家に着くと、咲姫は家の前で待っていた。なんでも、3分前には待っていたらしく、悪いことした気分にはなったが、咲姫はそんなことは思っていなかった。
「それじゃあ行くか」
そう言って私は咲姫と一緒にある場所に向かった。
歩いて30分ほどで目的の場所に着いた。その場所というのが、親戚が経営しているクラブハウスのアステリズムだった。どうしてこの場所かというと、咲姫はPhoton MaidenのDJをやっているということで、咲姫のDJテクニックがどれくらいなものか知りたかったし、同じDJをやっているという共通点からヒントを上げれるかもしれないと思ってこの場所に連れてきたのだ。
「阿久戸、いる~?」
今の時間だとクラブハウスはやっておらず、最悪オーナーの牛飼阿久戸は寝ている可能性もあった。けど、中から阿久戸が出てきたので、そこのところは問題はなかった。
アステリズムに入り、ライブで使用するDJ台の方に足を運んだ。軽くは機材チェックを済まし、問題がなかったので咲姫にDJをやってみるように伝えた。
「分かりました。やってみます」
そう言って咲姫は一発目におとなしめの曲をかけ始め、綺麗に次の曲をかけ始めた。繋がりも良く、エフェクトのかけ方も悪くなかった。オーディションに受かってメンバーに入っただけあって基礎と応用はマスターしていた。
「成程ね...悪くないけど、勿体ないところもある」
一通り流し終えた咲姫に率直な感想を話した。それを聞いて咲姫はとても喜んではいたが、改善できるところの話をし始めると咲姫の顔は真剣になった。
「例えば4曲目と5曲目の繋ぎのところ、咲姫ちゃんはフェードで繋げたと思うけど、あそこは私だったら5曲目の最初を4曲目のBPMに合わせて咲姫ちゃんが切り替えたタイミングと同じ時に入れ替えて徐々に元のBPMに戻しながらエフェクトを入れるね」
「なるほど」
「じゃあ実際にやってみるよ」
そう言ってスピカは4曲目最後から手前からかけ始め、言ったとおりに曲をつなげると、不自然なく曲が繋がった。それを見た咲姫は共感覚でスピカから広がる曲の色を見ていた。咲姫がやった時よりも強く、そして包まれるような感じで蒼く色が広がっていた。
「凄いです。蒼い色が広がっている」
「咲姫ちゃんは共感覚を持っていたね、どう?咲姫ちゃんがやったのと私がやったのどっちが良かった?」
「悔しいですけど、スピカさんの方が良かったです」
スピカはその意見を聞いて、まだ発展途上なんだし練習を重ねていけば近いところまではできるよと優しく伝えた。
それから2時間は経過しただろうか、ずっとスピカは咲姫のDJを指導していたが、その空間はとても良い雰囲気にはなっていた。が、スピカが時計を見ると「あっ!?」と声を出して焦り始めた。
「どうしたのですか?」
「これからDJ講座のゲスト講師に行かないといけないんだった。咲姫ちゃんも知識を付けるチャンスだし、一緒に行く?」
「そんなこともしているんですか、私も行きます」
そう言って咲姫は阿久戸にお礼をしてDJ講座を行うという楽器屋にスピカと向かうことになった。
到着した時には既に何人もの人がいたが、時間には間にあってはいた。咲姫は同じように受けに来た人達の列に並び、始まるのを待っていた。スピカはというと、セトリを渡し、曲の準備を済まして教えることをまとめたレジュメを鞄から取り出した。
時間になり、楽器屋の店長が登板し、挨拶をした。
「さて、今回のDJ講座のゲストは告知で知っている人は多いと思いますが、Stardustで実際にトラックメイクとDJをやっているコンポーザー、ヴァルゴです。どうぞ」
その言葉の後にスピカは登板し、レジュメをDJ台の傍に置いてDJをし始めた。皆が知っているような曲からスピカが作った曲などを6曲程流し、会場を盛り上げてからDJ講座を始めた。初心者もいれば経験者もいるということなので、分かりやすくDJで必要なことなどを教えた。
「じゃあ今持っている整理券の中から抽選で5人まで直接やってもらいながらアドバイスをしようかな」
DJ講座は終盤になり、そう言って店長が用意してくれたくじ箱に手を入れて5枚ほどすくいだし、そこに書いてある番号を読み上げていった。
「最後は15番の人、いるかな?」
それを聞いて咲姫が持っている整理券を見ると15と書いてあったので、登板することになった。まさかさっきまで教えてもらっていたのにもかかわらずまた教えてもらえることに嬉しくなっていた。
スピカは順番にDJプレイを見て、スピカが突っかかった所を指摘するという形をとっていて、終わった人たちは満足した顔で降板していった。そして咲姫の番がやってきた。
「咲姫ちゃんが最後なんだね、アステリズムの続きをやろっか」
マイク無しで咲姫の耳に語りかけ、咲姫は顔を真っ赤にさせたが、いざDJプレイをし始めるとそんなことはお構いなしにアステリズムで教えてもらったことをすぐに実践し始めた。完璧すぎるそのDJプレイにスピカだけではなく、受けに来ていた人達すら魅入らせる展開になっていた。
(やるわね、さっきまで教えていたことをもうマスターしている。飲み込み速度が早いのね)
そう言ってスピカはそれでもミスを出したところを指摘し、DJ講座は終了した。終わった後にはファンの数人がスピカの前に集まり、サインをねだっていた。
「分かったわ、ペンあるかしら」
楽器屋から出た二人は咲姫の住んでいるマンションの方に向かっていた。その間でも今回のDJ講座の話や、DJの話で盛り上がっていた。咲姫のマンションに着き、咲姫と別れたスピカはStardustの事務所に向かい、次のツアーライブの打ち合わせに出ることにした。
(出雲咲姫か、あの娘は絶対に成長する。そのためには誰かと対決して負けなければ分からないかもしれない...そう思えたわ)
そう思いながらツアーライブの打ち合わせを済まし、家に帰って今日のことを衣舞紀に電話で話した。
次からはツアーアンセムの話に戻ります。