夕方。
神山の巨大な壁を利用して作られた忠霊塔に人影が佇んでいた。
そこに立っていたのは、ハジメであった。
花が立てかけられており、
何をするでもなく、瞑目してそこに立っていた。
「・・・・・・先生か」
振り向くことなく来た人物を当てる。
後ろから来たのは愛子であった。
「南雲君・・・・・・」
「すまない。誰が死んだかを分からなくさせてしまって」
「それは・・・・・・仕方なかったと思います」
ハジメの使った『帰滅を裁定せし廻剣(マハー・プララヤ)』。
この宝具の為、誰が死んだか分からなくなった。
メルド団長や檜山はまだわかるが、一般騎士団員は把握すら不可能に近い。
遺族には元からいなかったことになっているのが唯一の救いだが。
とはいえ、『帰滅を裁定せし廻剣(マハー・プララヤ)』を使わなければ、
あの数は殲滅出来なかったであろう。
もしくは王都ごと破壊する宝具等か。
「・・・・・・南雲君は辛くないんですか?」
「慣れたよ。慣れたくもなかったが」
ハジメの瞳は悲しさを帯びていた。
「責めないんだな」
「えっ」
「檜山のことだ。俺が存在自体を無くしたことを」
「それは・・・」
「俺は怒りのままに宝具を行使した。
神としてそれはあってはならないことだ」
自嘲気味に語るハジメ。
「インドラは何故俺を選んだのだろうな。
もっと良い人物の魂を使えば良かっただろうに」
「南雲君・・・」
「先生は先生のままでいてくれ。決して俺のようになるな」
そう言ってハジメが立ち去ろうとした時、愛子が声を掛けた。
「先生は知っています。南雲君は周りの人達が殺しをしないようにしていることを。
そして、南雲君がその為に殺しをしていることも。南雲君は十分優しいです。
けど、もっと自分を労わって下さい。このままだと南雲君は・・・」
「修羅に落ちるか・・・。だが、それもありかもしれない」
「南雲君!」
愛子が大きな声を出す。
「それはダメです!。ユエさん達も悲しみます!」
ハジメの肩を掴んで揺さぶる愛子。
その眼には涙が溜まっていた。
「先生・・・もう止められないのさ。
誰かがやらなければならない。それが出来るのは現状俺だけだ。
何としても皆を元の世界に帰すよ。例え命を引き換えても」
ハジメの言葉に遂に愛子は泣き出した。
「ダメです!。そんなのただの自己犠牲です!
そんな方法で救済されても、先生も誰も嬉しくありません!」
「仮にそれしか方法がなかったとして、クラスの奴等が止めると思いますか?
天之河あたりなら実行させますよ。間違いなくね」
「そんなことは・・・」
「今のクラスを見ればわかるでしょう。清水が、檜山が、恵里が、次々と裏切った。
今やクラスの仲はバラバラです。帰れるならやらせるでしょう」
「・・・・・・・・・」
愛子は沈黙せざるを得なかった。
ハジメの言葉には一理あったからだ。
「そういうことです。ああ、俺は先生を裏切りませんよ。
それが人間としての最後の矜持ですから」
そう言うとハジメは先に帰っていった。
後には無力感だけが残る愛子が残された。
「ただいま」
ハジメはユエの元に戻って来た。
ユエはポンポンと太ももを叩いた。
ハジメは素直にユエの太ももを枕にし、横になった。
どちらとも何も言わない。
お互い言う必要がない位、お互いの心がわかった。
ユエはハジメをギュッと抱き寄せた。
ハジメはそれを素直に受け入れた。
ハジメにとっては、ここが帰る場所なのだ。
その頃、愛子はハジメとのやり取りを雫に話していた。
雫は自身が予測したことが当たったことに頭が痛かった。
「八重樫さんどうしましょう」
「・・・・・・今はハジメに頼るしかありません」
「でもそれじゃ・・・・・・!」
「ユエさんと香織に頼んで、何とかしてもらいましょう。
特にユエさんのことならハジメは素直に聞きますし」
「無力ですね。私達」
「・・・・・・ええ。それに分かったことがあります」
「分かったこと?」
「ええ。ハジメは香織が死んだ時、躊躇なく創世と滅亡の権能を使いました。
今回は蘇生に成功したから良かったものの、もし死んだら・・・・・・」
「権能を際限なく使う?」
「はい。それこそ機械的に使うでしょう。ハジメの権能は不出来なものを消すようです」
「不出来じゃないものって赤ちゃんか聖人位じゃ・・・」
「そうです。この世界は間違いなく地獄になります」
雫の予測に絶句する愛子。
エヒトもひどいが、ハジメがデウスエクスマキナと化したら、さらなる地獄が顕現する。
もはや笑うしかなかった。先生としてなんて無力なのだろう。
それもこれもハジメに頼りすぎたツケなのだから。