エリセンから西北西に三百キロメートル。
メルジーネ海底遺跡の存在する場所だ。
ポイント周辺の水深が幾分浅いことはソナーとカメラでわかった。
とりあえずミレディの教えに従い、月が出る夜を待つことにした。
今はちょうど夕方の頃。地平線に太陽が半分沈んでいる。
太陽の光が伸び、海の彼方まで続いている。
ハジメは思った。このストーム・ボーダーなら太陽の光を辿り、
地球へ帰還出来るのではないかと。
馬鹿な考えだと思い、苦笑する。
いかにストーム・ボーダーといえどもそれは無理だ。
「どうしたの?」
そんなハジメの様子に気付いて声をかけてきたのは、香織だった。
先程まで船内でシャワーを浴びていたのである。後ろにはユエ達もいる。
「・・・日本を思い出していた。こういう光景は地球と変わらない」
ハジメの言葉に同意する香織。
「だが、もう元通りにはいかないな。良い意味でも悪い意味でも」
ユエ達を見つつ、呟くハジメ。
良い意味はもちろんユエ達に出会えたこと。
悪い意味はクラスメートを殺したこと。
ハジメは瞑目する。
僅かの間にあまりに変わってしまった。
仮に地球に帰れたとしても、元通りとはならないだろう。
こういう時は酒に限るのだが、あいにく迷宮攻略をしなければならない。
その時、香織やユエ達がハジメの周りに集まる。
「・・・・・・ハジメ。一人で抱え込まないで。みんなで分け合う」
ユエがハジメを見て呟く。
「そうだよ。喜びも悲しみもみんなで分け合おう」
香織がそう言った。
シアやティオも同意する。
ハジメは苦笑する。
ハジメにとってここにいるみんなは大切な者だ。
それを奪おうというのなら、何者だろうと容赦はしない。
ハジメは固く心に誓った。
陽が沈むまで、ハジメ達は甲板で寄り添いあっていた。
陽が沈み月が現れるとハジメは懐からグリューエン大火山の攻略の証であるペンダントを取り出した。
ペンダントを月にかざすと変化が現れた。
ペンダントの穴開き部分に月の光が溜まっていくのである。
そしてそれは、海面のとある場所を指し示した。
女性陣はその神秘的な演出にため息をもらした。
いつまで発光しているかわからないので、早速ストーム・ボーダーで潜航する。
その場所は海底の岸壁地帯だった。
昼間にも調べた場所である。
ストーム・ボーダーが近寄り海底の岩石の一点に、ペンダントの光が当たると、
岸壁の一部が左右に開きだし、その奥には暗い道が続いていた。
ハジメはクルーに進むよう指示。
ストーム・ボーダーは暗い洞窟を進んでいく。
ハジメ達はもしストーム・ボーダーがない場合を話していた。
普通に考えれば超一流の魔法使い数人が必要だ。
この中だとハジメとユエが挑戦可能となる。
ユエは魔法で。ハジメはスキルと権能で挑戦することになる。
これは気を引き締めてかかる必要があるとハジメは考えた。
するとその直後、横殴りの水流がストーム・ボーダーを襲った。
「キャプテン! 一定方向に流されています!」
「進路このまま! 船体を水平に保て!」
ハジメがクルーに命令し、船体を水平に保つよう指示を出す。
そして、そのまましばらく進んでいると、ソナー員から報告が届く。
「ソナーに感! 数は多数! 敵と思われます!」
「魚雷戦用意! 全門発射!」
ハジメが魚雷発射を命じ、魚雷発射管から複数の魚雷が発射される。
「命中まで三十秒!」
クルーが時計で時間を測る。
そして・・・・・・。
「弾着、今!」
魚雷が敵を吹き飛ばした。
「敵性体全滅した模様!」
「引き続き警戒を厳と為せ」
クルーの報告に、ハジメは指示を出す。
その後、度々出て来る敵を魚雷で吹き飛ばしながら進む。
そうしてしばらくすると、クルーから報告が入る。
「キャプテン。マッピングの結果、どうやら我々は洞窟を一周したようです!」
その言葉に皆が顔を見合わせる。
今度は何か見落としがないか、調べながら進む。
すると、五ヶ所にメルジーネの紋章があった。
ハジメは先程のペンダントを翳してみる。
すると、紋章が光輝いた。
残りの紋章にも同じことをすると、ついに洞窟の壁が真っ二つに分かれる。
何事もなく奥へ進むと、真下へと通じる水路があった。
ハジメはストーム・ボーダーを前進させる。
すると突然の浮遊感と共に、一気に落下した。
全員が悲鳴を上げる。
そして、ストーム・ボーダーは地面に叩き付けられた。
船内にも衝撃は伝わり、クルーの中には椅子から落ちる者もいた。
ハジメ達の中で一番頑丈でない香織が呻き声を挙げる。
「大丈夫か香織?」
「だ、大丈夫。それより、ここは?」
船内から外を見ると、外は海中ではなく空洞になっているようだ。
「被害報告!」
「ソナー異常なし!」
「こちら機関室。異常なしだ!」
「船体に損害なし!」
どうやらストーム・ボーダーに異常はないようだ。
周囲に魔物の反応も無かったので外に出る。
ストーム・ボーダーをハジメは蔵にしまう。
ここからが本番のようである。
さて、ここはどんなコンセプトで作られている迷宮なのか。
今までの迷宮以上の難易度になりそうだとハジメは思った。