ハジメ達は特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、
そして、一流の冒険者か否かを分けると言われる二十階層に着いた。
迷宮の現在の最深部到達は六十五階層。
それは百年以上前の冒険者の偉業であり、
現在は四十階層越えで超一流。
二十階層越えで一流である。
生徒達は戦闘経験こそ少ないものの、
全員能力が高く、あっさり二十階層にたどり着いた。
最も迷宮で一番怖いのはトラップである。
致死性のトラップも数多くあるのだ。
トラップに対しては、フェアスコープというものがある。
これは魔力の流れを感知し、トラップを発見できるという優れ物だ。
ただし、索敵範囲がかなり狭く、スムーズに進もうと思えば、
ベテランの判断が必要だ。
ハジメ達がスムーズに降りてこれたのも、
騎士団員の誘導あってこそである。
メルド団長もトラップの確認が出来ていない場所には行くなと、
強く警告している。
最もハジメはスキル『直感』で大体の位置がわかるのだが。
「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく、
複数種類の魔物が混在したり、連携したりしながら襲ってくる。
今までが楽勝だからといって油断するなよ!今日はこの二十階層で終了だ!
気合を入れろ!」
メルド団長の声が響く。
ここまでハジメは槍で突き、薙ぎ、時に払うといった動作で敵を葬ってきた。
最深部に潜るために色々と技を試していたのである。
小休止に入り、ハジメが休んでいると、
スキル『直感』が警告を鳴らす。
またかとハジメは思った。
ねばつくような、負の感情がたっぷりと乗った視線だ。
ハジメがそちらを見ると視線が消える。
檜山達かそれとも他の誰かか。
いずれにしても気分の良いものではない。
『直感』も警告を鳴らしている。
休みなのに気の抜けないハジメであった。
一行は二十階層を探索する。
現在は四十七階層までマッピングされており、
迷うことはない。トラップにも引っかからないはずだ。
二十階層の一番奥の部屋は、鍾乳洞のように、
つららが飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。
この奥に二十一階層の階段があるらしい。
今日はそこまで行って訓練終了だ。
ハジメが使える転移魔術のような魔法は、
昔はあったらしいが、現在はないので、
帰りも地道に帰らなければならない。
道が狭く縦列になって進んでいると、
先頭を行くハジメの『直感』が警告を鳴らした。
よく見ると魔物が擬態しているのが見えた。
「魔物が擬態している! 注意しろ!」
ハジメは光輝達やメルド団長に注意を促す。
その直後、前方でせり出していた壁が突如変色し起き上がった。
壁と同化していた色は褐色となり、二本足で立ち上がる。
「ロック・マウントだ! 腕に注意しろ! 剛腕だぞ!」
メルド団長の声が響く。
飛びかかってきたロックマウントの剛腕を、
龍太郎が拳で弾き返す。光輝と雫が取り囲もうとするが、
地形により足場が悪く、上手く取り囲めない。
龍太郎の人壁を抜けられないと感じたのか、
後ろにさがりのけ反りながら大きく息を吸った。
直後、
「グウガァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」
「ぐっ!?」
「うわっ!?」
「きゃあっ!?」
体にピリピリと衝撃が走り、ダメージはないものの硬直してしまう。
ロックマウントの固有魔法”威圧の咆哮”だ。
魔力を乗せた咆哮で相手を一時的に麻痺させる。
ハジメは高い対魔力で無事のため、ロックマウントに相対する。
ロックマウントはその隙に突撃するかと思えば、
サイドステップし、傍らにあった岩を持ち上げ、
香織達後衛組に向かって投げつけた。
(まずい!!)と判断したハジメは天井と壁を蹴り飛ばしながら、
後衛組の前に着地。
「『神槍无二打(しんそうにのうちいらず)』!!!」
宝具を使用し岩を破壊した。
破壊したのは岩ではなく同じロックマウントであった。
ハジメはふぅ~と息を吐き、香織達を見ると、まだ顔が青ざめていた。
そんな様子を見てキレる者が一人、正義感と思い込みの塊、
光輝である。
「貴様・・・・・・よくも香織達を・・・・・・許さない!」
純白の魔力が噴き上がり、それに呼応するように聖剣が輝きだす。
「万翔羽ばたき、天へと至れ、”天翔閃”!」
「あっ、ちょっと待て馬鹿!」
ハジメの言葉を無視し、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。
その瞬間、曲線を描く光の斬撃が、ロックマウントを捉え、
真っ二つにする。ふぅ~と息を吐き香織達に笑顔を見せる光輝に、
ハジメが光輝の胸倉をつかむ。
そしてジッと光輝を見て言葉を放つ。
「お前は馬鹿か? 洞窟が崩落して閉じ込められたらどうするつもりだ!
時と場所を考えて技を使え!」
ハジメが光輝の胸倉から手を離すと、ゴホゴホと光輝が咳き込む。
その時、ふと香織が崩れた壁の方向に視線を向けた。
「・・・・・・あれ、何かな? キラキラしてる・・・・・・」
その言葉に、全員が香織が指さした方向に目を向けた。
「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」
グランツ鉱石とはいわば宝石の原石みたいなものだ。
求婚の際に選ばれる宝石としてもトップスリーに入るとか。
「素敵・・・・・・」
香織が、メルド団長の簡単な説明を聞いて頬を染めながら更にうっとりする。
そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。
もっともハジメは気付かなかったが。
「だったら俺らで回収しようぜ!」
そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。
グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。
これに慌てたのはメルド団長とハジメだ。
ハジメは『直感』がそこから警告が出ているのがわかったのだ。
同時に騎士団員がフェアスコープで鉱石のあたりを確認する。
そして一気に青ざめた。
「団長! トラップです!」
「ッ!?」
しかし一歩遅かった。
檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。
魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり輝きを増していった。
「メルド団長! 二十一階層へ! そちらの方が脱出が容易です!」
『直感』の警告が激しさを増す中、ハジメが意見を具申する。
現在クラスメート達は縦列で階層の奥に入っており、
この状態での上への撤退は難しい。
それならば下の階層にいったん降り、やり過ごすべきと判断したのだ。
しかし、その行動は一歩遅かった。
部屋の中に光が満ち、ハジメ達の視界を白一色に染めた。