「ああ、これおいしいですね!」
「・・・・・・ん、おいしい」
「ふむ。これはおいしいのう」
「おいしい」
現在ハジメ達一行はグリューエン大火山に向けて野営中で、
ハジメが蔵から取り出した、神代の酒を飲んでいた。
そして程よくお酒が回ってきた時、シアが聞いてきた。
「ハジメさんは神なんですよね? その前は人間だったんですか?」
ハジメは一瞬硬直した後、「そうだ」と返す。
「じゃあ、ハジメさんの前世の話を聞かせて下さい。酒のつまみに」
「・・・・・・」
ハジメは少し黙った後、面白くないぞと前置きし話を始めた。
「俺の家は貧しくてな。粟をおかゆにしたもので飢えを凌いでいた」
そう言って酒をあおる。
「そんな時に見つけた仕事が傭兵だった。口減らしもあって俺はそこに入った。
訓練はきつかったが、腹一杯飯が食えるのが幸せだった。そうして数年後俺は初陣を迎えた。
そこで戦場の洗礼を浴びたよ。人を初めて殺したのもこの時だ。
それから数年間戦い続けた。当時の団長は弱い方の味方をするという方針でな。
例えお金が安くても弱い方についた。おかげで正義の味方と味方からは言われるようになった。
その方針は俺が団長になっても続けた。しかし、味方に裏切り者がいてな。いわゆる『戦争屋』という、
戦争を長引かせようという奴さ。そのおかげで傭兵団は壊滅。解散となった」
俺には人を見る目がなかった。
そう自嘲し再び酒をあおるハジメ。
「・・・・・・それからどうしたの?」
ユエが尋ねる。
「俺はフリーの傭兵となった。せめて団長の意志を継ぐという理想という嘘と共にな」
「嘘ですか? 理想は叶ったんじゃないんですか?」
シアが聞いてくる
「理想を叶えた、か。確かに俺は正義の味方とよばれたさ。
だが、実際はそうじゃない。生き残りたい。ただそれだけだった。
殺して、殺して、また殺して。
団長の意志を継ぐと嘘を言い、多くの人間を殺して、
無関係な人間の命なぞどうでもよくなるぐらい殺して、結果的に、殺した人間の数千倍の人々を救ったよ。
だが戦いが終わる事はついぞなかった。
生きている限り、争いはどこにいっても目に付いたもんだ。
次第に自分が何で戦っているのかさえ分からなくなった。」
そう言いきって、酒をあおるハジメ。
「戦わなければ良かったんじゃないの?」
そう言ってくる香織。
「・・・・・・出来なかったのさ。すでに俺は正義の味方と言われていたしな。
もはや自分がついた嘘で自分の首を絞めていたのさ。それに、俺には戦う以外の生き方を知らなかった。
そして最後は、その助けた人々の中から、傭兵になった奴に裏切られ殺されたよ。
結局、俺は生き残ろうと足掻いて殺し続けた最低の男ということだ」
ハジメの言葉に全員が黙った。
シアは後悔した。人の過去を詮索するのは、時にパンドラの箱を開けてしまうことを。
「それじゃあ恋愛関係とかは・・・・・・」
「やめろ!」
話題を変えようとしたシアに、ハジメが怒鳴る。
これ以上の詮索は許さない。そういう意志が見て取れた。
「話を続けるぞ。死んだ後に本来俺は英霊の座に行くはずだった」
「英霊の座?」
シアが尋ねる。
「いわゆる英雄専用の場所だ。輪廻の輪から外れ、時に抑止力に使われたり、
聖杯戦争と呼ばれる戦争に呼ばれたりするんだ」
「ふむ。ご主人様。聖杯戦争とは何じゃ?」
「七騎の英霊とマスターが万能の願望器聖杯を巡って争う戦争さ。
基本的に七つのクラスに分けられる。俺ならアーチャー、アサシン、バーサーカーが該当する」
「ふむ。万能の願望器か。それは争うのう」
「そこに介入したのがインドラだ。インドラは俺の魂を加工し、現世へ送った」
「・・・・・・その意図はもしかして」
シアが尋ねる。
「・・・・・・現在の状況だ。何かが起こることは分かっていたがな」
まさか異世界召喚とはなと言い、酒をあおる。
「俺の話は以上だ。これ以上は何も出てこないぞ?」
「じゃあ、ハジメさんの世界の事教えて下さい。シャドウ・ボーダーって他にもあるんですか?」
シアが話題を変える。その後は様々なことを話した。
こんな戦わずに済む穏やかな日々が、いつまでも続けばと思うハジメであった。