戦争に参加することとなったハジメ達一行だが、
日本では普通の高校生。戦い方などわからない。
そこは教会側もわかっているらしく、
この教会のある『神山』の麓にある『ハイリヒ王国』にて、
受入れ態勢が整っているらしい。
王国は教会と密接な関係にあり、強固なパイプを持っている。
ハジメ達一行は教会の正面門にやってきた。
それは荘厳であり、そこをくぐると雲海の広がった雄大な景色が広がっていた。
息苦しさがないのは魔術を使っているのだろうと、ハジメは考えた。
さらに進むと台座があり、巨大な魔法陣が描かれていた。
皆がそこに乗りイシュタルが呪文を唱えると、魔法陣が輝き台座が動き始めた。
どうやらこの台座はロープウェイらしい。
始めて見る『魔法』にハジメ以外の生徒は大騒ぎした。
やがて地上が見えてくると、国が見える。ハイリヒ王国の王都だ。
ハジメはこの国が王よりも教皇の方が地位が高いのだろうと考えた。
そうでなければ王を見下ろすような場所に教会を建てるはずがない。
厄介なことになった。ハジメはそう思った。
前世での中東での戦いを思い出したのである。
政治に宗教が絡むと非常に複雑なのである。
気の抜けないことになりそうだとハジメは思った。
王宮に着くとハジメ達は玉座の間に案内された。
途中、騎士や文官、メイド等とすれ違ったが、
皆が皆一様に期待、もしくは畏敬の視線を送ってくるのだ。
どうやらある程度ハジメ達のことを知っているようだ。
巨大な両扉の前に到着すると、扉の両サイドの兵士二人が、
イシュタルと勇者一行が来たことを告げ、扉を開け放った。
イシュタルは悠然と扉を通り、
光輝等一部の者を除き生徒たちは恐る恐る扉を通った。
扉を潜ると真っ直ぐ伸びたレッドカーペットと玉座があり、
玉座の前で初老の男が立ち上がって待っていた。
その隣には王妃と思われる女性。更にその隣には十歳前後の美少年、
十四、五歳の美少女が控えていた。
更にレッドカーペットの両サイドには、
左側に甲冑や軍服らしきものを着た者たちが、
右側には文官らしき者たちが、ざっと三十人以上佇んでいる。
玉座の前まで来ると、イシュタルは生徒達をそこで待たせ、国王の隣へと進んだ。
そこで、おもむろに手を差し出すと国王は恭しくその手を取り、
軽く触れない程度のキスをした。
ハジメの予想通り教皇の方が立場が上のようだ。
ハジメはスキル『天賦の見識』と『仮説推論』をオンにした状態を続けていたので、
これから取るべき最善の道を模索していた。
その後はただの自己紹介である。
国王の名がエリヒド・S・B・ハイリヒ。王妃がルルアリア。
美少年がランデル王子、王女がリリアーナという。
後は騎士団長や宰相といった高位の者達の紹介がなされた。
その後晩餐会が開かれ、
王宮から衣食住の保障と訓練における教官達の紹介もなされた。
晩餐が終わり解散になると、各自に一室ずつ与えられた部屋に案内された。
ちなみにフォウは香織について行った。
部屋に入ったハジメは椅子に座り、怒涛のごとき今日一日を振り返る。
『天賦の見識』と『仮説推論』から導き出した結論は情報が足りないことだった。
国家体制、種族、文化、魔法、地理etc・・・
全ての情報が足りない。敵だという魔人族がどの程度の強さかも不明だ。
流石に自分の戦闘能力を上回る者はいないと思うが。
「『初歩的なことだ、友よ』(エレメンタリー・マイ・ディア)」
ハジメは宝具を発動した。
そうすると部屋に謎の球体が出現した。
この宝具は立ち向かう謎が真に解明不可能な存在であったとしても、
必ず、真実に辿り着くための手掛かりや道筋が「発生」する。
たとえば鍵の失われた宝箱があったとしても、鍵は「失われていない」ことになり、
世界のどこかで必ず見つけ出せるようになる。
(ただし、流石に手の中に突然発生したりはしない。
どこかに在るそれを、ハジメないし協力者が発見せねばならない)
ハジメの脳裏に前世での嫌な記憶が蘇った。
偽情報に欺かれ、傭兵団に大きな損害が出たのである。
あの時は事前情報と違い、兵力が倍近く違っていたのだ。
あのような愚は繰り返すまい。そう思うハジメであった。