ハジメ達がメルジーネ海底遺跡を攻略し、
ストーム・ボーダーで飛行して、エリセンに帰り、
再び町に話題を提供してから六日が経っていた。
帰還した日からハジメ達は、ずっとミュウとレミアの家にお世話になっている。
この六日ハジメ達は、新たな神代魔法の習熟と装備の補充をしていた。
だが、問題は二つあった。一つはミュウのことである。
大迷宮の攻略にミュウを連れて行くわけには行かないのだ。
もう一つは三日前の夢に現れたインドラからの指令である。
何とか譲歩を引き出したものの、それでも難しい話である。
ハジメは頭を抱えつつ、海にいるミュウ達を見た。
いつかは出発しないといけないと分かってはいるが・・・・・・。
そうしてハジメが悩んでいると、海中から突然レミアが現れた。
「ありがとうございます。ハジメさん」
「どうしました突然?」
「うふふ、娘の為にこんなにも悩んで下さるんですもの・・・・・・。
母親としてはお礼の一つも言いたくなります」
「それは・・・、分かっていましたか」
「知らない人はいませんよ。ユエさん達も考えて下さってますし、
ミュウは本当に素敵な人達と出会いましたね」
ミュウ達を見て、再度ハジメに視線を転じると、今度は少し真面目な表情で口を開いた。
ハジメ達はもう十分にしてくれたと。すべきことの為に進むようにと。
ミュウも成長し、他の誰かを気遣えるようになったと。
それを聞いたハジメは、明日出発するとレミアに宣言した。
夕食前にハジメ達はミュウにお別れを告げた。
それを聞いたミュウは懸命に泣くのを堪えていた。
それを見たハジメは言葉を紡ぐ。
待っていてくれ。必ずミュウのところに戻ってくると。
戻ってきたら今度はハジメの故郷を見せると。
それは新たな誓いでもあった。
ここにいる全員が生きて帰れる保障はない。
ハジメは万能でも、全能ではないのだ。
それでもここで誓う。
必ず全員で戻って来ることを。
翌日、ハジメ達はミュウとレミアに見送られ、エリセンを後にした。
ハジメ達は一旦、アンカジ公国へ向かっていた。
オアシスの汚染源たる魔物は退治し、水や土壌も浄化したが、
再度魔物を放っている可能性もあるからだ。
アンカジの入場門には商人の行列が出来ていた。
それらを無視し、シャドウ・ボーダーを走らせるハジメ。
門番はハジメの存在に気付き、武器を持たず出迎え、他の部下に伝令を走らせた。
ハジメ達はシャドウ・ボーダーを降り、蔵にシャドウ・ボーダーをしまう。
「やはり、異界の神様でしたか!。戻って来られたのですね」
ほっとした表情を浮かべる門番。
ちなみに異界の神様というのはもちろんハジメのことである。
オアシスを浄化した後、ハジメ自身が異界の神を名乗り、迷宮攻略後、
数日いる間に金運を授けたりした為である。
ハジメ達はすぐに通され、部屋で待機していた。
ランズィが来たのは十五分後位である。
随分と早い。やはり、ハジメ達の存在は重要なのだろう。
「久しい・・・・・・というほどでもないか。無事なようで何よりだハジメ殿」
「こちらこそ。救援は順調なようですね。一応オアシスが無事か見に来ました。
ご案内願えますか?」
もちろんとランズィは答え、オアシスを見に行く。多数の民がハジメを見ようとついて来る。
ハジメが確認したが問題はなかった。
その場を立ち去ろうという時、事件が起きた。
聖教教会関係者と聖教騎士の集団がハジメ達を包囲した。
そして、司教がハジメを異端者認定したと告げた。
驚くランズィ。
その時、ハジメが『カリスマ』と『神性』をオンにし最大にした。
その途端、全員が動けなくなった。
「全員頭を垂れ跪け。異界の神々の王インドラより神託がある。
司教はしかと本山に伝えよ」
全員が頭を垂れ跪く。凄まじいまでの圧力であった。
「エヒト神は即座に使徒にされた上位世界の人間を元の世界に戻せ。
これが呑めぬ場合、我が懲罰を加える。これは最終警告である」
この言葉に司教が反発する。
「異端者が何を言って・・・!」
「黙れ」
ハジメは即座に司教を黙らせる。
「我はインドラの息子にして、創世と滅亡を司る神也。
我が言葉は異界の神々の王の言葉と心得よ」
この言葉に司教が絶句する。
「ああ、証拠を見せようか。聖教騎士達よ。自害せよ」
ハジメの言葉に聖教騎士が次々と自害していく。
司教は恐怖を感じた。
「これでも大幅に条件を緩めたのだ。
シヴァ神の意見はエヒト神の抹殺だったのだからな。
それを我が土下座までして条件を緩めたのだ。
これを呑めぬとあらば、我に恥をかかせることになる。
司教よ。本山にしかと伝えよ」
これがハジメが頭を悩ませていたインドラからの指令である。
業を煮やしたシヴァ神がエヒト神の抹殺を急遽命じたのだ。
これに慌てたのはハジメである。
ハジメの考えはあくまで地球への帰還であり、エヒトの抹殺は考えていない。
無論、邪魔をすれば戦うことになるが。
その旨をインドラに説明し、大幅な譲歩を勝ち取ったのである。
『カリスマ』と『神性』を解除し、皆がゼーハーと息をする。
司教はそそくさとその場を立ち去っていった。
「ハジメ殿、それは本当なのか?」
ランズィが問う。
「・・・本当です。シヴァ神は俺がやらない場合、代わりの者を派遣すると」
「・・・代わりの者とは?」
「俺から人間性を無くした者・・・動くもの全てを殺す者です」
その言葉に皆が絶句する。
「ハジメ殿、それはつまり人間も亜人も魔人も関係なく殺すということかね?」
「その通りです。インドラの息子の俺でも、ここまでが譲歩の限界でした」
「・・・本山の連中がまともな判断をすることを祈るよ」
「俺もエヒト神がまともな判断をすることを祈ります」
その場の全員に重苦しい空気が満ちた。