イキリTS転生者は純真な幼女にコマされる。   作:さかまき

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6 イキリTS転生者が動くのは常としてヒロインのためだけである。

 ――女騎士ファルヴューレの主、ミリーシャ王女。

 ミヤからしてみれば、外に出会って早速であった3人目のヒロイン。残念ながらすでにこの身はマオ様のものだが、だからといって困っている誰かを見過ごすことは、それこそマオ様も許さないだろう。

 

 ――――ではない。

 

 そうじゃないそうじゃない、自分は決してマオのものではないし、可愛い女の子を助けるのに理由がいらないのは元からだ。

 ともかく、ミヤは気を取り直す。

 

「えっとー、これまでの話をまとめるとー」

 

 少しだけ思考が乱れているうちに、マオが手を上げて話をまとめていた。

 

「そのいち、この世界で最上級の光属性魔術を無詠唱で使えるのは初代光王様だけである。

 そにに、魔術には下級、中級、上級、最上級があって、これは詠唱の長さで決まる。

 そのさん、無詠唱は頭の中でうまくイメージすることで使えるけどセンスが必要。

 そのよん、騎士様はミリーシャ様とミヤおねえちゃんを会わせたい!」

 

「よくまとめたな」

 

「そのご、おねえちゃんは私のもの!」

 

「そこはまとめなくていい!!」

 

 ――えへんと胸を張るマオは自信たっぷりだった。そして突っ込んだファルはまとめなくてはいいといったが、ミヤがマオのものであることは否定しなかった。

 もちろんミヤも否定できなかった。

 

「――もちろん、ミリーシャ様に会うのは構わないよ。ただ……」

 

「ただ?」

 

「何も知らないままって言うわけにはいかないよね。まず、彼女はどこにいるの?」

 

 ミヤの提案を、ファルはごもっともだとうなずいた。

 知りたいこと、知るべきことはいくつもあって、それを聞いてきてくれるほうがファルとしてもありがたい。というよりも、信用がおけるというものだ。

 ミリーシャの立場を鑑みれば、信頼はできなくとも、信用のおける能力をもった人材が、一人でもいてくれたほうがいいのだから。

 

「君が新人冒険者として初めて訪れた街――冒険者協会に寄ったんだろう? あの街さ」

 

「ああ、あそこでワイバーンの話を聞いたんだ」

 

 なるほど、納得。

 それで急いでここまでやってきたわけだ。つまるところ原因はミヤなわけだが、ミヤはそこを一切気にしない性格だった。

 

「年に一度の保養でね、毎年この時期にはここに訪れるんだが……焦ったよ、ワイバーンがいきなり襲ってくるなんて」

 

「まぁ、私の初陣にはふさわしいイベントだったけどね」

 

 そうやって軽口を叩きつつ、ヘラヘラとミヤは笑みを浮かべる。

 

「危険なことだったんだぞ。確かに君の実力なら問題はないだろうが、万が一はある」

 

「なかったからいいじゃない。それにこれからもないよ、私はこの世界で唯一の最上級光属性魔術師なんでしょ?」

 

「だとしても、だ。……そもそも、それが使える時点で、降り掛かってくる問題は大きすぎるほどだと思うが」

 

 ――その会話に、ファルはミヤのパーソナリティを透かして見た。

 ビッグマウス、というわけではないが、随分と自信過剰なところがある。それに見合った実力があっても、どこで足元を掬われるかわからないタイプだ。

 少し、見ていて危なっかしい。

 

「でも、困ってる人を見過ごせないのも事実でしょ? できるのが私しかいないなら、私が行くのが当然じゃないか」

 

 そしてこれもまた、ミヤの偽らざる本音であると言えた。

 

「もーおねえちゃん、あんまり油断しちゃダメだよ! おねえちゃんが危険な目にあうと、マオ悲しいよ!」

 

「はひっ! う、うん解りましたマオ様……気をつけます……」

 

 そして、マオがミヤの両手を握って上目遣いをすると、ビクっと震えて反省した。ファルもなんとなく理解する。ああこれ、結構いいコンビなんじゃないか?

 

「……ともかく、ミリーシャ様をあまり待たせたくはない、可能なら今すぐにでも出発して、その間に説明を――」

 

「いやー、大丈夫だよ。移動なんて一時間もあればできるし、移動中は話できないかもしれないし」

 

「ねー」

 

 ――ごくごく当然の提案だったが、それをミヤは否定した。マオも同意しているようで、ファルは一瞬疑問符を浮かべるが、直ぐにそもそもミヤが一日もかからずにこの村にたどり着いたことを思い出し、納得した。

 移動中話ができないかもしれないということは、それだけ動きの激しい移動なのだろう。空でも飛ぶのだろうか。

 

「ああでは──そうだな。なんとなく察しているかもしれないが、ミリーシャ様は王族の中でも立場が低い。四人いる王女の中で、もっとも若く、そして……最も光属性魔術を使えない」

 

「……まぁ、そんなことだろうと思ったよ」

 

 ファルの語った内容は、ほぼほぼミヤが想定した通りのものだった。

 権力の弱い王女様、けれども優しくて、立派な騎士が隣りにいて、なるほどまさしくミヤが味方するべき存在と言えた。

 

 ――四人の王女の中で、ミリーシャだけが妾の子供なのだそうだ。血筋としても弱く、魔術の才だって残念ながら無い。優しさは人としては評価するべき点だが、ミリーシャは優しすぎるともいう。つまり為政者には向いていない。

 それでいて、王から露骨に愛されており、他の姉妹からは嫉妬の視線を向けられている。

 と、どうやらそういった立ち位置のようだった。

 

「絵に書いたような難しい立場だなぁ」

 

「……ハッキリ言ってしまうと、君は人間性は善良だが、立場が信頼の置けるものではない。得体がしれない、と言ってしまってもいい」

 

「それくらいハッキリ言うのは嫌いじゃないよ」

 

「すまない。……だが、そういった存在に頼らなければならないほど、私たちは窮地に立たされているのだ」

 

「それはいいんだけど――」

 

 ミヤはミリーシャを助けることに異論はない。権力者と懇意になれれば最上級光属性魔術師という厄ネタを抱えたミヤにとっては色々とメリットが有るし、何よりファルの言葉は真剣そのもの、マオ様の知り合いということもあって疑う余地がない。

 だが、問題はそこではない。そもそも、この話は前提が違う。

 

 

「――どうしてそこまで、ファルはミリーシャ様の立場にこだわるの?」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ。ミリーシャではない。

 

 そもそもミリーシャが優しい性格ならば、姉を押しのけてまで立場を得ようとするだろうか。どこを切り取っても、それはミリーシャの人間性にそぐわない。

 とすれば当然、これはファルの独断であると考えるのが自然だ。

 

「解るか……そうだ。これは私の独断だ。ミリーシャ様は、それを望んではいないだろう」

 

「だったら」

 

「――ミリーシャ様は、自分が他の姉妹にとって目障りな存在になるのなら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()といった」

 

 それは、――たしかにそうだろう。

 ミリーシャの言うことは最もで、嫌われ者がいれば、他がまとまるというのはミヤにも覚えがある。とすれば、ミリーシャの言うことは間違いではないのだろう。

 

 そう、間違いでは。

 だからこそ、ファルの行動原理も解ってきた。

 

 ――――まったく、この主従はとんでもない似た者同士だったようだ。

 

「……だがな、私は知っているのだ。幼い頃、まだ彼女たちの間に、何のわだかまりが生まれる理由もなかった頃。――あの四人は、本当に仲のいい姉妹だったのだ」

 

「…………やっぱり」

 

 そう、ファルが動く理由。

 ――とても端的で、あまりにもわかりやすいたった一つの理由は、そう。

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだな」

 

 

 たった、それだけのことだった。

 

「――おねえちゃん! 私ね、知ってるの!」

 

 そして、

 

「他の王女様たちも、ここに来るの! 皆悪い人じゃないの!」

 

 マオは、そのすべての王女と面識があった。

 

「――マオも、ファルも、ミリーシャ様も、ここにいるのはいい人ばっかりだね」

 

 素直に、ミヤはそう思った。

 マオがいうなら、きっとその王女様たちもミリーシャ様のように、聞いただけで解るような素敵な人なのだろう。会ってみたい――そう、素直に思うことができた。

 

 ヒロインだからとか、転生者は弱者を守るものだから、とか、そういうことは関係なく。

 

 何より――見上げるマオの顔を、ミヤは見た。

 

 この世界に来て、初めてであったミヤのヒロイン、ご主人さま、運命の人。見つめるだけで、どこか心が高鳴ってしまいそうな――体がゾクゾクと震えだすような、そんな思いが駆け巡る。

 いやこれは――恐怖?

 

 コホンと咳払いをして、じっとミヤはマオを見る。

 ともあれ、一つだけ言えること、ミヤの物語はマオが助けを求めたことで始まったのだ。その直後、ミヤの運命はそれはもう百八十度急転直下を遂げたとしても。

 マオ様という最高のご主人さまに出会えたことは、間違いなくミヤにとっては幸運だった。

 

 だから、決めるのだ。転生者とは、大きな騒動を拒むもの、というわけではないだろうが、ミヤは誰かのために頑張るなら、できれば善い人のために頑張りたいと思っていた。

 ――ただの日本人でしかない自分が、どうしてそこにこだわるのかは、自分でも少しわからないところがあるが、ともかく。

 

 

「じゃあ、やろうか」

 

 

 マオと互いにうなずきあって、それからファルを見た。

 ――かくして、ここにミヤの物語は始まる。いきなり純真幼女に意図せずコマされてしまったものの、それ以外は実にそれっぽい物語だとミヤは思う。

 

 ああ、だからこそ。

 

 実にテンプレだと思うからこそ、それ以外の部分に、()()()()があるなんて。

 

 ミヤは、思いもしなかったのだ。


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