ハジメがハウリア族を鍛えている時、ハジメが考え込み始めた。
「どうかしましたか団長?」
一人のハウリア族が聞いてくる。
「いや、お前達は訓練を続けろ。少々野暮用が出来た。ついでに渡すものもあるしな」
「・・・・・・私も付いて行く」
そう言いだしたのはユエであった。
「ユエ? シアはどうした?」
「・・・・・・一時休憩」
「そうか。じゃあ一緒に行くか」
「・・・・・・どこへ行くの?」
「俺と一緒に転移した奴らの所だ」
そう言ってハジメ達の姿が消えた。
驚くハウリア族。
ハジメは転移の魔術を行使しある場所へ向かった。
その頃光輝達一行はオルクス大迷宮に近い、宿場町ホルアドにいた。
遂に七十階層に突入し、二、三日の休養を取ることになったのだ。
そのホルアド郊外にて香織が一人で魔物と戦っていた。
天職『治癒師』の彼女が郊外で戦っているのは、迷宮の魔物より遥かに弱く、
捕縛魔法の攻撃転化という難題をこなすには、うってつけである為だ。
しかし、すでに戦闘訓練は数時間が経過しており、香織はふらふらとしていた。
そして限界に達しディロスという魔物の拘束が解かれ、香織に突進していく。
「何をやっている」
その声と同時にディロス達が切り裂かれていく。
倒れそうになる香織を支える人物を見て驚く。
幻術でしか姿を見せなかったハジメだった。
「全く一人だけで何をやっているかと思えば・・・せめて誰か一人位戦闘職に付いてもらえ」
「南雲君?・・・南雲君なの?」
「消耗しすぎだな。こいつを飲め」
そう言って香織に神水を飲ませる。
神水を飲ませるとたちまち香織は回復した。
「っ!? 南雲君!? 本物だよね!?」
「ああ。本物だ。と言ってもそうここに長くいられないがな」
「ハジメ?」
ハジメが声の方を見ると、雫や光輝達が立っていた。
「おう。元気そうだな。今回は幻術じゃなく本物だ」
「南雲。ここに来たということは檜山を・・・」
光輝達が警戒する。
「そうと言いたいが違う。渡したい物があって持って来た」
「渡したい物?」
光輝達が不審そうな顔をする。
「まずはこれだ」
そう言ってハジメは光輝に袋を投げる。
「これは?」
そう問う光輝にハジメが答える。
「俺がルーン魔術を刻んで作った指輪だ。防御力の上昇と体力が徐々に回復する機能が付いてる。
サイズは自動で調整される。ああ、檜山の分はないからな」
驚く光輝達を横目に今度は雫に声を掛ける。
「雫にはこいつだ」
そう言ってハジメは一振りの刀を投げ渡す。
「これは?」
「対魔性特攻を付与した俺が鍛えた刀だ。魔物相手には凄まじい切れ味を発揮する代物だ」
そう言われて刀を抜く雫。
その刀は非常に精緻で綺麗な刀だった。
「ありがとう」
「礼はいい。しかし・・・」
「・・・・・・全員弱すぎる」
そう言ったのはユエであった。
ユエを初めてみた光輝達は、ビスクドールの如き美しいユエの姿にため息をもらした。
「南雲この子は?」
光輝の問いにハジメは答えた。
「ん?。俺の恋人だけど?」
その瞬間周囲の温度が下がった。
発生源は香織である。
「南雲君? どういうことかな? 説明してもらえる?」
そう問われたハジメは思わず後ずさる。
香織は笑顔なのに眼のハイライトが全然仕事をしていない。
『直感』が逃げろと最大限警告を鳴らしていた。
そんな香織にユエが左手薬指の指輪を見せ、ふっと笑う。
こいつは敵だと認識したのだ。
さらに周囲の温度が下がる。
この時全員がユエの背後に龍を、香織の後ろに虎を幻視した。
誰か何とかしろとハジメは周囲を見るが、全員眼をそらした。
ええい。全員使えねえな。ああ、俺もかとハジメが思っていると、香織が声を掛けてきた。
「南雲君? その子の指輪は何かな? 説明してもらえる?」
香織は笑顔なのに眼は完全に冷え切っていた。
これはあかんとハジメは判断。
ユエを抱き寄せると転移の魔術で逃げた。
「転移魔法! そんな物まで使えるのか!? しかも無詠唱、魔法陣なしで!?」
騎士は驚愕する。トータスでは失われた魔法だ。
一方の光輝達は香織の発する空気に震えていた。
「・・・・・・今度会ったら問い詰めなきゃ」
そう言う香織の姿は、恐らく大迷宮のどんな魔物よりも怖く映っただろう。
「ふう。やばかった」
「団長! いきなり現れないで下さい!」
「ああ、すまん」
そう言いつつハジメは思う。これ次会うときヤバいなと。
・・・・・・考えないようにしよう。現実から眼を逸らすハジメであった。