鬼滅の蠍   作:コッコリリン

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鬼滅の刃×仮面ライダーゼロワンを書いてみました。タイトルから見て主人公は誰なのか知ってる人だと一目瞭然っていう。

タグにもあるように特殊タグ実践作品です。見辛いかもしれませんがご了承ください。

鬼滅の刃は最近読んでアニメ見て映画見たんですがまだまだにわかです。台詞とかがおかしいと思われた方々、申し訳ありませんツッコんだりしてもいいですけど大体は諦めてくださいませ。ゼロワンも同じく。

長々とまえがきで書くのもあれなんで、とりあえず読んで味噌。


前:雪の中の男

 時は大正。日本が西洋文化を取り入れて久しく、人々が新たな生活に馴染み始めた時代。明治時代の頃に発令された廃刀令により刀持つ侍の姿はすでになく、今では洋装と和装両方を取り入れたような大正モダンとも呼ばれる出で立ちの服を纏った人々が闊歩する。

 

 かつて信じられていた魑魅魍魎、妖怪幽霊等々の怪奇は普及し始めた化学の力によって、徐々に人々の意識から消えていき、今や幽霊騒ぎも狂人の戯言と捉われかねない始末である。こんなご時世にそんなバカな話があるものか、と。どうせ都市伝説の域を出ないと笑って済ませる。

 

 バカな話……そう吐き捨てられる話は、表の世界に住まう者たちしかできないもの。

 

 表があれば裏があり、光あるところに闇がある。それは世界とて変わらない。

 

 光の中に住む人々は知らない。闇の中を蠢く人ならざる者たちがいることを。

 

 闇の中からいつ何時、その魔の手がこちらへ伸びて来るかわからないことを。

 

 その魔の手から人々を守るため、誰にも知られることなく姿を消した筈の刀を用いて闇を切り払う者たちがいることを。

 

 

 

 闇住まう人ならざる者にして人を食い、人に仇なす者ども――――“鬼”

 

 

 

 ほとんどがその鬼に愛する者を奪われ、復讐を決意し、そして人を守るために鬼を殺す者たち――――“鬼殺隊”

 

 

 

 これより語るのは、一人の少年が鬼殺隊を目指す切っ掛けとなった話。家族を殺され、妹を救うため、血塗られた修羅の道を歩むこととなる、心優しき少年の話。

 

 

 

 

――――否

 

 

 

 

 それは正史。本来であればそのような歴史を歩む筈であった世界の話。

 

 

 

 これより語られるは、大きく逸れることは無くとも正史にあらず、されど正史となった道筋。

 

 

 

 歴史に突如として発生した歪によって、正史を逸れ、僅かばかりに変化した本来ならば存在しない歴史の話。

 

 

 

 新たな道筋を紡ぐ切っ掛けとなった、人ならざる者の話。

 

 

 

 さぁ、語ろう。

 

 

 

 鬼滅の始まりを。

 

 

 

――――――――――

――――――

――――

 

 

 

 場所は奥多摩郡、雲取山。雪がしんしんと降る昼下がり。秋の暖かな気候は消え、かつて紅葉の葉で色鮮やかな様相を見せていた山は、今では雪で白い化粧をし、木々から葉は消えて深く積もった雪の下に埋もれてしまった。

 

 そんな冷たく凍てついた空気に満ちた山の傾斜。ザクザクと藁靴で覆った足で雪を踏みしめ、背中の空の籠を背負って歩く、赤混じりの黒い髪を後ろで一つに纏め、額の火傷のような痣を隠すことなく顕わにしている少年。黒と緑の市松模様の羽織と、両耳に下げた旭日の絵柄が書かれた花札のような耳飾りを歩くたびに揺らし、時折寒さを凌ぐために首回りに巻いた長い(マフラー)で顔の下半分を隠すように上げる。そうして道の途中で一度「ふぅ」と白い息を吐く。

 

「今日は全部売れたなぁ。みんな喜ぶぞ」

 

 喜色に富んだ声で一人ごちる少年、竈門炭治郎は、家で待つ家族の喜ぶ姿を想像して口角が上がる。歩き慣れているというのもあるのだろうが、雪による足元の不安定さなど感じさせない軽快な足取りで進んでいく。

 

 死んだ父の跡を継ぎ、炭を売り続けてきた炭治郎。三人の弟、二人の妹、母、そして自分を含めた七人家族の大黒柱として、一家を支えて守るという責任感の下、こうして麓の町へ炭を売りに行く。それでも生活は豊かにはならず、貧しい暮らしを続けてきてはいるが、炭治郎はそれが不幸だなどとは露ほども思っていない。例え貧しくとも家族には常に笑顔があり、幸せがある。それこそが炭治郎が頑張る原動力だ。家族を守るためならば、いかなる苦境など炭治郎にとっては恐れるに足らず。

 

 そうして今日もまた、苦労して作った炭を全て売り捌き、無事に帰路に着くことができた。やはりこんな寒い日は炭がよく売れる。これだけ売れれば、今日の夕飯は少し豪華になりそうだと、炭治郎自身の心も弾んだ。

 

 歩き慣れた雪道を進む炭治郎。いつも見ている光景。空から静かに降り続ける冷たい雪が炭治郎の顔に当たる。一瞬だけ目に雪が入り、反射的に顔を横へ向けた。その先は山の木々が積もった雪の中から生えてきているかのような、これもまた見慣れた光景が広がっている。

 

 筈、だったのだが。

 

「……あれ?」

 

 一つ、炭治郎に見覚えのない光景が映り込んだ。木々の中に紛れるように、一つだけ黒い影らしき物が見えた。

 

 折れた木だろうか? 立ち止まった炭治郎は目を凝らしてよく見てみる。

 

 やがて炭治郎は影の正体を掴んだ。黒い影は折れた木ではなく、ましてや動物でもない。

 

「人?」

 

 炭治郎がいる場所からそう遠く離れていない位置に見える影の正体は、人だった。遠目から見てもわかる、黒い着物を纏った人間の姿。白い雪景色の中でその姿は似つかわしくなく、異様とも言える程に目立つ。

 

 何をしているのだろうかと、炭治郎は気になった。同時、もしかすると道に迷ってしまったのかもしれない。そう考えた炭治郎は、迷うことなくいつもの道を外れ、その人物の下へ歩み寄っていく。困っている人間を見捨てることは絶対にしない心の優しい炭治郎にとって、迷い人であるならば到底放置することなどできるわけがなかった。

 

 少し歩いて、改めてその人間の風貌を観察してみる。そして気付く。見れば見る程、その異質さが際立っていた。

 

 性別は男。短い金髪に、長身の身体に纏うのは黒を下地に紫のコントラストが散りばめられ、そこに鮮やかな模様が彫られた着物のような服。それだけでも変わった風貌をしているが、それ以上に異様なのが、左手に持つ黒鞘に納められた日本刀。廃刀令で刀を持つことを禁じられていることは炭治郎とて知っている。なのにこのご時勢に刀を持っているこの男を、炭治郎は警戒する。町でも見かけたことがないのも拍車をかける。

 

 ふと、男の左耳に光る物があることに気付く。耳の形に沿うような独特な形状のピアスが、不自然な緑色に光っている。あれは何なのだろうかと炭次郎は思ったが、考えたところでわからなかった。

 

 やがて炭治郎は男の傍まで歩み寄った。男は先ほどから変わらない、ただ雪降る曇天の空を見上げ、じっと佇んでいるだけだ。頭と肩が雪でうっすらと白く染まっているのを見るに、結構な時間ここにいたのだろうと予想する。その横顔は無表情で、何を考えているのかも伺い知れない。刀を持っている時点で、危ない人物やもしれない。

 

「……あの」

 

 それでもお人好しを絵に描いたような人間である炭治郎は意を決して話しかける。この様子では声をかけても反応がないかもしれないと一瞬だけ考えた。だが炭治郎の予想とは裏腹に、男は声に反応して見上げていた顔を戻して炭治郎へと視線を向けた。

 

(……何だ、この人……)

 

 思わず炭治郎はぎょっとする。男の眼は青く、それでいて人間味を感じられない冷たさがあった。いや、人間味というよりも、人間とは思えないような、そんな妙な感覚だ。

 

 それだけであれば、氷のような冷酷さを感じさせる人間と捉えられただろう。だが炭治郎はそうは思わなかった。

 

(不思議な匂いのする人だ……)

 

 炭治郎の鼻は特殊だ。それこそ獣じみた、いや、獣を超える程の超人的嗅覚と言っても過言ではない。だが物理的な意味合いに留まらず、その人の心理面、人格すらも匂いで判断できてしまう。つまり、初対面の人間が善人か悪人か、目の前の人間が嘘をついているかいないのか、炭治郎にはわかってしまう。

 

 その嗅覚が、目の前の男を異質だと訴えている。まず人間特有の匂いがしない。寧ろ、なんだか鉄と油のような、そんな匂いがする。見た目は完全に人間の筈なのに、どういうことだろうか? 炭治郎は疑問に思いつつも、一つだけ確信していることがある。

 

 見た目に反してこの人は悪人ではない、ということだ。

 

 刀を持っているし、異様な風貌であるし、冷たい眼をしているし、匂いも人間とは違う不思議な物だ。怪しむ要素が多すぎる。

 

 だがそんな匂いの中、まるで決して表に出ることはない、優しさを感じさせる匂いを感じ取った。まるで冷たさを感じさせる鋼鉄の箱の中に閉じ込めているかのようだ。

 

 どこかで嗅いだことのある匂い……しかしそれが何なのか、炭治郎には思い出せない。

 

 何にせよ、声をかけたのに黙っているわけにはいかず、炭治郎は振り向いた男に言葉を続けた。

 

「こんなところで何をしているんですか?」

 

 服装からして雪山へ赴くための装備ではないことは確かだが、だとすると何故ここにいるのかと、炭治郎は問うてみる。

 

「…………」

 

 だが、男は答えない。ただじっと、無言で青い眼を炭治郎へ向けているだけだ。「えっと……」と炭治郎はその視線の圧を感じて戸惑う。

 

 言葉が通じないのだろうか。顔立ちは日本人のようだが、金髪であるのを見るに外国人かもしれない。だとするとどう言葉を続けたものかと、炭治郎は頭を抱えそうになった。

 

「……お前は誰だ」

 

 が、男は抑揚のない、しかし流暢な日本語で炭治郎に質問をする。言葉が通じたことに安堵を覚えながら、炭治郎は男の質問に答えた。

 

「俺は竈門炭治郎と言います。この山で炭売りとして暮らしているんです。あなたは?」

 

 自己紹介をする炭治郎。そして今度は男の名を聞いてみた。

 

「……俺は……」

 

 ボーっとしているようなそんな声で、男は言った。

 

 

 

 

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「俺は……誰だ」

 

 

 

 

 ここから物語は歪みを見せる。もし竈門炭治郎がこの男を見つけることがなければ、或いは声をかけることがなければ……物語は本来通りの道筋を辿っていたのは間違いない。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

「ただいま!」

 

 山の中に建てられた小さな一軒家。その家の前で炭治郎の弟、次男の竹雄と三男の茂、そして妹の花子が雪で遊んでいるのを見て、炭治郎は声を掛けた。

 

「あ、兄ちゃんおかえり!」

 

「「おかえりー!」」

 

 長男が帰ってきたことで、三人はパッと明るい顔で炭治郎に駆け寄る。が、その足は途中で止まった。

 

「えっと……兄ちゃん、その人は?」

 

 竹雄は視線を炭治郎から外し、その後ろを見ながら怯えを滲ませて兄に問う。

 

「ああ、この人は……その、山の中で迷っていたんだ。色々事情があるみたいで」

 

 炭治郎はそう言いながら、後ろに立つ男のことを説明した。

 

 竈門炭治郎は麓の町でも知らない者はいないとされている程にお人好しだ。例えどんな相手であろうと、人助けに全力を出す。そして相手が喜んでくれると、自分もまた嬉しくなる、そんな人間だ。故に、例え刀を手にしている男であったとしても、途方に暮れていれば手を差し伸べることに抵抗はない。

 

 ただ、何も考え無しに助けたわけではない。この人は悪人ではない……そう確信しているからこそ、炭治郎は男をここへ連れてきたのだった。

 

 そして当の男は、いまだ感情のない顔で竹雄と茂と花子を見る。冷たさを感じさせる男の視線に耐えられず、茂と花子は竹雄の後ろに隠れてしまった。

 

「竹雄、母さんに話してお湯を沸かして欲しいって伝えてきてくれないか? この人、身体がすごく冷たいんだ」

 

「う、うん……わかった」

 

 炭治郎に頼まれたとあっては、三人も断れない。男から離れるように、竹雄は弟と妹を連れて家へと駆けこんでいった。

 

「……すいません、やっぱりちょっと警戒してるみたいで」

 

 悪気はないのだが、やはり見慣れない上に刀を手にしているのだから、怯えるのも無理はないのだろう。それでも気分を害したかもしれないと思い、炭治郎は弟たちに代わって男に謝罪した。

 

「……いや……」

 

 意に返すことなく、男はただ一言そう呟く。怒っていない様子で、炭治郎はホッと安堵した。

 

 いつまでも寒い外にいては風邪を引いてしまうと考えた炭治郎は、頭を肩の雪を叩き落としてから男を連れて家の敷居を跨いだ。

 

「ただいま、母さん、禰豆子」

 

「おかえり、炭治郎」

 

「おかえりなさいお兄ちゃん!」

 

 炭治郎が入ってすぐ、竈の前に屈んでいた炭治郎の母、葵枝と、鍋に火をかけていた一番上の妹である禰豆子が出迎えてくれた。母と並んでいるのを見ると、禰豆子も母親に似て随分と美人になったと、炭治郎は場違いながらしみじみそう思った。そしていつもなら相も変わらない温和な笑みで炭治郎を労わるところだったが、竹雄から話を聞いていた二人は男を招き入れる。

 

「この雪の中、さぞ寒かったでしょう。どうぞお入りください」

 

「……ああ」

 

「はい、お兄ちゃん」

 

「ああ、ありがとう禰豆子」

 

 親切な葵枝の言葉に、男は変わらず平坦な声で促されるがままに竈門家へと足を踏み入れる。炭治郎は禰豆子から雪によって湿った頭を拭くための手ぬぐいを手渡された。次に男の方にも手ぬぐいを差し出す。

 

「はい、どうぞ」

 

「…………」

 

 手ぬぐいを受け取り、しばしそれを眺めていた男は、炭治郎が頭を拭いているのを見て、自らも同じように動く。やがて炭治郎が拭き終えると同時、男も同じような動きで頭から手ぬぐいを離した。

 

「……プッ」

 

「え、何? どうした禰豆子?」

 

「…………」

 

 まんま同じ動きをトレースしている男の姿に、禰豆子は失礼とわかっていながらもこらえきれずに吹き出してしまった。傍で見ていた葵枝も吹き出すのを堪えている様子で、炭治郎はキョトンとする。男は変わらず無表情だった。

 

 

 

 

 

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「……記憶が、無い?」

 

「うん、どうもそうらしいんだ」

 

「まぁ……」

 

 ようやく一心地着き、火のかかった囲炉裏の熱が行き渡る暖かい我が家へと帰って来た炭治郎。しかし男のことについて説明しなければならず、雪山の中を一人佇んでいたという話を家族に話した。

 

 彼が、どこから来たのかということ、自らの名すらも忘れてしまっているということも。

 

 つまり、男は記憶喪失を患っているということだ。話を聞き、葵枝と禰豆子は驚き、そして気の毒そうな目で男を見た。当の男はというと、畳の上で胡坐をかいたまま、冷えた身体を温めるためにと白湯の入った湯呑を手に持ち、じっと湯気立つ水面を見つめていた。

 

「ねぇ、飲まないのー?」

 

「六太……!」

 

 それが奇妙に思ったのか、先ほどまで眠っていた家族の中で一番幼い四男の六太が男に問いかける。ずっと変わらない表情でいる男を不気味に思った竹雄が焦る。

 

「……」

 

 男は六太の質問に答えず、ただ白湯を見つめているだけ。何故飲まないのだろうか? 六太だけでなく、竈門家全員がそう疑問に思っていた。

 

「……もしかして、白湯はお嫌いですか?」

 

 禰豆子がおずおずと男に聞く。嫌いなのであれば飲まないのも納得がいくが……。

 

「……いや」

 

 が、男の返答は否定。嫌いでないのならば何故なのだろうか。

 

「あ、じゃあ飲めないとか?」

 

 そこをまたしても無邪気に聞く六太と止めようとする竹雄。

 

「……ああ」

 

 ところが、返ってきた答えは肯定。まさかの事実に、炭治郎たちは慌てた。

 

「ご、ごめんなさい! まさか飲めないって思わなくて……」

 

 何故飲めないのかとか、そういった疑問はある。だが飲めない物を差し出してしまったという事実に、禰豆子は申し訳なく思い、男に謝罪する。

 

「……気にしなくていい」

 

 そんな彼らを見て、男は変わらず無表情で言った。ここに来て初めて簡素な返事しかしてこなかった男が紡いだ言葉。初めて聞いた禰豆子たちは驚いて一瞬固まった。

 

 ならばせめてと、暖を取るために寝具の布団を身体にかけてやることで男の冷たい身体を温めることにした。効果ぎ出るかはわからないが、何もしないよりかはマシだろう。

 

「う~ん……本当に何も覚えてないんですか?」

 

「……ああ」

 

 気を取り直し、炭治郎は何か記憶に引っかかるものはないかと尋ねてみる。男はこんもりしたと覆われた布団のせいで籠った声のまま短く返答する。まるでミノムシみたいな不格好な姿だが、男は気にも留めない様子だった。

 

「何か持ち物とか……そういうのは無いかしら?」

 

 所持品を見れば記憶が刺激されて何か思い出すかもしれない。そう考えた葵枝が提案する。男はしばし無言だったが、布団の中でモゾモゾと動き出す。そして布団から出てきた手の上に何かが乗っていた。

 

「これは……」

 

 それは炭治郎たちにも見慣れない物だった。左手に乗っている物体は、黒い金属に銀色や黄色のパーツのような物が付けられたような歪な物。左下に黄色い取っ手のようなレバーが付いているが、それが何なのかよくわからない。

 

 そして右手に乗っている掌サイズの分厚い板のような物。紫色の毒々しい色合いの板の中心には独特な形で描かれた虫か何かの生物の絵柄と、その上に見慣れない文字が綴られている。以前、炭治郎は村の住人が異国の商人から買い取ったと自慢気に見せてくれた時に、その品に書かれていた文字とどこか似ているのを思い出す。あれは確か異国の文字で『英語』と呼ばれていたか。ただ、その文字の名称は知っていても、読み取ることまではできない。

 

「なにこれー? もしかしておもちゃ?」

 

「こら、迂闊に触っちゃダメ!」

 

 覗き込んでいた六太が触ろうとするのを花子が止める。六太だけでなく、家族全員がその見慣れない物に強い興味を示していた。六太の言う通り、異国の変わった玩具なのかもしれないが、それも憶測の域を出ない。

 

 対し、男は二つのそれをじっと見つめている。何か記憶に引っかかるのかもしれないと炭治郎は男の顔を見つめていたが、見つめているだけで変化はなかった。

 

 

 

 

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「何か思い出せました?」

 

 男の様子から見て、望み薄だろうとは思えども声をかけずにはいられず、炭治郎は問うてみる。案の定、男は力なく首を横に振った。

 

「……いや」

 

「そう、ですか……」

 

 自分のことではないのに、しょんぼりと落ち込む炭治郎。男は両手の物を持ったまま布団の中へと手を引っ込めた。この様子では、自分が所持していた物の説明もできそうにないだろう。

 

 さて、記憶が取り戻せなかったとなると、どうするか……問題はそこだった。

 

「……母さん、どうしよう?」

 

 炭治郎は母に助言を求める。その眼はどこか縋るような物だった。

 

 炭治郎としては、彼をここまで連れて来た手前『はいさようなら』と言って放り出すのは激しく抵抗がある。というよりも、炭治郎としてはそれは考えたくなかった。麓の町まで送り届けるという案もあったが、果たして記憶を失った彼を受け入れてくれる場所があるかどうかもわからない。記憶を無くした影響か、男は感情をどこかに置き忘れてしまっているかのような、幽鬼めいた儚さを感じる。そんな彼がこの先、行き倒れないとも限らない。

 

 となると、残された案は一つしかなく。

 

「……そうね。炭治郎が連れてきたのだから、悪い人ではないだろうし」

 

 葵枝も炭治郎と同じ考えをしていたのか、頬に手を当ててしばし考える素振りを見せる。炭治郎のみならず、竈門家の住人はみんな善意の塊のような人間性をしている。そんな家族の母親である彼女が出した結論もまた、炭治郎が考えていたことと同様だった。

 

「どう? 彼の記憶が残るまで、ここにいてもらうというのは?」

 

 葵枝が家族に出した提案は、彼をここにしばらくの間住まわせるということ。刀を持った危険人物とも取れる風貌をしていながら、その提案を出すということはある意味無謀に映るかもしれない。だが彼女は炭治郎の嗅覚が、その人の気質を見抜くことを知っている。だからこそ、その提案を出すのに何の抵抗もなかった。

 

「私は大丈夫だよ。お母さんも言ってたけど、お兄ちゃんが連れて来た人なら、大丈夫だろうし」

 

「う~ん……母ちゃんが言うなら」

 

「わ、私も……大丈夫、だと思う」

 

「う、うん」

 

 禰豆子を筆頭に、弟たちも男をここにしばしの間住まわせることを了承する。六太はというと、途中で眠気に襲われたのか、母の膝を枕にして寝息をたてていた。まぁ、多分彼も許してくれるだろう。男に対して警戒心のようなものは抱いている様子は見られなかったし。

 

「あなたはどうですか? 見ての通り、私たちはあなたがここにいてもいいんですけれど」

 

「…………」

 

 男は無言。だが目は葵枝へと向けられている。まるで熟考しているようにも見えるが、やがて男は小さく頷いた。つまり、彼女の提案に同意した、ということに他ならない。

 

 それを見て、炭治郎はよかったと安堵する。彼の態度を見るに自分の意思があるのかどうかも疑わしいところだが、この雪山の中を一人彷徨わせることにならずに済んだ。

 

「じゃあ、今日からよろしくお願いします! 大丈夫、記憶はゆっくり取り戻していけばいいですから!」

 

「……ああ」

 

 炭治郎は日のような明るい笑顔で、男を元気づけるために言う。天真爛漫な炭治郎とは対照的に、男はいまだ表情を作ることはなく。しかし炭治郎の励ましに対し、ボソリと、出会った時と変わらない平坦な声で答えた。

 

(……ただ、竹雄たちが仲良くできるかどうかだけれど……)

 

 そんな彼を見て、炭治郎は一株の不安を覚える。下の弟たちは、いまだ男に対して警戒心を解こうとしていない。竹雄はやや険しい眼で男を見ているし、花子と茂も怯えた表情を見せている。炭治郎としては、一時期とは言えど共に住まうことになるのだから、仲良くして欲しいところなのだが……。

 

 

 

 まぁ、その不安も一週間もすれば杞憂に終わるのだが。

 

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 

「わぁ! 雪介(ゆきすけ)にいちゃんすごーい! たかーい!」

 

「次! 次わたしもやってー!」

 

「あー! 花子ねえちゃんずるい!」

 

「三人とも、その辺にしとけって! 雪介にいちゃん困るだろ!」

 

「いや……構わない」

 

 家の前で、弟たちの楽しそうな声が響く。彼らの中心には一週間前に記憶喪失で山の中に佇んでいた男こと『雪介』の姿。その肩の上に乗った六太が、その高い景色を眺めてはしゃぐ。雪は止んでいても寒さは変わらず、しかしそれでも雪の中で遊びに精を出す幼い子供たちを相手に、雪介は嫌な顔一つ、疲れた表情一つ見せず(かといって楽しんでいる風にも見えないが)に付き合っていた。

 

「すっかり馴染んだねぇ、雪介さん」

 

「うん。みんなも懐いてくれて本当によかった」

 

 その光景を家の縁側で微笑ましく眺めている禰豆子と炭治郎。思いの外あっさりとみんな受け入れてくれて半ば拍子抜けしたが、ずっと警戒されるよりかはずっといい。

 

 弟たちが懐いた切っ掛けを炭治郎は思い出す。雪介が訪れてから三日目、炭治郎が炭の材料となる材木を切りに山へ赴いたところ、雪で足を滑らせてしまい足を捻ってしまった時のこと。いつまで経っても帰ってこない炭治郎を案じた家族と共に雪介が探しに来てくれて、炭治郎を軽々と背負い、家へと連れて帰ってくれた。兄が無事に帰って来てくれたことを家族みんなが喜び、雪介のことを本当の意味で受け入れてくれた瞬間でもあった。今でも炭治郎は、あの時の雪介の冷たくも広い背中に揺られ、何故か懐かしい気持ちになったのを思い出す。

 

 尚、雪介という名は男の本名ではなく、仮の名前だ。ずっと名無しでは不便だろうということで、記憶がない間は仮名で過ごしてもらうことにしたのだが、竹雄の『雪の中にいたんだから雪介とかそんなんでいいんじゃない?』という適当丸出しな感じの一言をちょうど目覚めた六太が聞いて、彼を雪介であると覚えてしまったことからそう呼ぶようになった。そんな犬猫に名前を付けるんじゃないんだから、と炭治郎たちは呆れたが、当の本人が否定も肯定もしなかったために、結局雪介という名が定着した。

 

「ええ。それに力仕事もこなしてくれて、本当助かるわ」

 

 そう言って、葵枝はお茶が入った湯呑に口を付けた。

 

 雪介はよく働いてくれた。ある日、竹雄の仕事を手伝ってあげて欲しいと葵枝が雪介に頼んだところ『ああ』と言って竹雄と共に薪割りをしたのだが、最初こそ竹雄が薪割りの仕方を教えてやったところ、あっという間に薪割りをこなしてみせた。薪割りというものは簡単なようで意外とコツがいる。それを一目見てあっさりできた雪介に、竹雄が『なんか俺より上手くなった』と不服な顔でぼやいていたのを見て、不覚にも笑ってしまった。

 

 それからも、炭治郎と共に木を切る時もすぐに要領を掴んで木を切り倒したり、切った木だけでなく川へ水を汲みに行く時も重い水桶を軽々と運んだりと、雪介は物覚えのよさに加えて力の強さも見せてくれた。ただ一つ気になることと言えば、竹雄と炭治郎が仕事の仕方を教えたり、禰豆子と葵枝が山菜の種類を教えたりすると『ラーニング完了』と呟くのだ。らーにんぐ、という言葉の意味はわからないが、彼なりの(まじな)いか何かだろうか。

 

「……けど、記憶が戻る気配はないね」

 

 禰豆子がやや沈んだ顔でポツリと呟いた。炭治郎もそれに同意し、小さく「うん」と頷く。

 

 雪介の記憶はいまだ戻らない。最初に会った頃よりかは言葉は増えたし、家族の仕事を率先してやってくれはするが、それでも彼の記憶が戻る兆しは見えない。雪介がそれで落ち込んだりする様子は見られないが、心の内ではどう思っているのか、炭治郎たちにはわからない。

 

 しかし、それとは別に他に懸念していることがある。それは雪介の体質についてだ。

 

 雪介は食事を摂ろうとしない……否、摂れないらしい。初めての夕食時、歓迎の意味も込めていつものよりやや豪勢な夕食を雪介の前に出したのだが、本人は頑なに食べようとしない。水も飲むこともなく、最初は衰弱のあまりに食べれないのかと炭治郎は心配した。だが次の日も、また次の日も食べようとしない。禰豆子が食べさせてあげようとしたが、雪介は『すまない』の一言で拒否。どうやら食べないのではなく、食べられないということらしい。彼の口から語られたことはないが、食物や水を受け付けない体質なのだと、炭治郎たちは当たりをつけ、このままでは彼の健康に異常が出てしまうのではないかと不安を覚えた。

 

 にも関わらず、炭治郎たちの不安を他所に、彼の身体は弱ることもなく、力仕事もこなせるし、今こうして弟たちの相手もしてくれている。普通、栄養を摂らなければ倒れてしまうというのに。身体も温まることはなく、ずっと冷たいままだ。それもまた奇怪さに拍車をかける。

 

 眠っている時もそうだ。家族が布団の中で寝静まる中、雪介は与えられた布団に入ることなく、壁にもたれかかって目を閉じて微動だにしなかったのを炭治郎は思い出す。胸も上下せず、呼吸をしていないのが見て取れ、慌てて起こしたら普通に目を開けて『なんだ?』と平然としていた。死んだのかと焦っていた炭治郎は驚いて声を上げてしまい、起きた葵枝に叱られてしまった。

 

 共に生活すればするほど、彼に対する謎が深まるばかり。彼が所持していた物品は謎に包まれているが、どれも見たことのない物。異国の品を扱う商人かとも思ったが、それだと刀を持っていた理由に説明がつかない。少なくとも身なりはよかったから、もしかするとどこかの華族の一人なのではないだろうか? 或いは目の色からどこか異国の人間かもしれない。様々な憶測が飛び交うも、それらはやはり憶測でしかなく、記憶のない本人から説明がない以上、確証は得られなかった。

 

 或いは、その体質上から人間ですらないのでは……とも一瞬考えたが、そんなバカな話があるかとすぐに否定した。

 

「まぁ、いいじゃないか。雪介さんもきっとそのうち記憶が戻るからさ」

 

 そう炭治郎は明るく言う。焦る必要はない。いつかきっと記憶は戻ると信じて、炭治郎はもう一度、弟たちに囲まれている雪介を見る。

 

 相変わらず、鉄と油の独特な匂いがする。しかしその匂いの中に仄かに感じる心安らぐ匂い。その匂いをつい最近まで嗅いだことがある気がしたのだが、前述した二つの匂いのせいで思い出そうにも思い出せないもどかしさを覚える。

 

 けど、その匂いがあるからこそ、炭治郎は色々な謎を抱えている雪介のことを信じられた。

 

 

 

 

――――メモリー修復率:34%

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

「よっと」

 

 炭焼き職人である炭治郎の朝は早い。売り物である炭を作るために窯に木材を積んでいき、点火する。火の様子を見るため、炭治郎は窯から離れずに作業を続ける。手慣れた手つきで進めていきながら、窯の中から放たれる高熱で噴き出す汗を腕で拭う。気温は寒いというのに、炭治郎の周りだけ夏が来たみたいだ。

 

「ふぅ」

 

 一息つき、炭治郎は姿勢を楽にする。と、そこへ雪を踏みしめる音が炭治郎の耳に届く。

 

「朝から精が出るな」

 

 声がした方へ振り向くと、黒い服を着た竈門家の者ではない、しかし今やもう見慣れた男が炭治郎へと歩み寄って来ていた。

 

「あぁ、雪介さん。おはようございます」

 

「ああ」

 

 男、雪介に気付いた炭治郎がいつもの明るい笑顔で挨拶をする。雪介は笑顔こそ返さないものの、不愛想に返事をしてくれた。冷たい表情も相変わらずだが、最初に会った頃よりも会話が成り立っていることに炭治郎は嬉しく思った。

 

「……朝から辛くないのか」

 

 ふと、雪介は炭治郎の前にある窯を見ながら聞いてきた。普段は雪介から何かを聞いてくることはあまりないため、炭治郎は少し驚きながらも笑顔で答える。

 

「全然、そんなことないですよ。それにこれも、家族を養うために必要なことですから!」

 

 心からの言葉だ。家族のために頑張る炭治郎にとって、このような仕事はお茶の子さいさいである。

 

「家族……」

 

 

 

 

――――メモリー修復率:54%

 

 

 

 

 雪介は、家族という言葉に反応する。視線を落とし、しばし何か考える仕草を見せたが、それも一瞬だった。

 

「お前は、まだ子供だろう。どうしてそこまでして頑張ろうと思える」

 

 雪介にとって、それは当たり前な質問でもあった。この家族は暖かい。しかし、決定的に足りないものがある。

 

 それは父親。彼らにとっての大黒柱とも言うべき存在がいない。

 

 炭治郎はまだ13歳。まだまだ親に甘えたいと思える時期だ。精神が成熟していると言えばそれまでだが、雪介の目から見ていると、どうにも頑張り過ぎているようにも見えたのだろう。

 

「え? どうしてって……」

 

 問われた炭治郎は、最初きょとんとしていた。雪介の言葉の意味をしばし考え、そして口を開く。

 

「俺は長男だから、父さんに代わって皆を守らなきゃいけないんです」

 

「代わって……?」

 

「はい……俺の父さんは病気で亡くなったんです」

 

「……」

 

 あっさりと答える炭治郎。しかしその声には悲しみの色が滲んでいる。それに気付いた雪介は、顔は変わらずとも言葉に詰まったように押し黙ってしまった。

 

「最初は俺も……いや、俺だけじゃなくって、家族みんなが悲しかった。けど、このままじゃいけないって思って、父さんの分は長男の俺が頑張るって、家族みんなを幸せにするって決めたんです。だから多少のことじゃ、俺はへこたれませんよ」

 

 自信をもって、炭治郎は雪介に答える。病弱で、それでも優しさを忘れなかった父親をずっと見てきた炭治郎。父から教わった炭焼きの技術を受け継ぎ、こうして家族の大黒柱となって日々を生きていくことに、何の苦しみがあろうかと、心の底からそう思っている。

 

 じっと、雪介は炭治郎を見つめる。そしておもむろに開いた口から、意外な言葉が出てきた。

 

「……家族の幸せが、お前の夢か?」

 

「え、夢?」

 

 雪介は変わらない表情で唐突にそんな問いを投げかけてくる。何を思ってそんなことを聞いて来たのかわからず、炭治郎は首を傾げる。

 

 冷たく、無機質な瞳が炭治郎を射抜く。睨んでいるというわけではない筈なのに、彼のことを知らない人間がいれば、それだけで怯えてしまうだろう。ただ、炭治郎はすっかり彼のそんな視線に慣れてしまった。何を考えているかわからないが、それでも彼のことを悪くは思わない。

 

「う~ん……夢っていうには大袈裟だと思うけど、そうですね。うん! 俺の夢は家族とずっと幸せに暮らすことです」

 

 故に、雪介のその問いに対し、照れてはにかみながらもそうはっきりと答えた。

 

「……そうか」

 

 出会った時のような短い反応。炭治郎の答えに満足しているかはわからない。それに苦笑し、炭治郎はスコップを手に取った。

 

「さ、仕事に戻らないと。雪介さんも寒いから家に入っていた方が」

 

 そう雪介の身体を案じて言おうとした時、

 

 

 

 

――――メモリー修復率:68%

 

 

 

 

「……え?」

 

 ポンと、炭治郎の頭の上に何かを置かれた。

 

 冷たい感触。それが最初、炭次郎は何かわからなかった。視線を雪介を向けると、雪介が炭治郎へ手を伸ばしている。それを見て、炭治郎は自分が頭を撫でられているのだと気付いた。

 

「……」

 

「あ、あの……?」

 

 雪介の突然の行動に理解が追い付かなかった炭治郎は、驚愕に目を見開いたまま雪介を見つめる。雪介は無言無表情のまま、炭治郎の髪をゆっくりと撫でていく。

 

 体温の感じられない、冷たい掌。しかし不思議と嫌な気分を感じない。

 

 ふと、炭治郎の鼻が違和感を覚える。雪介から漂っていた鉄と油の匂い。それが頭を撫でているその間だけ感じ取れず、今まで隠れていたような優しい匂いだけが炭治郎の嗅覚に届いた。

 

「あ……」

 

 そして、その匂いが何なのか気付く。今の今まで思い出せなかったその匂い。暖かく、心が和らいでいくような……自分の全てを受け入れてくれるような匂い。

 

(……父さん?)

 

 幼い炭治郎を抱きしめてくれた父の腕。遊び疲れて眠ってしまった炭治郎をおぶって家まで連れて帰ってくれた父の背中。弱々しくも優しいお日様のような微笑み。

 

 いつも父から漂うのは炭の匂いと、優しさと温もりに溢れた匂いだった。死に瀕する時も、ずっとその匂いは変わらなかった。

 

 何で忘れていたんだろう。何で思い出せなかったんだろう。頭の中でグルグルとその疑問が回る。しかし、それ以上に炭治郎の心を支配したのは、別の物。

 

「―――――っ!」

 

 ジワリ。涙腺が緩む。それに気付いた炭次郎はハッとして、服の袖で目元を拭った。

 

「……すまん」

 

 それを雪介は気分を害してしまったと思ったのか、そっと手を離す。匂いは薄れ、再び鉄と油の匂いの中に隠れてしまった。

 

「い、いえ! すいません、情けないところ見せてしまいました! もう大丈夫です、はい!」

 

 少し目元が赤い炭治郎は声高に言う。まるで何かを誤魔化すかのような雰囲気だった。

 

 その後、炭治郎は炭焼き作業へと戻る。雪介は邪魔にならないようにと思ったのか、背を向けて家へと戻っていく。

 

「……雪介さん!」

 

「……?」

 

 が、その途中で炭治郎に呼び止められる。振る向けば、いつもと変わらない、太陽のような明るい笑みを湛えた炭治郎の顔。

 

「雪介さんも家族だって、俺は、いや、みんな思ってますから!」

 

「…………」

 

 その言葉を聞いて、雪介はただじっと炭治郎を見る。しばしの沈黙と静寂。それを破るように、雪介は炭治郎に再び背を向け、

 

「……好きにしろ」

 

 そう、呟くのだった。

 

 

 

――――メモリー修復率:85%

 

 

 

 




尚長編ではなく中編なのであしからず。

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