また、28巻、35巻読了前提でネタバレを多く含むため、まだ読んでない方は先に原作を読むことをお勧めします。
それでは本編をどうぞ!
「ようやく……キンジと話す時間ができたな」
あの島での、最後の夜。
ネモは言っていた。『もっと話す時間が欲しかった』、と。
「俺も、お前とはもっと話したいと思ってた。願いが叶ってよかったよ。ただ、話すのは島じゃ思いもよらなかったテーマになりそうだけどな」
「ああ、分かってる。ルシフェリアの所に連れて行ってくれ……と言いたいところだが」
と、ここでネモが俺の顔をまじまじと見つめ始めた。なんだ?
「久しぶりに会えたんだ。少し歩かないか?」
「まぁ……いきなり本題に行くのもなんだしな。どこか行きたいところはあるか?」
ネモが置いたままのトランクを持ちつつ、問いかける。
「この辺りの地理に詳しいわけではないから、キンジに任せるとしよう」
「俺もそこまで詳しいわけではないんだが……飯はもう食べたか?」
「む。そういえばまだ食べていないな。キンジに会うことばかり考えていた」
なんでそんなことを真顔で言えるのか。ネモからしたら、当たり前のことなのかもしれないが。
「夕飯前だからガッツリは食べないとして……近くに確か茶屋があったから、そこにいこう」
「茶屋か。日本では茶が有名だと聞く。楽しみだな」
丸の内仲通りを戻り、店に着いたところで少し中を見る。人気店なんで空いてないかとも思ったが、時間的にも大丈夫そうだ。
「ここだ。入るぞ」
「うむ」
中に入ると、店員さんが個室に通してくれた。ありがたい。ネモと話す内容は、場合によっては人に聴かれちゃ困るからな。
荷物を置いて注文を終えたところで、一息つく。対面のネモを見ると、周りが珍しいのかキョロキョロ見てるな。
「なんというか……落ち着く雰囲気だな」
「そういう店だからな」
ちなみに俺が頼んだのは抹茶。ネモはほうじ茶だ。
「島にいたときは、こうしてゆっくりすることもままならなかった。お互い必死になって生きることを考えてたからな」
「そうだな」
「今思えば大変なこともあったが、楽しいことも多かった。貴様は何が印象に残っている?」
机に肘をついてそう聞いてくるネモに対し、俺はしばし考え込む。
「2人でって考えると、家を建てた時だな。生き延びることじゃなくて、生きることを考えたのはあの時だった」
嵐で何もかも無くなって折れかけてた心が、家を作ることに没頭したおかげで気が紛れたし。
「家づくりか……確かにあれは楽しかった。なんなら2人の時はご主人様と呼んだほうがいいか?」
家を作っていた時のことを思い出したのか、ネモがそんなことを言ってくる。
「あの時は2人きりだったから問題なかったんだ。この場でそんな呼ばれ方したヘンな噂が立つからやめてくれ」
2人きりになったとして呼ばれても困るけどさ。
「冗談に決まってるだろう」
ネモの冗談は本当に冗談なのかどうかが分かりにくい。腕を組んで悩んでいると、店員さんがお茶を持ってきてくれていた。
まじまじとカップを見るネモに対し、俺はそのまま口に運ぶ。
ほうじ茶をホットで頼んだネモには熱かったのか、あち、と口をつけてすぐ離してしまった。
「ちょっと冷ました方がいいかもな」
カップを両手に持ってふーふーするネモを見ると、無人島の時や戦艦の時とは違う、年相応のネモになったような気がした。再度カップに口をつけたネモを見て、ふと、出会う場所が武偵高とかだったなら、こうして一緒に過ごす時間もあったのだろうかと考えてしまう。
「まだ少し熱いが、美味しいものだな。コーヒーのようなほろ苦さはないが、なんというか、癖になる味だ」
更に半分ほど飲み終えたのか、ネモがそんな感想を言ってくる。
「日本じゃ100種類以上のお茶がある。お前好みのお茶はまだまだたくさんあるだろうさ」
「そんなにあるのか。100種類飲むまで貴様にも手伝ってもらうとしよう」
「それは無理だろ」
「哿《エネイブル》の二つ名が泣くぞ?」
「ぐっ……」
自分は可能を不可能にする女《ディスエネイブル》のくせに。ずるくねーのかよ。
口論をしても国家学位《バカロレア》を出てるお嬢様には勝てないので、抹茶を飲んで文字通り溜飲を下げる。すると、タイミングよく店員さんが和菓子を運んできてくれた。
「……これは?」
「羊羹だ。くっついてる和菓子切りで切って、刺せばいい」
「ナイフに近いな」
そう言って羊羹を切り分けると、一口サイズとなったそれを俺の方に向けてきた。なんだ?
訳が分からずぽかんと口を開けていると、ネモが羊羹を口に押し込んできた。
「キンジにしては理解が早かったな。よろしい」
完全に偶然だったが、ネモの機嫌がよくなったのでそっとしておくことにしよう。
もぐもぐと羊羹を食べているとネモがこちらを見つめてきた。一瞬迷ったものの、これはアーン待ちをされている…気がする。
羊羹を切り分け、落ちたらことなので手を添えながらネモの口へと持っていく。
はむ、と羊羹を食べたネモだが、食感が独特なのもあり表情をコロコロ変えている。
食べ終えたネモはほうじ茶を飲んで一息ついたようで、
「羊羹とは甘味だったのだな。ほうじ茶にもよく合う」
「お茶に合わせて茶菓子を変えるくらいだからな」
残っていた羊羹をほおばり、抹茶を飲み切る。ネモも同様に食べ終えたようだった。
「さて、行くか」
席を立ちあがり、会計を済ませて外に出る。ここは私が、と言うネモだったが、せっかく日本に来てくれたのだ。これくらいのことはさせてほしい。
「すまない。私が誘ったのに……」
「いいって。美味そうにしてるネモが見れたし、大したことはしてない」
そういうとネモは顔を半分覆って、明後日の方向を向いてしまう。
……勝手に払ったから不機嫌になったんだろうか。次は逆に払ってもらうとしよう。
「暗くなっても困るし、家に戻ろう」
「あ、ああ。そうしよう」
振り返ったネモは一瞬名残り惜しそうにしたが、そのまま横についてきてくれた。
東京駅に戻り、山手線のある5番線を目指す。
方向音痴だと言っていたネモは人がごった返す東京駅は不安なようで、かなり俺にくっついて歩いてる。
見知った場所を歩き、後は階段を下りるだけなんだが、帰宅ピーク前だというのに人が多いので、仕方なく振り返りってネモの手を握った。
「俺が前に行くから。足元注意な」
「わ、分かった」
階段の隅の方を下り、手すりを使いながらなるべく人と接触しないようにしたんだが、途端にネモを握っていたはずの手が軽くなる。
「きゃっ」
慌てて振り返り、ぐい、とネモの手を引っ張る。俺の方に倒れ込んでくるネモだが、何とか腕にしがみついて事なきを得た。
「…とりあえず、大丈夫そうだな」
「す、すまない。後ろから押されてしまって」
俺の腕を離さないネモはどうやらぶつかられたらしい。そのまま階段を降り、ちょうど来ていた電車に乗り込んだ。
ネモはまだ腕をつかんでおり、ついでに手も握ってきた。指を絡めるように……いわゆる恋人繋ぎで。しかし当の本人は気づいていないらしく、俺だけがドギマギさせられてしまう。指摘したらしたで何か言われそうなのでそのままにしておく。とはいえ、こんな状況じゃなぁ。
「…電車乗るのにもこんなに苦労するなら陽位相跳躍《フェルミオンリープ》で来ればよかったんじゃないか?」
何とか話題を出そうとふとそんなことを聞いてみる。超々能力を使えば電車賃も浮くわけだし。
「陽位相跳躍《フェルミオンリープ》はおいそれと使えるものではないのだ。貴様も身をもってわかっているとは思うが、正確な座標や設定などしなくてはいけないし、何しろ知らない場所には行けない。視界内であればいけないこともないが……後は強い印象のある場所なら可能だ」
うわ。藪蛇だった。確かに身をもってわかってはいるけども。
「てことはノーチラスとかになら一瞬で帰れるってわけか。俺もそんな能力ほしいもんだよ」
「メリットばかりではないのだがな。重宝はしている」
陽位相跳躍《フェルミオンリープ》を褒められたことで、ネモの顔が綻んだ。前半部分のトゲのある内容を無視し後半から話題を広げる。若干話題逸らし《スラッシュIII》っぽくなったが、こういうリスクは回避するに限る。
気づけば新橋駅についていたので、乗り換えでゆりかもめへと向かう。
ネモはゆりかもめに乗ったことがないらしく、強く手を握りながら落ちたりはしないのか、と聞いてきたので乗ればわかる、とだけ伝えて中に入っていく。
山手線に比べれば人が少なく…というよりちょうど誰もいなかったので、ドア付近の椅子に座ることにした。ほどなくして動き始めたが、揺れ方が怖いのかぴったりとくっついてくるネモ。
不意に手を握り返すとネモがこちらを見上げてきた。瑠璃紺《ガーターブルー》の眼を見開かせてわなわなと口を震わせている。握られた手と俺を交互に見やり、その顔はどんどん朱色に染まっていく。なんだ。なんで赤面しているんだ。
「なっ、なっ、なんで私が貴様と手をつないでいるのだ!いつからだ!そんなことまで許した覚えはないぞ!」
揺れる電車内だというのに立ち上がってぽかぽかと拳でミニハンマーを落としてくるネモ。超近距離のため、大したダメージこそないものの、身動きは取れない。
「か、階段降りるときにつないだだけだろ!指摘するタイミングもなかったんだよ!」
「そんなことは言い訳にならん!ええい、レーザーで───」
俺を見据えて前に倣えの形を取ると、瑠璃紺《ガーターブルー》の眼を光らせ始めた。このまま撃たれたらゆりかもめごと貫通しかねん。立ち上がって猫だましをしようとしたところで、電車が大きく揺れる。
「う、うおっ」
「きゃっ」
前につんのめるようにバランスを崩したものの、転倒するようなことはなかった。しかし咄嗟に伸ばした両手は何か柔らかいものを掴んでおり、何か嫌な予感がして顔を上げる。案の定、俺の両手はネモの両胸を掴んでいた。それも、割としっかり目に。
「……ネモ、さん?」
顔を伏せたままのネモに対し、恐る恐る声をかけて手を引こうとするが動かせない。両側から万力のような力で掴まれているからだ。
こんな時でもHSSの波を感じてしまう自分に嫌気が刺すが、この時ばかりは感謝の方が強いかもしれない。
非HSSの俺だったら目の前の修羅のようなオーラに対抗できる気がしなかったから。
伏せていた顔を上げ、一瞬で俺の腕を交差させると、ネモは変則一本背負いの形をとった。身長差があるこの状態では、背負い投げではなく――てこの原理で折るつもりらしい。よほど怒りを買ってしまったんだろうと反省すると共に、甘ヒスくらいになった頭で対処法を練る。瞬間、一息に折りに来たネモの力に逆らわず、その場でネモを飛び越えるようにして事なきを得る。
「電車内で起きた偶然の事故じゃないか。そんなに眉を寄せたら、かわいい顔が台無しだよ」
ネモに振り返りつつ、どうにか怒り心頭のネモを宥めようと試みる。
「どうしてそう貴様は何度も…!しかもそれはHSSだろう!」
がう!と威嚇するように犬歯を見せるネモ。怒りは収まってないらしい。が、ちょうど電車が目的地だった台場駅に止まる。
俺が降りるとネモも警戒したままではあったが降りてきてくれた。
一定の距離を保ってついてくるネモに対し、このままアリアの家に行ったら2丁拳銃のお世話になりつつショートソードでぐさぐさ刺される目に合う気がしたので、切れかけた甘ヒスの頭である店に行くことにした。
前に行ったのはアリアのためにエスプレッソを買いに行ったときだろうか?
「……どこに向かっているんだ?」
大通りを外れ、細道に入ると後ろにいたネモが声をかけてきた。
「コーヒーショップだ。お前が気にいると良いんだが」
「私が?」
コーヒーショップ、と言ったあたりから怪訝そうだったネモの顔が明るくなる。
目印にしていたさびれた看板を見つけ中に入ると、一人しかいない店員が会釈してきた。
「カフェオレに合うコーヒー豆もあるだろうよ」
「豆があっても挽くことができないだろう」
「ここなら試飲できるしアリアの家にはドリップメーカーがある」
「……探してこよう」
俺の先に行くネモの足取りは軽やかだ。自分がいつも飲んでいる豆があるかを探しにいったのだろう。
俺も俺でコーヒーは飲むので、周りを探していたんだが……なんだか視線を感じる。
ネモかと思って振り返ったが、どうやら違うようだ。視点を下に向けると俺を見上げていたのは猫だった。
人懐っこいのか、しゃがんで手を出すと顔を摺り寄せてきた。猫で思い出したが……世界には猫の糞をコーヒー豆にして挽くというのを聞いたことがある。この店にはないらしいが、猫の糞が原料ということもあってかなり高価らしい。変な雑学を思いだしつつ猫を撫でていると、棚の影からネモがひょっこりと顔を出してきた。
「お探しのものはあったのか?」
「ああ。名前は同じだが、中身はまだわからんな」
ネモが渡してきた袋にはchicoree、と書かれていた。
「チコレ、か?」
「惜しいな。シコレと言う。苦みが強いが独特の甘みもあるから、キンジも一度飲んでみるといい」
受け取った袋を店員に渡すと、試飲をさせてくれるとのことだった。
近くにあったカウンターに座り、ネモとともにいつの間にか2匹に増えていた猫とじゃれていると、店員さんがコーヒーを持ってきてくれた。
ネモがさっと受け取ると、スンと香りを確かめる。香りがあっていたのか、ネモは明るい笑みを浮かべてカップに口をつけた。
それを見ていた俺だったが、同じように出されたコーヒーの香りを確かめるとほのかにキャラメルのような香りがすることに気づく。独特の甘さってこれのことなのかな。かなめが好きそうだ。
試しにそのまま飲んでみるが、想像よりだいぶ苦い。
横でミルクを入れて優雅にたしなむネモに倣い、俺もミルクを入れて少し混ぜてから飲んでみる。
お、まろやかになった。
苦味が抜けて甘さが出てる。比較対象がさっきのコーヒーだから余計にそう感じるのかもな。
「目当てのものであってたのか」
「いつも飲んでるコーヒーだった。日本でこれが飲めるとは……感謝するよ。キンジ」
にっこりと笑うネモは年相応の可愛さで、不意にドキッとさせられてしまう。それに……珍しいな。名前呼びされるのは。いつも貴様、とかおい、とかって呼ばれるのに。
ネモの言葉に少し気分をよくした俺は膝上に乗っていた猫を床に下ろし、お手洗いだと言って席を立つ。場所はわかっていたのですぐ向かえるんだが、ちょうど近くに来ていた店員に声をかけ、ネモが選んだコーヒー豆を先に買っておくことにした。理由とするなら、ゆりかもめでの負い目が半分。後は、あの笑顔をまた見たいと思ってしまったから。お互い敵同士としての初対面だったが、無人島で一緒に過ごした時間や、境遇を知るようになって互いに共通する部分も少なくなかった。同情だというつもりはないが、ほっておけないというか。そそくさとお手洗いを済ませ、ネモの元に戻る。ネモはもうコーヒーを飲み終えたのか、さらに増えた三匹目の猫と戯れていた。俺を見つけるなり顔をあげ、同時に猫も持ち上げたりなんかして楽しそうだ。
「……そろそろ帰るか」
「そうだな。ルシフェリアのことも気になるし、これ以上はいい時間になってしまうだろう。キンジ、バックをくれないか?」
ネモは豆を購入するつもりだったのだろう。俺の席にあったバッグを要求してきたので渡したが、ここで店員さんが現れた。手には偶然にもネモの髪色に似た紙袋を持っている。合わせてくれたのかな。
「…?……!」
ネモが訝しんで店員と俺を見やるが、察し良く気付いたのだろう。店員から紙袋を受け取ってなぜか俺の方を睨んでくる。数瞬迷ったような顔をしてから、俺の方に体を向き直した。
「…ありがとう」
「俺もまた飲みたかったしな」
「キンジらしい答え方だ。ありがたく受け取っておく」
紙袋をバッグに入れたネモを見て、とりあえず荷物を持っておこうと手を伸ばす。
はしっ。
「え?」
「ん?」
ネモはバックを持っていない反対の手で握ってきた。お互いの思考が止まる。なんで手を握られてるんだ。
「俺はただ荷物を持とうと…」
「そっ、そうならそう言えばいいだろう!紛らわしいことをするな!」
べち!とネモ式のハイタッチビンタで叩かれ、更に追撃が来そうだったので回避しながら店員さんに会釈して外に逃げる。赤面したネモが追ってきたが、叩かれることはなく、横について歩いてきた。
「貴様はなんなのだ。上げたかと思えば落とすし、また落としたかと思えば上げてくる。何を企んでいる」
ジト目がちに俺を睨んでくるネモだが、企むのたの字もない俺にはどうすることもできない。
「何も企んじゃいねーよ。ただ……怒らせたのは謝る。すまん」
「そうか」
申し訳なさそうにネモを見ると、本気で怒っている、というわけでもなさそうだった。
「まあ、貴様のことだ。頭で考えるより先に体が動くのだろうさ。感覚派の性とでもいうのだろう」
持っていたバッグを俺に渡して隣を歩くネモだが、その表情は明るかった。
橋を渡って人工埠頭に入るとポツポツと街灯がついていたが、目の前に見える真っ赤な夕日のせいか暗さは感じない。ちょうどバスが行ってしまったので、仕方なく女子寮に続く一本道を歩くことになった。歩き始めて少したった頃、不意にネモが目の前に手を伸ばす。横を見ると、その手にはいつの日か俺が渡した青瑪瑙の石が握られていた。
「…懐かしいな」
「うむ。あの島で絶望していた私とは違い、同じ境遇でも必死に生きて、あまつさえ私を助けるようなお人好しがくれた…唯一の宝物だ」
聞いててこっぱずかしくなったが、それが誰かまでを言わないあたりがネモらしいな。言ってて恥ずかしくなったのかネモの頬も赤いけど。
「辺り一面の花畑。白のジャスミンだったな。夜には───360度、満天の星空だった。忘れないさ。あの景色を、俺と一緒に見てくれた人がいる」
まるで張り合うかのようにそういうと、ネモは驚いたように俺を見上げた。
「今はHSSではないのだろう?よくそんなセリフが出てくるものだ」
「思ったこと言っちゃ悪いのかよ。あの時は確かに大変だったけど、それだけじゃなかった。それをわかってくれるのは同じ体験をしたネモだけだからな」
でもよく考えると確かに恥ずかしい。むしろお互いわかってるなら言う必要もないんだし。若干気まずい雰囲気になり、周りは静寂に包まれ、俺がうんうん唸りながら一人で自己嫌悪に陥っていると、女子寮が見えてきた。指をさしてネモに伝えると、どこか名残惜しそうな顔をしてこちらを見上げてくる。
「もう、ついてしまうのだな」
ネモはポツリとそういうと、今度は顔を俯かせてしまう。顔は見えていないが、多分、無人島での別れが来た時と同じような表情をしているのだろう。俺もこうした時間を終わらせたくはないが、始まりがあれば終わりがあるわけで。でも、終わるのなら──また始めればいい。
「また出かければいいだろ。今日は確かに終わっちまうが、それで最後ってわけじゃない」
そういうと、ネモは確かにといったような顔でうん、うん、とうなずいた。
程なくして女子寮の門前についたところで、
「次の候補地だが、私にいい考えがある」
と、ネモが声をかけてきた。
何故か更に笑顔になっていたネモに対し、階段を上りつつ考えがつかない俺が場所を聞くと、その質問を待っていたとばかりに俺を見上げてきた。
「我々はお互い組織の前線維持のため日々激務をこなしている。それ相応の対価としてバカンスなどよいのでは、と思ってな」
目的の3階、階段を登り切る直前にネモが言おうとしている事に気づいた。
俺が足を止めたところで、逆にネモが階段を上りきる。
「…その場所は?」
答えがわかっていながらも、俺を追い越したネモの背中にそう問いかける。
「──南の島だ」
振り返ったネモの微笑みは、あの島で見たミステリアスな笑顔だった。
キンジ×ネモ。
いかがだったでしょうか?
作中に登場した茶屋は実際にモデルにしたお店があり、コーヒーショップに関してはifストーリー2話で登場した架空のお店となります。大分悩みながら描いたのでよろしければ少しでも感想をいただけると嬉しいです。
また、原作オマージュもかなり入れてますので、気付けたいましたら感想かTwitterリプ等にて教えてください!