緋弾のアリア ifストーリー   作:やんかつ

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こんばんは。やんかつです。前回の投稿から半年くらいでしょうか。書き初めは早かったんですが、完結させるのに半年かかりました笑
今回のお話は前回の続きのような部分、色々と混ぜている部分も多いです。
サブタイトルでネタバレしてますが、パチンコをしてる方に伝われば嬉しいです。パチンコをしていない方、しない方にも軽く説明は入れていますが、分からない部分等あればコメントをください。
最後になりますが、読んでの感想などをいただければ次作を作るモチベにつながりますので、一言でもくださるとありがたいです。誤字脱字等の指摘ありましたらそちらもお願いします。それでは本編をどうぞ。


バスカービルと遊戯台

「午前はこれでおしまいや!午後はチーム別に特別訓練!遅れたらフルマラソン3回ノンストップの刑や!」

午前の授業が終わり、各々が食堂へと向かっていく。俺は朝コンビニで買ったパンを食べるだけだから行かないが。

「キンジ。あんた食堂行かないの?」

隣にいたアリアが不思議そうに俺を見てる。

「行かねーよ。今日はバイキング形式だかでいつもより混むんだ。わざわざ人が多いところに行きたくはない」

「ふぅん。じゃあたしも行かない」

「行かない……って飯どうするんだよ?言っとくがパンはやらないぞ」

「ももまん買ってあるからいらないわよ」

近くにあった椅子を持ってきて俺の前に座ったアリアだが……持ってる袋的に10個はあるぞ、これ。どれだけ食べる気なんだ。

「それより午後の授業の話よ。第六訓練準備室集合になってたけど、アタシあそこ使ったことないのよね」

「俺もないぞ。なんなら使ったことあるやつの方が少ないんじゃないか?」

武偵高には様々な設備や施設があるが、担当科目じゃなきければ使わないようなところが山のようにあり、使ったとしても一年に一回きり……なんてことがザラである。

「ウワサじゃ蘭豹の趣味部屋って聞いたことあるがな。詳しいことは知らん」

「理子にも聞いてみたんだけど、理子も知らないらしいのよ…これじゃ対策のしようが無いわ」

肩をすくめてももまんを頬張るアリアだが、俺も知らないから何もいえない。

焼きそばパンを食べつつ時間を見ると、12時30分。午後の訓練は13時からだからまだ時間があるが、何かしらの対策はしておいたほうがよさそうだ。

「やれることはないが、とりあえず理子達に声かけて早めに集まっておくとするか」

「そうね」

アリアはいつのまにか平らげていたももまんの袋を片付け、教室を出た。理子は大概、食堂にいるからな。

「キンジさん」

アリアと連れ立って教室を出ると、そこにはレキがいた。カロリーメイトの空箱を見るに、レキもどこかで食べてたっぽい。

「レキ。午後の第六の場所なんだが、分かるか?」

「はい。以前使用したことがありますから」

レキが知っていることに驚くが、そういえば財布探しの時に鍵ごと渡した気がする。

「どういう場所なの?」

「簡易的な武器庫のような場所です。立ち入り禁止区間もあって全部は知りませんが」

「武器庫…武器庫ねぇ」

アリアが顎に手を当てて顔を顰める。なんとなくだが、地下倉庫の時を思い出しているのだろう。階段を降りて食堂に向かうが、午後の授業まで後20分てところか。理子たちと合流することを考えても、あまりゆっくりしている時間はないな。

「どのみち行かないとわからないんだ。場所がわかるだけでも儲けもんだと思わないとな」

大多数の生徒が食べ終わったのか食堂にいる生徒はそれほど多くない。手分けして探すと、案の定食べすぎたのだろう、見事にダウンしている理子と、生徒会の面々と食事を終えた白雪と合流できた。まだデザートが、と動かなかった理子だが、アリアに強引に引きずられる形で第六訓練準備室に向かうことになった。人通りが多い本棟を抜け、何度か階段で降りていくうちにどんどん人気がなくなっていく。

「ねーレキュ。本当にこっちであってんのー?」

「はい」

心配になったのか理子がレキに声をかけるものの、レキはいつも通り。「それならいいけどさ」と理子は頬を膨らませながらも歩く。さっきアリアのせいでデザートを食べ損ねたことで、機嫌が悪いんだな。

「白雪。アンタは何か知らないの?第六訓練準備室のこと」

「第五の方ならS研で使ったことあるんだけど、第六の方はちょっと…あ、でも」

「でも?」

アリアが怪訝そうな表情で白雪を見る。

「昨日巫女せん札で占ってみたんだけど、理子ちゃんが得意…だと思う」

「どういうことー?」

不貞腐れていた理子の表情が少し明るくなる。

「結果で出たカードの中に天秤があってね、どちらに転ぶかわからない…いわばギャンブルのようなカードなの。運の良さだったり、精神力だったり…となると、一番は理子ちゃんかなって」

白雪はニコニコしながら理子の方を見る。白雪は白雪なりに色々調べてくれてたんだな…それに、周りもよく見てくれてる。ホント、大したヤツだよ。

「ギャンブルかー。たしかに理子得意だよ?でも、蘭豹先生が相手でしょ?それなら分かんないなぁ〜」

「珍しく弱気じゃないか?俺からしてみれば苦手分野だし、できれば頼りたいんだが」

「キーくん苦手だもんねぇ。この前のポッキーゲームでも理子に勝てなかったもんねぇ〜。くしししし」

「ポッキーゲーム…?ちょっとキンジ!詳しく教えなさい!」

階段でさらに奥まった場所に向かう中、理子の発言に驚いてつまづいてしまう。

「い、今そのことは関係ないだろ!理子も変な言い方をするんじゃない!」

こんな時のための白雪!再度助太刀を求めて白雪の方を見るが、目から光が消えている。こ、怖っ!

「キンちゃん…?後でゆっくりお話聞かせてね…?」

にっこり、とでも擬音がつきそうなものだが、目が笑っていない。むしろ獲物を逃すまいと瞬きすらしない。

「着きましたよ」

しかしここでレキからのアシスト。ありがたい。今この場から逃げたい一心でドアを開け、一番に入る。中は電気がついてないせいで暗く、辺りの状況も分からない。どうなってんだ?

「遅い」

ゴリ、という聞き慣れてしまった聞きたくない音が後方から、いや自分の頭に突きつけられたことで気がついた。

「1分遅刻や。1番に入ってくる度胸は認めんこともない。でもしっかり罰は受けてもらうからな」

「蘭豹…先生」

頭に突きつけたM500を外しながら、蘭豹はニカッと笑った。

「ま、ここはそうそうくる場所やないからな。訓練の結果次第では罰も免除したるわ」

なんという幸運。蘭豹の機嫌がいい時なんて彼氏候補ができた時か、それこそギャンブルで勝ってる時くらいなのに。

ゾロゾロと俺と蘭豹の後ろからきたバスカービルの面々は、部屋の暗さからかあまり動いていない。アリアが何かを見つけたように走ってきたが、俺自身よく見えてない機械の前で止まって振り返る。

「蘭豹先生。訓練って何をやるんですか?」

「それや。それ。今お前が手を置いているそれを使うんや」

「これ?」

段々と暗闇に目が慣れてきて、アリアの近くにあるものが何やら四角張った金属に液晶パネルがついている…ことまではわかった。

「このままじゃ見えんか。ちょっと待ってろや」

蘭豹はこの暗さの中でも普通に動けるらしい。趣味部屋っていうのも当たりなのかもな。

ぱち、とスイッチの乾いた音が鳴り、部屋の照明がついた。

「これは…!」

理子が目を見開いて走っていく。何やら理子の興味を惹くものがあったんだろう。

バスカービルの面々がそれぞれ進んでいき、蘭豹のいうこれの正体に気づいた。

「「遊戯台…?」」

レキと白雪がハモる。蘭豹のいうこれとは、遊戯台────平たくいえばパチンコ台のことだった。

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「なんでこんなものが…ここに?」

白雪が辺りをキョロキョロしつつ、物珍しそうに言う。

「蘭豹…先生の趣味だろ」

強襲科や探偵科、その他の科でもそうだが、こういった娯楽施設への潜入任務もある。店員になりすまして、な。やったことはないにしても大体のやり方は分かる。こういった店以外の場所でも遊戯ができるように調整される台があるのもわかるが、パッと見で10台はあるぞ。奥のスペースは何やらブルーシートがかかってて見えないし、まだ何かあるな、こりゃ。

「キーくん!しろくろっ!の台あった!理子あれやりたい!やーりーたーいー!」

「知るか!やりたいなら蘭豹先生に言えよ。まぁ多分やることになるんだろうが…」

「みての通り今日の訓練は運や。指揮官はワシが務める。玉はこっちで用意するが、条件がある」

「条件…?」

理子が顔を顰める。遊戯台、それも訓練となれば条件付きは当たり前だが、何せ蘭豹のことだ。無理強いをされるのは目に見えている。

「ここに二つの箱があるやろ。一つは自分の球の数。もう一つは倍率が書いてある。簡単に言えば、使える玉数と、倍率を見てどこまで増やせばいいかっちゅう話や」

「球数…?倍率…?」

アリアがうんうんと唸り始めたが、俺には理解できたぞ。1個目で引いた数×2個目で引いた倍率分増やせればOKってことだな。

「台はどれ使ってもいいのー?」

理子がキラキラした目で蘭豹に食いついた。お前、さっきの台やりたいだけだろ。

「全部使えるようにはしてあるで。その前にくじ引いてからやけどなァ」

蘭豹が不敵な笑みを浮かべる。嫌な感じをひしひしと感じ取った俺は一旦バスカービルだけで話をしたい、と蘭豹に申し出る。白雪もそれに応じてくれて、それなら、 と部屋の外で話をすることにした。

「全員ルールは分かっているな?この訓練は普通の訓練じゃないぞ」

「理子は大丈夫だよ〜?むしろテンション上がってきたし」

「はなからお前の心配はしてない。白雪の言った通りギャンブルだしな」

「アタシは…正直よく分かってないわ。何をどうしたらいいの?」

アリアが何やら歯切れが悪そうにしているが、それはそうだろう。みれば、白雪とレキも腑に落ちていないようだった。

「簡単に説明するぞ。あの台は玉を飛ばしてある場所──ヘソと呼ばれる真ん中を狙うんだ。そうすると1回転。液晶が動いて抽選が始まる。台にもよるが、これが確率でな。1/99とか、1/319で当たるようになってる。で、当たると玉が出てくる。そこからまた連荘だったりって言う話があるんだが…」

「とりあえずその当たりっていうものを目指せばいいのね?」

「そういうことだ」

これでアリアは大丈夫だろう。となると、問題はレキと白雪なんだが。

「白雪……はやったことないよな」

「うん……ごめんなさい。花札とか、麻雀とかならやったことあるんだけど。でも、大丈夫だよ。なんとなくルールは理解できたから」

流石白雪。理解が早くて助かる。機体によって複雑なものもあるが、極論玉を打てればどうにかなる部分はあるからな。

「……」

レキの方を見るが、なんの反応もない。大丈夫なんだろうか?

「レキ。ルールは理解できたか?とりあえずヘソの部分を狙うんだ。多分やったことないだろうし、誰かがやってるのを見てから始めればいい」

こくん。レキはレキなりに理解してくれたのか、うなづいてくれた。

「よし。じゃあ戻るぞ」

いつもの戦闘とは違うが、いつも以上の緊張があるな。遅刻の罰もそうだが、訓練で合格をもらわないとその分ペナルティを課せられることになる。さらにその罰はその時の教官が決めていいことになってる。何がなんでも合格しないとな。

「お。戻って来よったか。ほんならくじ引き…の前に簡単にルール用の動画作ってあるからそれ見てからや」

あんのかよ。それなら先に言って欲しかったぜ。

10分少々の動画が流れ、各々が理解できたところでくじ引きが始まった。一番手はアリア。

ここぞという時の勝負所に強いのは理子だけでなくアリアもだ。引き運に期待したい所なんだが。

「球数は…5000。倍率は…2。ということは、1万発になればいいのね?」

「そういうことだ。無難なところなんじゃないか?」

「あんまりわかんないけれど。台についての知識とかもないし、直感で決めてくるわ」

蘭豹から元々用意されていた玉の入ったカードを受け取って歩いて行くアリアを見送り、横で気合を入れている理子を見る。

「理子は打ちたい台があるんだったな。スペックは?」

「んーとね。確か399だったよ」

ガサゴソとくじ引きの箱に手を入れながら答える理子だが、399となると元手が多くないと当てるのは難しいだろう。ここの引きにかかっているぞ。

「球数は8000。倍率は…5!いってきまーす!」

くじを引くなり猛ダッシュで走って行く理子。よほどうちたかったのか、蘭豹の持っていたカードを引ったくる勢いでもらって台に向かってるよ。

「次は俺の番か…」

こういう時のくじ運悪いんだよな。大抵無謀な数字を引き当てるんだが……。

ガサゴソとくじ箱を漁り、奥に挟まっていた一枚を取る。と同時にもう一方のくじも引く。

「球数は…1000。倍率は……2!」

悪くないぞ。元手は少ないが、増やす量も少ない。今までの中じゃ一番だろう。後は白雪とレキだが、二人のを見てからでも打ち始めるのは遅くないだろう。

「キンちゃん流石だね。私も……頑張ります!」

すぅーはぁー、と深呼吸をしてからくじを引く白雪だが、片方の倍率用の紙だけ赤い。やっちまったか……?

「球数は…20000。倍率は……1?」

と、等倍。白雪のやつ、ここにきてとんでもない運を発揮しやがった。これだと白雪は打たずにクリアってことになる。しかも球数20000。

日頃の行いの差なんだろうか。

「ちなみに白雪が今引いた赤い紙は大当たりか大外れのどっちかなんや。ええ方引いたな」

「やったよキンちゃん!」

笑顔で抱きついてくる白雪。むんにゅりとした感覚が腕にくるからやめてほしいんだが、ここの引きはありがたい。リスクが一人分減るからな。

「……」

終始無言でいたレキだが、くじ箱に手を入れて中を探っているようだ。人数分以上に紙はあったし、レキも強運のイメージが強い。大外れを引くことはないだろう。

横で俺と白雪が見守る中、レキの引いたくじは両方が赤。これはさっきの白雪パターンか?と思ったが、四つ折りになっていたそれを見てレキは目を見開いた。

「球数……1。倍率……」

レキがそこでいうのをやめたので、横から紙を覗いてみる……のだが。蘭豹の手書きだろう、そこには一万倍の文字が書いてあった。

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白雪は安泰。アリアと理子もどうにかできるくらいのくじだったし、心配はない。問題はレキだが、蘭豹に何やら聞くとのこと。まずは自分のことに集中しないとな。たとえ二千発とはいえ、なくなってしまえばそこで終了。玉の貸し借りはクリア後の余剰分のみというルールのため、あまり勝負はかけたくない。399、199、と重めの確率機が並ぶが、俺の目当ては1/99だ。軽いところで当てて、サクッと増やして終わり。大量に玉が出ることはないが、その分当たりまでが軽い甘デジと呼ばれる機種だ。良さげな機体を見つけ、カードを入れて玉を上皿に流す。

「早めに当たってくれよ…?」

ジャラジャラと球が流れ、打った玉はヘソに入ったり入らなかったり。球数が半分を切ったところで、何も演出が入らないことに焦りを覚える。ダメか、と思ったその時。

キュインキュイーン。

何やら良さげな音が鳴り、あれよあれよと大当たり。後は当たりが続けば…と思ったが、そううまくはいかず、単発で終わってしまう。周りを見てみれば、勝ち誇ったように出玉を並べる理子と白雪が談笑してる。アリアは苦戦してるのか、難しい顔で台と睨めっこ。レキの姿が見えなかったんで、台を離れて探してみると……いた。何やら奥にあったブルーシートを蘭豹が外しており、横の椅子にレキが座っていた。

ガサガサと物を動かす蘭豹を横目に、レキに声をかける。

「レキ。なんかいい策でもあるのか」

「はい。蘭豹先生がいい台があるとのことだったので、準備をしてもらってます」

良い台。蘭豹の思う良い台がその通りなわけがないんだが。全体的にかなり大きく見える遊戯台もまだ黒い布で隠れてる。

「俺もまだクリアしたわけじゃないんでな。できれば余剰分まで出せるようにやるだけやってみるさ」

「はい」

レキの元を離れ、顔からしてイライラが最高潮になりそうなアリアのところへ向かう。後ろから少し覗いてみると、ボタンのポップアップ演出があり、しかも虹色。アリアもなんとなく良さげなことは分かったのだろう。台の反射で笑顔になったアリアが見えるが、ボタンを押したところで画面が暗転し、通常の画面に戻ってしまう。

パチンコでいう虹はほぼ当たるような物なんだが。

とここでアリアが俺に気づいたのか、振り返って鬼の形相で睨みつけてくる。

「キンジ!この台インチキよ!さっきから何回も当たりそうな雰囲気になっているのに当たんないし!もう玉だってないのよ!?」

ぎー!と怒るアリアだが、たしかにカード内の玉数は0。上皿に少し残っている程度。でも確かこれは……

キュイーンとさっきの俺が打っていた台と同じような音がして、数字が揃う。途端にアリアが台に向き直し、画面を食い入るように見つめてから、俺の方を見る。

「キンジ!これって……」

「復活演出ってやつだな。当たりが続けば巻き返せると思うぞ」

「なら勝負はここからね!そういえばあんたはどうなの?」

「まだクリアできてない…玉も後半分しかないんだよ。どうすっかな」

「武帝憲章10条。武偵は最後まで諦めるな。あたしだって諦めなかったから今当たってるのよ。あんたも諦めるのはまだ早いんじゃない?」

武帝憲章になぞらえていうアリアだが、パチンコにも適用されるんですかね。それ。破滅の道しか見えないんですが。とはいえ、俺自身まだ終わったわけでもない。レキだってまだ諦めてないんだし、リーダーの俺がここで諦めるのは違うよな。

「やるだけやってみるさ」

早速2連目に入ったアリアは台に集中し始めた。俺も元々打ってた台に戻り、半分より少し増えた玉を打ち始める。と数回転でキュインという音が鳴り、大当たりを引いた。台を変えようかとも思っていたんだが、変えなくて正解だったな。そこから何度か当たりを引き続け、ギリギリ目標の2千発に到達。横を見ればアリアも同じように達成してるらしく、笑顔でくるくる回ってるよ。これで俺、アリア、理子。そして不戦勝(?)扱いの白雪がクリア。となると残るはレキだな。終わった組で集まってレキのところに向かうが、見れば黒い布も外されており、レキが打とうとしていた台の電飾もついてる。準備が終わったのか、椅子に座ったレキは蘭豹から何か説明を受け終わったところのようだった。

「オマエらもよーく見とくんやなァ。これはレキの一世一代の大博打や」

蘭豹の説明によると、これは往年の博打映画で使われた台のレプリカだという。全てが透明になっているこの台は、発射された玉がクルーンに入り、1段目で7分の1の確率で次に行ける赤枠に入る。その後は2段目が5分の2、その後は2段目のどちらの赤枠に入るかで分岐するが、最後は3分の1で大当たり……という少し変わった台なんだそうだ。確率で見れば125分の1だが、よくよくみると各段の当たりの部分だけ心なしか狭い気がしなくもない。

心配になってレキの方を見るが、レキは右手に持った玉を見つめるだけだ。

「レキュ…大丈夫かなぁ〜」

不安げに見つめる理子だが、誰だってそうだろう。聞けば見返りは一万発とのことだが、その分俺たちが増やした余剰分も使えず、文字通り一発勝負とのことだった。

「レキは百発百中の狙撃手よ。絶対半径で考えれば1mもないじゃない。ドーンと構えて見てれば良いのよ」

アリアよ。たしかに打つのはレキだが、ドラグノフじゃなくてハンドルだし、打ち出した後はどうにもできない。根本的に違うんじゃないか?

「キンちゃんは、どう思う?レキさんなら大丈夫だと思いたいんだけど……」

「正直分からないな。でもレキも諦めてないだろうし、ここはレキの勝負強さに賭けるしかない」

しょんぼりとした表情の白雪と理子。対して、レキを信じてるであろうアリア。

この場にいる全員が固唾を飲む。

「ほんなら始めるで。勝負は一回。打ち出しのタイミングはレキが決めればええ」

「はい。ひとつだけ、先に聞いても良いですか」

「なんや」

今まさにスタートの合図をしようとしていた蘭豹だが、不意にレキに止められ、少し不機嫌になった。

「3回赤枠を通せばよいとのことでしたが、もし赤枠に入らず、ハズレにも落ちない場合はどうなりますか」

「そんなことは起こらんやろ。赤枠に入れば当たり、入らなければハズレや。もしそんなことになったら…そうやな。仕切り直しにでもするわ」

蘭豹がスタートの合図を切り、レキが上皿に玉を落とした。

「私は一発の銃弾───」

ハンドルに手をかけたところで、レキが狙撃の時の一文を誦じ始めた。

「銃弾は何も考えず、何も感じない」

レキのハンドルへの力の込め方が強くなる。

「ただ、目標に向かって飛ぶだけ」

ついに玉が発射され、1段目のクルーンへ入った。

カツンッ、カツンと玉がクルーンを回り、2周、3周とするうちに回る力が弱くなり始める。穴に引っかかるような形で球は不規則になるが、くるくる…すぽっ。どうにか1段目をクリアしたのが見える。

「やった…!」

白雪が小さく拳を握る。まだ1段目ではあるが、一番確率の低い1段目を超せたのは大きい。続く2段目でも同じ光景になるか…と見ていたのだが、玉が変な動きをしている。アリアも気づいたのか、台を横から見始めた。

「これ、クルーンの場所だけ斜めになってるわ!インチキよ!」

アリアが蘭豹に対し抗議を始めるが、蘭豹はどこ吹く風。抗議されるのすら手慣れてるような気もする。

「そういう仕様なんや。考えてもみィ。下手したら1発で1万発出るんや。しかも確率じゃなく、入ったら確定。綺麗な形をしてる方がおかしいやろ」ガハハ、と一笑に伏した蘭豹だが、確かにそうだ。確定で1万発と聞けばみんなこの台しか打たなくなっちゃうからな。ブルーシートとかをかけてるのもここに来た生徒に対し、最後の最後でやらせるためだろう。何も言えなくなってしまったアリアだが、この間にも玉は回り続けている。1段目より更に不規則に回ってはいるが、ハズレの穴に引っ掛かり、クルクルと回り出してしまう。

「これはやばいかも…」

理子が縋るような声を出すが、玉はハズレの穴に弾かれ、そのまま綺麗に右側の赤枠へと吸い込まれていった。

「やった!やったよレキュ!」

理子が手をあげて喜び、レキに抱きつく。外野同様、見てるだけの状態のレキだが、抱きつかれて心なしか嬉しそうな顔をしてるな。まだ油断はできないが。2段目とは違って規則的に回る玉だが、ここが正念場。3段目まで来たとあって、蘭豹も焦るだろう…と蘭豹の方を見るが、余裕の表情。まだなんか仕掛けがあるのだろうか?気になってアリアが見ている台の反対側に近付き、じっくりと玉が回るクルーンを見るが変に思えるところはないな。むしろじっくり見すぎたせいか、反対側にいるアリアと見つめるような形になってしまう。向こうも気づいたのか、台からパッと顔を離した。その間にも玉は回り続けていたが、回る力は弱まり、今にもどこかの穴に落ちてしまいそうな勢いだった。

「入って…!」

白雪が祈るように呟き、その祈りが届いたのか、赤枠のところで回り始めたぞ…!

くる…くる…と力なく回る玉を全員で見つめる。蘭豹の不敵な笑みが気になるが、これはもう大丈夫だろう。とここで予想にもしないことが起きる。くるくる…ぴた、と。赤枠の穴の上で玉が停止した。一瞬、何が起きたか分からなくなり、全員の動きが止まる。1番に声を発したのは蘭豹だった。

「レキ。惜しかったなァ。仕切り直しや」

「…」

レキは無言。周りで見てた俺たちでもわかる。

これはかなり厳しい。今回はなんとか仕切り直しにはなったが、実質2段目の赤枠は一つだけ。仮に突破できたとしても、今みたいに赤枠の上で止まったら仕切り直しになってしまう。

レキならばあるいは…という期待もあるが、それも完璧とは言えない。ひとつ誤算があるとすれば、蘭豹としては赤枠に止まる前にハズレ穴に落ちておしまい…という流れでいたことだろう。

「…蘭豹先生。玉がひとつなのは変わりませんが、別の台にしても良いでしょうか」

ここでレキが立ち上がり、蘭豹に対し提案をした。

「かまわんで。どの台にするんや?」

レキがそのまま通常の遊戯台の方に歩き、蘭豹もついていく。

「…無理ゲーじゃん」

後を追いたいが、ここで理子が諦めたように呟く。仕切り直しになったとはいえ、最後の最後でこれだったのだから気持ちは分かる。ので、

「逆にこの台で仕切り直しに持っていったレキがすごいと思うけどな。台を選ぶってことは、まだレキには勝算があるんだ…多分」

「多分、じゃなくて確定よ」

珍しく言い切ったアリアの方を向くと、自身ありげに腕を組み、勝ち誇ったような顔をしていた。

「確定?どういうことだ?」

「ちょっと考えればわかることよ。キンジも少しは考えてみなさい?白雪はわかってるみたいだけど」

いまいち理解ができず、考え込んでしまう。

「キンちゃん、レキさんが打つ前に言ってたの、覚えてない?」

横で白雪が助け舟を出してくれる。打つ前に言ってた事…そういえば。

「あたりもハズレもしなかった場合はどうするか…だったか?」

「そういう事。レキは当たらないことを分かってた。でも打つって言っちゃったから、仕切り直しに持ち込んだんじゃないかしら?」

「そういうことか」

「今反対側の3段目も見たけど、赤枠の大きさ変わらないよ。どっちに入っても止まるようにできてる」

打ち終わった後の台を見ていた理子がそんな報告をしてくれる。やっぱり続けなくて正解だったってことだな。

「後はレキに任せるしかないわね…どの台を選んだのかしら?」

先に歩いていったレキと蘭豹を追う。奥まった場所のレキが座っていた台は1/479の台だった。

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からんっ、と言う乾いた音が鳴り、レキがハンドルを握る。1/479とは、1発で大当たりを引く確率は約0.2%。更にヘソに入れることが大前提だから、確率はもっと低くなる。さっきとは違い確率台だから、もう打ったら先がわからないぞ。

「…」

レキは無言のまま、あっさりと玉を打ち出してしまう。カツン、カツンッと釘に弾かれていく玉が、吸い込まれるようにしてヘソに入っていった。上皿にはヘソからの賞球で玉が3つ払い出されてる。これでまた打ち出せる球数が増えたが、液晶では当たることはなく、バラバラの数字が映し出されてる。なんの躊躇いもなく更に打ち出すレキだが、カツン、カツン。と、さっきと同じような動きをして3球ともヘソに入った。上皿には3×3で9球。更にその9球も続けて打ち出し、その全てが磁石でもあるかのようにヘソに吸い込まれていく。

「レキュ…えぐいやり方するねぇ」

後ろで見ていた理子が何かに気づいたのか、口に手を当てた。

「なんだ、レキがなんかやってるのか?」

不思議に思って理子に聞いてみるが、理子は笑うだけ。

「後5分もすれば答えがわかるはずだよ。それより、キーくん玉を入れる箱用意しといてくれない?」

箱?これからレキが大当たりでもするのだろうか。訳のわからないまま箱を取りに行き、帰ってきたところでその異変に気がついた。当たりを引いてるわけではないが、レキの打つ玉が全てヘソに入り続けているのだろう、保留は溜まりっぱなし。それでも打ち続けるもんだから、ヘソ戻りの玉で下の箱が溢れかえってる。すぐに箱を変えて後ろから見守るが、なんだか異様な光景を見せられてるな。ヘソの賞球のみで玉を増やすという、レキにしかできない芸当だ。

約30分ほど打ったところで、レキが打つのをやめた。残っていた球を出し、ぱんぱんになったドル箱を一人ひとつ、玉を測ってくれる計算機械に持っていく。

「測ったるからそこ置いとけや」

負けを確信してるのか蘭豹の言葉遣いは荒い。

全ての球を計算機に入れ終え、球数のカウンターに表示されたのは…10002の数字。3の倍数で数えて、きっちり超えるところでレキは止めたんだな。

「合格や合格!お前らもうええ!これで訓練は終いや!」

蘭豹的に面白くなかったのか、やっつけになってるような気もするが…これにて一件落着だな。その場にずっといても怒られる気しかしなかったので、そそくさとその場を離れることにした。

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空がすっかりとオレンジ色に染まり、特にやることもない5人は初任務(訓練ではあるが)の打ち上げをするため、学園島唯一のファミレス、ロキシーに来ていた。

「いやー!レキュはさすがだねえ」

「本当。途中から入るのが当たり前に思えてきちゃった」

席についてすぐにウェイターが水を運んできて、そのまま注文を終えて訓練の話題に花を咲かせる。等の本人はと言うと、レジカウンターに置いてあったカロリーメイトを買って黙々と食べてる。ブレないよなぁ。

「レキ。クルーン台のカラクリには気づいていたのか?」

「はい」

「分かってて打つなんて。レキにしかできない芸当よね」

ドリンクバーから戻ってきたアリアが呆れたように言う。

「でもあのくじ引いたのがレキじゃなかったら今頃フルマラソンなんだぞ?」

「今回はレキュに助けられたよねぇ。そうだ!ここの会計もクジにしちゃおう!」

なんでそうなる。といいつつも言い出したら聞かないのが理子。ポケットの中から小さいサイコロを出してきた。

「…イカサイじゃないだろうな」

イカサイとは、イカサマがされてるサイコロのことだ。重心が違ったり、角が削ってあって良い目が出やすくなってたりするのがそうだ。

「なんなら確かめてみる?」

手に持って確かめてもみるが、特におかしいと思える点は…ないな。

「出目が大きい人が勝ち。一番小さい人の奢りって事で。ビリが二人だったらサドンデス!じゃあレキュから!」ちょうど来た料理を皆が食べつつ、一人

カロリーメイトを黙々と食べ進めていた手を止め、片手で受け取るとそのままサイコロを転がした。転がり方も違和感はない。ちょうどアリアのコップに当たるような形で止まったが、出目は…6。最高の手だ。その後も白雪、アリア、理子と周り、それぞれ4.2.3。3以上を引けば奢りではなくなるので、確率としては3分の2。

「じゃあ…投げるぞ」

変に気負いたくないので適当に投げたんだが、コロコロと転がるサイコロは今度はレキの水の入ったコップに当たる。しかし今度は勢いがあったのか弾かれてしまい、出た目が…1!

「キーくんビリ決定!」

理子がニコニコしながらサイコロを回収する。すぐに取ったあたり、何かしらのイカサイではあったとみるべきだが、そのカラクリが分からなければ普通のサイコロと変わらない。打つ手無しだ。

「分かったよ。でもそんなに金が有る訳じゃないんだ。ちょっとは遠慮してくれよ?」

諦めたようにそういうが、アリア達はこぞってデザートを頼み始めた。白桃アイス、デラックスストロベリーいちごパフェ、ももまんタワー、ヘルシークッキーの詰め合わせ…4者4様の注文で空恐ろしくなって伝票をチラ見したが…軽く五桁を超えてる。少し落ち着こうと椅子に深く座り直したところで、アリア達を見てあることに気づいた。単純なことだ。普通の高校生ってこんな感じじゃないんだろうか、ってな。学校が終わって、みんなで集まってご飯食べたりして…なんでもないような会話で盛り上がる。普通校に通ったことはないから分からないが、あんまり大きく違うところはないんじゃないだろうか。

「今度は違うゲームもやりたいねぇ。トランプとか、ビリヤードとか」

「トランプはあんまり良い思い出がないのよね…麻雀なら最近本を読んだからできるわよ?」

「イカ賽使ってチンチロとかも面白そう。後はルーレットとか?」

「わ、私もちょっとやってみたいかなぁ…」

「……」

…どうやらバスカービル内でまた新たな戦いが始まりそうだ。

アリアがこちらに向き直し、指をさしてくる。

「キンジも参加するのよ?もし参加しないって言うなら──」

どうせ強制参加なんだろう。拒否権ないんだろうし。

「風穴開けてやるんだから」

アリアは笑顔でそう告げてくるのだった。

 




今回の内容はいかがだったでしょうか。最後の終わり方が決まらず2日悩んだのは内緒です。次回作に関してですが、レキ回、ネモ回の二つを予定しています。それではまた次の投稿でお会いしましょう。 やんかつ

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