「団長! 報告と上申したいことがあります! 発言の許可を!」
一人のハウリア族の少年が敬礼と共に発言した。
「発言を許可する。どうした?」
「は! 完全武装した熊人族の集団を発見! 場所は大樹へのルート!
我々への待ち伏せかと愚考いたします!」
「ほほう? 俺は忠告したはずだが・・・よほど死にたいらしいな・・・で?」
「はっ! 奴らの相手は我々ハウリア族に任せてもらってもよろしいでしょうか!」
「ふむ。カムはどう思う?」
カムはにやりと笑い、
「お任せいただけるなら是非」
「よろしい。たいそうよろしい」
そう言ってハジメはハウリア族全体に告げる。
「諸君! 哀れにも己を知らぬ愚か者共がいる! 奴らに本当の戦を教育してやれ!」
「「「「「Sir! Yes Sir!」」」」」
「俺からの命令は単純明快! 見敵必殺! 繰り返す。見敵必殺だ!」
「「「「「Sir! Yes Sir!」」」」」
「よし行け! 敵を殲滅せよ!」
「「「「「Sir! Yes Sir!」」」」」
そうしてハウリア族は次々と駆け出していく。
「うわぁ~ん、やっぱり私の家族は死んでしまったんですぅ~」
「・・・・・・ハジメ」
「やむを得なかった。仕方なかったんだ」
「何がやむを得なかったですか!? 普通に鍛えればいいでしょう!?」
シアの言葉にハジメが言い返す。
「無理に決まってるだろ! 兵士としての体力をつけるのに三週間!
その上で武器や格闘訓練、荒れ地に放り出して地図とコンパスを頼りに目的地に着く訓練!
その他諸々やってたら一年とかじゃきかんぞ! そこにハウリア族のあの性格!
まともにやってる時間も方法もなかったんだよ! あれが最速の方法だ!」
ハジメの言葉に押し黙るシア。
そしてガックリと項垂れ、シクシク泣き始めた。
「正直悪いとは思ってるよ」
ハジメの言葉に涙を溜めながらハジメを見るシア。
だが、続くハジメの言葉にさらに泣くことになる。
「だが、俺は謝らない。本当はもっと殺人機械的に改造予定だったしな」
「うわあーーーーん! 外道がここにいますぅ~!」
森の中にシアの泣き声が木霊した。
その頃、大樹へのルート付近での戦いは終わりを迎えようとしていた。
いや、ハウリア族による一方的な虐殺と言うべきか。
残された熊人族は、大木を背にし、それをハウリア族が包囲する形だ。
そこにハジメが近づき叫ぶ。
「ハウリア族諸君! そこまでだ!」
それに対してカムが不満を見せる。
「何故です団長! 今からこいつらを殺す所なのに!」
「カム! 兵士とはなんの為にある!」
「それは大事な者を守る為です!」
「そうだ! そして、敵は降伏している。戦闘終了だ!」
「しかし・・・!」
「今のお前達は血に酔って、快楽の為の殺人をしようとした! それは兵士ではなく虐殺者の行為だ!
それをしてしまえばお前達は外道に堕ちる! だからやめろ!」
やはりこれが起こったかとハジメは思った。
戦場には狂気が存在する。今回のカム達のような事態を、ハジメは前世で何回も見た。
ゆえに止めたのだ。外道に堕ちないようにするために。
「それと熊人族の。逃げようとするな。死にたいのか?」
そう言って逃げようとした熊人族の足を止める。
「長老衆に伝えろ。貸し一つだとな。それと今回の事態をキッチリ周知するように。
そうすれば見逃す。伝言はしっかりとな」
「わ、わかった」
そうして熊人族達は撤収していった。
「さて。ハウリア族諸君。すまない」
ハジメがハウリア族に頭を下げる。
そんなハジメの態度に驚くハウリア族。
「戦において起こりうる、今回のような事態を、前もって教え忘れた俺の失態だ。本当にすまない」
「あのハジメさんが謝ってます。明日は雨でしょうか?」
「・・・・・・少し黙れ残念ウサギ」
シアの言葉にユエが辛辣なツッコミを入れる。
「昔の偉い軍人が言っていた。『兵を百年養うはただ国を守らんがため』と。
ハウリア族もそれを忘れず、家族を守る為に力を使ってほしい。今回の件は本当にすまない」
「頭をあげて下さい団長。団長のおかげで我々は強くなれたのです。我々も未熟でした」
カムがハジメに言葉をかける。
「それでもだ。今回の件は俺のミスだ。故に謝るのだ」
そう言ってハジメは顔を上げる。
「俺からの訓練は今日で終了だ。後は各自訓練を怠らないように」
「「「「「Sir! Yes Sir!」」」」」
これならハウリア族は生き残ることができるだろう。
そう思うハジメであった。