「さて、扉を開けるぞ」
「・・・・・・うん」
ハジメ達が扉を開けて進んだ先は・・・
「これは反逆者の住処・・・か?」
ハジメは呆然とする。
天井には太陽がある。いや、地下なのだから太陽らしきものか。
ハジメ達は各部屋を慎重に調べ始めた。
各部屋は長年使われていないようだが、
まるで誰かが維持管理をしているようだった。
川や畑もあり、逆方向に建物らしきものがあった。
ハジメ達はその建物の中へ進んだ。
建物は三階建てのようで、各階の部屋を慎重に調べながら進んでいく。
そして、三階の奥の部屋にたどり着いた。
その部屋の床には精緻な魔法陣が描かれており、
その奥には机によりかかるように白骨化した遺体があった。
この人物はここで最後に何を思って死んでいったのか・・・
ハジメは遺体に黙祷を捧げると、魔法陣へ踏み出した。
魔法陣が発光し、光がおさまると、一人の黒衣の青年が姿を現した。
ハジメにはその服と遺体を見て、これが何なのか察しが付いた。
そして、黒衣の青年オスカーの話は驚愕すべきものだった。
神代の少し後の時代、人々は争いを繰り返していた。
しかし、その争いを終わらせようとする者達が現れた。
それが『解放者』である。解放者はメンバーを集め、
人々の争いを終わらせようとした。
しかし、解放者のリーダーは偶然知ってしまった。
神が人々を駒に見立て遊戯を楽しんでいるということを。
これを知った解放者達は神に挑むも、
紆余曲折の末敗北。中心となる七人しか残らなかった。
七人は現状では勝つことは不可能と判断。
バラバラに大陸の果てに迷宮を作り、潜伏することにしたのだ。
そして、迷宮を攻略したものに力を譲り、神を討つ者が現れることを願って。
そして、ハジメの頭脳に魔法を刷り込むと映像は消えた。
「ハジメ・・・・・・大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ。しかし、こういうこととはな」
まさにこれは異聞帯だ。狂った神を中心とした。
「ハジメはどうするの?」
「何もしない。この世界のことはこの世界の人間が解決すべき問題だ。
・・・・・・無論、こちらの邪魔をするなら神だろうと滅ぼすがな。
・・・・・・ユエはどうしたい?」
「私の居場所はここ・・・・・・他は知らない」
「・・・・・・そうか」
目を細めてユエを見つつ、言葉を続ける。
「あと何か新しい魔法・・・・・・神代魔法とやらを覚えたらしい」
「・・・・・・ホント?」
「ああ。生成魔法というやつだな。魔法を鉱物に付加して、
特殊な性質を持った鉱物を生成できる魔法だ」
「・・・・・・アーティファクト作れる」
「まあ、そういうことだな」
もっともハジメはこれがなくてもアーティファクトは作れる。
ルーン魔術で付与すればいい話である。素材さえあれば、ゲイ・ボルクも作れる。
「ユエも覚えたらどうだ?」
「・・・・・・錬成使わない」
「まあ、せっかくだし覚えておけ。覚えておいて損はないだろ」
ハジメにそう言われ、魔法陣に進むユエ。
また、オスカーが現れしゃべり始めるが、それを無視しつつ、
ハジメとユエは話を続けた。
「どうだ?」
「ん・・・・・・した。でも・・・・・・アーティファクトは難しい」
「まあ、魔術も相性とかがあるからな。そこは仕方がないか。
・・・・・・オスカーの遺体を埋葬しよう。
それが最後まで戦うことを諦めなかった者への礼儀だ」
「・・・・・・ん」
ハジメ達はオスカーの遺体を埋葬し、そこに墓石を立てた。
埋葬が終わるとハジメ達は地上への出口への地図を探し始めた。
オスカーがここを設計した以上、設計図があるはずである。
「あったぞ。ユエ。この迷宮の設計図だ」
ハジメ達は出口の位置を確認し、さらに探索を続ける。
素材や資料など現在では価値の高い代物を発見。
これらを宝物庫に入れ、さらに探索する。
そうするとオスカーの書いた日記を発見した。
それによるとどうやら他の迷宮を攻略しても、神代魔法が手に入るらしい。
「・・・・・・帰る方法見つかるかも」
「そうだな。地上に出たら残る七大迷宮の攻略を目指そう」
そして、少しハジメは考えてユエに告げる。
「なあ、ユエ。すまないがここで迷宮攻略の準備を色々済ませておきたい。
ユエにとってはあまり居心地の良い場所ではないだろうが、そこを曲げて頼む」
頭を下げて頼むハジメにユエは、
「・・・・・・ハジメと一緒ならどこでもいい」
そう言われ、照れるハジメ。前世と合わせれば結構な歳になるのだが、
ストレートに言われると、照れるものである。
「ふぅ~」
ハジメは湯船に入っていた。
普段は気を張り、冷静に戦うハジメも、お風呂は気持ちよく、
普段は見ることが出来ないほど、完全に弛緩していた。
そのため、侵入者の探知が遅れた。
目を閉じていたハジメが目を開けると、
一糸纏わぬユエの裸体が目に入った。
「・・・ユエ、俺は一人で入ると言ったはずだが」
そんなハジメの言葉を無視しつつ、湯船に入ってくるユエ。
『直感』が警告を鳴らしたため、じりと後ろへ下がるハジメ。
それに対してじりと近寄るユエ。
「・・・・・・一緒に入るのイヤ?」
「一緒に入るのはいいが、せめて前は隠そうか?
タオルは一杯あっただろ?」
「・・・・・・むしろ見て」
じりじりと近寄るユエに、じりじりと後ろへ下がるハジメ。
が、ついに壁にまでついてしまう。
ユエはさらに近寄り、ハジメに身体を密着させてきた。
「あっ! 俺先に出るから!」
湯船から脱出しようとするハジメ。だが・・・・・・
「ダメ」
どこからそんな力が出て来るのか、あっという間に引き戻されるハジメ。
この日、ハジメは大事なものを失った。
それから二か月が経過した。
いかに歴戦の猛者であるハジメも、ユエの前には勝てず、
開き直ってユエを受け入れてしまっていた。
どうせ元の世界に帰ったら、一緒に住むのである。
時間の問題であっただろう。
ハジメは宝物庫にあった宝石類から、
最高レベルの魔力が貯められる宝石を選択し、
ルーン魔術で加工。ネックレスや指輪としてユエに送った。
その際に一つ問題が発生した。ユエが左手の薬指に指輪をはめたのである。
ハジメが他の指に着けるよう求めるも、ユエは拒否。
押し問答の末、ユエが勝ち、左手の薬指に指輪をはめた。
これが後に修羅場の原因になるとは、ハジメはこの時思っていなかった。
それから十日後、ついにハジメ達は地上に出ることにした。
ハジメはユエに誓うように言った。
「ユエ。俺達の力ははっきり言って異端だ。当然その力を求める者が出るだろう。
最悪、世界を、神を敵に回すかもしれない」
ハジメの言葉に真剣に耳を傾けるユエ。
「だが、国が相手なら国を、世界が相手なら世界を、神が相手なら神を・・・・・・」
ハジメは一拍置き言葉を紡ぐ。
「滅ぼしてでもユエを守る。俺達は最強だ。全てを越えて元の世界に帰るぞ」
「・・・・・・ん」
邪魔をする者は、全て薙ぎ倒す。その決意を新たにするハジメであった。