「ハジメさん遅いですね。やっぱりやり過ぎましたか」
「・・・・・・でもあっちが悪い」
二人はフューレン支部の冒険者ギルドで待機していた。
ハジメはここの支部長と話をしていた。
大迷宮からブルックの町へ虚数潜航。数日町に滞在し、フューレンへ向かう馬車の護衛任務をこなし、
フューレンへ着いた。そして、ギルドに着いた早々、ギルドにいた人物に絡まれて、相手をぶちのめした。
やったのはシアとユエである。
その後、ここの秘書官から支部長へと相手が変わり、話し合いを続けていた。
そこにハジメが降りてきた。
「ハジメさんどうなりました?」
「北の山脈地帯へ行くことになった。冒険者としての仕事だ」
「北の山脈地帯ですか?」
「ああ。そこで行方不明になっている貴族の三男坊を探すのが任務だ。
すでに麓の湖畔の町の紹介状や資料は受け取っている。行くぞ」
ハジメは語らなかったが、ステータスプレートや様々なやり取りを支部長と行い約束を取り付けていた。
このため、本来は向かわなくて良い仕事を引き受けたのである。
街道を爆走している一台の車があった。
もちろんシャドウ・ボーダーである。
シャドウ・ボーダーの最大速度に近い速さで飛ばしていた。
「しかし、この車凄いですよね。キッチンにシャワー、トイレもついてますし」
「まあ、車じゃなく船だけどな。海には無理だぞ?」
「・・・・・・船なのに無理?」
「ユエ。あくまで虚数空間を潜る為の船だからな。海は無理だ」
「それであとどのくらいで着きます?」
「このペースなら後半日だ。日が暮れるまでには着くだろう」
「それで町の名前は?」
「湖畔の町ウルだ」
「今日はそこで一泊ですか?」
「そうだなシア。その貴族の三男坊ウィルには悪いが、明朝救助に向かう」
「・・・・・・千里眼で分かってる?」
「ああユエ。わかってるんだが・・・」
「どうしたんですかハジメさん?」
「恐らく魔物を恐れて出てこれない状況だ。とはいえ夜間戦闘は避けたい」
「じゃあ、明日ですね。ウィルさんには申し訳ないですが」
そう言いつつシャドウ・ボーダーを飛ばし、日暮れ前に宿屋に到着した。
二階に部屋を取り、ユエとシアと一緒に一階に向かう。
そしてテーブルの椅子に座りご飯を待っていると、隣のカーテンがシャッと開いた。
「南雲君!」
「・・・・・・先生?」
「南雲君・・・やっぱり南雲君なんですね? 生きて・・・本当に生きて」
「あー、雫達の所には姿を現したんですけどね」
「それは聞いてましたけど、やっぱり本人を見ないと。所でこちらの女性二人は?」
ああ、やっぱりその質問来たかとハジメは思った。
「金髪の方がユエ。兎人族の方がシア。俺の女です」
「南雲君」
「・・・・・・何ですか先生?」
「二股かけてるとはどういうことですか!」
「平等に扱ってますよ? 宝石類も同じ物贈ってるし」
「でもですね・・・」
「二人とも現在の状況を認めてるんで問題ないです。
さすがに他の人の眼もあるんで場所を変えましょう」
さすがに騒がしかったのでVIP席へ移動となった。
食事をしながら話すハジメ。
「橋から落ちた後どうしたんですか?」
愛子先生が聞いてくる。
「あのまま最下層までいって、出口の魔法陣を発見して地上に出ました」
「なぜ、直ぐに戻らなかったのですか?」
「何故戻る必要が? 檜山を殺していいと?」
「・・・・・・・・・」
ハジメの言葉に黙る愛子。
「それに・・・・・・」
そう言ってハジメはユエとシアを抱き寄せる。
「愛する人が出来たんだ。そう簡単に戻れん。それに・・・」
騎士達を見るハジメ。その眼には亜人族に対する侮蔑が含まれていた。
「そこの騎士達はシアを侮蔑している。いい加減にしないと・・・・・・」
ハジメはスキル『カリスマ』に全開の殺意を乗せて発動した。
凄まじいまでの圧力に皆が息を出来なくなった。
「少し緩めるか。これで息が出来るだろ?」
ようやく息が出来たので皆息が荒い。
「殺されたい奴から来い。シアに何かしたら死ぬぞ」
ハジメの眼が本気だとわかり、皆黙る。力の差もわかったからだ。
「話を変えましょう。南雲君はなぜ最下層まで行けたのですか?」
愛子の質問にハジメは嘘をつくことにした。
「そもそも俺は地球におけるグランドキャスターです」
「グランドキャスター?」
「セイバー、ランサー、アーチャー、キャスター、アサシン、ライダー、バーサーカーの七つのクラス。
その中でその時代最高峰の者がグランド・・・冠位になります。これは災厄の獣が出た時に対処する者達です」
「つまり南雲君は最高峰の魔術師?」
「ええ。マーリンから冠位を譲られました」
「マーリンってアーサー王の!?」
「はい。そうです。だから最下層まで行けたのです」
皆が絶句する。つまりハジメは地球最後にして最高峰の魔術師だったことになる。
「ちょっと待ってくれ。それならなぜ天職を魔術師にしなかったんだ!?」
騎士の一人が尋ねる。
「何故って、殴った方が早いでしょう? 呪文噛みますし」
そんな理由かよと皆が呆れる。
「そうですか・・・。所で南雲君は清水君を知りませんか?」
「探しましょうか?」
「でももう夜ですよ?」
「先生。グランドキャスターには条件があります」
「条件?」
「千里眼を持っていることです。これは過去、現在、未来、並行世界を見ることができます」
「そんなことが・・・」
「出来ます。例えば今日の先生の下着の色は紫とかですね」
その言葉に騎士と男子生徒が身を乗り出す。
「ちょっとなんでわかって・・・まさか!?」
「ちょっと過去を見ました。他には・・・」
「ストップ! 南雲君。デリカシーに欠けますよ!」
さすがに愛子が止めに入る。
「すいません。でも信じてもらえたでしょう?」
「それはまあ・・・」
「それじゃあちょっと探しますね」
そう言って千里眼を使うハジメ。その表情が険しくなる。
「どうしたんです南雲君?」
ハジメの顔が険しいことに心配する愛子。
「先生。清水は魔人族側へ寝返りました」
「「「「「!」」」」」
その言葉に全員が驚愕する。
「そんなまさか!」
「しかも狙いは先生の殺害です」
さらに全員が驚愕する。
「う、嘘ですよね南雲君?」
愛子の言葉にハジメは首を振る。
「残念ながら・・・」
その言葉に茫然自失の愛子。
皆も同じのようだ。
「先に全員に言っておく。ことここに至っては俺が戦う。身内の不始末は身内でつける」
「それは清水君を殺害するということですか?」
愛子が言葉を絞り出す。
「状況次第だ。どちらにしても戦わざるを得ない」
「それが南雲君が見た物ですか?」
「ああ。どちらにしてもまだ時間はある。覚悟だけは一応しておいてくれ」
そう言ってハジメ一行は二階へ上がる。
残された愛子達は重苦しい空気に包まれていた。
夜中、愛子は自室で眠れずにいた。
それほどハジメの言ったことが衝撃的だからである。
だが、良い情報もある。
地球最高峰の魔術師であるハジメが参戦すると言ったのだ。
オルクス大迷宮を踏破出来るほどのハジメの参戦。
これほど心強いことはない。
「先生。夜中に失礼」
驚いてドアの方を見るとハジメがいた。
「ああ。これは幻術です。伝える事があります」
「伝えること?」
「オルクス大迷宮の『創造者』から伝えられた『この世界の真実』についてです」
そして愛子はその真実に驚くことになる。
「そんなことが・・・」
「先生が一番冷静に事態を受け止められると思いまして」
「では南雲君が戻らなかったのは・・・」
「そういうことです。それでは」
「あっ!ちょっと待って!」
「何か?」
ハジメが訝しむ。
「八重樫さんから『香織を何とかして! 胃に穴が空きそう!』って。
何があったんですか南雲君?」
「あー聞こえない。聞こえない」
そう言ってハジメは消えた。