訓練施設にやって来るとすでに何人かの生徒が談笑したり、自主練に励んでいた。
どうやら存外早く着いたらしい。
自分も訓練するかと支給された槍を構えた。
ここまでの二週間ハジメは訓練は一人で行っていた。
それもこれも二週間前のことに遡る。
ハジメのプレートの表示に不安を感じたのかメルド団長が、
試合形式の対戦を言い出したのだ。
クラスメート達の一部(檜山達四人組含む)もはやし立て、
やむを得ず対戦することとなった。
ハジメとしては不本意ながら、少し本気を見せた方がいいと判断。
試合開始の合図と同時にスキル『圏境(極)』を使用。
自らの存在を消失させ、箭疾歩(せんしっぽ)で一気に間合いを詰め、
手加減した宝具『神槍无二打』(しんそうにのうちいらず)を使用。
メルド団長を一撃で吹き飛ばしたのである。
メルド団長を倒して周りを見ると、皆呆然としている。
傍から見るとまばたきを一回したら、メルド団長が倒れていたのである。
何をしたのかすらクラスメート達はわからなかった。
「俺の勝ち・・・ですね」
そう言うと審判役の騎士は我に返り、ハジメの勝ちを宣言する。
クラスメート達もざわざわし始め、何をしたのか?、誰か見えた?、
と言った声がする中、メルド団長が立ち上がってこちらに向かってきた。
「いやあ、参った参った。何をしたかわからなかったぞ!」
「ハハハ。まあ、これで充分ですよね?」
「ああ、問題ない。むしろ頼もしい味方が増えてうれしいぞ!」
笑いながらハジメの背中をバシバシ叩くメルド団長。
その様子から悔しさのようなものは見られなかった。
周りのクラスメート達の反応は様々で、素直に凄いと称賛する香織。
顔色が青く染まっている檜山達四人組。対抗心を燃やす目をしている光輝。
やっぱりこうなったかという顔の雫。俺達もあんな風になれるのかな。
南雲君凄すぎ。といった他のクラスメート達の声。
これでステータスプレートの件は誤魔化せたなと、ハジメは安堵した。
そして現在に至り、あの試合を見てハジメに勝負を挑むクラスメートはいなかった。
ようやく静かに練習できるなと、ハジメはひたすら同じ動作を繰り返していた。
千の技を学ぶより一の技を徹底的に磨き上げることで、文字通りの一撃必殺を。
李書文の言う通りだとハジメは思っている。
戦場では同じ相手と何度も巡り合う機会は少ない。
それならば確実に相手を仕留める技があればいい。
戦場での実際の経験も含めたハジメの考えである。
訓練が終了した後、メルド団長から伝えることがあると引き止めた。
何事かと注目する生徒達にメルド団長が告げる。
明日から実践訓練の一環として【オルクスの大迷宮】に行く。
必要なものはこちらで用意するから、気合を入れて望めと。
ざわざわするクラスメート達の中、
ハジメはこんなに早く【オルクスの大迷宮】に行く機会が来るとは僥倖だと思った。
すでに図書館等で充分に必要な知識は得た。
考えていた例の計画を実行に移すチャンスが来たのだ。
そんな考えをハジメは顔に一切出さず考えていた。