【ヤらないと】転生したらサキュバスだった【死ぬ】 作:あたらんて
古代の男たちが妄想の果てに作り上げたエロの極致――サキュバス。
男の精を糧として生き、吸精の相手には多大な快楽をもたらす淫魔。
そんな種族に、俺は転生した。
――男なのに。
◇◇◇
俺がサキュバスとしてファンタジー世界に転生して幾星霜。
リリーという可愛らしい名前のつけられた淫魔の肉体はどこまでも完璧で、俺の目の前にある鏡には銀髪ロリ美少女が映っていた。
その見た目は十人が見たら十人が跪き、王の目に留まれば国が争って戦争が巻き起こるレベルのもの。
ハッキリ言って前世の俺ならば見た瞬間に足を舐めまわしながら求婚していた。
――しかし。残念なことに、ほんっっっっとうに残念なことにその美少女とは、俺のことなのである。
「いや、ホント何でよりにもよってサキュバスなんだよ……インキュバスだったら今頃大はしゃぎで人間界荒らしまわってたのにさあ」
性別が一つ違うだけで全く話が変わってくる。
男が目にしたら死ぬまで腰を振ることしか考えなくさせるこの肉体も、自分自身だと考えれば何も興奮しない。
当然、この肉体を活かして男を誘う気も更々ない。
大体精神が男の時点で、野郎と交わるなんてそれこそ死ぬよりも嫌なことだ。某先輩の情事で笑えていたのも、結局のところ他人と他人の交わりだからなのである。
サキュバスが生まれ持つエロ能力やエロ技能も、男から搾り取るためのものと考えれば嫌悪しか湧かない。
もしも転生したのがインキュバスだったならば……と考えたことは百度や千度じゃ数えきれない。
魔界で他のインキュバスを見つけた時は思わず体を交換してくれと泣き叫びながら絡んでしまった。
しかし、幾ら男と交わりたくないと言ったところで精を吸わなければサキュバスは生きていけない。女からも吸えないことは無いが直接交われない以上、吸収量が段違いに低いしそもそもレズしか誘惑に乗ってこない。
絶体絶命。俺は男としての矜持を捨てて野郎と交わるか、大人しく死を受け入れるかの究極の二択を幼少期の間中ずっと突きつけられていたのである。
という訳で俺は、生命の持つ『精』――つまりは生命力を、他の手段で自給することにした。
過程は省くッ! 魔界の魔法学院で必死に勉強したり、秘境に行って死にかけながら超レアアイテムをゲットしている内になんやかんやあって人間界から僅かずつではあるが生命力を吸い取る装置の開発に成功した。
装置の名前は『人間界余剰生命力自動収集機構』。
名づけたときは周りの奴ら全員からそのまんまと言われた。泣いた。
しかしこの装置は俺の危機を救ってくれた、言わば釈迦から吊るされた蜘蛛の糸である。
その性能は自動的に人間界から溢れた生命力を吸い続け、魔界にいる俺の元へ送り続けるという、超ハイスペックな機械だ。
完成までの道のりは長かった。男と交わることを回避するためだけに文字通り死ぬ気で努力した。
その結果、なんか知らんが人間界から余ったエネルギーを吸ってることが人間界にダメージを与えた判定になってるらしく、勲章をもらって魔王軍に所属させられることになった。
まあ、機械を作動させるには永続的な魔力の多量の供給が不可欠で、そんなことを出来るのが魔王様のみであるため魔力供給の対価として軍に所属する形になった、というのが実情だが。
最終的には魔王城の地下に俺の開発した装置は設置されており、実質魔王様を倒さない限り破壊不可能となっている。
え? 完成するまでの間? ……サキュバスっていうのはキスすることでお互いに集めた生命力の受け渡しも出来るのだ。
それで幼少期の間とか、諸事情あって人間と交われなくなったサキュバスとかは命を繋いでいる。
……サキュバスとのキス、すごいきもちよかったです。
◇◇◇
まあ、何はともあれ男と交わる必要の無くなった俺は存分に異世界ライフを楽しむことにした。
具体的には、元々かなり勉強していた魔法の研究にのめり込んだり、魔王軍として人間界に対する侵攻活動を行ったりとかだ。
研究仲間も多くでき、やがて前世の人生と同じくらいの期間をこのロリボディで過ごすことになり、すぐに超えていった。
ちなみに何年経ってもこのロリボディは成長しなかった。
魔王軍としての活動も案外戦いばかりではない。というか基本は前世と同じで書類仕事だ。
俺の仕事場である魔王城で書類相手に日々戦っている。
そんなことをしている内にかなり長い時が経ち、俺の感覚も異世界のものに大分染まっていった。
人間を初めて殺した際、特に何の感慨も抱かなかったのは自分でも驚いたものである。気づかない内に、サキュバスとしての自分に慣れてしまっていたらしい。
男とは絶対にヤらないが。
今では魔法の研究とか開発方面で頑張った結果、魔王様直属の親衛隊という、そこそこ偉い位置に就くことが出来た。魔王城で見かける大抵の存在に命令を出せる立場である。
しかし親衛隊と言っても魔王様一人の方が親衛隊全員よりも百倍強いので、護衛なんかより書類仕事や侵攻の方がメインなのだが。
王様がその国で最強という風潮、あると思います。
ただまあ親衛隊は、実績は将軍級だが軍隊指揮能力が無い奴を送る場所なので、正しい扱いと言えば正しい扱いである。
俺も魔界の学院で軍隊指揮の授業を取っていれば話は違ったのだろうが、現状の彼らを見ていると親衛隊で良かったと思う。
将軍職の直属の上司である四天王たちは一部を除いて頭のおかしい奴らばかり。部下たちの不満も立場上聞かねばならず、中間管理職の嫌なところがこれでもかとにじみ出ている。
それに比べて親衛隊は、立場上は魔王様直属であるため一応四天王とは同格だ。唐突な無茶とかもお茶を濁すことが出来る。
まあ上の方に行けば行くほど大抵の仕事は書類仕事になっていくのだが。
ちょうど今もようやく今日の分の仕事が終わったところである。
「あー、やっと終わったあー! じゃ、アンタもその書類を『風』の四天王のとこに出したら上がっていいわよ」
「いやあ、今日はリリー殿が何かこぼしたりしなかったお蔭で無事に終わりましたね」
「ハァ~? 私仮にも上司なんですけどぉ~!? 私がいつも邪魔してるって言いたいワケ!?」
唐突に生意気なことを言い出した部下にブチ切れる。
このロリボディのせいか、俺は舐められた態度で接せられることが非常に多いのだ。
今回も、ちょっとしか心当たりのないことで嫌味を言ってくるなど言語道断である。
昨日は精々書類にミルクをぶちまけて、慌てて魔法で乾燥させたらインクごと全部蒸発させてしまったくらいのものだろう。
一昨日も職場の魔道具に魔力を流しすぎて壊すくらいしかやっていない。
思い返してみても全くの言いがかりであるが、上司として器の大きさを見せるために大人しく振り上げた拳を下ろして明後日の方向を向く。
……いや、本当に、明日も気をつけよう。
「全く、そのせいで席次が落とされたと言うのに……」
「いや、何年前の話よ! それにもう3席まで戻したから!」
直属親衛隊第3席。それが現在の俺の肩書である。
親衛隊内の序列は意外とフワフワしているが、基本は強い順だ。席の数についてはちょこちょこ変わるが、今は第7席まで所属している。
しかし中々偉いところまで来たものだ。
これも男と交わらないために努力した結果か、と思えば中々感慨深いものがある。
今頃サキュバスとして共に育った同期たちは何をしているのだろうか。人間界でズッコンバッコンしている以外のことが思いつかないが。
俺は同種から受け取ったことしか無いため知らないが、サキュバスにとって吸精というのは実際の行為の何十倍もの快楽が得られるらしい。
生命力の充足というのは肉体的快楽なんかとは比べ物にならないのであろう。
そんな話を聞くと少しばかり興味が湧いてくるものだが、残念なことに俺にソッチの気は無い。
魔王様に俺の開発した装置を動かすための魔力を供給し続けてもらうため、今日も今日とて魔王軍のために働いているのだ。
「まあ、今日の分の仕事は終わったけどね! 夜の時間はパーティよ!」
「あ、そう言えば魔王様からの呼び出しが来てますよ。丁度30分後ですね」
「……? 何かしら。……あ、もしかして昇格!? あの気に入らない『火』辺りの四天王と交代!?」
魔王様からの呼び出しに当たりをつけた俺はワクワクしながら玉座の間に向かう。
四天王ともなれば、本当に上の存在は魔王様以外いなくなる。これからのバラ色の生活を想像して、ついついスキップしてしまうのであった。
「えっ、人間界への潜入? いや確かにサキュバスは擬態に優れてますけど……。あの、その、私の装置は人間界まで生命力を送ってくれなくって、その、人間界に行くと死んじゃいます……。えっ?