踏み台から串刺し公×凶獣へと変わった彼。 作:めんどくさがりや
結界内にて行われた戦闘に乱入してきた少女、ベアトリスはシグナムに声を掛ける。
「シグナム、無事ですか?」
「すまんな、ベアトリス」
シグナムはなんとか立ち上がりベアトリスに礼を言う。
「彼はいないのか?」
「ええ、蒐集自体はなんとか終わったんですが何やら嫌な予感がしたんで私だけで戻って来たんです」
そう言うと視線を瓦礫から立ち上がった刑夜に向ける。
「私と彼がいる時点でもしやとは思ってはいましたが、これは少し厄介ですね」
苦虫を噛み潰したかのような表情をしているベアトリスにシグナムは問う。
「奴を知っているのか?」
「・・・ええ、彼は聖遺物の使い手です。それもかなり厄介なタイプの」
そう言うとベアトリスは自らの聖遺物である『
「ここは私が引き受けます‼︎シグナムは一旦退却を‼︎」
そう言われ、少しだけ迷った後、
「・・・すまない。後は頼んだ」
そう言って去っていく。
「さて、それじゃあってえ⁉︎」
再び杭が飛んでくるのをなんとか避ける。
そこで刑夜が目の前に立つ。
「よお、初めましてか?ヴァルキュリア」
白髪白貌、暗闇にてなお輝く深紅の瞳。それはベアトリスにとっては既知感を覚える容姿であった。
「ベイ中尉・・・」
それに刑夜は一度怪訝そうな顔をする。。
「ああ?・・・あー、言われてみれば似てるかもしれねえが、そいつとは別人だ」
「そうですか。なら何故あなたは彼の聖遺物を?」
ベアトリスの質問に刑夜はため息を吐く。
「さあな。おおかた、カール・クラフト辺りが手を加えたんだろうさ」
「副首領の事まで知っている。という事はこちらの事は大体理解しているという事ですか」
「ああ、まあそれはもうどうでもいい。早いところ本題を言えよ」
そう言うとベアトリスは一度瞠目して言う。
「あなたの魔力、それを貰い受けます」
「カハッ、いいねえ。わかりやすくて好きだぜ俺は」
そう言うと刑夜は杭を生やして戦闘態勢に入る。
「さあ来いよヴァルキュリア。ぶち殺してやるからかかってきな」
「倒れるのは、あなただ‼︎」
今宵、聖遺物の使い手同士の戦いが幕を開ける。
□■□
「ハッハー‼︎」
「やあああああ‼︎」
暗闇に輝く閃光。辺りを蹂躙する吸血の杭。
ベアトリスは戦雷の聖剣を巧みに操り鋭い剣撃を、刑夜は杭を撃ち出したり拳に杭を生やしてそれで攻撃をする。
すでに結界内は聖遺物同士の戦いによる余波でボロボロだ。
「アッハハハハハハ‼︎楽しいなあオイ‼︎」
「ぐっ、戦闘狂は変わらずって事ですか‼︎」
杭を避けながらベアトリスは悪態をつく。先ほどから戦って理解したのだが彼の戦闘スタイルは以前の聖遺物の持ち主と似ているようで違う。杭と共に、デバイスから放たれる魔力弾がベアトリスを襲い、さらに彼は杭だけではなく刃をも操っている為に勝手が違う。
さらに戦況は嫌な方向へと進む。
「ああ、いいぜえ。出し惜しみは無しだ。『
「な⁉︎二つ目の聖遺物⁉︎」
ベアトリスが驚愕する。
「『
それに彼女は目を見開く。
「シュライバー卿の聖遺物・・・」
そして、それに刑夜が跨り、咆哮を上げる。
「イィィィィヤッハアアアァァァァ!!!!」
辺りを蹴散らしながらその一撃をなんとか回避する。
「まだまだだ‼︎気張れやオラァ‼︎」
聖遺物を操りながら杭と魔力弾を放つ。
「ぐっ、はああああ‼︎」
それらを避けながらベアトリスは剣より雷を放つ。
だが、それらを刑夜は全て避ける。
「遅せえんだよノロマがああぁーー‼︎」
「ぐぅ⁉︎白二人が融合とかどんな悪夢ですか・・・‼︎」
縦横無尽に駆け巡る刑夜になんとか食らいつくベアトリス。ここまで出来るのは彼女の技術や力によるものだろう。だが、
「しまっ・・・‼︎」
「『
一瞬の隙を突かれ、刑夜に吹き飛ばされる。そのままビルを突き抜けて行き地面に叩きつけられる。
「が・・・うぁ・・・」
深いダメージをおいながらも、ベアトリスは立ち上がった。
「へえ、まだ立ち上がれんのか」
「当然、です・・・私はまだ、倒れるわけにはいかないから・・・」
彼女の目には強い信念が宿っていた。絶対に諦めないという思いが伝わってくる。
「・・・解せねえな。何故お前はそこまでする?自分が何をやってんのかがわからないわけじゃねえだろ?」
「・・・言われずともわかっています。私達がやっているのは決して正しい事じゃない」
そこでだが、と返す。
「それでも、それでも成し遂げなくてはならないんです」
ベアトリスの脳裏に浮かぶは儚さと強さを持った一人の少女。
「あの子は、今代の闇の書の主は、今までたった一人だった」
家族を失い、足に障害を持ち、それでもたった一人で生きてきた。そして守護騎士と自分達を家族として受け入れてくれた。血で汚れた自分達を、優しく歓迎してくれた。
だから、守る。この暖かな日常を、この刹那を。だから、
「だから私は照らしたい、あの子の道を‼︎あの子達の全てを‼︎」
死人で出来た道ではなく、たった一人の少女の為に、戦乙女は高らかにそれを詠いあげる。
『
』
彼女の渇望は『戦場を照らす光になりたい』。
光が無く、血と硝煙で曇る希望の無い暗闇の戦場でも、仲間たちが道を見失うことがないように、光となって導きたいという清浄な願いである。
そして今、戦乙女はたった一人の少女を照らす為に詠う。
『
そして刑夜の目の前に現れたのは、雷を全身に纏った戦乙女であった。いや、その姿は雷そのものと言っていい存在。
「・・・ちっ、ガキのなりしてる癖に創造が使えんのか」
「ええ、では参ります‼︎」
その瞬間、雷鳴の如き速さベアトリスが向かってくる。それを夜刀は刃を操りついていく。
「クソがァ‼︎」
「まだです‼︎」
そう言い再び雷の速さで攻撃を仕掛けてくる。
「チィ、しゃらくせえ‼︎」
そう言い杭をベアトリスに向け放つ。だが、直撃するかと思われたソレは、ベアトリスの身体をそのまま通り抜ける。
「何ィ⁉︎」
「はあああああああ‼︎」
放たれる一撃を刃で防御する。だが、雷を纏った剣は刃を弾き、追撃が刑夜を襲う。
「てめっ、ぐおぁ⁉︎」
「落ちろおおおおぉぉぉ‼︎」
そのまま刑夜は地面に叩きつけられ、その衝撃で土煙が上がり、地面にクレーターを作る。
「クソが・・・‼︎」
刑夜が悪態をついたその時、
『おいおい・・・てめえ、まさかそれが本気か?』
「⁉︎」
突如頭に響く声。これを夜刀は知っていた。
「ヴィルヘルム・・・」
『ホント、情けないよね。まるで負け犬だ』
今度は別の存在の声が聞こえる。
「シュライバーまでか。一体何だ」
『なんだじゃねえよ。てめえ、俺らを宿しておいて戦乙女に負けるつもりか?』
『聖遺物の使い方がなっちゃいない。今の君じゃあアンナにも負けるんじゃない?』
認めたくはないが、たしかに今の刑夜では創造の位階にいるベアトリスに勝てない。
『てめえが勝つためにはもっと上に行かなけりゃならねえ』
『君の渇望はなんだ?君が願ったものはなんだ?それを自覚しない限り上には行けない』
「俺の・・・渇望・・・」
ーーードクン。
それを最初に願ったのはあの時だ。この世界に生まれた後、前世の記憶を取り戻し、己に流れる汚れた血に絶望したあの時。
まず最初に感じたのは『嫌悪』ーー求めしものは新生。己が血を全て入れ替え如何なる者の接触を許さない。
これが刑夜の渇望である。
さらに、彼の『如何なる者の接触を許さない』というのは、数年前に自らを捨てた親への憎悪から生まれたもので、元となった彼の渇望は『愛を持たぬ者が己に接触するのは許さない』というもの。
己の血への絶望、自らを捨てた者への憎悪がその渇望を生み出したのだ。
「ーーカハッ、ハハハハ、アーッハハハハハハハハハ!!!!」
刑夜は狂ったように笑い声を上げる。そしてベアトリスは刑夜から放たれる重圧を感じ取り、再び構える。
「そうだ、そうだとも。俺は二度と負けねえ。敗北なんざいらねえし知るつもりもねえ。てめえが照らす光さえも俺の夜で潰してやる」
その瞬間、夜が躍動する。刑夜から凄まじい殺気が放たれ、それがこの夜の世界、暗黒の闇へと流れ出る。
その闇の中、刑夜は歌劇の主演の如く詠いあげる。
ーー『推奨BGM:"Rozen vamp"』ーー
『
』
それは夜を形作る詩。己が唯一無敵の存在へと新生する為の宣告。
『
日の光を否定し、覚めぬ夜こそを至高とする。
夜に夜が重ねられる。血塗られた夜が、降臨した。
「てめえがどれだけ闇の書の主を思っているのかなんざ知らんが・・・コッチにも譲れねえもんがあんだよ」
頭上に輝く紅い月に照らされ刑夜は叫ぶ。
「行くぜえええええぇぇぇ!!!!」