ある所に若い夫婦がいました。
この夫婦はある悩みを抱えていました。
なかなか子供ができないのです。
そこで夫婦はご利益があるという帝釈天を祀る寺で、
子供ができるようお祈りしました。
その夜、夫婦は同じ夢をみました。
それは白い空間に夫婦がおり、その前に帝釈天が座っています。
帝釈天は告げます。
「貴公らの願い聞き届けた。故に我の子を授けよう。
ただし、普通の子ではなく神の子故、
育て方次第で善にも悪にも傾こう。それでも良いか?」
それを聞いて夫婦は一瞬迷いましたが承諾しました。
それほど子供が欲しかったのです。
「承知した。それでは受け取るがよい」
帝釈天の手に白い光の玉が現れ、妻のお腹に吸い込まれました。
「普通の子と違い手がかからぬ。その子に好きなことをさせると育てやすいぞ」
帝釈天はアドバイスを送ると、「では、さらばだ」とその場から消えました。
そこで夫婦は目を覚ましました。
ほどなくして妻の妊娠がわかり、夫婦は喜びました。
そして、生まれたその子にハジメと名付けました。
夫婦は子供が成長するにつれ、異質さを見せ始めました。
幼稚園で描いた絵が幼稚園児のレベルではなく、プロのレベルだからです。
また、ピアノを教えてもいないのに完璧に弾きこなし、
複数の外国語はおろか古代文字すら読んだからです。
夫婦は夢の通り、この子は帝釈天の子だと理解しました。
夫婦は帝釈天の言う通り、子供に好きなことをさせてあげ、
愛情を深く注いで育てました。
そうすれば善の方に進むと思ったからです。
好きなことを習わせ、好きなことを学ばせました。
その結果、『剣は無双、槍は神槍、弓を引けば神弓』と称えられ、
各方面で有名になりました。
学業もおろそかにせず、よく学びました。
性格も良く、親のことを思いやり、よく手伝いました。
夫婦は息子を誇りに思いました。
自分たちは幸せ者だと。叶うならばこのままこの幸せが続くといいのにと、
強く願いました。
その為子供が欲しいと願ったお寺に、お願いに行きました。
この幸せがいつまでも続きますようにと。
その夜、両親の夢に帝釈天が現れました。
しかし、その顔は困っている顔でした。
そして、こう告げます。
「今回の願いは叶えられない。ただ、息子を信じ待て」
父親は問います。なぜですかと。
帝釈天は告げます。
「それは言えぬ。だが、息子を信じよ。
お主らの息子にはそれだけの力がある」と。
そう言うと帝釈天は消え、両親は目を覚ましました。
不吉な夢だと。
そして、いつもの通り息子が学校に行くのを夫婦は見送りました。
それが夫婦の見た息子の最後の姿でした。