愛子が神山の部屋に閉じ込められ三日が経っていた。
脱出しようとするも、魔法を封じられなす術もなかった。
こんな時に頼りになる生徒の名前を呟く。
「・・・・・・南雲君」
「はい。先生。何ですか?」
「ほわっ!?」
有り得ない声に素っ頓狂な声を上げる愛子。
窓の外を見ると、ヒポグリフに乗っているハジメの姿があった。
ハジメは罠の有無を確認すると、錬成で穴を開け、中に入って来た。
そして、手首の魔法封じの腕輪を破壊する。
「なぜここに・・・・・・」
「もちろん、助けに」
「わ、私の為に?。南雲君が?」
「リリアーナ姫から事情は聞きました。それで救出に来ました。
教え子を殺した俺が救出に来たのは嫌でしょうが、少しの間だけ我慢して下さい」
そう言ったハジメの手を愛子は思わず握った。
「先生?」
「君に会いたくなかったなんていうことは絶対にありません。
助けに来てくれて、嬉しいです。清水君のことは今も・・・これからも割り切れないと思いますが、
南雲君がどういう気持ちで行ったのか理解しているつもりです。南雲君を恨んだり、嫌ったりなんてしません」
「先生・・・」
「あの時は、きちんと言えませんでしたから、今、言わせて下さい。
・・・・・・助けてくれてありがとう。殺しをさせてしまってごめんなさい」
「・・・礼は受け取るけど謝罪はいらない。あれは俺の意志でやったんです。
そろそろ行きましょう。天之河達の所には姫様達が向かっているはずです。
合流してから、これからどうするか話し合って下さい」
「わかりました。・・・・・・南雲君気を付けて下さい。教会は、頑なに南雲君を異端者認定しました。
それに、私をさらった相手は、もしかしたら南雲君を・・・」
「立ち塞がる者は全て潰す。それだけです」
強靭な意志を宿したハジメの瞳に、愛子は頬が熱くなるのを感じた。
愛子が再びハジメに声をかけようとした時、異変が起きた。
すぐさま千里眼で確認するハジメ。
「タイミングがいいのか悪いのか・・・」
愛子に視線を移し告げる。
「先生。魔人族の襲撃だ。王都を覆う大結界が破られた」
「魔人族の襲撃!?。それって・・・!」
「敵は大軍。完全な不意打ちだ。現在、王都は戦場ってことだ」
ハジメは敬語を止め、普段の形に改める。
そして、愛子をヒポグリフに乗せ、自身も乗って操り始めると、
その瞬間、部屋の中に強烈な光が降り注いだ。
ハジメはヒポグリフの能力を使い、攻撃を無効化する。
「不意打ちとは上等だな」
「仕留めたつもりだったのですが、イレギュラー」
そう答えた女は、端的に言えば、銀髪のワルキューレだった。
「ノイントと申します。”神の使徒”として、主の盤上より不要な駒を排除します」
それに対し、ハジメはカリスマと神性をオンにし、最大で相対する。
「ノイントと申したか。それがエヒトからの回答と受け取って良いのだな?」
これはハジメの最終確認だ。これが是ならエヒトを懲罰しなければならない。
ハジメからの最大限の神威にたじろぎつつも、ノイントは気丈に返す。
「はい。イレギュラーの排除が私の仕事です」
「で、あるか」
ハジメはそう言うと呪文を詠唱しだした。
I am the bone of my sword.
――― 体は剣で出来ている。
Steel is my body, and fire is my blood.
血潮は鉄で 心は硝子。
I have created over a thousand blades.
幾たびの戦場を越えて不敗。
Unknown to Death.
ただの一度も敗走はなく、
Nor known to Life.
ただの一度も理解されない。
Have withstood pain to create many weapons.
彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う。
Yet, those hands will never hold anything.
故に、生涯に意味はなく。
So as I pray, UNLIMITED BLADE WORKS.
その体は、きっと剣で出来ていた。
そして、世界が塗り替わった。
果てなき荒野に無数の剣が突き刺さっている心象風景が広がる。
「なっ!?」
ノイントは世界が変わったことに驚く。
「えっ!?。これ何ですか南雲君!?」
「固有結界。術者の心象風景をカタチにし、現実に侵食させて形成する結界だ。
世界と繋がり自然を変貌させる「空想具現化(マーブル・ファンタズム)」の亜種であり、
展開すると、結界内の世界法則を、結界独自のモノに書き替えたり、捻じ曲げたり、塗り潰すことができる。
・・・我の持つ固有結界の中で一番我の心象風景に近い物だ」
自嘲気味に応じるハジメ。
愛子はハジメの言葉に、悲しみを覚えた。
どうしたらこんな風に変わってしまったのだろうかと。
「さて、ノイントよ。ここでは我がルールの世界だ。死して果てるがいい」
ハジメはそう言うとゲイ・ボルクを蔵から取り出し、ノイントと相対する。
「それじゃあ、始めようか!」
異界の神と神の使徒との戦いが始まった。