No.1銃手ですがオペレーターとしてA級を目指そうと思います 作:宮川アスカ
「おっ、きたきた。待たせて悪いね」
「いえ、大丈夫です」
「うむ。小南先輩達から柚月先輩の事聞けたしね」
「小南が? 変な事言ってなかった? 心配なんですけど」
柚月についての話が1通り終わったところで、リビングに入って来た迅に呼び出された三雲達3人は、柚月がログを見ている部屋へと足を運んでいた。
「まぁ、それは後でいいや。もう分かってると思うけど、君達3人を呼んだのは、俺からの評価を言う為だ」
玉狛第一と玉狛第二の対戦で、お互いを評価するとは言ったが、柚月にとってはその前の段階が重要だ。確かに、三雲達にとってはオペレーターの実力を知る為には団体戦は必要不可欠ではあるが、柚月はそこはあまり気にしていない。
むしろ団体戦は、三雲達に柚月を評価してもらう戦いだと考えている。
チームでの連携は、ある程度経験や訓練を積めば自ずと身についてくる。
作戦を立てる側としては、個人個人が戦える駒かどうかが重要であった。
勿論、サラッとログや資料を見ただけな為、ここから評価が変わる事があるかもしれないが、恐らく大部分や根本的な部分は変わらない。
その事を三雲達に予め伝えると、柚月は1人1人の評価を話し始める。
「じゃあ、先ずは空閑くんからね」
「おっ、俺からか」
「うん。空閑くんに関しては文句のつけようがないかな。スコーピオンの特性を活かした柔軟な発想と、それを可能にする高い戦闘センス。今の段階でも、間違いなくマスターランクの実力はあると言っていい」
「これはこれは。ありがたいお言葉」
空閑はネイバーというだけあって、戦闘における経験値は非常に豊富だ。戦闘歴と言う点では、4年前からボーダーにいる柚月よりも圧倒的に長い。
ボーダーのトリガーへの適合も早い。経験から来る接近戦での読み合いにも長けている。
とは言え、空閑はまだボーダーのトリガーへの知識は浅い。これだけ優れているにも関わらず、未だ発展途中。
部隊におけるエースとしての素質を十二分に持ち合わせていると言うのが、柚月の見解である。
「次に雨取ちゃんだけど……」
「はい」
「人を撃てないっていうのは、間違いない?」
「……はい」
「ふむ」
少し落ち込んでいる様に見える雨取だが、例えトリオン体であれ、人を撃てないという人は少なからずいる。
柚月自身、鳩原の存在でそれを知っていた。
それに、雨取のトリオン量は莫大だ。普通の人が撃てば穴があく程度の狙撃でも、雨取が撃てばトリオン体が破裂した様になる。
相手を切る、撃つ。多くの隊員が当たり前に行っている行為ではあるが、雨取の思考こそ、ある意味正常と言えるのかもしれない。
それでもやはり、ボーダーの隊員である以上、人を撃てないというのは致命的だ。
「ただ、それでも雨取ちゃんのトリオン量は偉大だ。人を撃てないというデメリットを差し引いてもお釣りが来る程に。それだけトリオン量っていうのは大きなアドバンテージになる」
スナイパーというのは、他のポジションに比べてトリガーの枠が余りがちだ。
トリオン量が多いというだけで、やれる事の幅は一気に広がる。
トリガーに必要なのは結局のところトリオンだ。トリオンが少なければ、使いこなせるかどうか以前に、そのステージに上がる事さえ出来ないのだから。
そして、そのトリオン量が圧倒的に少ない少年がいる。
「最後は三雲くんだな」
「……はい」
三雲修。彼のトリオン量は、恐らく、戦闘員としての必要最低限にも満たないものである。
緊張から来るものか、ゴクリと生唾を飲み込む。
(空閑と千佳。2人の評価については予想できた。やはり、国近先輩からの合否は僕にかかっている……)
「はっきり言って、三雲くんは弱いね。トリオン量は勿論、運動能力、戦闘センス、どれをとってもB級で渡り合えるものとは思えない」
「ッ……!」
三雲自身、それは分かってはいた事だ。ただ、改めて言葉にされると、やはり刺さる。
「弱い。弱い事は事実だが…… 三雲くん。君は戦える人間だ」
「……えっ?」
先程の柚月の評価によって、不合格だと思もっていた三雲にとって、それは意外な言葉であった。
「決め手となったのは、風間さんとの対戦ログ」
その対戦は空閑の入隊日、付き添いに来ていた三雲が、攻撃手ランク2位の風間蒼也とポイント移動無しの個人戦を行った時のものだった。
「最初の20数本は酷いものだったよ。なにも考えないガムシャラな攻撃。正直、見限ろうと思ってた。ただ……最後の1本。これで意見が変わった」
仮想戦闘ルームのトリオンが無限に使える事を活かし、微粒子レベルに細かくばらまいたトリオンキューブによるカメレオンの無効化。
トリオン無限というルールがあったから。普通なら勝てない。と言う人もいるかもしれないが、柚月の答えは簡単だ。
──だからどうした? と
三雲の行動は非常に合理的だ。使えるものを使って何が悪い。くだらんプライドに頼って負けるより何倍もマシだ。
そして、風間がカメレオンを解き、攻撃する為に突っ込んで来た所を、スラスターにおける加速で壁際まで押し込み、レイガストで封じ込める。
逃げ場を失った状態での、0距離アステロイド。これなら、どんなに精度が悪くても確実に当たる。
しかし、流石は攻撃手2位。間一髪で急所を避け、カウンターを食らわした事で、結果は引き分けに終わったが、柚月にとっては非常に興味深いものだった。
「三雲くん。弱い人間が1番最初にやらなくてはいけない事はなんだと思う?」
「……人一倍の努力、ですか?」
「それも大切だ。ただ、必要なのはその前の段階。己の弱さを認める事だ。恐らく無意識だろうけど、三雲くんはそれができている」
一重に、弱さを自覚すると言っても、口だけでは何とでも言える。
しかし、三雲はそれを無意識で理解し、自分に何が残されているのか、それで何ができるのかを考える力がある。
三雲の様な人間は劣等感からできていると柚月は思っている。
自分に出来ない事を、削って、削って、極限まで削りとる。
そして、その残ったものが己に出来る事だと知っている。
だから、極限状態になった時に迷わない。自分に出来る事を理解している分、周りより早く行動に移せるのだ。
「それじゃあ、以上を持って、俺からの合否を言い渡す」
柚月の真剣な顔つきに、思わず3人の顔きも緊張が浮かぶ。
「3人とも戦える人間だと評価した。よって、君達は合格だ!」
「おぉ! やったな修」
「やったね修くん」
「あっ、ああ。そうだな」
緊張の糸が切れたのか、三雲は何とも言えない声をあげる。
しかしまだ終わったわけではない。3人はまだ、柚月のオペレーターとしての実力を知らないのだ。
今日だけでも、柚月の戦闘員としての強さや、人を見る目というのは実感した。ただ、それとオペレーターとしての技能ではまた話は別だ。
「それじゃあ、3人共。3日後の団体戦、絶対勝つぞ」
「「「了解!!」」」
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その日の夜。迅に夕食を誘われた柚月だったが、3人の可能性にやられたのか、作戦を考える為に自宅へと帰宅していた。
「ただいまー」
「おっ、おかえり〜。ご飯もうすぐできるってよ」
柚月の声に反応し、リビングから顔を覗かせたのは、彼の実妹であった。
国近柚宇。A級1位太刀川隊のオペレーターで、柚月の双子の妹である。
「俺ちょっとやる事あるから、部屋まで持って来て」
「別に良いけど、ゲームやる約束は?」
しまった。と言う言葉が脳裏によぎる。
(そう言えば今日の朝、柚宇とゲームの約束してたんだった……)
目が全く笑っていない柚宇の笑顔から、ひしひしとプレッシャーを感じる。
「すまん。つけで!」
「えっ!? ちょっとー!」
その笑顔から目を背け、柚月は逃げるように自身の部屋へと足を運ぶ。
「柚月、ご飯持ってきたよ〜」
その後、柚宇が夕食を届けに柚月の部屋のドアを開けると、柚月が机に並べられたデスクトップパソコンの画面を見ながら、紙にペンを走らせる姿が目に映る。
「……玉狛第一は基本的に3人揃って戦うチーム。なら、揃う前に叩きに行くか? いや、空閑くんが止められると、あとの2人じゃ太刀打ち出来ない。ならこっちも合流を優先? ただ、どちらにしても単純な火力の撃ち合いじゃ、こっちのが分が悪いのも事実だ。なら──」
電気はおろか、カーテンも閉め切られた真っ暗な部屋に、パソコンの光だけが柚月を照らす。
なにか、ブツブツ言っている様だが、柚宇には良く聞こえなかった。
しかし、柚月が何かに集中している事は分かった。それこそ自分が入って来た事に気づかない程に。
何をやっているかは分からないが、こうなってしまった柚月は、何を言っても、まともな返事が返ってこない事を柚宇は知っていた。
「はぁ、まったく。このバカ兄貴ぃ」
兄がこうなっている時は、大体何かを本気でやっている時だ。
お小言の1つや2つでも言ってやろうと思っていたが、そっと扉を閉じて自分の部屋へと向う柚宇なのであった。
結構、駆け足になってしまった。誤字脱字あったら申し訳ない!
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