ライセン大峡谷には死屍累々と魔物の死体が転がっていた。
その一番先では現在進行形で魔物の死体が出来上がっていた。
「いい加減に鬱陶しいな」
魔物の死体を作っているのはハジメである。
シャドー・ボーダーを走らせつつ、王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)を展開。
そこから武器を次々と射出し、魔物の死体を量産していた。
ライセン大峡谷の入口からオルクス大迷宮の出口まで虚数潜航。
そこからさらに二日経った所である。
「所でハジメさん。ハジメさんの宝物庫ってどの位入ってるんです?」
シアがもっともな疑問を聞いてくる。
「石斧から恒星間宇宙船まで様々だな。数は知らん。勝手に増えるからな」
「何かサラッとおかしい物まで出てきましたけど?」
「過去から超未来の物まで入っているからな。人間は愚かだが、人間の作る物は素晴らしい」
「一度宝物庫の中、見せてもらえます?」
「蔵の中に入るのはいいが、へたに触るなよ。危ないのもあるからな」
そう言いながら王の財宝で魔物を撃ち殺すハジメである。
そうして更に走り続けること三日。
今日も収穫はなく野営の準備をする。
ルーン魔術で魔除けの結界を張り、料理の準備を始める。
以前はルーン魔術や投影魔術で道具を作っていたが、
トータスにきてからこちらの鉱石や神代魔法を手に入れたことで、
ハジメの魔術は更に幅が広がった。
おかげで道具類もパワーアップし、ハジメとしては料理が楽になった。
いつものように晩御飯を食べ、雑談した後、就寝の準備をする。
そんな中シアが抜け出そうとしていた。
「どこへ行くんだシア?」
「ちょっとお花を摘みに」
「わかった。魔物に気を付けろよ」
そう言ってハジメは横になる。
しばらくすると、「ハ、ハジメさ~ん! ユエさ~ん! 大変ですぅ! こっちに来てくださぁ~い!」
何事かとハジメは武器を取り出し、ユエと一緒にテントを飛び出す。
シアの所まで着くと、シアが壁の一部を指さす。
「・・・・・・は?」
壁にはこう書かれていた。
おいでませ! ミレディ・ライセンのドキワク大迷宮へ♪(実際はさらにイラッとする文字で書かれています)
『直感』が嫌な予感を告げていた。
「・・・・・・これ別の意味でヤバイ気がする」
ハジメがオルクス大迷宮で感じたのとは別種のヤバさだ。
「でも入り口らしい場所は見当たりませんね。奥も行き止まりですし・・・」
そう言っていたシアが、いきなりくるんと回った壁に消えた。
「・・・・・・確定だな」
ハジメはそう言ってユエと一緒に中に入る。
すると黒く塗られた矢達が飛んできた。
すぐさま『王の財宝』で迎撃して叩き落とすハジメ。
中には部屋があり、中央に石板があった。
そこには女の子文字で書かれてあり、内容をみたハジメの感想は、この迷宮を作った奴は性格が捩じ捩じ曲がった奴だと分かった。
「・・・・・・シアは?」
「あ」
回転扉をもう一度回すハジメ。シアはいた。扉に縫い付けられて。
彼女の状態は記すまい。ただ、お花を摘みに行った途中だったとだけ書いておこう。
その後シアは石板をドリュッケンで何度も破壊した。
しかし、地面に書いてある文字を見てさらにドリュッケンを振るう。
「・・・・・・とりあえずここはオルクス大迷宮とは違う変則型のようだな」
「・・・・・・ん」
それから数時間後、嫌な予感は見事に当たった。
まず魔法がまともに使えない。魔力分解作用が強い。
こうなるとユエは戦力にカウント出来ない。
ハジメもルーン魔術といった魔術系はかなりきつく、『王の財宝』をメインに使っている。
ここで有効なのは物理型のシアだが、彼女は完全にキレていた。
ハジメはシアをなだめつつ、マーキングとマッピングを繰り返していく。
最もハジメもそろそろ最終手段を使うことも考慮し始めていた。
いきなりハジメの足の床が沈んだ。
そして左右の壁から回転のこぎりが襲ってきた。
ハジメはすぐさま『王の財宝』を射出して破壊した。
「物理トラップもありか。厄介な」
「でも『王の財宝』って便利ですよね。咄嗟でも射出出来ますし」
「まあな」
最もこの中で一番不味いのはシアである。
ハジメはカルナの黄金の鎧と神殺しの槍を装備しているので、通常兵器で殺すことは不可能。
ユエは自動再生があるのでこれも問題なし。
シアが命の危機が高いのだ。
ガコン。
今度は段差が引っ込みスロープになり、ご丁寧にタールまで出て来た。
ハジメは『王の財宝』から宙に浮く宝具を取り出し、ユエとシアを掴んだ。
そうして下を見るとサソリの海である。
上に眼をやると、またウザイ文章が書いてあった。
そして別の通路に入ると今度は天井落下であった。
その後どの通路もトラップだらけであった。
ひたすら進むと今度はゴーレム騎士達が待ち受けていた。
それを何とかしつつ、先に進むと何と最初の部屋であった。
しかもメッセージボードにはご丁寧に、迷宮は常に変化、マッピング、マーキングは無駄と書いてあった。
これを見て遂にハジメは最終手段の使用を決断。
「ユエ、シア。俺の宝物庫の中へ。最終手段を使う」
その言葉にハジメを見る二人。
「ここまでやった以上は覚悟は出来てるだろうな。ミレディ・ライセン。こういう方法もあるということを」
スキル『カリスマ』、『神性』、その他諸々のバフをオンにする。
そして王の財宝を開ける。
「二人とも中へ。へたに中の物に触るなよ」
「ハジメさん、何する気です?」
シアの言葉にハジメは笑顔で応じる。
「この迷宮を丸ごとぶっ壊す」