負け犬4と5の間のお話になります。
倫也と出海がネズミーランドで過ごす話になります。
これだけ単体で読んでもわからんと思うので、負け犬シリーズを読んでいただければと思います。
個人的には作中の出海ちゃんキャラは気に入っております。似てるかっていうとそうでもないんですけどね。
本編暗くてすみません。
倫也と出海が並んでゆっくり歩いている。倫也があたりを見回す。
「あれ・・・プロローグがないな?」
「そりゃあないですよ」
「どうして?」
「プロローグの寸劇はですね、この状況になるためにあるんです」
「この状況って?」
「ばーん」
出海が両手を広げる。目の前に東京ネズミーランドのテーマパークが広がる。
「ネズミーランドで後輩とデートでーす!」
「おおっ、これは出海ちゃんの短編だね?」
「はい!というわけで、倫也先輩!一日よろしくお願いします!」
「はははっ、よろしく出海ちゃん。でも、どうしてネズミーランドに?」
「理由なんてどうでもいいじゃないですか?商店街のクジに当たったでもいいし、取材のためってことでもいいし・・・このプロローグで一番むずかしったことはそこじゃないんですよ」
「どこ?」
「そりゃあ、恵さんを怒らせずにどうやって倫也先輩と二人きりのデートを了承させることにあったんですから」
「で、加藤の許可がでたんだ?」
「何いってるんですか倫也先輩。恵先輩ならこの小説をボイコットしてもういませんよ?」
「ごふっ」
倫也が倒れ込む。そうこの物語は『負け犬4』のあとに書かれている。
「でも、安心してください。この可愛い後輩ヒロインが癒して差し上げます!」
「それ、ことわざでいうと・・・」
「鬼の居ぬ間に洗濯ですね♪」
「大丈夫なの?出海ちゃん消されたりしない?」
「大丈夫ですよ。都合の良いことは負け犬シリーズからひっぱってきて、都合の悪いことは短編ってことで乗り切りますから」
「成長したなぁ・・・」
「今日は五月の平日です。天気も最高にいいし、あまり人混みじゃないし、申し分ありません」
「学校は?」
「倫也先輩、細かいこと気にしますよね?」
「細かくないと思うよ・・・」
倫也と出海がベンチに座ってMAPを広げる。
「とはいえ短編です。わたしのイベントは3つぐらいがちょうどいいと思います。そこで、最初のイベントは・・・じゃじゃん!こちら」
出海がMAPの写真をしめす。
「チュロスです。倫也先輩何味が好きです?」
「うーん。食ったことあるかなぁ・・・」
「倫也先輩ってミスドで何買います?」
「オールドファッション」
「渋っ!」
「そう?」
「出海ちゃんは?」
「ポンデシリーズとエンゼルシリーズとあとゴールデンとココナッツもはずせません。あともちろんチュロス」
「それ、ほとんど全部じゃん!?」
チュロスの出店まで歩く。シナモン味とストロベリーで店が違うのでパーク内をけっこう歩く。
「なんかもっと、だぁーと走って人気の乗り物に乗ったり、ファスト券とったりするんじゃないの?」
「それは倫也先輩が攻略好きだからですよ。そういうのは疲れちゃいませんか?」
「性分なんだよなぁ・・・」
「だから、合うんでしょうね」
「何と?」
「誰と?ですよ。倫也先輩」
まずは倫也がシナモンチュロスを買う。つづいてストロベリーが売っているところまで歩いていく。
「あっ、温かいうちにどうぞ」
「ん?そう。じゃあ先にいただきまーす」
倫也がまっすぐ長いチュロスをかじる。
「ん、以外といけるね」
「けっこうおいしいですよね。わたしは好きです」
「もぐもぐ」
出海が倫也をじぃーと眺める。
「ん?」
「倫也先輩。これは仮想サブヒロインルートなんですよ」
「どういうこと?」
「あーん」
「ああ、なるほど」
倫也がチュロスを出海に向ける。出海はそれに大きくかじりつく。
「ぬおっ、かじりすぎでは?」
「ともぉふぁへんふぁいが、もぐもぐ。油断しすぎなんですよ」
「はははっ」
出海がストロベリーチュロスを買う
「座りましょうか」
「ほんと、ゆったりしているね。この間に並んだほうがいいんじゃないの?」
「まぁそうなんでしょうけど。パクリッもぐもぐ」
「あーん」
「って倫也先輩なにしてるんですか?」
「何って出海ちゃん・・・」
「それはないですよ。ないない」
「えっそうかな」
「それは女の子がやるイベントです。だいたい間接キスになるじゃないですか」
「さっき、俺の食べてたよね!?」
「あれはこっちだけの関節キスじゃないですか?」
「ん?」
「それとも倫也先輩、わたしと間接キスしたいんですか?」
出海が黙々とチュロスを半分ぐらいまでかじる
「・・・だからですね。女の子のを食べるのは恋人同士になってからですよ」
「そっかぁ・・・イチゴ味も気になってたんだけど」
「オールドファッション買う人がない言ってるんです?」
「でもさ、スイーツ男子みたいのもあるんじゃないの?」
「それはミスドのを聞いたときに、『俺・・・ポンデきなこが好きだな・・・って笑うなよ!』みたいなフラグ立てないとダメですよ?」
「厳しいなぁ」
「だいたい、オールドファッション選ぶなんて、ミスドなめてませんか?」
「ちょっとまって出海ちゃん、それは逆だよ。むしろミスドリスペクトだからオールドファッションでしょ!?」
「・・・とまぁ、こんな風に険悪になったときにですね・・・」
「ごめん」
出海が倫也と反対側を向いて、もごもごしている。
「こうひゃるんでふ」
「ぶはっ!」
出海は半分になってもまだ長いチュロス強引に口の中に詰め込む。これでハムスターのように頬が大きく横に広がる。
「ちょっと、出海ちゃん何してんのぉ。ははははっ」
倫也が腹を抱えて笑う。
「もぐもぐ もぐもぐ」
倫也も顔を隠して残り半分のチュロスを口にいれる。
「こう?」
「ごふぅう!!」
出海が吹き出して笑う。
「ちょっとやめてください・・・はぁはぁ・・・、人の顔芸とらないでくださいよ」
「こう?」
「ぶはっ」
出海も腹を抱えて笑う。
二人が落ち着くまで少し時間がかかる。
「ふぅ・・・倫也先輩笑わせないでくださいよ」
「それ、俺のセリフだから!」
「倫也先輩、少しは気が晴れました?」
「ああっうん?ありがとう出海ちゃん」
「よし。じゃあ次のイベントはシリアスですよー」
「シリアスはやめた方がいいって美智留がいってたよ」
「ああ、あとですね倫也先輩。他の女の子の名前を出すのはやめた方がいいですよ」
「どういうこと?」
「負け犬2のラストシーンで澤村先輩や霞ヶ丘先輩の名前だしていましたけど、基本的に女の子は二人きりの時は自分だけを見てもらいたいものです」
「わかった。ごめん」
「あと、謝るのが多いのもよくないと思います。倫也先輩らしいですけど」
「はははっ」
倫也と出海は場所を移して、ネズミーランドの中心地ツンデレラ城まできた。
「このお城は見学することができますが、クルー付きのイベントにも参加できるんですよ」
「へぇ、で、どっちをやるの?」
出海は近くに座ると小さなスケッチブックとペン類を取り出す。
「どっちもしません。ここで絵を描かせてください」
「スケッチ?」
「そうですね。一応、デートの名目に資料集めも口実になってますし」
「じゃあ、俺は近くで見てればいいかな」
「はい。何かお話をしようと思います」
「資料用に写真でもあっちこっち撮ってこようか?」
「それは本末転倒じゃないですかね?」
倫也は黙って隣に座る。
「倫也先輩、写真とスケッチって何が違うと思います?」
「写真の方が正確なんじゃない?」
「まぁそうですよね」
「あんまり絵は描けないからわからないなぁ。スケッチだと必要な情報を選べるみたいなことかな?」
「うーん。そうですね、描きたいものだけを描けるってことじゃないですかね」
「うんうん。写真だと他のお客さんとか邪魔だもんね」
「邪魔でもあるけれど、ある程度はいないと雰囲気はでないじゃないですか」
「なるほど。そこらへんを自分で選べると?」
「はい、こんな感じです」
出海はラフを倫也に見せる。そこには城を背景に風船を飛ばしてしまった子供が描かれている。
「こういう一枚にドラマを閉じ込めることができるんですよ」
「出海ちゃんはいつもいい絵を描いてくれるもんなぁ」
「それはお互いさまで、倫也先輩がいいシナリオを描いてくれるから、わたしもいい絵を描こうと思えるんです」
「ありがとう、出海ちゃん」
「アピールタイムでした」
「はははっ」
その後、出海は真剣に絵を始める。本当はもっとくだらないエピソードトークなどが用意してあった。
時間は穏やかに過ぎる。天気が良く気持ちがいい。とても贅沢な過ごし方だと倫也は思った。まだ何のアトラクションも乗っていない。
「できました」
「ん?ああ」
倫也は出海の隣に座って少し眠ってしまったようだ。
「どうですかね?」
その一枚絵は丁寧に描かれていた。背景のお城とその前に広がる広場。そこには倫也と恵がいた。離さないように抱える倫也。じっと身を任せる恵。
「これはメインヒロインルートのイベントで使えそうじゃないですか?夜なら花火も使えますし」
「・・・」
「倫也先輩?」
倫也の目に涙が浮かぶ。この世界に加藤恵はいない。
「出海ちゃん・・・どうして・・・この相手は出海ちゃんじゃないの?」
「何をいってるんですか?」
「だって、サブヒロインルート用なら、ここに描かれるべきなのは出海ちゃんなんじゃないの?」
「それを倫也先輩がいっちゃいます?」
「・・・」
「倫也先輩はここでわたしを・・・その絵のように抱くことができるんですか?」
出海は絵の道具を片付け始める。
「冗談ですよ。いいですか、倫也先輩。サブヒロインのわたしにはここは贅沢なんです。だからイベントとして使うなら告白かエピローグあたりじゃないですかね?」
「こうして二人で来ているのに?」
「これは特別な短編なんですよ。本来はあってはいけないんです。メインヒロイン不在なんて・・・あってはダメなんですよ!」
「まったくだ」
出海がため息をつく。この先輩は一途すぎる。ハーレム型主人公にまったく向いていない。サブヒロインが協力してやっと結ばれるとかヘタレにもほどがある。底抜けに優しくてお人よしだ。そして、そんなところにどんどん惹かれてしまう自分がいる。けど、物語は進めないといけない。
「よいしょっと。さぁ次のイベントですよ」
「どうするの?」
「これです!」
出海がバックから取り出したのは、特別なチケットだった。
「澤村先輩からいただいてきました!」
「スポンサーチケットです」
「へー?」
「これすごいんですよ。とりあえずいきましょう」
出海が倫也と歩く。手をつなぎたいなと思った。迷う。
「倫也先輩。ちょっとお願いしてもいいですか?」
「どうした?」
「手・・・手をつないでみていいですか?」
「あっ、うん」
倫也が手を伸ばすと出海がそれをにぎった。
「しゅ・・・取材のためなんだからねっ!」
「どうした??」
「いえ、澤村先輩ぽく、場を和ませようかと」
「出海ちゃんは出海ちゃんだよ。緊張は俺だってする」
倫也は前を向いたまま出海の方をみない。頬が赤くなっている。出海はその横顔をみて、自分も同じように赤いんだろうなと思った。
「ここです」
「なんかすごいね」
「ここはスポンサー企業用のスペースで中ではドリンクも飲めるみたいです」
「豪華な作りだねぇ・・・」
「しかも、乗り物を優先的に案内してくれるんですよ。あのファストパスなんかよりも強力な効果があるんです!すぐ乗れるって澤村先輩がいってました」
「さすが英梨々だなぁ・・・」
二人は中にはいって、お茶を注文する。すごくゆったりとしたスペースで外のにぎやかな喧噪とは別世界だった。
「こうやって、貴族と庶民の生活には格差がでるんですねぇ・・・」
「ああ・・・まったくだ」
出海がまたスケッチをしている。今度はラフで枚数をこなしているようだ。
倫也はそんな出海をぼんやりと眺めていた。可愛い。健気。おまけに巨乳っと・・・。明るい性格でサークルのためにがんばってくれている。
・ ・・なのに恋愛感情はわかない・・・今の倫也はその気持ちがよくわかる。自分ではどうしようもないような胸の苦しさを。
「・・・倫也先輩」
「ん、出海ちゃん・・・終わった?」
「はい。お待たせしてすみません」
「いや、いいんだよ。こっちもゆっくりできた」
「ひとついいですか?」
「他の女の子の名前を出さないでくださいって言いましたけど・・・」
「あっ、うん?」
「他の女の子のことを考えているのも伝わるものですよ?」
「・・・気をつける」
「認めちゃうところが倫也先輩なんですよねぇ・・・(ため息)
出海が立ち上がる。健気で明るい自分を忘れないように笑顔をつくった。
「行きましょう、乗りたいのは、スクラップマウンテンです」
「ジェットコースターだね?」
「はい!倫也先輩は苦手ですか?」
「乗った記憶がないからわからないな」
「どこの原始人ですか・・・」
「そういうことに無縁だったんだよ・・・あと、さらりとひどいこと言わないで」
「あははっ、すみません」
二人がジェットコースターに座る。
「これは途中は穏やかなんで、安心して見て回るといいです」
「そうだね、ゆっくりだ」
「ただ最後だけ滝があるので、その時は両手を万歳してください」
「どうして?」
「そのほうがいいからです?お願いします」
「わかった」
そして、コースター滝を急降下で降りる。
「ギャー」
「きゃぁー」
それぞれが悲鳴をあげる。そのタイミングで出海は決めポーズを取る。
元の位置に戻ってきて、二人が降りる。
「ふぅー」
「あまり得意じゃなそうですね?」
「そうかもしれない」
「で、ここからが本番です」
「まだ何かあるの?」
「写真が出来上がるんです」
二人でショップの前で待つ
「これですこれ」
「おおっ、って出海ちゃん何しているの?」
「これは隣で絶叫している倫也先輩と対照的に余裕でテヘペロしている出海です」
「実際、余裕あったわけね・・・」
「まぁ経験済みでしたから」
「記念に買おうか?」
「もちろんです。これ、澤村先輩へのおみやげにします」
「恐ろしいこと・・・」
「わたしのとこだけ切り取るかもしれませんよ?」
「それはそれで怖いよ!」
出海はけらけらと屈託なく笑う。
「さて、けっこういい時間ですね」
「ランチにしては遅いかな」
「お腹すいてきましたよね」
「どこかで食べる?」
「そうしたいところなのですが、最後のイベントだけこなしておきましょうか」
出海が倫也の手をとる。ここから沈黙に価値がある。沈黙が気まずい距離ではない、だけど、沈黙で平然と過ごせる距離でもない。やはりぎこちなくなる。倫也と出海はそんな距離だ。
「ここです」
出海が連れてきたのは先ほどのお城前の広場だった。
「ここでイベント用の取材の最後になります」
「うん」
「えっと、カメラがあっちにあると思ってください。背景が御城です」
「OK?」
「じゃあ、行きますよ」
出海は大きく深呼吸をした。大丈夫、自分ならできる。
「倫也先輩!わたし・・・倫也先輩のことが好きです!」
「出海ちゃん!?」
「突然ですみません。これが・・・サブヒロインの・・・わたしの精いっぱいです」
「驚いた・・・」
「わたし・・・一分だけ・・・目を閉じてますから・・・倫也先輩はサブヒロインルートのために・・・わたしを選んでください」
「何を待つの?」
出海が目をつぶって倫也の方を向く。手を胸の前で組んで・・・
「60」
「出海ちゃん・・・」
「・・・50。倫也先輩・・・キスしてください」
「そ・・・そんな・・・」
「・・・40、取材のためです。あっ不安なんで手をにぎってください」
出海が両手を差し出す。倫也が手をぎゅっと握る。
「・・・30」
倫也は恥ずかしくて出海をみていられない。その目線が泳ぐ。
「・・・20」
そして倫也の目線の先には・・・
「・・・っ!!」
倫也が出海の手を払って駆けだした。
「・・・10・・・もういいかな・・・」
出海は目を開けて振り返る。
「戻ってきてくれたんですね・・・」
※※※
倫也が恵を抱きしめる。
「・・・もうどこにもいかないでくれっ!」
恵は立ったままだ
「ごめん。加藤・・・俺・・・」
倫也が泣く。
「苦しいよ・・・安芸くん」
「ごめん・・・」
倫也が慌てて手を放す。
「そうじゃなくて・・・」
「ごめんな加藤」
「苦しかったよ・・・ケンカしてるのも・・・離れているのも・・・安芸くんが英梨々と仲良くしてるのもさ・・・」
「ごめん。本当にごめんな」
恵は倫也の胸の中で泣く。倫也はそれを優しく抱きとめる。
※※※
出海はケータイを取り出す。
「お兄ちゃん。ミッションコンプリート・・・です」
「お疲れ出海。良かったよ。後は出海がちゃんと笑って終わりだ」
「わかってる・・・大丈夫だから」
出海がスケッチブックを見ながら笑顔を作る。明るく可愛い後輩ヒロインを演じるために。
(了)
これのボツ集もあるので、明日にでもあげておきます。
短編だけ読まれても寂しいので、変な時間にあげさせてもらいました。
負け犬5へ続きます。