スピカは走っていた。途方もなくただただひたすらに走っていた。彼此1時間ほどずっとランニングマシンに乗って走っていた。というもの、今スピカは衣舞紀と一緒に由香の両親が経営しているスポーツジムに来ていた。
遡ること13時間前、大会のために必死に練習をしていた時に衣舞紀から電話がかかってきた。次の日が休日ということもあって、衣舞紀から一緒に行きたい所があるということらしいので、一緒に行くことを二つ返事でOKしたのだった。そして翌日、待ち合わせの場所で衣舞紀と落ち合って一緒に衣舞紀が行きたいという場所へ向かった。着いた場所はまさかのスポーツジムだった。まあ衣舞紀が毎日の筋トレをしているのは知っていたので、そこまで驚きはしなかった。というか寧ろ衣舞紀がどんな感じで筋トレをしているのか見れるチャンスと思い、付き合うことにした。
「折角ならスピカも一緒にどう?気分転換になるし、音ゲーをやっているなら長時間プレイできるように体力つけるのもプラスにはなるでしょ?」
「そうだね、折角ならやろっかな」
という感じで一緒にジムで筋トレをしている訳なのだが、衣舞紀はベンチブレスをしているみたいだった。
「ヘイ、スピカさん、初めてにしてはいい運動をしているね」と由香が自分の筋トレを終わらせてスピカの方に向かってきた。
「由香、ただランニングをしているだけだけどね」と返したが、すぐに由香がスピカの二の腕と手を触ってきた。「ふぇっ!?」と思いがけない声を出してしまったが、由香は気にすることもなく触り続けた。
「へえ、細い腕をしているのにしっかりとした腕をしているのね、DJをしているにしてはしのぶより筋力ありそう」と言ってきたので、音ゲーで腕を酷使したりしていると話をしていた。
「ジェニー、スピカと話していたんだ」
丁度、衣舞紀がベンチブレスを終わらしてスピカの方へ歩いてきた。その時の衣舞紀は汗をタオルで拭っていて、その姿に少しスピカはドキッとした。
「そうなんですよ、意外とスピカさんも筋力あったから、もう少しトレーニングをしたらきっと今よりも綺麗な姿になると思うんだよね」と完全に由香の筋肉の話が加速していったのだが、衣舞紀が「ストップ、熱くなりすぎ、スピカはスピカで体力をつける為というのもそうだけど、私の付き添いできているんだからさ」と由香の勢いを止めた。そして折角ならと3人で昼食を近くにあるファミレスで取ることにした。
ファミレスに着いて注文を取ったのだが、衣舞紀と由香は筋トレのためか、鶏肉系の料理を選んでいた。そしてスピカはというと、好物のチーズケーキを注文していた。
「にしても衣舞紀とスピカさんって本当に仲が良いですよね。衣舞紀からは同じクラスで席が近いというのは聞いてますが」
「あはは、実は衣舞紀が転校してきてすぐに仲良くなったのよね、あれは確か私が作曲中に衣舞紀が声を掛けて来たのよね」
「そうだたわね、スピカは私の席の後ろだったし、休憩中に一人でパソコンで作業していたから気になったわけだし、今ではこうして付き合っているわけだしね」と完全に空気がほんわか(?)してきた。
「へえ....え?スピカさんと衣舞紀が付き合っている!?どういうこと!?」
まあ分かりきっていたが、由香の反応はとても驚いていた。未だに公表をしておらず、フォトンの公式からも大々的には公には出ていなかったこともあって、驚かない人はまずいなかっただろう。
「実は陽葉祭の時にスピカから告白されてね、色々と考えて付き合うことにしたのよ。あまり他の人には伝えないようにね」
「わかったよ、まあその辺は食べながら話しましょう?」
ジムに戻ってきた3人だが、由香は自分のトレーニングがあると言って二人と別れた。スピカはそのまま衣舞紀の筋トレを見学すると衣舞紀に伝え、近くのベンチに座って衣舞紀のトレーニングを見ていた。スピカからするととてもハードに思えるものばかりだったが、その姿に完全に魅入ってしまっていた。あの美形と体力はこのような日々の積み重ねにあると感じ、それはスピカのこれまでの活動と照らし合わせていた。スピカもスピカでDJとしてもそうだが、有名なStardustのメンバーとしてトラックメイクをしており、数を重ねることによって今に繋がっていた。そして音ゲー面でもプレイし続けて経験し、その積み重ねが今こうしてファイナリストとして近々開催される大会の本選に出場できるのだから、別のベクトルだが、同じような境遇なのだろうとスピカは感じていた。
「隣良いかしら?」
急に横から話しかけられたので、驚きはしたが、見覚えのある人だった。
「良いですよ...て、ダリアさん?」
「あれ?よく見たらヴァルゴじゃん、どうしたの今日は?」
松山ダリア、Merm4idのダンサーとして活動し、とあるバーで働きながらも用心棒をしている人だ。音ゲー仲間であるL.E.さんが通っている空手道場に通っているらしい。スピカもダリアのいるライブハウスでDJをしたことがあるので、面識はあった。
「実は衣舞紀の付き添い兼と体力アップのために来ているんです」
「そっか、スピカは高2だったわね、なら衣舞紀と仲が良くても問題ないか」
「ええ、そういうダリアさんは今日はどうしてここに?」
「衣舞紀と同じって言ったら分かりやすいと思うな」
まあ察していたが、そうだろうとは思った。丁度ダリアさんと話していたら衣舞紀の筋トレが終わったらしく、軽くダリアさんと話して帰宅することにした。
「今日はありがとうね、付き合ってもらって」
「良いよ、逆に私も良い経験したしね、また時間があれば付き合うよ」
「本当に?じゃあ予定が開いている日を探さないとね」
帰宅中も話しながら楽しく帰っていった。少し異彩な形にはなったのだが、こんなデートの仕方もありなのだろうとスピカはそう思った。
これにて淡い恋心編はおわります。次回からは最終章、D4Fes.編となります。乞うご期待。