そんな三輪を見て、柚月は小さく微笑む。
三輪と柚月は同期だ。この2人が入隊したのは4年前。つまりボーダーが公に発表されてすぐの頃だ。故に殆どが2人より年上。柚月の同期で彼より年下だったのは、三輪だけであった。
だからなのか、柚月はなにかと三輪の事を気にかけている。
「って、やば! 時間ないんだった!」
ただ、そんな呑気な事をしている場合ではない。柚月は慌てて走り出す。柚月が今日、ボーダー本部に来た理由。
それは、オペレーターの能力測定があるのだ。
戦闘員の場合は、ランク戦等で各々の順位を決める。ではオペレーターにはそれが無いのかというと、そういうわけでもないのだ。各項目が10段階評価な為、戦闘員ほどの明確な順位というものは付きにくいが、あるにはある。
並列処理や情報分析。他にも機器操作などといった試験が定期的に行われ、そこで点数をつけるのだ。
勿論、人柄やコミュニケーション能力など、試験の点数が全てでは無いが、点数が高いに越したことはないし、点数が高い人間が優秀であるのもまた事実だ。
では柚月の順位はというと……
「ふむ、6位か。まぁ、こんなもんだろ」
6位と聞くと低く感じる人もいるかもしれないが、そんな事はない。むしろ上位と言ってもいい。部隊を持つオペレーターだけでも30人弱はいる。ましてや柚月は男だ。
とはいえ今回は、防衛任務中の月見や他県へ勧誘に向かっている草壁や結束などの成績上位者がいない為、実際はもう少し下がるだろうが。
「柚月先輩。どうでしたか?」
「つじはる。んー、やっぱ並行処理能力が低いな」
柚月はそう言うと、彼に話しかけてきた綾辻に成績の紙を見せる。
並行処理能力は、男性より女性の方が優れている。オペレーターに女性が多い理由もこれが大きいだろう。そして柚月もその例にもれず、並行処理能力が他のオペレーターと比べて低い。
「まぁ、それは仕方ないですよ柚月先輩」
「うわっ! 柚月先輩、戦術高っ! 10!?」
「……なぁ、宇佐美? 何食わぬ顔で人の結果を勝手に見るのはどうかと思うぞ?」
綾辻とそんな事を話していると、三上と宇佐美が現れ、宇佐美がヒョコリと柚月の成績用紙に顔を覗かせる。
柚月の最大の強みはやはり戦略脳。彼が男ながらに6位である所以は、やはり全体的に高水準な数値に、並行処理の低さを補う、この戦術の高さと言えるだろう。
六頴館組でワチャワチャと話していると、柚月の背中に柔らかい何かが押し当てられ、急に体が重くなる。
「何を騒いでいるのかね〜?」
「柚宇、重いんだけど」
「柚月くんよ。女子にそれはないんじゃないかね? 胸も押し当ててあげていると言うのに」
「いや、お前に胸を当てられたところで何も思わんから」
柚月の聞いた話では、柚宇はモテるらしい。いや、実際彼女はモテる。
しかし柚月からしてみれば、所詮は妹にすぎない。しかもどちらかというと駄目な妹。
そんな2人を見て、そっと自身の胸に手を当て、ハイライトを無くした三上の姿が目に映ったが、柚月は何も見なかった事にした。触らぬ神に祟りなしだ。
「お〜。柚月は6位なんだ。まだまだですな〜」
柚宇の挑発的な台詞に、柚月は軽くイラッとくる。
「そういうお前は何位なんだよ」
「ふっふっふ」
柚宇はニヤニヤと笑いながら、柚月に自身の成績用紙を見せる。
そこに記載されていたのは、トータルスコア40に、1位という数字。
「ウゲッ。おい、なんの冗談だ? ……この馬鹿が1位とかありえないだろ」
「まぁまぁ、僻むのはやめたまえよ〜」
「うぜぇえ……」
これみよがしに成績を見せびらかす柚宇。彼女は双子でありながらゲーム、勉学、スポーツそれら全てにおいて柚月に負けている。柚月と同じく負けず嫌いな彼女は、数少ない柚月に勝ったという事への優越感に浸っているのだ。
「てかこのメンツおかしくね? 嫌がらせかよ」
1位の柚宇に続き、宇佐美が同率2位、三上と綾辻が同率4位。つまり、今柚月の周りに集まっている4人ともが柚月より上の順位なのだ。そんな中、また新たな女性の声がかけられる。
「おい、国近〜」
「「ん?」」
国近という言葉に、柚月と柚宇の両方が反応する。
「あぁ、違う違う。兄の方だ」
どうやら彼女が呼んでいたのは柚月だったらしい。そんな柚月を呼んだのな、赤みがかった茶髪をした少女。
「んー? どした光ちゃん」
彼女の名前は仁礼光。B級部隊、影浦隊のオペレーターである。
「カゲの所にお好み焼き食べに行くぞー。カゲが誘えってうるさいからな」
「今から? まぁ、いいけど…… 他のメンバーは?」
「まだ決まってない!」
「えぇ…… つまりノープランなわけね…… オッケー。じゃあ、光ちゃんは影浦隊の方よろしく。俺の方でも適当に誘っとくから」
「任せとけー」
仁礼はそういうと、少し離れた場所でスマホを操作し始める。
トントン拍子で決まった今日の夕食。元々は玉狛で夕食を済ませる予定だったので、柚月は今日のご飯当番である宇佐美の方を見る。
「って事で俺の夕食は大丈夫だから」
「了解でーす」
「あぁ、あと、終わったら様子見に行くから修達にはそう伝えておいて」
宇佐美にそれだけ伝え、柚月もメンバーを集める為にスマホを操作する。
時刻は19時前。ちょうどお腹が空き始める時間帯。かげうらと書かれた建物の前に立った柚月は、お好み焼きと書かれたのれんをくぐる。するとソースのいい匂いが鼻をくすぐり、食欲を爆増させる。そんな柚月に、1人の少年が声をかける。
「あん? やっときやがったか。おい、おせーぞお前ら!」
「おいおい。それが客にとる態度かっての」
柚月は自身に話しかけてきた少年、影浦雅人に苦笑いをしながらそう答える。
彼は影浦隊の隊長で、ここ、お好み焼き屋かげうらの次男坊である。
既に影浦隊のメンバーは集まっており、柚月に続く様に、数人の男が店に入る。
結局集まったメンバーは、仁礼が招集をかけた、影浦、北添、絵馬の3人と、柚月が集めた、荒船、村上、当真の合計8人だ。
通路を挟み、4ー4の席に別れ、各々が席に座る。
柚月のテーブルは、影浦、当真、荒船が同じ席だ。
「そういや、柚月ィ。お前、玉狛に入ったんだってな」
やはりと言うべきか。柚月の予想していた通り、話は柚月の玉狛第二加入の話で持ちきりだ。
「ああ」
「俺達も誘ってただろーが。なんで玉狛だ?」
「ん? まぁ、成り行き?」
影浦の質問に、柚月はお好み焼きを食べながらそう答える。
実際柚月にとっては、どの部隊でもよかった。そんな中で、ちょうどタイミング良く声をかけてきたのが玉狛だっただけだ。迅の誘いというのもあったが、あの3人には可能性を感じられたから。そして何より、この選択はおもしろいと思えたのだ。
「まぁ、俺からしたらどっちにしろ地雷なんだけどな」
当真はそう言うと、やれやれと頭をかく。
「真木ちゃんは随分とお前にご執着だったからな。お前がフリーだった時は誘えってうるさいし、玉狛に入ったからそれが無くなると思ったら、勧誘失敗って事でこっぴどく叱られたからなぁ。まっ、お前がうちに入ってくれたらそれが1番平和だったんだけどな」
「えー。やだよ。だって真木怖いんだもん。しかも真木の視線、めっちゃ圧あるんだよね。今日のオペレーターの測定の時も感じたし」
「お前、それ絶対本人に言うなよ?」
柚月の言葉に、当真は思わず冷や汗と共に苦笑いをこぼしてしまう。
説明しよう。当真が所属する冬島隊のオペレーター、真木理佐は、柚月にとてつもない程の憧れを抱いているのである。
普段は年上にも臆さない強気な性格な彼女だが、柚月に対しては別で、その実、話しかける事すら緊張してしまう程だ。
故に、当真と冬島に勧誘を任せていたのだが、彼らの適当な性格では希望薄だ。
そして柚月に憧れるが中々話しかけられない彼女が辿り着いたのは、柚月に熱い視線を送り続けるというものなのだが、彼女の性格と、その切れ長な瞳が故に、柚月からしてみれば、見られているのに特に話しかけられるわけでもない為、ただ圧が強いだけという非常に悲しい結果となっているのだが、本人はそれに気づいてはいない。これに関しては知らぬが仏だろう。
「まぁ、なんにせよ。いきなり現れた新人部隊がバッタバッタと敵を薙ぎ倒し、初シーズンでA級に上がる。そんなの最高におもしろいに決まってるだろ?」
柚月は楽しそうに笑いながらそう言う。
しかしここに居るのは一癖も二癖もある様な者達ばかり。その言葉を聞いてはいそうですかとはならない。
そんな中で、1番最初に口を開いたのは影浦だった。
「おい、お前がいう玉狛第二ってのそはそんなつえーのか?」
「さぁ、どうだろうな? 少なくとも今の段階では、中位グループでは戦えると思う。多分だけど上位グループにもいけるだけの実力はあると俺は思ってる」
その言葉に、村上と荒船がピクリと反応する。
荒船が隊長を務める荒船隊は中位グループだ。村上が所属する鈴鳴第一も上位と中位の間にいる事が多い。遠回しに自分達には勝てると言われていい気がするはずもない。
それにA級に上がるという事は、上位2チームに入るということ。何せ、ここに居るのは当真以外全員B級だ。それぞにプライドがある。
「そんじゃあ、俺らとやって勝てるか?」
「いや、それは無理だろ」
「は?」
影浦に対する柚月の答えに、全員が唖然とする。
「正直言って今の玉狛第二は上位グループじゃ通用しない。上位グループに上がってもすぐ中位グループに戻るだらうな」
「じゃあ、なんで──」
反論しようとする影浦の言葉を遮る様に、柚月は「ただ」と付け加える。
「あくまで今はって話だ。ランク戦が終わる頃には、B級上位グループにも勝てる部隊になると俺は思っているし、実際修達にはそのポテンシャルがあるよ」
柚月の真剣な眼差し。実質上の宣戦布告だ。
これだけの挑発的な言葉をくらって、燃えない者などこの場にはいない。
「いいじゃねぇか。そんときゃぶっ潰してやるよ」
「その前に、このメンバーで1番最初に当たるのは荒船だな」
「ああ」
村上はそう言うと、荒船の方を見る。彼は2日後の玉狛第二の対戦相手である。
「それで? そんなお前はこんな所で飯くってていいのか?」
「ん? まぁ、基盤となる作戦考えるのはウチの隊長の役目だからな」
荒船の質問に柚月はそう答える。荒船は迎え撃つ側だが、柚月は違う。地形の選択権は玉狛にあり、作戦を考える柚月がのんびりしていられるはずは無いのだが。
「え? 作戦を考えるの柚月くんじゃないの?」
「おいおいゾエさんよ。話聞いてたか? 作戦のベースを考えるのが、修ってだけだ。そっからは俺が考える」
現場で指揮を取り、最終的な決断を下すのは隊長である三雲だ。玉狛第一戦では、柚月の実力を示す為に柚月が全ての作戦を考えたが、ここからは違う。オペレーターにおんぶにだっこでは上には行けない。部隊として強くなるには、個々の成長は必要不可欠だ。
「けど良いの柚月さん?柚月さんの言い方からしてまだベース決まってないんでしょ? あと2日しかないけど」
「大丈夫大丈夫。もう色々とパターンは考えてあるから。新しい事試すかもだし基本的には2日前までには欲しいけど、最悪前日でも何とかなる」
自分で聞いておいてなんだが、相変わらず化け物じみていると絵馬は感じた。
作戦を1つ考えるだけでも相当な時間がかかる。それを既に柚月は何パターンも考えているのだ。
そんな時、柚月のスマホが振動する。
「おっ、噂をすればなんとやら」
柚月が通知を見ると、そこには三雲からのメッセージであった。
『次の試合。市街地Cにしようと思います』
柚月はその文字を見て、ニヤリと笑う。
「悪いなカゲ。隊長からの呼び出しだ。また来るよ」
柚月はそう言うと、席を立ち上がる。
「それじゃあ荒船。また2日後」
「ああ。生意気なルーキーに現実の厳しさを教えてやるよ」
お互いに火花を散らす。柚月はお金だけ置いて、かげうらを出る。
「市街地Cか。やるね修。俺が思い描いていた作戦の中でも中々面白い部類に入る作戦だ」
まだ詳しい内容は聞いていないが、三雲は柚月の中でのハードルは超えてきた。高まる高揚感を抑え、柚月は玉狛支部を目指すのであった。
お詫びと言ってはなんだけど、いつもより長くしてみました。
誤字脱字あるかもしれない……
明日か明後日にラウンド2載せれたら嬉しいな。