No.1銃手ですがオペレーターとしてA級を目指そうと思います 作:宮川アスカ
2月5日。B級ランク戦夜の部当日。ランク戦会場には、今回も武富の声が響き渡っていた。
「実況は、本日もスケジュールが上手いこと空いた、私、武富桜子です。解説席には、この間の大規模進行で一級戦功をあげられた、好きな食べ物は刺身に天ぷら。艶やかに黒光りする長髪。大学院生スナイパー、東隊の東隊長」
「どうぞよろしく」
「そしてボーダーきっての愛玩小型犬、草壁隊の緑川くんにお越しいただいております」
「わん! どうもっす」
武富の紹介にもあった通り、今回の解説は東と緑川。東の説明は盛り込みすぎな気がするが、緑川の紹介もこれはこれで如何なものだろうか。
とはいえ、緑川は大して気にしている様子はない。
「衝撃の8得点を上げ、既に中位グループの玉狛第二。やはり注目度の高さからか、何時にも増して非番のA級隊員の姿も見られますね」
軽く見渡しただけでも、嵐山隊の姿や、他にもB級の面々もチラホラと見受けられる。
「そうですね。しかし、恐らく1番の理由は柚月の存在でしょうね」
そして、武富の説明に東がそう付け加える。
東の考察どおり、彼らの1番の理由は柚月だ。柚月の加入が知らされていなかった前回とは違い、今回は完全に公にされている。さらに玉狛第二の存在や、中位グループでの対戦ともなれば、人が集まるのは必然だろう。
「なるほど。確か国近先輩は、元東隊のオペレーターなんですよね?」
「そうですね。柚月をオペレーターとして誘った当時は、上層部から猛反発をくらいましたけどね」
当時は今程隊員もおらず、柚月も銃手として優秀だった為、上層部としては貴重な戦力をオペレーターに回すことに反対だったのだ。
とはいえ結果的には大成功。柚月の戦術が加わり、東隊は歴代の中でも最強と謳われる部隊になり、柚月のオペレーターとしての才能は東のもとで開花したと言ってもいい。
「さて、ステージが決定されました! 玉狛が選んだのは市街地C! しかしこれは……」
「……スナイパー有利のステージですね」
市街地Cは道路を間に挟んで階段状の宅地が斜面に沿って続く地形。故に登るには道路を横切る必要がある為、スナイパーが高い位置を取るとかなり有利に働く。
逆に下からでは建物が邪魔で身を隠しながら相手を狙うのは難しい地形である。
(今1番順位が上の諏訪隊を確実に抑える為か? いや、だとしてもメリットよりデメリットの方が大きい。割に合わない。柚月は何を考えているんだ……)
顎に手を当て、思考しながらも東は解説を怠らない。
「玉狛第二にもスナイパーは居ますが、熟練度が違います。数の差を考えても普通に考えれば荒船隊が有利なステージです」
「なるほど」
「逆に、スナイパーがいない諏訪隊はキツイだろうね。今頃諏訪さんキレてるだろうなぁ」
そんな緑川の予想通り諏訪隊の作戦室では──
「はぁ!? 市街地C? クソマップじゃねーか! 大人しくAかBにしとけよ!」
案の定、諏訪がキレていた。
「けど、玉狛は狙撃が怖くないんですかね?」
「まぁ、転送位置はランダムだし。玉狛のスナイパーが高台を取れればって考えなのかもしれないな」
「それはこっちにも言える事だし。まだチャンスあるよ」
笹森の問いかけに、堤がそう考察する。小佐野の言う通り、不利とはいえ転送位置によっては諏訪隊に形成が傾く事も十分ありえる。
一方荒船隊は──
「市街地C……?」
「スナイパー有利なマップね。なんでこのステージにしたんだろ?」
「スナイパーとやるの初めてなんじゃないすか?」
「玉狛のオペレーターは国近なんだろ? それは無いだろ」
荒船の呟きから始まり、加賀美、半崎、穂刈が考察をする。
「ステージの選択は玉狛の眼鏡がやってるらしい。どちらにしろ俺達が有利な事に変わりはない。いつも通りやるぞ」
「「「了解」」」
そして当の玉狛はと言うと──
「おおー! やっぱ隊服だとチーム感でるな! 3人とも似合ってるぞ!」
「柚月先輩はオペレーターの服似合ってないね」
「おい。気にしてるんだからそこに触れるな」
柚月はそう言うと、空閑の事をチョップする。予めステージを分かっている為、他の2部隊程ピリピリとした様子はない。
「修はどうだ? 今回が初戦だけど」
「やっぱり緊張します。僕の考えが荒船隊や諏訪隊に本当に通用するか……」
「安心しろ。修の考えは中々面白い。そこは俺が保証する。作戦は昨日伝えた通り、準備はいいか?」
「「はい」」
「おう」
「ほんじゃあ、今回もがっぽり点数いただきますか!」
そして──
『B級ランク戦。転送開始』
アナウンスと共に、それぞれが転送位置につく。B級ランク戦ラウンド2。開幕。
転送開始直後。バックワームを使用したのはスナイパーの4人。
1番高台に近いのは半崎。荒船隊、諏訪隊は高台を目指す。
『半崎を先頭に、諏訪隊がそれを追ってる。荒船が1番遠い位置にいるけど、穂刈が諏訪隊に近いから、恐らく牽制されて荒船隊が高台を取ると思う。だから千佳も高台は諦めて3人で合流してくれ』
「「「了解!」」」
しかし玉狛は高台を捨て、合流を優先。
「転送直後は1番無防備な時間帯。合流するのはありです。ただ──」
東の懸念点。そして柚月の読み通り、穂刈が笹森を牽制。諏訪が間一髪の所で笹森を助けたが、牽制によって諏訪隊の足が止まる。その隙に荒船が脇道を通り抜け、荒船隊が完全に上を取った。
荒船隊としては満点の展開。そんな荒船の目に、チカリと何かが光ったのが見えた。そしてその次の瞬間──
「!?」
荒船の脇の建物が爆破する。
「……素人が。位置がバレバルだぜ」
冷静さを保ったままの荒船。建物の隙間から見える玉狛を狙撃していく。それに合わせ、穂刈と半崎も狙いを玉狛へと向ける。
玉狛は雨取を守るように、三雲がレイガストで、空閑がシールドを使い銃弾を防ぐ。
「もう1発だ千佳!」
「うん!」
三雲の指示通り、雨取が再び狙撃をする。玉狛の選択は撃ち合い。下からでは見えにくくとも、光った所が分かればある程度は狙いが定まる。
しかしそれも正確では無い。撃つ度に居場所がわれる分、荒船隊が有利な事に変わりはない。
「上を取った荒船隊には相手が良く見えます。幾らシールドを張っても、削られるのは時間の問題でしょう」
東の解説通り、荒船隊の狙撃によりレイガストが割られ、三雲が左腕を失う。
しかし東はとある事に気づく。
「!! ……なるほど。玉狛の意図が見えました」
東がそう言った次の瞬間。
『荒船くん!』
「!!」
加賀美の声が荒船の耳に入る。それに反応した荒船は、咄嗟に動く。
その理由は──
「はっはー! よぉ! 荒船ぇ!」
「チッ。2対1かよ……!」
撃ち合いに乗じて荒船に近づいていた諏訪の銃撃。間一髪の所でそれをかわすも、荒船隊にとっては分が悪い状況だ。
「玉狛の目的は荒船隊を有利な状況に立たせる事だったんですね」
「と、言いますと?」
「市街地Cという明らかな荒船隊有利な状況を作る事によって、必然的に諏訪隊との利害を一致させたんでしょう。よく地形戦をねれています」
玉狛は空閑が点取り屋な為、接近戦が可能な諏訪隊には強いが、遠距離攻撃の荒船隊には中々近づく事が出来ない。
故に一時的に諏訪隊と手を組む事によって、戦況を乱戦状態に持ち込み、自分達に有利な状況を作り出したのだ。
「荒船隊有利から一転。玉狛の砲撃を隠れ蓑にして、諏訪隊が獲物に食らいついた!」
「スナイパーはここまで接近されては為す術ありません。本来はオペレーターが確認しておくべきなんですが」
「ごめん私のミス! 玉狛に気を取られすぎて、諏訪隊が消えたのを見逃してた」
確かに加賀美のミスではあるが、これは玉狛が上手いといえる。実際、東はそれに気づいている。
(砲撃の圧力は去ることながら、あの建物から見え隠れする逃げ方。ああもチラつかれては、狙いたくなるのが狙撃手の性だ。恐らくは柚月の指示だろうな)
いかにもスナイパーが撃ちたくなるような動き。この状況を作り出したポイントとしてはこれがやはり1番大きい。
諏訪が一方的に銃を乱射する展開。これは完全に銃手の距離だ。
荒船は一旦、車に身を隠す。荒船には為す術がないように見えるが──
「これはつりですね」
荒船が諏訪の意識を自身に向け、その隙に半崎が諏訪の頭を狙撃した。
「あぁーっと! 荒船隊、半崎隊員が隙を狙っていた! 諏訪隊長、ベイルアウトか!?」
「!!」
「へっ、大当たりだぜ!」
「ウゲッ! マジィ!?」
しかし、諏訪がベイルアウトする事は無かった。ヘッドショット一点読みのフルガード。
「半崎の狙撃の正確さがアダになりましたね」
しかし、読みが外れれば間違いなく落ちていた。相当な胆力がなければ普通は出来ない。
しかし、穂刈がすぐさま諏訪の足を狙撃し、カバーする。
足が落とされては、そう簡単には荒船には追いつけない。縮まった差がジワジワと開いていく。
笹森が諏訪をサポートし、堤が半崎の元へと向かう。
『おし。ナイス諏訪さん! 遊真は半崎の方向かってくれ』
「了解」
諏訪の活躍によって荒船隊全員の居場所がわれた。柚月の予想ではここから試合が動く。この流れを制した部隊が勝ちに大きく近づくと言っていいだろう。
B級ランク戦ラウンド2。会場の熱はまだまだ上がり始めたばかりだ。