イキリTS転生者は純真な幼女にコマされる。 作:さかまき
――やってしまったと、ミヤは激しく後悔していた。
いや、ヤったのはマオで、ヤられたのは自分なのだが。そういう問題ではない。というか、思い出すと未だに体が(いろいろな意味で)震えだすので、少しでも意識からそれを反らすべく、今の状況について考える。
自分が何をされても反応できなくなってしまったことで、マオの調教――否、もはや交尾とも言うべき獰猛な獣の如き行為は二度目の風呂では鳴りを潜めた。
その上で、マオに優しく体を洗われ、少しずつ心の疲弊と警戒をほぐし、そして冷静さを取り戻したミヤは、未だ先程までの快感に若干の違和感が残る体と、それから完全にきしみを上げる腰をいたわりながら、なんとか部屋に戻ったのだが――
――そこで見知らぬ騎士が待っていた。
可憐な女性だった。ミヤの頭一つ以上高い背丈に、どこか幼さを残した、けれどもキリっとしたツリ目はまさしく貴人と呼ぶにふさわしい出で立ち。
軽装の鎧を身にまとい、長い赤髪を一つにまとめ、思わず見惚れてしまいそうな女性だった。
――ヒロインだ。
ミヤの中にあるイキリ転生者的直感が、それを察知した。この女性はヒロインである。自分のモノになる女性だ。とてもシツレイにもそんな事を一瞬だけ思い描き。
――ゾクっと、背筋が凍るのを感じた。
訳は、語るまでもないだろう。
ミヤはすでにマオ様のものなのだ。身も心もマオ様に屈服し、そんな自分を受け入れたのだ。この身はマオ様のモノ、だというのに、今自分はなんと不遜なことを考えた? モノでしかない自分にヒロインなどまったくもって愚かな話ではないか。
マオ様は何も語らない、ミヤのそんな意識を看破した上で見逃しているのか、気にもとめていないのか、ニコニコと騎士とミヤに同時に笑みを向けている。
無垢な笑み――そして、吸い込まれるような美しい笑みだ。ああ、なんと可憐なのだろう。自分はあの方のものになれて幸せだ――――
「違う!!!」
ガン、とミヤは頭を壁に叩きつけた。
「お、おちつけ!? だ、大丈夫だ! 君を責めたりはしない!!」
あきらかに情緒不安定な様子だったミヤの様子から、ミヤの行為を咎めるつもりだと誤解されたと判断した騎士が止めに入る。
「止めないでください! 私はミヤ! ミヤ!! ミヤなんだああああああああ!」
「おちつけー!!」
うわあああああああああ! と叫ぶミヤを羽交い締めにして、騎士がそれを押し止める。暴れ狂うミヤと、それを止める騎士。二人のやり取りは小一時間続いた。
マオはそれを、とても楽しそうに眺めているだけだった。
――閑話休題。
「コホン、私は騎士ファルヴューレ、主にはファル――と呼ばれている。マオにもそう呼んでいいと言っているのだが、マオは私のことを騎士様と呼ぶね」
「うん! 騎士様はすごく騎士様だから!」
「それは褒められているのだろうか――」
――改めて、お互いに自己紹介をしている。マオと騎士ファルヴューレは顔見知りのようだ。とすると、自ずとその素性は知れる。昨日、第四王女のミリーシャという少女が保養にやってくるという情報を得ている。だから、ファルヴューレの主とは、ミリーシャのことだろう。
「私はミヤ……よろしく、ファル」
イキリ転生者せめてもの抵抗。なれなれしく主と同じ愛称で呼びかけてみた。まぁ、ミヤはそこまで考えていないのだが。
果たして、帰ってきた反応は、
「ああ、こちらこそ」
苦笑のような笑み。籠もっているものが同情であると、ミヤは即座に理解してしまった。なぜって、チラリと視線がマオに向いたからだ。
――ああ、この人はいい人だ。いきなり愛称で呼んでも、構わず受け入れてくれる。それもこれも――――
「――貴方とミリーシャ王女は、よい主従関係なんだね」
ハハハ、と乾いた笑いが響いた。
ミヤが発したものだが、そのあまりにもうらぶれた様子から、自然とファルも乾いた笑みを浮かべていた。
「えー、私達もそうだよね、ミヤ!」
そう言って、マオがミヤに飛びついてきた。
「あひんっ!!」
すごい声が出た。
――ファルは視線を逸してくれていた。が、しかし、その声でスイッチが入ってしまったミヤの顔は、トロンと惚けたものへ変わっている。
「はひぃ♥」
――発情しきった顔で飛びついてきたマオに目を向けながら、うなずくミヤ。美しい主従の絆がそこにあったと、後にファルは自分へそう言い聞かせた。
ともあれ、そこから更に冷静に成って、恥ずかしさで崩れ落ちたミヤが復帰するまで、さらに小一時間。
ファルはその間、ミヤとマオのことを何一つ聞いてくることはなかった。ミヤは幼いながらも冒険者を名乗るということは、成人しているということで、そんな少女がマオを拐かしたともなれば、それこそファルはミヤを許しはしなかっただろうが――
――実情は、ひと目見ただけその逆であることが解ってしまうものだった。
故に、情けというのもあるが、ファルは見なかったことにするために二人の関係に踏み込まないことに決めたのだ。かくして、ここにツッコミ役は消失した。
「――確認だが、この村を襲ったというワイバーンは、君が討伐したんだね」
「はひぃ……」
若干意識があっち側に言ってしまったミヤは、なんとかそれを引き戻しながら、ファルの問いかけに答える。今、ファルが二人に対して意識を向けているのは、このワイバーン襲撃事件が問題だからだ。
大問題である。聞いたところによればワイバーンの数は十や二十では足りなかったという。
追い払うにしても国の軍隊を動かさなければならないような相手、一人で殲滅できるはずもない。しかし、殲滅してしまったのだというから、ファルはミヤを警戒せざるを得ない。
いまやその警戒はミヤの理性と同価値というほどに地に落ちつつあるが、ともかく話を聞くのは王国に仕える騎士として当然の責務だ。
場合によっては、王女にも直ぐに報告する必要があるだろう。
「私も見てたよ! すごいの! ピカピカがギューンなの!! どっかーんだったんだ!」
「あはは、そうかそうか、それはすごいなぁ」
えへへ、と笑うマオの頭を撫でながらファルは言う。つまるところ、証人がいる。何より、ワイバーンはこの地から消え、村民はミヤに感謝している。
そこを疑う理由はない。もちろん、疑う理由はないのだが、それはそれとして方法にはいくつもの疑問が残る。――この少女は、間違いなく規格外だ。
規格外、なのだが――
「――――いや、その、そんな視線を向けなくてもいいんじゃないかな?」
そんなミヤは、明らかに嫉妬に満ちた視線でマオの頭を撫でるファルを見ていた。
――おそらく、無意識に。
「えっ? あ、いや、これは――ちがっ!!」
はっと気がついて、赤面しながら視線を泳がせる。自覚してしまったのだろう。気の所為と切って捨てれれば、彼女的にはどれほどよかったか。
……まぁ、もしミヤがアリーシャ王女に同じことをすればファルも同じように思うだろうから、マオを撫でる手を離す。
少し名残惜しそうだったが、同時に嬉しそうでもあった。マオ、ミヤに嫉妬してもらいたかったのだろうか――だとすればとんだ魔性の女だ。
「まぁ、君たちがお似合いなのは解ったから、できれば素直に教えてほしいのだけど、どうやってワイバーンを退治したのかな」
「ん、ええと――」
少し、ミヤは逡巡した。
ここで明かすことに躊躇いはない、どこからどう見てもファルはヒロインで、悪い人ではなさそうだ。ここでの問題は、それではない。
――明かせば、きっとファルは驚愕するだろう。明らかに人の枠組みを越えた能力、チート転生者特有のチート能力は、人に驚愕を与える。
とすれば、ファルの反応は自ずと見えてくる。そのうえで――
――ミヤには、言ってみたい言葉があったのだ。
「最上級魔術だよ、光属性の」
「……最上級?」
――言っていることが理解できなかったのか、ファルは首をかしげた。
「最上級、といえば伝説上の魔族と、初代光王様しか使用できないと言われる伝説の魔術だろう? それを、使える? いや、使える事自体はありえなくないか? あくまで、魔術の中の枠組みの一つではあるのだから」
――それこそ、と続ける。
「それこそ、伝説にある初代光王様の無詠唱のようなものでないかぎり――――」
「――無詠唱だけど?」
間髪入れずに、ミヤは言った。
それを、ファルは一瞬だけかんがえ、そして嘘ではないと判断し、その上で、
「バカな! ありえない!」
そう、否定した。
理由はいくつかある。そもそも最上級魔術が伝説上の存在であること。それだけでも、常識はずれなことを言っているのは間違いない。だが、その上でそれが
それでは、それこそ、
「それでは、君は初代光王様ということになってしまう!」
「いや、違うけど――」
「――論理的に考えるとそうなんだよ!」
叫ぶファル、思わず声を荒げてしまった。――のだが、なぜかミヤはすごい勢いでドヤ顔だった。それはもう待ってましたと言わんばかりの顔だった。
「ミヤお姉ちゃんかわいいー」
マオが隣でそういい出すくらいには可愛らしいドヤ顔だった。そして、ミヤは満を持して、ずっと言ってみたかったそれを、口に出す。
「えっと、私なにかやっちゃいました……?」
イキリ転生者が口に出していいたい日本語第一位。
またなにかやっちゃいましたか?
それを、まさしくここしかないという場面で言い放つことに成功したミヤは、しかし。
「えーと、その……とてもいいにくいのだが」
直後。
「ヤられたのは君のほうじゃないか……?」
――――ぐうの音も出ない返しに、イキリTS転生者はひどく赤面した。