「うおっ!?」
私は腹部に強力な一撃を受けて目覚めた。
紫には何かあったら起こせって言ったけど、ちょっと乱暴すぎない?
力加減というものを知らないのか。
おまけに今、朝じゃなくて夜じゃん。
普通は朝に起こすでしょうが。
「ちょっと紫、何すんのよ……あんた誰?」
そこに居たのは紫ではなく、背が小さくてコウモリのような翼が生えている妖怪だった。
「吸血鬼か」
レミリアに似ているけど、髪の色は緑色だし違う妖怪ね。
たしか紅魔郷異変が起こる前に、別の吸血鬼が幻想郷で暴れ回ったんだっけ……
多分、こいつはそれだな。
「……あなた、私の攻撃を受けて何も感じていないの?」
いや、めちゃくちゃ痛かったよ。
寝ている人間にやる攻撃ではない……私は妖怪だったな。
いつのまにか、周りには1人の白狼天狗がおり、私と吸血鬼を見ていた。
恐らく、警備をしていたのだろう。
怯えた様子で、顔が真っ青だ。
よっぽど、この吸血鬼が恐ろしいのだろうか。
「どういう状況なのかわからないけど……とりあえず、あなたが私の睡眠を邪魔した愚か者だということはわかったわ。覚悟しなさい」
「覚悟を決めるのはあなたじゃないかしら。吸血鬼の中の吸血鬼であるこの私──ぼへっ!」
私は名乗ろうとしていた吸血鬼に高速で近づき、アッパーで空へと吹き飛ばした。
いきなり攻撃を喰らった吸血鬼は、上手く空を飛ぶことができずに地面へと落ちてきた。
「こんな下らない不意打ちを受けるようじゃ、私の相手にはならないわね。もう少し、強くなってから来なさい」
「舐めやがって……!」
吸血鬼は地面から起き上がった。
少しふらついているが、その紅い目で私を睨んでいる。
あ、まだやれるんだ。さすがに吸血鬼だな。タフネスは1級品だ。
これなら潰しがいがあるわね。
「少し、遊びましょうか」
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ある白狼天狗は語った
「眠姫と吸血鬼の戦い?あれは戦いと呼んでいいものなのでしょうかね……
イジメですよ。あれは。
吸血鬼が拳で殴っても、眠姫はそれを片手で軽く受け止め、跳ね返す。
それを何度も繰り返した。
吸血鬼にとっては初めての経験でしょうね。自身の身体能力に絶対的な信頼を寄せていたのでしょう。
この世の終わりのような顔をしていましたからね。
でも、ここで終わらないのが吸血鬼。今度は空を飛んで光弾を眠姫に放ってきました。
どの光弾も、並の妖怪が受けたら一撃で消滅するような代物だったでしょう。
ですが、眠姫はそれをもろに喰らいながら、ジャンプして空を飛んでいる吸血鬼に近づきました。
彼女の服はボロボロになっていましたが、体に一切の外傷は無かったです。
吸血鬼は慌てて高度をさらに上げて、上空に逃げました。
多分、100mより上まで行きましたね。
普通ここで眠姫も空を飛んで接近するのかと思ったのですが、彼女はそれをせず、地面に降りてきたのです。
ここで吸血鬼は気づいたのです。眠姫が空を飛べないことに。
歓喜の笑いを上げながら、彼女は空から先程の光弾より威力が高い、光線を放ちました。
それには眠姫も無傷ではいかず、幾らか外傷を受けていました。
確かに眠姫は最強の力を持つ妖怪だが、それは地上戦だけでの話。空中戦ではなすすべが無い。
私はそう思い、眠姫は負けると思いました。
ですが……なんと、彼女が高くジャンプしたかと思うと、そのまま空を蹴りあげ、吸血鬼に一瞬で接近したのです。
吸血鬼は慌てて応戦しようとしましたが、近接戦ではかなうわけがない。
吸血鬼が拳を振るおうとしました。
ですが、眠姫はそれよりも遥かに速い速度で吸血鬼の頭を鷲掴みにして、地面にぶん投げました。
そして地面に叩きつけられて、動けないでいる吸血鬼を、意識が無くなるまで殴り続けました。
私が静止させた時には、すでに吸血鬼の体はぐちゃぐちゃで、無事だったのは頭だけでした。
いや、頭も無事というか……半分削られていましたね。
その事がすっかりトラウマになってしまったのか、治療したあとに吸血鬼はすぐに幻想郷から逃げて行ってしまいました。
その後、吸血鬼に征服された妖怪たちが、巫女である博麗霊夢に相談して『スペルカードルール』を導入したと聞きました……おそらく、これは眠姫を恐れて作ったのでしょうね」
スペルカードルールが制定される前に起きた吸血鬼異変を解決したのが力の強い妖怪ということだけしか知られておらず、誰なのか不明になっているので眠姫様に解決させてしまいました。