踏み台から串刺し公×凶獣へと変わった彼。 作:めんどくさがりや
「ぐ・・・うぁ・・・‼︎」
あまりの虚脱感に管制人格は呻き声を上げる。
深く塗り潰された夜。頭上に禍々しく輝く深紅の満月。
魔力だけではない。生命力をはじめとしたあらゆる力が吸い取られている。
「これは・・・結界?いや、違う。まさか、一つの世界を創りあげたとでも言うのか・・・⁉︎」
すると、
『ご名答』
瞬間、管制人格へと杭が降り注ぐ。それをなんとか避け切ると、
「油断してんじゃねえぞオラァ‼︎」
腕から深紅の刃を生やした刑夜が向かってくる。
「ぐっ、
刑夜の一撃を咄嗟に障壁で受け止める。だが、刑夜の腕力で、そのまま吹き飛ばされる。
「が・・・‼︎」
叩きつけられた衝撃で息が詰まるが、それに構わず刑夜は拳を放ってくる。
それを咄嗟に避けて距離を取り、刑夜を睨みつける。
刑夜はただ楽しそうに言う。
「どーよ効くだろ?今夜のは特にいい感じなんだ。最高だろこの夜は。永遠に吸われる気分ってのはよォ・・・どんな気分だよ⁉︎なぁ、教えてくれねえか?」
その言葉に管制人格は立ち上がりながら向かってくる。それを見て刑夜は苛立たしげに舌打ちする。
「そうだ、その目だよ。俺と同じ色してるくせして、全部諦めちまってるような目だ。その目がよォ・・・」
瞬間、獣のような形相になり、
「気に入らねえんだよォォォォッ‼︎」
特攻。何の工夫もない力任せの攻撃。
「ッ‼︎なめるなァ‼︎」
それに管制人格も拳に強く魔力を強く纏い向かう。
「うらああああァァァ!!!!」
「おおおおォォォォ!!!!」
そして衝突の余波により、辺りに衝撃が走る。再び飛び交い、攻撃の応酬を繰り返す。
「私は負けない‼︎」
管制人格は叫ぶ。そうだ、何があっても負けるわけにはいかない。
「我が主の望みを叶えるまで、果てるわけにはいかないのだ‼︎」
そうだ。守護騎士達を家族のように受け入れてくれた優しき主。彼女は愛する者たちを奪ったこの世界が悪い夢である事を願ったのだ。自分はただ、その願いを叶えよう。
故に邪魔だ。貴様のような戦争屋が私の前に立つな。
「俺は負けねぇ‼︎」
凶月 夜刀は叫ぶ。そうだ、自分は敗北するつもりはない。
「俺に勝てるのはァ、『あの人』だけだァァァ‼︎」
そうだ。自分を唯一下せるのはあの人だけ。
故に邪魔だ。貴様のような死にたがりが俺の前に立つな。
「らあああァァァ‼︎」
「図に乗るな‼︎」
管制人格は闇の書を開くと、眼前に紫色のベルカの魔法陣が現れる。
「レヴァンティン」
そこから現れたのは一振りの剣だった。烈火の将が持っていた愛剣レヴァンティンだ。
それを掴み、構える。瞬間、レヴァンティンから薬莢が排出され、剣に炎が宿る。
それに刑夜は舌打ちする。別に剣に警戒しているのではない。そんなものは対処できる。問題は炎だ。今の状態で炎をくらうのは少しまずい。
「クソが・・・」
刑夜が炎に警戒するのには理由がある。
刑夜の内にあるヴィルヘルムの創造、『死森の薔薇騎士』。その能力は『術者を吸血鬼に変えて、周囲の空間を夜へと染め上げる』というものだ。
この「夜」に居る人間は全て例外なく生命力をはじめとした力を吸い取られ、奪った力は術者の糧になる。
敵の弱化と自分の強化を超効率で行い、攻撃の死角がなくなり、時間が経てば経つほど有利になっていくという凄まじい性能を誇る。
しかし、その反面欠点がある。こと創造は自己を吸血鬼に変える求道の面も持っている事により炎・腐食・銀・聖水などの吸血鬼特有の弱点をそのまま背負いこむことになってしまう。つまり、今の創造を発動させている夜刀にとって炎は弱点となってしまっているのだ。
「チィ・・‼︎」
すぐさま距離を取ろうとするが、闇の書から放たれたバインドにより動きを止められる。すぐに破壊するがもう遅い。
「紫電一閃・・・‼︎」
レヴァンティンの一撃が刑夜に直撃する。
ズドォン‼︎
「ぐあああああーーーー!!!!」
体が炎に焼かれ、刑夜は悲鳴を上げる。炎の一撃をくらった刑夜はそのまま地面へと叩きつけられた。
「うぁ・・・ぐ、ぁ・・・」
そこへ管制人格が降り立ってくる。刑夜は全身に火傷を負い重症だが、だんだんと回復している。今のうちに潰さなければ。
「・・・中々の力だったが、これで終わりだ」
そう言って攻撃をしようとした瞬間、
「ククク・・・ハ、ハハハ・・・」
「何がおかしい・・・?」
突然笑い出した刑夜に怪訝そうに言う。
「いや、丁度いいタイミングで来てくれたと思ってな」
「何をーーーッ‼︎」
瞬間、管制人格は背後からの殺気に反応する。振り向きざまに魔力弾を放つがそこには誰もいない。
「ぐあっ⁉︎」
突然横から攻撃を加えられる。そちらに攻撃を放つが誰もいない。
上にも左右にも背後にもいない。幻覚魔法か?
「(いや、違う)」
消えたわけでも、魔法を使ったわけでもない。ただ、速すぎるのだ。それこそ、肉眼で捉えられない程に。
「(だが、殺気の出処を探れば)・・・そこだ」
「ッ・・・‼︎」
攻撃を加えた場所にいたのは、銀髪の少女だった。彼女は攻撃に驚くもすぐさま回避する。
そして次の瞬間、突然チェーンバインドが放たれ、管制人格を拘束する。
「何・・・⁉︎」
馬鹿な、目の前の少女は何もしていない。すると放った相手は一人にしぼられる。
「無視は困るなァ」
凶月刑夜が、その手に持つデバイスの銃口からバインドを放っていた。
すぐさまバインドを壊そうとするが、それより先にバインドに繋がれたまま振り回され、ビルに叩きつけられる。
「ぐっ・・・‼︎」
瓦礫を押しのけ、管制人格は二人と対峙する。
「ラウラ、下がっていてくれ」
「む?だが・・・」
「頼む」
「・・・分かった」
そう言ってラウラはその場から消える。
「さて、そろそろ終わるか?」
「無駄だ。主の穏やかな夢を終わらせるわけにはいかない」
「穏やかな夢、ねえ」
「そうだ」
管制人格から魔力がほとばしる。
「お前達さえいなければ、主は残りわずかな命を暖かな気持ちで過ごせていた」
その言葉にピクリと反応する。
「お前、アホだろ」
「なに?」
「聞こえなかったか?アホだって言ったんだ。穏やかな夢?暖かな気持ちで過ごせていた?寝言ほざいてんじゃねえぞ劣等が‼︎」
瞬間、刑夜の怒りが爆発する。
「てめえは結局逃げてるだけじゃねえか‼︎穏やかな最期だのなんだの、とってつけたような理由で決めつけんな‼︎大事なんだろ?涙流して悲しむ程に大切な存在なんだろ?だったらてめえ自身が全部に絶望して何もかも諦めてんじゃねえ‼︎」
「お前に・・・」
刑夜の言葉に管制人格は叫ぶ。
「お前に何がわかる⁉︎今まで何人もの主が闇の書で死んでいった‼︎何度も対抗した‼︎何度も助けようとした‼︎それでもダメなんだ‼︎闇の書の呪縛からは逃れられなかった‼︎誰もが、闇の中に落ちていった‼︎」
それは闇の書の一番の被害者である彼女の叫びだった。闇の書の呪による破滅を防ごうとしたが、最後には滅んでしまう。そのような結末を何度も迎えてしまった彼女の心情。
「だから、今の私に出来るのは、主に穏やかな最期を迎えさせる事だけなんだ‼︎貴様如きが、知った風な口を聞くなァ‼︎」
管制人格はそう叫びながら拳を放ってくる。
「だから・・・ふざけんな‼︎」
それに刑夜も拳を放つ事で相殺する。
「そこで諦めちまうからてめえは劣等だって言ってんだ‼︎何故諦める?何故足掻かない?主を大切に思ってんだったら、諦めず、悲観せず、たった一つだろうと探し出し、ほんの少しの可能性でも諦めないのが道理じゃねえのか‼︎」
「黙れ、黙れえええェェェ‼︎」
そしてそのまま闇の書を開く。
「咎人達に滅びの光を。星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ・・・‼︎」
詠唱を唱えると管制人格の眼前に桃色の魔法陣が現れる。
辺りに残留していた目視できないほどの薄い魔力がその桜色の魔方陣に収束していっている。
「おいおい・・・マジか?」
おそらく、高町から奪った収束砲。回避は間に合わない。
どうする?そう思った瞬間、
『マスター‼︎』
「!?」
突然声が聞こえてくる。
「ヘルガ⁉︎」
『はい。遅くなりましたがようやく目覚めました』
「それはいいんだが、どうかしたか?」
何の理由もなくヘルガが呼んでくるとは思えない。
『ええ、あの収束砲の事ですが、あれを受ければいくらマスターといえどタダでは済みません』
「それはわかってる。だが、打つ手がないのも事実だ」
『はい、奇を衒う、策をどうだのでは意味が無い。でしたら、私をお使いください』
「お前を?」
『はい』
ヘルガの言いたい事はわかった。だがそれが通用するかどうか。
「いや、違う」
通用するか、などと怖じ気づいているヒマはない。
管制人格に目を向けると、丁度収束が完了したようだ。
「スターライトーーーブレイカー‼︎」
そして、砲撃が放たれた。
ドオオオオォォォォン!!!!
周囲一帯を収束砲が蹂躙し、焦土へ変える。
管制人格は周囲を見渡して刑夜の姿を見ようとする。だが、どこにもいない。
「消し飛んだ、か?」
あの収束砲を直にくらった事によって蒸発してしまったか。
「ならば、ここに用はーー」
無い。そうして行こうとした。
その瞬間、
「『捕まえたぜ(ましたよ)。この古本が』」
などという声が聞こえる。そこには、銃を構えるl刑夜と、それに背中合わせのように同じく銃を構える銀髪紅目の少女。名をーーーヘルガ。
「ッ⁉︎」
すぐさま、回避しようとする。
「おーっともうおせえ」
『往生際が悪いですよ。いさぎよく、すぐさま
「まあ、そういうこった、悪いなァ」
銃口を向けられた管制人格は信じられないといったように目を見開いている。
「
避けようとするがもう遅い。
この引き金を引き絞る指の動きこそが、貴様を打倒する緩やかな幕引きと識るがいいーーー
「『俺(私)のーーー勝ちだァァァァァアアアアアァァァッッ!!』」
そして、二人の銃口から赤黒い砲撃が放たれた。それは管制人格の障壁を破り、彼女を飲み込む。
「ああああああァァァーーーッ‼︎」
砲撃を受けた管制人格はそのまま落ちていく。
それが、決着の瞬間であった。