踏み台から串刺し公×凶獣へと変わった彼。 作:めんどくさがりや
「ぐあああああああ⁉︎」
デバイスによる一撃が少年を吹き飛ばす。叩きつけられた衝撃で息が詰まる。
「が・・・はぁ・・・」
『マスター・・・』
それに必死に手を延ばす。
「(負けたくねぇ)」
彼ーー
優れた容姿、優れた魔力、優れた力。自分こそオリ主だと最強だと信じ続けていた。そしてずっと気に食わないと思っていた奴を叩きのめす筈だった。しかし現実はその逆で自分が倒されている。それでも彼は諦められない。
まだ俺はやれる。まだ俺は立てる。
「(負けたくねぇ、負けたくねぇ‼︎)」
まるで虫けらのように地面を這いつくばっている自分はさぞ滑稽であろう。
それでも彼は足掻く。己に残ったちっぽけなプライドのため。そしてーー
「・・・もう終わりだよ」
自分の前に立つ黒髪の少年。名は龍宮 慎吾(たつみや しんご)。自分が戦った相手。彼は自分のデバイスをヘルガへと向ける。すると待機形態である赤い宝石へとヘルガは変わる。
すると彼はそれを拾い上げる。
「おい・・・待ちやがれ・・・それは俺のモンだぞ・・・」
「悪いがこれは預からせてもらう」
絶句した。そしてすぐにそれを止めようとする。
「ざっけんな・・・‼︎」
「この際だから言っておく。もう二度と関わるな。魔法にも、俺達にも」
そう言うと彼は出口へと行く。そこにはーー
「お疲れ様慎吾君」
「怪我とかはない?」
「大丈夫だよ。なのは、フェイト」
高町なのはとフェイト・テスタロッサ。彼女達は慎吾に労いの言葉をかけている。
まさに勝者と敗者。デバイスを失った今、自分には何も残っていない。
「(はっ・・・無様だな。何がオリ主だよ)」
とんだ笑い草だ。自分の力を過信して、挙句の果てにはこのザマだ。
だが、刑夜の中には一つの思いが芽生えた。
ーーー納得いかねえ。
何故かはわからない。自分は力を過信していた。そして負けた。当然の事だ。
それでも違うと言う。何かが違うと、その思いが湧き上がる。
「(そうだ・・・何故このままでいる?ヘルガを奪われて虫ケラみてえに這いつくばせられて、それで負けを認めんのか?ふざけんな。んなもん認めるか。こんな結末なんか許せっか。こんなーー)」
ギシリと何かが軋む。そして立ち上がる。
「こんな奴に・・・こんな半端もんに・・・」
怒りが湧いてくる。
「劣等風情がァ、図に乗るなあああああァァァァ!!!!」
咆哮し右手を掲げる。それに慎吾は構えるがそんなのはどうだっていい。
さぁ、始まりだ。まずはーー
「この汚れた血を入れ替えねぇとなあーーー‼︎」
叫ぶと同時に右手を自分の胸に突き刺した。
□■□
アースラの局員は皆愕然とした。龍宮 慎吾と凶月 刑夜の模擬戦。そして誰もが予想した通りに刑夜は負けた。
問題はその後だ。彼は怒りに満ちた表情で何かを叫び、自分の胸に右手を突き刺した。そしてーーー
「ぎぃ・・・が・・・あああああああああァァァァァァァ!!!!」
自分の心臓を抉り出した。
「き、凶月・・・お前何を・・・」
溢れ出る鮮血。刑夜の右手には静かに躍動する心臓。明らかに重症だ。だと言うのに彼は動いている。口元に笑みを浮かべ彼は立っている。
「ああ、そうだ。優劣つけるとかそんなのはどうだっていい・・・」
血を流して彼は言う。
「日の光はいらねえ」
ならば夜こそ我が世界。
「俺は誰にも触れられねえ」
全ての接触を忌み嫌おう。
「俺の血が汚ねえなら」
無限に入れ替えて新生し続けるものになりたい。
「俺の夢も、想いも」
何もかも狂乱の檻へと封じ込めよう。
「この薔薇の夜に無敵であるため、俺が最速の殺意であるため」
愛しい恋人よ枯れ落ちろ。皆ことごとく滅びるがいい。
「思い知れ。それが、俺の渇望だ」
そして彼は、自らの心臓を握りつぶした。
血が辺りに散らばる。
「新生の時だ。せいぜい足掻け糞ガキ」
彼がそう言った瞬間彼の血が蠢き、血液の奔流と化した。
それと同時にヘルガにも変化が起きた。
宝石の状態から紅い光へと変わり慎吾の手から離れる。それに慎吾が驚くがそんなもの気にしないと言ったように刑夜の元に来るとその輝きが強くなる。
すると血液の奔流が光へと集まって行き収束していく。
光はやがて、血液の全てを取り込み形をなしていく。
やがてそこにできたのは深紅の結晶。それは一定のリズムで光を明滅させている。それはまるで心臓の鼓動のように。
刑夜はそれを掴むと自分の胸へと押し当てた。すると結晶は刑夜が開けた胸の穴から中へ入っていくと強烈な光を放つ。あまりの光量に誰もが目をつぶる。
「っ・・・!い、一体何が」
起きた。そう言おうとした瞬間、紅い何かが高速で飛来して来た。
「ーーーーッ⁉︎」
とっさに障壁で受けるが一瞬だけ抵抗してたやすく貫かれる。
それをなんとか避けると後方で轟音が響く。
「今のは何だ?」
そう疑問の声を上げる。すると、
「おーおー今のタイミングで避けるたあ結構やるじゃねえか」
声のした方向に目を向ける。そこには先ほどの怪我など全く存在しない刑夜が立っていた。
紅い外套を纏った形状だった筈のバリアジャケットは黒い軍服へと変わり、その瞳はかつてのオッドアイで無く深紅の双眸と化していた。
「ま、今のでくたばっちまったら興醒めも甚だしいがな」
雰囲気が変わっている。口調は其れ程変わらないが何かが違う。
「お前・・・凶月なのか?」
慎吾の言葉に刑夜は鼻で笑う。
「阿呆が。それ以外に何に見えんだ?まぁ色々変わっちまったが正真正銘、凶月 刑夜だぜ?」
ああ、たしかに彼だ。だけど何かが違う。一体、彼は何に変わったんだ?
「つかよぉ。んな事ァどうだっていいだろ?」
彼は笑みを浮かべ言う。
「まだやれんだろ?第二ラウンドと洒落込もうや。ああ安心しな、さっきみてえに退屈はさせねえからよお」
これだ。先ほどまでの彼はなのは達の前で自分を倒し屈辱を与える事とそれによって自分に好意を向けさせる事を考えていた。
だが今の彼は違う。純粋に戦う事だけを考えている。
「なのは、フェイト、下がっていてくれ。今のこいつは本当にやばい」
「え?でも・・・」
二人は少しばかり迷ったが、すぐに後方に下がった。
「んだよ、引いちまうのかよ。俺ァてっきり三人同時に戦うのかと思ったんだが」
「あの二人にわざわざ傷を負わせる必要はないからな」
「おーおー優しいこった」
そこでだが、と刑夜は言う。
「甘えなあ。戦場じゃあそんなのは関係ねぇ。弱え奴から淘汰されていく」
「・・・お前は彼女達が弱いと言いたいのか?」
親友を侮辱されたと思い夜刀を睨みつける。
「ん?あー・・・そういう風に聞こえたってんなら詫びる」
それに慎吾は驚いた。あの凶月が自分の非を素直に認めたからだ。
「意外だな。お前が素直に謝るなんて」
「まあ今までの俺を見てたならそう思うのも無理はねえ。それよりさっさとおっ始めようや」
そう言うが彼はデバイスを持っていない。丸腰のままだ。
「お前、何で戦うつもりなんだ?」
そう声をかけるが彼は笑みを絶やさない。
「まあ急かすなよ、今見せてやっから。『
彼がそう呟くと彼の体から赤黒い杭のようなものが何本生えてきた。
「それは・・・なんだ?」
「こいつが俺の得物、『
「・・・それも投影で生み出したものなのか?」
彼が使っていたのは投影魔術。それで生み出した剣で戦っていた。剣の腕はいいとは言えなかったため、勝つ事が出来た。この杭もそれで生み出したものなのかと思った。
だが、その質問をされた刑夜は笑い出した。
「何が可笑しい?」
「いや、見当違いも甚だしいってな。ハズレだよ。こいつは俺の血の中にある。投影なんて粗末なもんと一緒にすんじゃねえよ。そんじゃーー」
構えをとる刑夜。
「いくぜ」
その言葉と同時に弾丸のように飛び出してくる。そして拳を振り上げ、
「オラァ‼︎」
「ぐぅ⁉︎」
凄まじい勢いで叩きつけた。そのあまりの威力に後方に飛ばされる。
「(なんつー怪力‼︎)」
ただの拳打である筈なのに先ほどとは段違いの力。
『マスター‼︎』
そこで自分のデバイスであるエリィが信じられないといったように声を掛ける。
『解析の結果が出ました‼︎彼は、彼は魔力による強化を一切使用していません‼︎』
「なんだって⁉︎」
だとしたらあの怪力は彼自身の力だと言うのか⁉︎
そう驚愕をあらわにしていると彼が言葉を発する。
「おいおい、あの程度で簡単に吹っ飛ばされてんじゃねえよ。もちっと足に力入れろや」
そう言い彼は再び向かってくる。それに魔力弾を飛ばすが全く効いていない。
「舐めてんのか?ふざけてんのか?んなチンケなモンで俺を殺れっと思ってんのかあ⁉︎」
「くっ‼︎」
刑夜の攻撃をとっさに障壁で防ぐ。だが、
「んな薄っぺらい障壁で俺を止められると思ってんのかあああァァ‼︎」
「がああぁ‼︎」
障壁にヒビが入り、一気に破壊されてそのまま殴り飛ばされる。全身が叩きつけられ動けない。
「ぐぅ・・・くそ・・・」
このままだと次の攻撃が来る。そう予測していたがいつまで経っても攻撃が来ない。
「・・・?」
刑夜に視線を向けると、彼は特に何をするでも無くただこちらを見ていた。
だが、その表情は失望と怒りが混じったものであった。
「これで、敵わないと?これで、届かないと?」
ポツリポツリと言葉を発する。
「これで・・・この程度で・・・俺がコイツ以下などとどいつもこいつもほざいてやがったのかああああああァァァァァ!!!!」
咆哮。そして次の瞬間、
ズドン‼︎
「ぐ・・・はぁ・・・‼︎」
凄まじい音と共に蹴りを入れられる。
「『Auf Wiederseh´n』じゃあな龍宮。今日はこれでお別れだ。できれば吸い殺してやりたかったが・・・ま、いいだろ。せいぜい、いい夢見てな少年」
そう言って、彼は去って行った。
その身体に、吸血鬼と凶獣を宿しながら。