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夜明け。
ハジメ達一行は北の山脈地帯へ行くために宿を出発した。
シャドウ・ボーダーで3~4時間といった所である。
そうして北門を目指していると複数の人影が目に付いた。
愛子と優花達六人の生徒だった。
「理由はわかるがついて来る気か?」
ハジメはちらと馬に眼をやる。
「南雲君。先生は先生としてきっちりと話聞かなければなりません」
「昨日以上の話は無いが・・・やむを得ないか」
先生の性格からどこまでもついて来るだろう。だったら連れて行った方がましと考えたのだ。
「連れて行くんですか?」とシア。
「やむを得ない。そういう性格の人だ」
そう言ってハジメは蔵からシャドウ・ボーダーを出す。
黄金の波紋からシャドウ・ボーダーが出ると、愛子達が驚く。
「南雲君。これは?」
「虚数潜航艇シャドウ・ボーダー。地球の魔術の塊だ」
地球の魔術という言葉に生徒達が驚く。
こんな物が作られていたのかと。
「中に乗れ。ああ、下手にスイッチ類は触るなよ。危ないからな」
そう言って中に入るハジメ。
そして、愛子達も乗せてシャドウ・ボーダーは走り出した。
悪路をものともせずシャドウ・ボーダーは快調に走る。
生徒達は中が外から見たよりも広いことに疑問を覚えたが、
ハジメの魔術で拡張したの言葉に納得した。
また、宝具とはアーティファクトと似たような物であり、
神造兵装という物の存在は皆を驚かせた。
ハジメがそういった宝具類を大量に持っていることも。
そしてハジメと愛子の話は佳境を迎えつつあった。
千里眼で確認したハジメに対し、千里眼に懐疑的な愛子。
それならば真実を判定する宝具を使っても良いとハジメは言い出した。
「この天秤は嘘をつけば片方に傾く。それならば納得するだろう」と。
これを皆の前で見せ、有罪なら処断するとハジメは言った。
流石に死刑はと拒否する愛子に、殺そうとした以上、殺される覚悟は出来ているはずだとハジメ。
「こればかりは譲れない。絶対に裏切り者は処断する」
その眼は絶対に譲らないという意志に固まっていた。愛子はこれ以上の説得は無理と判断。
そこからは双方沈黙を保った。
「ところで・・・」
「何ですか先生?」
「南雲君、白崎さんに何かしましたか? 彼女、最近ボクシングの練習をしてるんです。南雲君を殴る為だって」
「・・・いえ、ユエを恋人だと紹介した位です」
冷や汗を流すハジメ。
「そうなんですか? 他に何かしませんでしたか?」
「・・・・・・左手に着けてる指輪を見せた」
二人の話に割って入るユエ。
愛子はユエの左手の薬指の指輪を見て察した。
「南雲君」
「はい、先生」
「おとなしく白崎さんに殴られなさい」
「それが先生の言うセリフか! ここは仲裁に入る所でしょう!」
「嫌ですよ! 修羅場確定じゃないですか! ここはおとなしく殴られなさい!」
「先生は俺に死ねと!? あの冷え冷えとした視線は殺す気ですよ!」
「じゃあ、おとなしく死んで下さい」
「それが生徒に言うセリフか! それなら檜山達を処断してもいいですよね!」
「それとこれとは話が別です」
「あんたそれでも教師か! ここは仲裁に入るべきでしょ!」
「じゃあ、みんなに聞いて下さい。」
「おい。誰か仲裁に入ってくれる奴はいるか?」
その言葉に全員が視線をそらす。中には憐れみの視線を送る者もいた。
「畜生!」
「あの・・・・・・」
「シア! 仲裁に入ってくれるか!」
「いえ。ハジメさん。その白崎さん、私のこと知ってます?」
「・・・・・・」
その言葉にハジメの顔色が真っ青から白に変わる。
北海道の雪原もかくやの白さだ。
人間、ここまで真っ白になるのかと皆を思わせた。
「・・・・・・てない」
ハジメがポツリと呟く。
「え? 何ですか南雲君?」
愛子が聞き返す。
「シアの事説明してねえよ、畜生!」
肝心なことが抜けていたとハジメが言う。
このままでは、本気で殺されてしまう。
「先生! やっぱり仲裁を!」
「無理です! もう完全に修羅場確定です! 誰が仲裁に入ろうとするんですか!」
「教師は生徒の為に身体張るものでしょう!?」
「これは南雲君の女癖の問題でしょう! おとなしく死んで下さい」
「言うにことかいてそれか! こっちにも色々と事情があったんです!」
「じゃあ、説明すればいいじゃないですか」
「言う前に拳が飛んで来ますよ! ・・・このまま逃げ続けるしか・・・」
「でも還るときに絶対会うわよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
遂に押し黙ったハジメ。
そんなハジメに愛子が優しく声をかける。
「何か言い残すことはある?」
「・・・・・・死なないように祈って下さい」
完全に眼が死んだハジメが運転するシャドウ・ボーダーは目的地に近づいていた。