ありふれたFGOで世界最強   作:妖怪1足りない

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月夜の語らい

【オルクス大迷宮】

 

それは、全百階層からなると言われる迷宮である。

 

七大迷宮の一つでありながら、冒険者や傭兵、新兵といった者達に人気がある。

 

その理由は階層ごとに敵の強さが推し量りやすいことと、

 

出現する魔物が地上の魔物より、はるかに良質な魔石を体内に抱えているからだ。

 

ここで魔石について説明しよう。要約するとこうである。

 

 

 

・魔石は魔物を魔物たらしめる力の核である

 

・魔石は魔法陣を作成するための原料となり、

 

 魔石なしでは3分の1まで効果が減衰する

 

・魔石は日常生活にも使われ大変需要が高い

 

・良質な魔石を持つ魔物ほど強力な固有魔法を使う

 

・固有魔法とは魔物が使う唯一の魔法である

 

・一種類しか使えない代わりに無詠唱、魔法陣なしで放てる

 

・上記のことが魔物が油断ならない理由である

 

 

 

ハジメ達一行は、メルド団長率いる複数人の騎士団員とともに、

 

【オルクス大迷宮】へ挑戦する者の為の宿場町【ホルアド】に到着した。

 

新米の訓練によく利用するようで、王国直営の宿屋があり、そこに泊まる。

 

ハジメは部屋に入ると気を緩めた。

 

明日から迷宮に挑戦することになっており、今回は行ってもニ十階層までだという。

 

ハジメは明日の計画を考える。

 

ハジメは明日、スキル『圏境』や『気配遮断』を使って姿を消し、

 

クラスメート達から離脱。死亡したと思わせて、

 

大迷宮の最深部へ単独で潜るつもりだ。

 

ハジメは知れば知るほどこの世界は歪だと思った。

 

戦争自体はハジメが宝具を全力開帳すれば、人間族が勝つだろう。

 

しかし、その後のことが問題だ。今度は元の世界に戻れるかわからない。

 

仮に戻れない場合、ハジメを脅威に感じ殺そうとするだろう。

 

それは御免だとハジメは思っていた。

 

 

 

 

ハジメは鍵は大迷宮にあると『仮説推論』で判断。

 

生き残り元の世界に帰還するには、

 

何としても大迷宮の最深部に到達する必要がある。

 

その為には死亡したと思わせて、単独行動で動くのが最善だ。

 

ハジメは他のクラスメート達を連れていくのは無理だと判断した。

 

ハジメから見れば足手まといになる。第一、メルド団長達が許さないだろう。

 

そうなるとやはり単独行動となる。

 

こういう時のために、食料や水といった必要物資は宝物庫に保管している。

 

問題はどこで離脱するかとハジメが考えていると、

 

扉をノックする音がした。

 

 

 

日本ではすでに深夜の時間。

 

檜山達が寝込みを襲いに来たかと、槍をつかむ。

 

しかし、それは杞憂に終わった。

 

「南雲君、起きてる? 白崎です。ちょっといいかな?」

 

意外な訪問客にハジメは槍を置き、扉に向かう。

 

そして、扉の鍵を開けるとネグリジェにカーディガンを羽織っただけの香織が立っていた。

 

「どうした? 何かあったか?」

 

「ううん。その、南雲君と話したくて・・・・・・やっぱり迷惑だったかな?」

 

「いや。構わない。どうぞ。」

 

「うん!」

 

香織は嬉しそうに部屋に入り、テーブルセットに座った。

 

一方のハジメは慣れた手つきで紅茶の準備を始める。

 

二人分を用意して一つを香織の前に差し出し、向かいの席に座る。

 

「ありがとう」

 

やはり嬉しそうに紅茶に口をつける香織。

 

ハジメも紅茶に口をつけ、カチャとカップを置く。

 

「それで話したいこととは何だ? やっぱり明日のことか?」

 

ハジメの言葉に「うん」とうなずき、思いつめたような表情になった。

 

「明日の迷宮だけど・・・・・・南雲君には町で待っていて欲しいの。

 

教官達やクラスの皆は必ず説得する。だから! お願い!」

 

話している内に興奮したのか身を乗り出して懇願する香織。

 

ハジメは困惑する。すでにメルド団長から先陣を切るよう言われているのだ。

 

それにそれでは離脱する計画が狂ってしまう。

 

「ちょっと待ってくれ。すでにメルド団長から先陣を切るように言われている。

 

流石にここで待てというのは無理だろう」

 

「違うの! そういうことじゃないの!」

 

香織は、ハジメの言葉に慌てて弁明する。

 

そして、深呼吸をした後「いきなり、ゴメンね」謝り静かに話し出した。

 

「あのね、何だか凄く嫌な予感がするの。さっき少し眠ったんだけど・・・・・・

 

夢を見て・・・・・・南雲君が居たんだけど・・・・・・

 

声を掛けても全然気付いてくれなくて・・・・・・

 

走っても全然追いつけなくて・・・・・・

 

それで最後は・・・・・・」

 

「消えてしまうのか?」

 

ハジメの言葉に「うん」と答える香織。

 

しばし静寂が辺りを包む。確かに不吉な夢だ。しかし、しょせん夢である。

 

そのような理由で待機の許可が出るとは思えないし、

 

ハジメが最高戦力である以上、許可が出たら他のクラスメート達から、

 

非難の嵐である。

 

それに例の計画も実行に移せない。故に行かないという選択肢はない。

 

 

 

ハジメは香織を安心させるため優しい声で話しかけた。

 

「しょせんは夢は夢だ、白崎さん。

 

今回はメルド団長率いる騎士団員もついているし、

 

天之河みたいな強い奴もたくさんいる。むしろうちのクラスは全員強いし、

 

敵が可哀想なほどだ。それになにより俺自身が最高戦力だ。

 

明日の迷宮への不安からそんな夢を見たんじゃないか?」

 

ハジメの言葉にそれでもなお、不安そうな表情を見せる香織。

 

「それでも不安だというのなら・・・・・・」

 

ハジメは香織の目に視線をしっかりと合わせ、

 

「俺を守ってくれ」

 

「えっ?」

 

ハジメの言葉に香織は驚く。

 

「白崎さんの天職は『治癒師』だったな。

 

何があっても・・・・・・例え俺が大怪我を負ったとしても、

 

白崎さんなら治せるよな? その力で守ってもらえるか?

 

それならば俺は大丈夫だ」

 

しばらく香織はハジメをジーと見つめる。

 

ハジメも香織をジーと見つめた。

 

しばらく見つめ合った後、香織の微笑とともに沈黙は破られた。

 

 

 

「変わらないね。南雲君は」

 

「?」

 

香織の言葉にわからないといった風の表情をしたハジメに、

 

香織はクスクスと笑う。

 

「南雲君は私と初めて会ったのは、高校に入ってからだと思ってるよね?

 

でもね、私は中学二年の時から知ってたよ」

 

その意外な告白に、自分の記憶を辿るハジメ。

 

だが、記憶の中には無かった。

 

考えるハジメに、香織は再びくすりと笑みを浮かべた。

 

「私が一方的に知ってただけだよ。

 

・・・・・・私が最初に見た南雲君は土下座してたから、

 

私のこと見えていたわけないしね」

 

その言葉にハジメの記憶が甦る。ああ、あの時のことかと。

 

小さな男の子とおばあさんのために土下座したのだ。

 

実際にはハジメは土下座していない。スキル『幻術』で見せた幻だ。

 

「それはまた、見苦しい所を・・・・・・」

 

「ううん。むしろ、私はあれを見て南雲君のことを凄く強くて優しい人だと思ったんだもの」

 

「?」

 

あれのどこにそんな要素がある? ハジメが思っていると、

 

「強い人が暴力で解決するのは簡単だよね。

 

光輝君とかよくトラブルに飛び込んで行って相手の人を倒してるし・・・・・・

 

でも、弱くても立ち向かえる人や、

 

他人のために頭を下げられる人はそんなにいないと思う。

 

・・・・・・実際、あの時私は怖くて・・・・・・

 

自分は雫ちゃんみたいに強くないからって言い訳して、

 

誰か助けてあげてって思うばかりだった」

 

「白崎さん・・・・・・」

 

「だから、私の中で一番強い人は南雲君なんだ。

 

高校に入って南雲君を見つけた時はうれしかった。

 

・・・・・・南雲君みたいになりたくて、もっと知りたくて、

 

色々話しかけたりしたんだよ。南雲君よく寝てるけど・・・・・・」

 

「あはは、それは失礼した」

 

香織が自分を構う理由を知り苦笑いする。

 

「だからかな、不安になったのかも・・・・・・でも、うん」

 

香織は決然とした眼差しでハジメを見つめる。

 

「私が南雲君を守るよ」

 

その決意にハジメはうなずき返し、「ありがとう」と応じる。

 

 

 

それからしばらく雑談した後、香織は部屋へ帰っていった。

 

ハジメはベッドに横になり考える。

 

何としても元の世界に還る。その決意を新たに眠りについた。

 

自室に戻っていく香織の背中を月明かりの影に潜んでいた者が、

 

静かに見つめていた。その者の顔が醜く歪んでいたことを知る者は、

 

誰もいなかった。

 


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