踏み台から串刺し公×凶獣へと変わった彼。 作:めんどくさがりや
「ようやく骨のありそうな奴が来た。せいぜい楽しませろや」
とある夜、刑夜は一人で街を歩いていた。この頃の趣味のようなものだ。彼の変化してしまった体質により、夜に五感が冴え渡り、昼に日の光を嫌う。まさに吸血鬼そのものだ。
「さて、奴らに出会えるか?」
夜に歩いているのはただ日課のためだけではない。今の刑夜は撒き餌の役割をしている。高い魔力を持っている自分を餌にベルカの使い手、管理局の言う闇の書の守護騎士をおびき寄せること。そして襲いかかるならそのまま戦闘。出来ることなら捕縛。これがだいたいだ。
「しっかし、なんで聖遺物がこの世界に現れたんだ?」
本来ならば聖遺物は別世界に存在する筈が何故かこの世界に現れた。理由は不明だが何者かが手引きしたに違いない。そこで刑夜の脳裏に一人の男が思い浮かぶ。
「まさかカール・クラフトの仕業か?だとすれば納得がいくんだが・・・」
いや、かつてあの男に貶められた二人の感が告げる。あの男がこの程度で済ます筈がない。
「あーなんでだ?俺には関係ねえ筈なのに腹が立ってきた」
これも刑夜の中に二人の感情が入ってきた為である。
「もしあのニートが出てきたらとりあえず殴ろう」
そう頷きながら歩き、そこでピタリと止まり言う。
「・・・ようやく釣れたか?」
グルリと辺りを見渡す。いつの間にかあれ程いた人影が途絶えていた。いや、それどころか気配すら感じない。
「さて、どうしたものかねっとお‼︎」
咄嗟に後ろを振り返り、腕に生やした杭で背後からの一撃を受け止める。それは一振りの剣であった。
「ほお、今のを受けるか」
そこにいたのは、騎士甲冑を纏った一人の女性だった。
桃色の髪をポニーテールに結んだ女。
刑夜は剣を押し返して言う。
「後ろから斬りかかるたあどういう了見だ?まあいい。時空管理局嘱託魔導士、凶月 刑夜だ」
「管理局の者か・・・守護騎士ヴォルケンリッター、烈火の将シグナム」
「ははっ、いいねえ戦の作法を心得ている。流石は騎士ってか?」
シグナムは剣を構えて言う。
「貴様に恨みは無いが、その魔力を貰い受ける」
「へえ、言うじゃねえか」
刑夜は一度杭を戻して、二丁の銃型のデバイスを取り出す。
それは少し前に多数の魂を喰らった洞窟で発見した銃であった。それをストレージデバイスへと改良したのがルガーP08とモーゼルC96。
かつてのデバイスであったヘルガは聖遺物と融合し、自分の心臓へと変わってしまった。
元々彼は自分のデバイスにはかなりの愛情を注いでいた。そして、相棒であるヘルガも彼の事情を理解していたために主に付き従う事を良しとしつつ悩んでいた。
自らの血を汚れと蔑み、嫌悪する主。
その主に何も出来ない自分への不甲斐なさがデバイスであるヘルガにある渇望を生み出させた。その結果にヘルガは闇の賜物と同化して刑夜の心臓へと変わった。
「俺は負けねえ。アイツの思いを知ったからな」
銃口をシグナムへと向けて言う。
「泣き叫べ劣等。今夜ここに、神はいねえ」
□■□
「始まったみたいね・・・」
同時刻、アースラにて艦長であるリンディ・ハラオウンはモニターにて地上の様子を観ていた。そこに映っていたのは守護騎士の一人。それに相対するは白髪の少年、凶月 刑夜。かつては高い魔力量とレアスキルが取り柄というだけで天道寺と共に問題児の扱いだった。
だが、今は違う。彼はもはや問題児どころではない。
守護騎士を相手に二丁の銃と杭のようなものを操り戦っている。
「凄いわね彼」
リンディの言葉にエイミィ・リミエッタが反応する。
「凄いなんてレベルじゃないですよコレ。魔力強化を一切使用していないんですよ?もはや人外ですよ」
驚きを通り越してもはや呆れ顔だ。
「それにしても彼、変わりましたよね」
ふと、エイミィがそんな事を言った。
変わった。たしかに彼は変わったように見えるだろう。性格はあまり変わっていないが。先ほど、彼がアースラで言った言葉が出てくる。
『今回は俺が出る。てめえらは一切干渉するな。手出ししてみろ、その瞬間誰であろうと皆殺す』
そう言われた事もあって、他のメンバーには結界外で待機してもらっている。他のメンバーは彼に任せる事に不安を感じていたようだが。
「・・・いえ、おそらく彼は、何も変わっていないと思うわよ」
「え?」
リンディの言葉に思わず聞き返す。
彼は高町などの他のメンバーには天道寺と同じような性格だと思われているが実際は違う。まず、天道寺はリンディの息子であるクロノ・ハラオウンや協力者であるユーノ・スクライアに無駄に敵対心を持っている。まあこれの理由は天道寺がクロノにはKY、ユーノには淫獣と身勝手な印象を着けているだけなのだが。
だが刑夜は意外にもそのような事がなかった。それどころか友人関係をあの二人と築いている程だ。
前に刑夜はクロノに言っていた言葉をリンディは偶然聞いてしまった事があった。
『俺はただ、俺に流れるこの汚れた血を入れ替えたいんだ』
「汚れた血、ね・・・」
「何か言いましたか?」
エイミィが首を傾げて聞いてくる。それにリンディは、
「なんでもないわ」
ただそれだけを言った。
□■□
「ウラァ‼︎」
「はああ‼︎」
刑夜の一撃とシグナムの剣撃がぶつかり合う。その衝撃で地面がひび割れていく。ここが結界内である為に周囲へ被害はその程度で済んでいるが、結界を展開せずに暴れていたら大惨事であるだろう。
「ククク、アーッハハハハハハ‼︎」
刑夜は嬉しそうに笑い声を上げる。彼からしたらようやくまともに戦える相手だ。
「そうだ、そうだとも。やはり戦はこうで無くてはなあ‼︎」
刑夜のデバイスから高密度の魔力弾が機関銃の如く放たれる。それをシグナムは剣のアームドデバイス、レヴァンティンでいなしていく。
「ぐう・・・‼︎」
刑夜の魔力量はSSS。聖遺物を抜きにしても充分な脅威だ。デバイスから放たれる魔力弾も一発一発がかなりの威力であり、さらに聖遺物の加護で相乗効果になっている。
「(このままではまずいな・・・なら)レヴァンティン‼︎」『Explosion‼︎』
レヴァンティンの刀身の付け根の一部がスライドし、空薬莢が飛び出すと同時にシグナムの力が上がる。
「面白え」
そう言うと刑夜の腕から血のような深紅の刃が剣のように生える。
そしてシグナムと夜刀は同時に駆け出す。
「紫電・・・一閃‼︎」
「逝けやヴァルハラアアアァ‼︎」
シグナムのレヴァンティンと刑夜の刃がぶつかり合い辺りに凄まじい衝撃が走る。
「オラアアアアァァ‼︎」
「何⁉︎」
拮抗状態が続くと思われたが自力の差で刑夜が押し勝ち、シグナムは敗れた。
「ぐう、おのれ・・・‼︎」
「楽しめたぜ烈火の将。だが、これで終わりだ」
そう言うと刑夜はシグナムに銃を向ける。
「Auf Wiedersehen.」
そして刑夜が引き金を引こうとした瞬間、突然別方向から何者かの気配を感じた。
「何⁉︎ぐあああああ‼︎」
凄まじい衝撃と共に刑夜の身体が吹き飛ばされビルを突き抜ける。
「クソが‼︎一体何が・・・‼︎」
刑夜が視線を向けるとシグナムの側に一人の少女がいた。長い金色の髪をポニーテールにした碧眼の少女。その手に携えるのは細身の剣。ただの剣ではない。その剣は間違いなく『闇の賜物』や『暴風纏う破壊獣』と同じ聖遺物であった。
「ああ、そうか。そういう事か」
再び刑夜は笑みを浮かべる。刑夜自身は初対面であったが、彼女を知っていた。
かつて、魔道に堕ちたとある人物を救うために行動して、愛する者に殺された最期を遂げた者。高潔なる祈りを持った騎士。
「まさか、てめえがいるとは思いもよらなかったぜ。なあーー
ーーヴァルキュリア」
聖槍十三騎士団、黒円卓第五位ベアトリス・ヴァルトルート・フォン・キルヒアイゼン。
戦乙女と呼ばれた者が、降り立った。