No.1銃手ですがオペレーターとしてA級を目指そうと思います 作:宮川アスカ
「遊真が負けたぁ!? 誰に!?」
「鈴鳴第一の村上先輩って人」
「なっ、鋼さん!?」
玉狛支部に小南の驚愕の声が響き渡る。リビングでは夜食を取りながら、小南と宇佐美。そして三雲に、柚月と空閑が個人ランク戦での出来事を話していた。
「柚月先輩もいたんでしょ? なんで止めなかったのよ」
「空閑みたいなタイプは、映像で見るより実戦で体感した方が良い。それは小南が1番分かってるだろ?」
「それはそうだけど…… 鋼さんじゃ、デメリットが大きすぎるじゃない」
小南が焦っている理由。それは村上のサイドエフェクト、強化睡眠記憶にあった。強化睡眠記憶は、人間が長い時間をかけて覚えていくことを、睡眠を取ることで、一瞬にして学習できるのだ。
つまり、今日空閑と戦った事によって、村上は既に空閑の動きを会得した事になる。
「俺は柚月先輩と同じ意見だよ。先に闘えといて良かった。情報がなきゃ作戦は立てられないからな」
空閑はそう言うと「ご馳走様」とだけ言い残し、部屋から出ていく。
空閑も空閑なりに思うところがあるのだろう。
「それに、俺は遊真のポテンシャルにかけてる」
情報が知られたからといって、絶対に勝てないわけではない。
絶対勝てると言うのであれば、村上は既にNo.1攻撃手になっているはずだ。
つまり、情報を知られてもそれでも尚、勝てる何かがあるということ。柚月はその何かを空閑なら見つけ出せると信じているのだ。
「でも、空閑が負けるなんて。やっぱり村上先輩って人は強いんですか?」
「そうだねー。荒船さんが攻撃手を辞めたのは、鋼さんが原因って噂があるくらいだしね」
「噂、ですか?」
「そう。スナイパー界隈に流れてる噂」
荒船と村上は同い年だが、ボーダーに入ったのは荒船の方が結構先だ。
故に、最初は荒船が村上に孤月を教えていたのだが、村上のサイドエフェクトの効果もあり、約半年で村上が荒船の事を抜いて行ったのだ。
「やっぱ、それが原因なのかな?」
「そりゃそうでしょ。辞めた時期も一致してるし」
「いや、それは違うぞ?」
宇佐美の問に小南はそう答えるが、柚月がそれを否定する。
「え? そうなの?」
「ああ。それはあくまで噂だ」
荒船が攻撃手を辞め狙撃手に転向したのは、孤月がマスターランクに到達したからだ。荒船は完璧万能手を目指している。荒船の転向と村上が荒船を抜いたのが同時期だったのは、本当にたまたまだ。
「それに、荒船からしたら村上がNo.4攻撃手ってのは結構都合の良い事だと思うぞ」
荒船の野望は、木崎に継ぐ完璧万能手になる事だけでなく、自身のメゾットで完璧万能手を増やす事だ。
そういう点では、村上の存在は、荒船の理論が他の人間にも適用する事を示しているのだから。
「なるほどねぇ。ところで、柚月先輩も那須ちゃんと10本勝負したんでしょ? どうだったのよ」
「ん? 10ー0だったけど?」
何を当たり前の事を。という顔をし、柚月は苺を口に放り込む。
那須を相手に1点も与えずに勝利。しかし柚月は何事もなかったかのようにこう答える。
「他の射手なら分からないけど、こと玲に関しては俺に勝つことは絶対に出来ないよ」
絶対。絶対に出来る出来ないという柚月が使う事を嫌っているこの言葉を、この時だけは使っていた。
「B級ランク戦ラウンド3。昼の部がまもなく開始されます。実況は風間隊の三上です」
2月8日。実況解説席の三上の隣には、2人の男性が座っている。
「解説はNo.1攻撃手の太刀川さんと、ぼんち揚げ食う? でおなじみの迅さんです。よろしくお願いします」
「「どうぞよろしく〜」」
迅の持ってきたぼんち揚げをボリボリと食べる2人。真面目な三上の隣に居るせいか、ダメ男感が余計に際立っている。
同時刻。玉狛第二の作戦室では、三雲がまとめたデータを話していた。
「展示場、河川敷、工業地区。那須隊が選んで来そうなのはこの3つ」
「その理由は?」
「開けた場所が多くて、斜線が通りやすいです。それに恐らく那須隊は中距離メインで戦って来ると思いますから」
勿論、エースの那須が射手という事もあるが、三雲が目をつけたのは1週間前の諏訪隊と鈴鳴第一の試合。
攻撃手の村上を近づけず、射撃メインの攻撃で削り切る。実際そのやり方で諏訪隊は鈴鳴第一に勝っている。
エースは強いが残り2人はそうでも無い。これは玉狛第二にもいえる事。那須隊がこの手を使わないわけが無い。
勿論、柚月もそのデータは取得済みだし、理解している。恐らく、鈴鳴第一も何らかの対策は練っているだろう。
「オーケー。そんだけ頭に叩き込んでるなら上出来だ。因みにこれは俺の予想だが、那須隊は河川敷を選ぶと思ってる」
柚月はそう言い、机に並べらた3枚の資料のウチの河川敷を指さす。
「ここが1番、攻撃手を封じやすい。河川敷の1番の特徴は橋を挟んで東西に分かれているところだ。遊真か村上。どっちか1人でも自分達とは別の岸に分断出来れば、那須隊にとっては優位に戦いが進められるからな」
柚月の予想は当たっているのか。全部隊が転送された先は──
「マップ、河川敷A。天候、暴風雨」
三上の実況通り、予想は当たっていた。
「おいおい玲。いくらなんでもハードすぎだろ……」
しかし、この天候は予想外。川の水位は腰程までの為、援護があれば川を渡れると踏んでいたが、これで確実に渡れなくなった。
そして、初期配置は東側に三雲、雨取、来馬、別役、那須。西側に空閑、村上、熊谷、日浦となった。
レーダーの動きを見て、柚月はある事に気づく。
熊谷と日浦が橋をポイントととし合流を目指す中、那須は土手の方を目指しているのだ。
(千佳を牽制しつつ遊真を封じる為か……)
橋を渡っている最中に雨取に橋を壊されない為の牽制。撃てばこちらも撃つぞという脅しだ。
さらに、西側は空閑が1番橋から遠い。しかし空閑はグラスホッパーを持っている為、無理に橋を渡る必要がない。それを阻止する為の動きだろう。狙撃されバランスが崩れれば、この天候で川に落ちればひとたまりもない。
1番橋に近かった熊谷が橋に到達し日浦を待っている。そして、空閑を橋で渡らす事に拘ると言う事は──
「……橋を落とす気か」
しかし、メテオラを使う那須が土手に居ては、橋を落とす手段がない。
『千佳。スコープで橋を見てくれ。何かあるか?』
「……雨で見にくいですけど、何かが光った気がします」
(なるほど。熊谷達もメテオラを用意してたか)
しかしそうなると、熊谷と日浦が橋に近い状況。非常にまずい。
(……ここは択だな)
那須隊に橋を落とされる前に、こちらから落とすか落とさないかの、択。
『修。恐らく那須隊は日浦を守る為に熊谷が一瞬村上を抑えて合流。そんで橋を落とすつもりだ。一応、どっちのパターンも策は考えてあるがどうする?』
柚月の言葉に、三雲は思考する。
壊しても壊さなくても玉狛へのデメリットは大きい。そういう場合は1番最悪な展開を潰すことが重要だ。
この場合1番最悪なのは、那須隊が東側で合流し、空閑と村上が西側に取り残される事。
「先にこっちから落とします!」
こういう尖ったステージの場合は、後手後手に回る前に相手の策を潰すべきだ。それは前回の荒船隊を見て学習している。
『了解。じゃあ、修は千佳を守る為に玲の所に行ってくれ。千佳、撃つ時の合図はこっちでだす』
「「了解!」」
正直言って、この選択に明確な答えはない。
確かに那須たちが合流すると厄介だが、そもそもそれは熊谷が村上を抑える事ができるのが前提だ。合流される前に熊谷を村上や空閑で落とす事が出来るのであれば、それが1番理想だ。ただ、それが出来なければ那須隊の勝ちはほぼ確実。
そんな中、三雲が那須の元へたどり着き、アステロイドが那須に放たれたと同時に、橋を雨取が狙撃する。
「雨取隊員の砲撃! 橋が落とされたぁ!」
わずか2発での破壊。
(それにしても修。そっちの選択もまた茨の道だぜ?)
三雲と那須が対面。
那須隊の合流は避けれたが、玉狛もまた空閑との合流の線が薄くなった。つまり玉狛、鈴鳴共にエース不在の状態で、那須を相手しなくてはいけなくなった。
前回の試合のように鈴鳴と共闘出来れば数の有利で押し切れそうだが、それは相手が攻撃手や狙撃手の場合だ。
射手。しかもバイパーの使い手である那須であれば、1人で同時に4人を相手する事は造作もない。最悪、那須が4人を落とし那須隊の勝ちも有り得る。
つまり、どちらの選択を選んでも那須隊に有利な事に変わりはない。だから、この選択に正解などないのだ。
故に大事なのはその後。イレギュラーの中で小さな勝ち筋を掴む為の戦略。そしてそれが、柚月の仕事だ。
『那須先輩、橋が落ちました。2人は来れません……』
「……そう。分かった。じゃあこっち側は、私が全員倒すわ」
那須はそう言うと、トリオンキューブを分割する。そして分割されたキューブが那須の周りをグルグルと舞う。
那須の本気に、柚月は冷や汗を流す。一瞬でも油断すれば終わる。こちらもこちらで、覚悟がいりそうだ。
『遊真、すまん。必要最低限のサポートはするが、あんまり相手出来そうにない。そっち側は任せても良いか?』
「りょーかい。任せとけ」
『オーケー。それじゃあ、修。俺の培って来たものをお前につぎ込む。その全てを使って玲に勝つぞ』
「はい!」
「あー、もう。ジリジリするわ! これ橋落としたのマズかったんじゃないの?」
三雲達が戦っている中、玉狛支部では小南達がその中継を見ていた。
「それは結果論ですし、那須隊大幅有利からやや有利までもってこれたんですし、そこまで悪い判断じゃないでしょう」
小南の言葉に、烏丸がそう返す。
それを見ていた林藤が、1人の男に声をかける。
「この状況、お前はどう見る?」
「こんな原始的な戦いに何を言う事がある。弱い奴が負けるだけの事だ。そもそも何故あの銃使いを戦闘で使わない」
林藤の質問に答えたのは、角付きの捕虜であった。