踏み台から串刺し公×凶獣へと変わった彼。 作:めんどくさがりや
学校が終わり、生徒達が下校している中刑夜は二人ーー龍宮と園城を連れて歩いていた。龍宮は警戒心を持った顔で刑夜あに質問する。
「一体どんな心変わりだ?」
「あ?何がだよ」
唐突に言われた言葉にそう返す。
「麗奈だけならともかく俺まで家に招こうとする事がだ」
今の刑夜はどのような思考を持っているのかわからない。
あの三人にまるで眼中に無いかのように無関係だったり、天道寺を容赦無く殴り飛ばしたり。
一体彼はどのように変わってしまったのだろうか。
問われた刑夜は笑いながら言う。
「別に意味はねえよ。俺は俺の思うように行動したまでだ」
「思うように?」
「おうよ。俺は今更嫁がどうだの言うつもりはねえし興味も湧かねえ」
それに園城は鼻で笑う。
「それを信じろと?」
「別にどう思ってくれたって構わねえよ」
それにと刑夜は付け加える。
「一人の仲間すらも守れない奴に興味なんて湧くか?」
「・・・なんですって?」
園城が鋭い視線を送ってくる。それに刑夜はニヤニヤしながら言う。
「事実だろう?おおかた、何処ぞの敵対者辺りに高町が襲撃されて、そいつらと戦ったが高町のリンカーコアが奪われちまったってところか」
それに二人は何も言わない。
「情けねえなあ。たった一人の仲間すらも守れないくせしてハッピーエンドを目指すだあ?はっきり言ってやる。お前らの思想は全部絵空事だ」
「絵空事ですって・・・‼︎」
園城は全力で刑夜を睨むが刑夜は構わず言う。
「おうよ。俺からしたらてめえらは力も持たない半端もんだ。口では守る守る言っても、結局は何も守れねえんだよ」
「ーーッ‼︎」
もう限界だ、完全にキレた。園城はデバイスを起動させようとするが、龍宮に止められる。
「待て‼︎」
「なんで止めるのよ‼︎こんなに侮辱されて黙っていろって言うの⁉︎」
「いいから止まれ‼︎ここでこいつに挑んでも勝ち目はないんだ‼︎」
「うっ・・・」
思わず押し黙る。刑夜は妙な力を手に入れ実力が圧倒的に上がったという。それこそ、魔導士が数人規模で戦っても手も足も出ない程に。
「ま、当然だわな。龍宮に劣るてめえでは俺に勝つ事なんざできねえ」
そう言って再び歩き出して言う。
「自分の渇望すら認識できねえようじゃ俺を超える事なんざできねえんだよ」
□■□
しばらく歩き、ようやく自宅へ戻った。
「ここだ。遠慮せず入れ」
そう言って玄関のドアを開ける。
「凶月、お前親御さんはいないのか?」
「頭に義理がつくが母親がいる。今はドイツにいるがな」
「義理?あんた、本当の親はどうしたの?」
それに刑夜は数秒程沈黙して言う。
「・・・さあな。数年前に俺を捨ててどっか行っちまった」
「ッ⁉︎・・・ごめん」
園城の謝罪の言葉に刑夜は苦笑して言う。
「おいおい、謝る必要なんざねえよ。第一顔も知らねえ奴が生きてようが死んでようが俺にとっちゃどうだっていい」
そう、自分は捨て子だ。親の顔も名前も何もかも記憶にない。唯一覚えているのが捨てられた際に言われたたった一言。
ごめんなさいという言葉。
はっきり言って自分勝手にもほどがある。自分の子供を捨てておいてそれを謝っただけで許せる筈がない。
忌まわしい記憶。何よりも捨て去りたいもの。
そして最も度し難いのが、その畜生の血が自分にも流れているという事実。
だからこそ渇望した。この汚れた血を入れ替えたいと、別の存在へと新生したいと。
夜刀がオリ主を名乗っていたのも結局はそういう理由からだ。
主人公という存在へと成れば、この汚れた血も少しはマシになるだろうという理由。
「ーーだがもしも、もしもだ。俺を捨てやがった奴が目の前にノコノコと現れやがったらーーこの手で引き裂いてやる」
刑夜から溢れ出る殺気。二人は気づいた。彼は本気だ。
彼の本当の親が現れたなら躊躇なく殺すだろう。
□■□
「ああ、言い忘れてたがこの家には同居人がいる」
「「同居人?」」
「ああ、名前はーー」
「む、帰ってきたか」
その時、浴室からラウラが出てきた。ーー全裸で。
それに園城は真っ赤になって龍宮の目を隠し、刑夜は思わず手で顔を押さえる。
「む?どうかしたか?」
「どうかしたかじゃねえ‼︎全裸で歩くなって言っただろうが‼︎」
「ああ、すまんな。着替えを部屋に忘れてしまったのだ」
「いいからさっさと着替えてきやがれ‼︎」
それにラウラは頷くと部屋へと歩いていく。園城はワナワナと刑夜を指差す。
「あ、ああああんた‼︎な、ななななな・・・‼︎」
「言っておくが、俺は何もしてねえ。元々あいつに羞恥心が皆無なだけだ」
うんざりした表情で言う。一応注意はしているのだが如何せんあまり効果がない。
「んじゃ、まあ適当に座れ」
そう促し二人を席に座らせる。
「さて、何故俺が高町が落とされた事を知っているのかと言うと・・・まあ、勘だな」
「勘ですって?」
「ああ、勘と言っても当てずっぽうでものを言ってるわけじゃねえぞ」
園城の疑問の声にそう答える。
「ここ最近、結界の残滓のようなものが数箇所。さらに強い魔力反応とそれの残滓を感じた。んで、実際に現場に行って解析した結果、その場所で誰かが戦闘を行なった事がわかった。魔力の性質と色、そして今日、高町が不在だった事とお前等の状態を見て推測したってところだな」
「・・・お前本当に凶月か?明らかに前と全くの別人に思えるんだが」
夜刀の説明に失礼な言葉を返す龍宮。それに若干イラつきながらも再び話す。
「で、誰にやられた?」
「・・・ベルカ式の使い手。それもかなりの手練れだ」
ベルカ式。
かつてはミッドチルダ式と次元世界を二分する勢力を誇っていた魔法であり近接系の個人戦闘に特化した魔法。
「ベルカ式か。はっ、面白え。それなりに楽しめそうだ」
「お前何を言って・・・」
「大した事じゃねえよ。ちょいと仕掛けてみようと思っただけだ」
「待て、あまり身勝手な行動はするな」
龍宮に対し、刑夜は軽く睨む。
「てめえ、いつから俺に命令できる程偉くなった?」
「何?」
「俺は自分よりも弱え奴に命令されるのが好きじゃねえ。それが仲間も守れねえ奴なら尚更な」
それに園城が反応する。
「言わせておけば・・・‼︎」
園城は席から勢い良く立ち上がる。
「何も知らないくせに彼を貶してんじゃないわよ‼︎あんたなんか能力が無ければ何もできない役立たずでしかないじゃない‼︎」
そう叫ぶ園城に刑夜は怒るわけでもなくただ一言、
「止まれ」
その言葉の意味を園城は理解出来なかったが、すぐに自分の首に添えられている刃物の存在に気づく。
刑夜が止めなかったらそのまま首を斬られていた事だろう。それを自覚するとゾッとした。
「刑夜、何故止める?」
声音からして先ほどの銀髪の少女である事が理解できる。だが、今の彼女は先ほどとは違い鋭利な刃物のような雰囲気を放っている。
「何故じゃねえよ。俺の家で殺人現場を作るんじゃねえ」
「だが、こいつは夜刀を侮辱したのだぞ?私にとっては親兄弟、恋人を侮辱されたのと同義だ」
「それでもだ。って、ちょっと待てや。恋人って何だ恋人って」
ラウラは園城の首に添えていた刃を離すと刑夜の目を見て言う。
「言葉の通りの意味だ。私にとってお前は恩人であり、親友であり、兄妹であり、父親であり、恋人であり、家族だ」
「・・・・・」
ラウラは本気だ。本気でそう思っている。それに刑夜は軽く溜息を吐きながら言う。
「・・・好きにしろ。お前がどう思おうとお前の自由だしな。恋人ってのはよく分からんが」
「元よりそのつもりだ。おいお前」
園城を鋭い視線で捉えて言う。
「次に刑夜を侮辱してみろ。今度はその首、切り裂いてやる」
そうしてラウラは踵を返して部屋を出て行く。
「嫌われちまったな、お前」
「凶月、彼女は一体誰なんだ?」
龍宮は先ほどの少女が明らかに常人ではない事を感じ取った。
「ラウラ・ボルネフェルト。出身はドイツの孤児院という事になってるが、それの正体は孤児院の皮を被って擬態した裏の施設。そこで施される教育は兵器の扱い方に人体の急所にそこを狙った暗殺方。さらには素手での人の殺し方などなどーーまあ簡単に言っちまえば人殺しを育成する施設だな。今はもう無くなったがあいつはその施設で育った」
「じゃあ、私の首を斬るってのは揶揄じゃなくーー」
それに頷く。
「躊躇い無くチョンパだろうな」
「・・・・」
園城の顔が先ほどより青くなる。あれを刑夜が止めなかったら冗談抜きで自分は死んでいただろう。
□■□
「凶月。次が最後の質問だ」
「おう」
刑夜は笑みを浮かべながら頷く。明らかに質問される内容を理解している顔だ。
「アレは一体なんなんだ?」
その質問に夜刀は笑みを深め、腕を掲げる。
「てめえが言ってんのはーーコレの事か?」
その言葉と同時に刑夜の掲げた腕から威圧感を放つ赤黒い杭が生える。
それに龍宮若干顔を強張らせ、園城は驚愕に目を見開く。
「・・・そうだ。それは一体なんだ?ミッド式でもベルカ式でもない。いや、そもそもソレは魔法じゃない。レアスキルやロストロギア、というわけでもないんだろ?」
「ご名答。こいつは聖遺物ってもんだ」
「聖遺物?」
「そうだ。人々から膨大な想念を浴び意志と力を得た器物、それが聖遺物だ。理由は分からねえが俺は聖遺物をこの身に宿した」
「具体的な能力は?」
「杭で突き刺した対象の魂や血、魔力を吸収し己へと還元する」
刑夜の説明に園城は言う。
「何よそれ・・・まるっきり吸血鬼じゃない」
「まさに救い様の無い化け物ってか?クハハハハ、救いなんざ生まれてこのかた、一片たりとも感じた事も無いがな」
自嘲的な言葉を刑夜は吐く。
「(それにしても聖遺物、か・・・)」
ここで一つ話をしよう。
彼は何も、最初から聖遺物について知っていたわけではない。それが存在している事すら知らなかっただろう。
なら何故彼は聖遺物を認識しその身に宿したのか?
それはあの戦闘、彼が自らの渇望を認識し、力を強く求めたのだ。
彼の渇望の意思は凄まじいものであった。
ーー愛無き者が我に触れるな。
ーー我に流れる畜生の血が憎い。
ーーならば誰の接触も許さず、この血を入れ替え新生しよう。
その意思に二つの聖遺物が反応した。それが『闇の賜物』と『暴風纏う破壊獣』だ。さらに数奇な事に、それらには以前の持ち主の思念が宿っていた。
それらが刑夜に吸収されていき、それらの知識も得る事が出来た。
そして理解し、納得した。
ーー彼らの渇望は自分と似ている。
だからこそ聖遺物は自分に宿ったのだろう。
だが、彼らは言うなれば犬猿の仲だ。何処までも噛み合わない二人。
だが、彼らがある存在に向ける忠誠心だけは同じだった。彼の爪牙となり絶対の忠誠を使った主。
唯一己を打倒する者。誰よりも真実に誓いを守り、何よりも誠実に契約を重んじ、神よりも純粋に人を愛した破壊の君。
「ハイドリヒ卿・・・」
「ん?何か言ったか?」
龍宮が不思議そうにこちらを見る。それに刑夜はただ一言、
「なんでもねえよ」
そう言った刑夜の脳裏に、一瞬だが黄金の獣がよぎった。