翌日の昼にもまた衣舞紀によって中庭に連行されてフォトンのメンバーと一緒に昼食を食べていた。案の定私はパソコンで公募用の曲を作りながら売店で買ったおにぎりを頬張っていた。そんな中でも私は一向に手を止めず、話を聞いて私に飛んでくる質問だとかを流す感じで返して作業を続けていたのだが、ノアと乙和からのスキンシップとしてのボディタッチにも動じなかった。咲姫に関しては作業している姿をずっと見ているだけだった。
「んでスピカ、次の土日は空いてるの?」
「大丈夫、この2日はツアーライブもないし、オフだから遊びには行けるよ」
フォトンのメンバーと親睦を深めるためにとレッスンがないらしい次の土日にフォトンのメンバー一人ずつと遊ぶ約束をしていたわけだった。順としては衣舞紀、乙和、ノア、咲姫の順になっていた。日程決めが終わったタイミングで昼時間が終わったので、衣舞紀と一緒にクラスに戻ることにした。
土曜日、朝早くからいつも通りランニングをしている衣舞紀の横にはスピカがいた。というのも、朝のランニングに付き合ってくれと衣舞紀に言われたので、付き合ってはいるのだが、スピカの目は死んだ魚のように細めていた。スピカは朝が弱いため、ランニング中はふらふらとしていた。そして今はスピカの家のそばにある公園で休憩していた。
「ごめんね、朝が弱いなんて知らなくて」
「構わないよ、行ってなかったし」
お茶を飲みながら話を弾まさせていた。スピカが何故Stardustに入ったかとか、トラックメイクをするきっかけなど全て話した。それに合わせて衣舞紀も中学校の話をし始めた。熱量はうつって一緒に走ると思っていたこと、それは間違いで一人になっていたこと、そして今はフォトンのメンバー3人とスピカの4人が傍で一緒に走っていることを...。
「成程ね、だったら朝付き合ったんだし、これから一緒に付き合ってくれないかしら?私のもう一つの顔、見れるかもよ」
「それはどういうこと?」
「触ってみてよ」
そう言ってスピカは自分の左腕を衣舞紀の前に出した。それを衣舞紀が触ると驚いた顔をした。
「程よい筋肉、見た目では分からなかったけど、DJだけでは付かないよ」
「その理由はこれからわかるよ、朝食食べるから、その後駅前で落ち合いましょう」
そして午前9時30分を回った時に駅前で衣舞紀はスピカを待っていた。30分前にはもう着いていたために、プロデューサーの紗乃の曲を聴いて待っていた。その時近くでナンパをしている声が聞こえたので、何事かと思ったらスピカがガラの悪い二人組に絡まれていた。
「待ち合わせしているので他を当たってください」
「そう言うなよ、結構可愛いし俺好み」
「分かる、持ち帰りたいくらいだよ」
見るからにやばそうな雰囲気を出しているし、スピカが困っているから助けに行こうとしたら一人の男性に止められた。
「大丈夫、君はそこにいてくれ、ここは俺がやる」
そう言った男性はナンパをしている二人組の一人を一瞬で弾き飛ばし、もう一人の男性も取り押さえていた。事態に気づいた交番の警察官が駆け寄り、事態を話してガラの悪い二人組の身柄を交番に連行して事なきを得た。
「ありがとうございます。L.Eさん」
「いいってことよ、ヴァルゴさんが困っていたんだから動くのは当然でしょ」
ガラの悪い二人組を成敗したのはスピカの音ゲー仲間にして店内2位の実力を誇るL.Eさんだった。L.Eさんは空手の有段者ということもあって、この状態を鎮静するのは朝飯前なのだ。ちなみに空手の道場はダリアがいる道場なのはここだけの話。
そんなことがあった中だが、10時にはゲームセンターに到着し、開凸に間に合った。
「ここってゲームセンターだよね、もう一つの顔ってゲーマー?」
「ただのゲーマーじゃないけどね、ほら行くよ」
中に入ってすぐに音ゲーコーナーに着いたと思ったら縦に長いモニターがある機種の前に立って軽くストレッチをしてプレイをし始めた。1曲目ということもあって程よい難易度帯(普通の人なら出来はしないレベル)を1曲プレイし、綺麗にPerfectを出していた。その時のスピカの腕の速さや動きに驚きを隠せなかった。
「今の動き何?理解できないくらい速かった」
「これが私のもう一つの顔の音ゲーマーだよ、かなり高い実力を持ったね」
そう話しながら2曲目にスピカがその音ゲーに書き下ろした楽曲をプレイしていたら見覚えのある少女が現れた。
「やっぱり来たね【青薔薇】、いや、葵」
「まったく、ヴァルゴがいるのは分かってたけど、なんで新島さんがいるのよ、幸い他の人がいないから良いのだけどさ」
「あはは、スピカに付き合ってほしいと言われてね、青山さんこそ何故ここに?」
青山葵(あおやまあおい)、同じ陽葉学園高等部2年にして別のクラスだがスピカの中等部時代からの親友で、同じ音ゲーをプレイしている【青薔薇】と言う名前で活動している娘だった。
「決まっているよ、音ゲー、今スピカがやっていたゲームを私もプレイしているのよ」
「だったら見せてもいいんじゃない?私達の本気の戦い」
「軽くウォーミングアップさせてくれない?本気でやるならそれくらいさせてほしいよ」
そう言って葵もプレイし始め、ウォーミングアップを済ましたらいきなり最高難易度に位置する曲を3曲一気に二人でプレイし始めた。その恐ろしく速い手の速さもそうだが、集中力も二人とも相当高すぎてその姿を見ていた衣舞紀や見ていたギャラリーを魅入らし、まるで公式大会のようなハイレベルの戦いを繰り広げていた。
お昼時になった時に葵はそのままプレイするからと言って別れ、乙和が待っている喫茶バイナルに寄ることにした。
「で、午前中だけだったけどどうだったの衣舞紀?」
「充実はしたけど、スピカのもう一つの顔を知れたのは大きかったかな、動きとか凄かったし、アスリートレベルだった」
三人で昼食を食べながらスピカと衣舞紀が午前中にあったことを乙和に全て話した。
「へえ、そんなことがね」
「まあ葵が乱入してきたらああなるよ、葵は店内どころか全国トップの実力者だし」
「葵って青山葵のこと?」
「そうよ、中等部時代からの友人なのよ」
話題は葵の話に変わっていた。乙和がいるクラスに葵はおり、その葵とスピカが友人関係だったことに驚きを隠せていなかったようだ。
「これからは私と一緒に遊びに出るのよね?行きたいところがあるんだよ」
「付き合うわよ。今日と明日はフォトンのメンバーと遊ぶって、そんな約束でしょ」
「よ~し、昼食食べたことだしスピカ、行くよ!!」
「ええ」
青薔薇の正体分かりましたね