踏み台から串刺し公×凶獣へと変わった彼。 作:めんどくさがりや
闇の書の管制人格と魔導士達の戦いは熾烈を極めていた。交差する魔法により、辺りを彩る。
そして次の瞬間、天から赤黒い杭が降り注がれた。
『ーーー⁉︎』
それらは辺りを蹂躙し、破壊する。そして、
「ヒーーーヤッハァァァァ!!!!」
哄笑と共に軍服を纏った白髪白貌の少年が落下してきた。
「オラァ‼︎」
「ぐっ‼︎」
少年ーー刑夜は落下しながら管制人格に蹴りを放つ。その衝撃により管制人格は吹き飛ばされる。そして着地した刑夜は辺りを見渡してベアトリスと戒を見つけて嘆息する。
「おいおい、てめえら仮にも聖遺物の使徒だろうが。もちっと根性見せろや」
そう言うとベアトリスが抗議する。
「うるさいですよ。途中参加の癖に」
「こっちはこっちで動いてたんだよ。ま、それはもうどうでもいい」
刑夜は飛来して来た魔力弾を自分の魔力弾で相殺する。
「お前は・・・」
「よお、初めましてだな?」
相対する二人。相手ーー管制人格はこちらをずっと見て問うてくる。
「お前はなんだ?」
「凶月刑夜様だぜ?管制人格さんよ」
おどけたように言う刑夜。
「ふざけているのか?」
案の定、管制人格はこちらをキツく睨んでくるが、刑夜はそれに涼しげな表情で返す。
「ふざけている?馬鹿言え、俺はふざけてなんかいねえ。言っただろう?俺は凶月刑夜。俺を示すモンなんざそれしかねえ」
「・・・そうか。己の真名こそが最も自分自身を示すものと言う事か。ならば質問を変えよう」
そう言うとこちらを見てくる。その視線はまるで複数の人物を見ているかのようであった。
「
その問いにベアトリスと戒以外の者たちは疑問に思った。今あそこにいるのは刑夜一人の筈だ。なのに、何故彼女はそこに複数の人がいるように言っているのだろうか?
その事実に気付いたのはベアトリスと戒、刑夜だけであった。
「へえ、お前こいつらが見えてんのか?」
刑夜の言葉に管制人格は首を横にふる。
「見えてはいない。だが、感じるのだ。お前の中にいる強大な何かを」
それに刑夜は笑みを浮かべる。
『ーー我らは、黄金の獣に忠誠を誓いし者』
その時刑夜の口から出た声は別の者の声音であった。
『己が身を捧げし
次いで紡がれた声も、別の人物の声音であった。
『我らが名誉は忠誠なり』
『我らが魂は御身の下に』
『我ら総てを喰らう獣の軍勢』
『黄金が率いし十三の爪牙』
その時、刑夜の背後に白髪白貌の青年と銀髪の眼帯を着けた少年が現れた。
『聖槍十三騎士団 黒円卓第四位 ヴィルヘルム・エーレンブルグ=カズィクル・ベイ』
『同じく黒円卓第十二位 ウォルフガング・シュライバー=フローズヴィトニル』
そして、その言葉は刑夜自身から紡がれた。
「さあ、戦いの始まりだーー
そして、聖夜の戦いが始まった。
□■□
ぶつかり合う魔力の塊、砲撃魔法が飛び交い刑夜と管制人格が舞い踊る。
「オラァ‼︎」
刑夜の拳を管制人格が防御する。それに刑夜はすぐに魔力弾を打ち出すが避けられる。管制人格はそのまま後退しながらも魔力弾を放って行く。
「その程度で俺を止められるとでも思ったか⁉︎」
魔力弾が直撃しても気にもとめず突進する。
「ッ‼︎はあ‼︎」
管制人格が拳を放つが、
「ハッ、シャラくせえ‼︎」
刑夜も拳をぶつける事によって相殺、いや、それどころか逆に吹き飛ばす。
「ぐぅ⁉︎」
「どうしたどうしたァ⁉︎こちとら形成はおろか活動すら使ってねえぞ‼︎」
「舐めるな‼︎」
再び飛び交う両名。刑夜は銃を乱射しながら管制人格へと向かう。
すると、魔力弾が数発夜刀に直撃する。
「ぐぉ⁉︎く、ははははは‼︎」
攻撃を受けた刑夜は嬉しそうに哄笑を上げる。
「面白え、ただの傀儡かと思ったが存外にやるじゃねえかオイ」
言葉と共に管制人格へと向かい、
「オラァ行くぜえ‼︎」
そのまま掌底を放つ。
「くっ‼︎」
それを防ぐと管制人格は距離を取り、闇の書を開く。
すると、闇の書の周囲に高密度の魔力で編まれた短剣が大量に現れる。
「上等だ‼︎」
そして刑夜の身体から赤黒い杭が出現する。
「刃以て、血に染めよ。穿て、ブラッディダガー‼︎」
「逝けやヴァルハラァ‼︎」
魔力で編まれた短剣と、赤黒い杭がぶつかり合って行き、爆発音をあげていく。
「ああ、やっぱりか」
それを見て刑夜はほぼ確信した。
「ははは、凄えな・・・間違いなくその魔導書は聖遺物だ」
その言葉に管制人格は首を横に振る。
「これは、聖遺物などではない。ただ主を破滅へと導くための道具だ」
ああ、そうか。コイツらは聖遺物の定義を理解していないんだったか。
「いいや、それは間違いなく聖遺物だ。しかも最高レベルのな」
数百年分の歴史を重ねた上に、人々の命を奪ってきた魔導書。下手したら大隊長クラスの力を持っているかもしれない。
「まあ、だからって俺が負けるわけもねえが、なぁ‼︎」
そして再度の衝突。その時、管制人格が口を開く。
「お前は、呪いをかけられているのか?」
呪い、その言葉に夜刀は反応する。
「驚いたな、それもわかんのか」
「・・・ああ」
管制人格はこちらへと憐れみの目を向ける。
「望んだ相手を取り逃がす・・・誰からも抱きしめられない・・・いや、それはお前の呪いではないな」
そう、それはあの二人の呪いであり俺のではない。あの日、カール・クラフトから言われた呪いーー
「お前は、『真の親から愛されない』のか」
その言葉に、刑夜は自嘲する。
「ああ、そうだ。俺は生まれてこのかた、肉親から愛された覚えがねえ」
それが全ての始まり。凶月 刑夜の渇望の原典である。だがーー
「それがどうした⁉︎」
それに刑夜は叫ぶ。
「俺にとっちゃんなもん呪いですらねえんだよ‼︎顔も覚えてねえ他人の愛なんざいるか‼︎」
そう、そんな奴らに思うことなど何もない。
「血の繋がり?んなもんくその役にも立ちゃしねえよ‼︎俺の家族はあいつらだけだ‼︎名も知らぬ劣等共の事なんざ知らねえんだよおォォ‼︎」
「ぐっ⁉︎」
叫びながら、管制人格も吹き飛ばす。咄嗟に放たれた魔力弾が刑夜に直撃するがそれに構わず杭を放とうとした。
そして次の瞬間、
ーーードクン。
何かが躍動する。そして、
ーーー許さない・・・
そのような声が聞こえた。そして同時に放たれた一本の杭が凄まじい速度で射出される。
「ッ⁉︎」
管制人格はそれを咄嗟に避け、杭は背後のビルをたった一撃で倒壊させる。
「これは・・・」
刑夜ですら驚いている。そして、再び声が聞こえる。怨嗟の声が響いてくる。
『ゆる、さない、ゆるさない、ゆるさないゆるさない許さない許さない許さない許さない許さないユルサナイユルサナイユルサナイーーー』
それが誰の声か理解すると、刑夜は笑みを浮かべる。
「ああ、そうだな。お前も俺の家族だ。ユリアーネもそうだが、お前が俺を慕ってくれたから、俺は一人にならなかった」
そう、俺にはいつもそばにいる相棒がいた。いや、今もここにいる。
「悪いな、もう時間はかけられねえんだ。だから、本気でいかせてもらう」
再び夜が躍動する。
「カイン‼︎ヴァルキュリア‼︎今すぐ全員を下げろ‼︎」
その言葉に複数の気配が遠ざかって行くのがわかる。それを確認して笑みを浮かべる。
「く、はは、いいぞ、そうだーー『
さあ、始めよう。全てを吸い尽くす。夜の世界を創り出そう。
「『
夜が夜に塗り替えられる。血に濡れた、薔薇の夜が降臨する。
そして、
『許さない、よくもォッ!
わたしのマスターに、手をあげたなぁぁぁァァッ!! 』
ヘルガによる怨嗟の叫びが響く。それは刑夜の聖遺物、『
「ハハハハ、アーッハハハハハハハハハ‼︎面白え、最高だぞヘルガァ‼︎」
薔薇の夜に吸血鬼の哄笑が響き渡る。
今宵、闇の不死鳥に敵う者は存在しない。