「げほ、ごほ、おえ」
「ほら、我慢するな」
現在、女性陣全員が戦闘が終わった直後から吐き戻していた。
それぞれの背中をさすって回るハジメ。
そして、ある程度のところで治まり、ハジメは飲み物を渡す。
「一旦ここで休憩だ。俺も魔力を消費したしな」
そう言って深呼吸するハジメ。
竜の心臓があるとはいえ、魔力は無限ではないのだ。
「ハジメ君は強いね」
香織が呟く。
「?」
「だってハジメ君は平気じゃない」
「・・・・・・前世で何度か経験したよ。
俺だって平気じゃない。慣れてしまったんだ」
そう言って香織達を見る。
「お前等の反応が正常だ。俺はどこか壊れているのさ。
だから、慣れるな。俺のようになるな」
自嘲気味に語るハジメ。
そして話を切り替える。
「香織。お前を見てて思ったが、ユエ達に劣等感を抱いているだろ?」
ハジメの言葉に香織が言葉を失う。
「それは間違いだ。もし、俺がミュウの母親レミアの脚を治していれば後遺症が残っていたはずだ。あの時、香織がいたからこそ後遺症無しに治ったんだ。
それにこの大迷宮でも活躍してる。劣等感を持つ必要はない。ユエは俺にとって特別だが、
俺にとってここにいる全員が仲間、・・・いや家族のように大切なものだ。
それに香織が言ってただろう。喜びも悲しみも分け合おうと。
その言葉が俺は嬉しかった。だから皆で乗り切ろう」
そう言い切るハジメ。
香織はハジメが言った言葉の意味を咀嚼していた。
「行くぞ。目的地は墓場の最奥にある豪華客船だ」
ハジメ達一行は豪華客船だった物を目指す。
香織は未だ考え事をしているようだ。
言うべき場所を間違えたかとハジメは思う。
せめて大迷宮攻略後にしておけば良かった。
気まずい雰囲気のままだが、今は迷宮攻略に集中だと思い直す。
ハジメ達は豪華客船の最上部にあるテラスへ飛んだ。
すると周囲の景色が変わり始める。
「全員気をしっかり持て。どうせ普通じゃない」
ハジメの言葉に全員が頷く。
幻術は終戦記念パーティーから始まり、平和に終わると思いきや、
人間族の国王が豹変。殺戮の場へと切り替わった。
そして幻術は終わった。
ハジメや香織が受けた衝撃はましだったが、ユエ達にはきつかった。
「神の凄惨さを見せつけて内部を探索させる。中々いい神経してるな。解放者共は」
ハジメにしてみれば信仰はその人と神の一対一の関係である。
他人がどうこう言うものではない。
それがこれではこの世界の住人には相当こたえるであろう。
王様達が入っていった扉の奥は闇で真っ暗だった。
ハジメはランタンを蔵から取り出し、一行はさっきの光景を考察する。
そうして進んでいると、白いドレスを着た女の子がいた。
そして、ケタケタ笑いながら、関節を捻じ曲げこちらへ向かってきた。
悲鳴をあげる香織。ユエが魔法で消滅させた。
どうやら香織はお化け屋敷が苦手だったようだ。
ハジメの腕を掴んで離さない。
その後もお化け屋敷の仕掛けさながらの敵が現れたが、
ハジメ達の敵ではなかった。
そして、ついに船倉にたどり着いた。
少し進んだところで勝手に扉が閉まった。
香織は泣き顔である。
すると今度は濃い霧が発生した。
そして、四方八方から矢が飛来した。
「ここにきて物理トラップか。厄介な」
「守護の光をここに――”光絶”!」
香織が障壁を展開し、防御する。
直後、凄まじい勢いの暴風がハジメ達を襲った。
その勢いにバラバラになるハジメ達。
そして、騎士風の男など様々な亡霊が襲いかかった。
「チッ!」
ハジメはそれらを撃破していく。
そして、霧が晴れ始めた。
「全員無事か!」
「大丈夫じゃ」
「・・・・・・大丈夫」
「大丈夫です」
そして、香織も無事だった。
「香織も無事だったか」
「すごく怖かった」
「そうか・・・・・・」
ハジメはそう言いながら、蔵から一振りの大剣を香織に向ける。
「な、なんで剣を向けるのハジメ君!?」
「その演技はやめろ。全て見えているぞ」
ハジメの千里眼には、香織にとりついた女の亡霊が見えていた。
「ウフフ、それがわかってもどうすることもできない・・・・・・。
もう、この女は私のもの」
その時、女の耳に鐘の音が聞こえた。
「―――聞こえるか、この鐘の音が。
それこそお前の天運の果て。受け入れ、魂を解くがいい。それが、人として安らかに眠る最後の機会だ」
ハジメの声色が変わる。
亡霊もハジメの異変に気付いたようだ。
「お前は俺の大切なものに手を出した。あの世へ送ってやる」
ハジメは宝具を開放する。
「聴くがよい。晩鐘は汝の名を指し示した。告死の羽―――首を断つか、『死告天使(アズライール)』・・・・・・!」
大剣が香織に振るわれた。