天元の花(偽)、異世界に降り立つ。 作:久しぶりに投稿したマン
「おんやぁ?そこにいるのは東区画の最底辺コミュ〝名無しの権兵衛〟のリーダージン君じゃないですか?」
「僕らのコミュニティは〝ノーネーム〟です。勝手に変えないで下さい。〝フォレス・ガロ〟のリーダー、ガルド=ガスパー」
「やかましい、この名無しが。風の噂では....新たな人材を呼び出したらしいじゃないか。コミュニティの誇りである名と旗印を奪われてなお、意地汚く存させるじゃないか。そうは思いませんか、お嬢様方?」
ぴちぴちの紳士服を着ている彼はガルドというらしい。私達が座るテーブルの空席に勢いよく座り込んだ。断りの一つも入れない態度を取るガルドに冷ややかな態度で返した。
「あら、失礼ですけど、同席をするならばまずはご自身の名を名乗り一言述べて席に着くのが礼儀ではなくて?」
「それは失礼した。私は箱庭上層に位置するコミュニティ〝六百六十六の獣〟傘下である」
「烏合の衆の」
「コミュニティのリーダーをしているって待てやゴラァ!!誰が烏合の衆じゃ!小僧!!」
「っ....ぷ....」
ジンの横槍を入れられ怒鳴るガルドを横目に私は笑うのを堪えていた。
「口を慎めろぉ....小僧。紳士で通っている俺でも看過できない言葉はあるんだぜ?」
「かつて森の守護者であった貴方だったら相応の敬意を払い礼を尽くしますが、2105380外門付近をを踏み荒らしている者にしか見えません」
「はっ、そういうお前こそ過去の栄光に縋り付いている野郎となんら変わりねぇ。自分らのコミュニティがどんな状態なのかを理解してるか?」
「はいはーい。一旦ストップ!」
このまま話がか進むと私や飛鳥たちがついていけないから間に入らないといけない。
「二人の話を聞いていて分からない所もあるけど、仲が悪いのは理解しました。そこを踏まえて質問するわ」
睨むようにジンに視線を向けながら聞いた。
「何か。私達に隠し事してない?例えば、ガルドが言ってたコミュニティの事とか?」
「うっ、それは,......」
私の言葉に思い当たるのか言葉を詰まらせたジンは目がキョロキョロ動き回り動揺が隠しきれていなかった。そんなジンに畳み掛けるように私は追及した。
「自己紹介の時に自分はコミュニティのリーダーだと言ってたよね?ならば、黒ウサギと同様に説明義務がある筈よね?違う?」
私の言っている事が当たっているのか、小さい呻き声がジンから発せられていた。その様子を見ていたガルドは画活気づくように饒舌に笑顔を浮かべながら話し始めた。
「その通りです、レディ?コミュニティのリーダーとして新たに加わる同志に箱庭の世界のルールを教えるのは当然の義務。だが、彼はそうしたがらない。よろしければ代わりに〝フォレス・ガロ〟のリーダーとして、コミュニティの大切さとそこの小僧___ジン=ラッセル率いるコミュニティを客観的に説明いたしましょうか?」
急にイキり始めたガルドに内心辟易しながらも、ジンへ一瞬視線を向けそのまま話を促した。
「....じゃあ、お願い」
「了解いたしました。コミュニティはそのままの意味で複数名が集まり作られる組織の総称です。様々な種族によって受け取り方は色々と違いはあるでしょう。此処までは基本中の基本。名と旗印を持たなければその集まりはコミュニティと認められません。特に旗印は自分達の縄張りだと主張する重要な物。ほら、この店にも掲げてあるでしょう?」
ガルドが指さした方向に喫茶店の店頭に掲げてある六本の傷が刻まれた旗印があった。
「六本の傷が入ったあの旗印はこの店を経営をしているコミュニティの縄張りである事を主張しています。仮に自信のコミュニティを大きくさせたければ、互いの合意で『ギフトゲーム』を行えばいい。私もそうやってコミュニティを大きくしましたから」
見せびらかすかのようにぴちぴちの紳士服に刻まれた虎の紋様があった。私と飛鳥、耀は周囲を見渡すと同じ紋様が飾られていた。その有様を黙って聞いていた飛鳥は若干冷汗をかいていた。
「その紋様が縄張りというなら、周囲のほどんどは貴方たちの支配下ということかしら?」
「その通り、この喫茶店のコミュニティは本拠が南区画にある為、手を出すことはできません。だが、2105380外門付近で活動する全コミュニティは私の支配下です。精々残っているのは本拠が別にあるコミュニティと支配するに値しない名無し共ぐらいです」
ふっふっと嫌味たらしい笑みを浮かべながら、縮こまっているジンを見つめている。
「では、此処からは貴方達所属する予定のコミュニティについての話です。数年前までは東地区最大手のコミュニティでした」
「へぇ、そうなの。意外ね」
「まぁ、リーダーは別でしたけれどね。そこの彼とは比べるのも烏滸がましい程優秀な男だったそうです。ゲームでの戦績は人類最高の記録保持者で、名実ともに東区画最強コミュニティだったらしいですから」
現在この付近の最大コミュニティ保持者のガルドとしてはつまらなさそうに淡々と語った。
「東西南北と分かれている箱庭で
「........」
「〝人間〟が立ち上げたコミュニティとしてはまさに快挙といえる数々の栄光を築いたコミュニティは、そこで目に付けられてはいけないものに付けられた。ゲームに参加させられ、たった一晩で滅ぼされました。『ギフトゲーム』が支配する箱庭の最悪の天災」
「天災?」
話を聞いていた飛鳥と耀は同時に聞き返した。数々の戦績を残したコミュニティがたったの一晩で滅んだ天災というのが、どことなく不自然感があった。
「これはたかが比喩ではありません、レディ達?彼らは箱庭で唯一にして最大の天災____俗に言う〝魔王〟と称される者達___以上でお話は終わりです」
「なるほどね。おおよそ理解したわ.......で?本題はにかしら。此処まで懇切丁寧に話すのだから何かしらの目的でもあるのでしょう?」
「ふっ、単刀直入に言いましょう。此処にはいない黒ウサギ共々、我がコミュニティに加入しませんか?」
「な、何を言い出すんですか!ガルド=ガスパー!!」
寝耳に水な発言にジンは勢いよくテーブルを叩いた。
「黙れ!ジン=ラッセル。元は言えば、旗と名を新しく改めていれば、ある程度の人材が残る筈だろう。その我が儘でコミュニティを窮地に追い込んでおきながら、どの面下げて呼び出したんだ!」
「そ.....それは」
「それに加えて何も知らねぇ奴だったら騙せると思ったのか?その結果として黒ウサギと同じ苦労を強いるってんなら、箱庭の住人の一人として通すべき仁義があるぜ!」
ガルドからの口撃にジンは微かに怯んだ。しかし、ガルドの口撃以上に私達に対する罪悪感が勝っていた。何も知らない私達を騙そうとした程、ジンのコミュニティは崖っぷちに追い込まれていた。
「......ふぅ、どうでしょうかレディ達。今すぐに返事は求めません。コミュニティに属せずとも箱庭でも自由は三十日保証されています。一度、呼び出したコミュニティと私達〝フォレス・ガロ〟のコミュニティを見比べ、十分に検討して___」
「結構です。だって、ジン君のコミュニティで間に合っているもの」
飛鳥はガルドの話を聞いてなかったのように紅茶を飲み干すと、笑顔で耀に話しかけた
「春日部さんと宮本さんはどうかしら?」
「.....別に、どっちでも。私は友達を作りに来ただけ」
「そう。では、私が春日部さんの友達一号として立候補しようかしら?」
ん?ここは流れに合わせて言うべきか?.....KYにはなりたくはないしね。
「じゃあ、私は二号として立候補しちゃおうかな?」
耀はしばし無言で考えた後、小さく笑いながら頷いた。
「.....うん。これからよろしく、二人とも」
『よかったなぁ.....お嬢』
ガルドとジンをそっちのけで盛り上げる私達を見たガルドは全く相手にされていない事に顔を引き攣らせた。ゴホンと大きく咳払いをし、再度問う。
「失礼ですが、断った理由をお聞きになっても?」
「だから、間に合っているのよ。これでも私は裕福な環境で育っているの。小さな地域を支配しているだけで末端に迎えられても、ちっとも魅力的に感じないわ。このエセ虎紳士」
ビシっと言い切られたガルド=ガスパーは飛鳥の物言いに怒りで体を震わせた。自称紳士として必死に感情を抑えながら話し続ける。
「お.....お言葉ですがレデ___」
「
ガチン!っと勢いよくガルドの口が閉じこんだ。本人は動揺しながら己の口を開こうとしているようだが、全く声が出ない。
「!?......!!?」
「私の話はまだ終わっていないわ。色々聞きださないといけないもの。
こちらも異変に気付いた猫耳の店員が私達がいるテーブルへ駆け寄ってきた。
「お客さん!駄目ですよ。当店での揉め事は控えてくだ___」
「ちょうどいいわ。そこの店員さんは第三者として聞いて欲しいの」
猫の店員の言葉に被せて、話を続ける。
「先程、貴方は互いの合意で勝負に挑み、勝利したと言ってたわ。けれど、私が聞いたギフトゲームは〝主催者〟が開催するものと互いの金品や土地、権利等の様々ものを賭けて行われるもの。ジン君、一つ聞きたいのだけれど、コミュニティ自体をチップにする事はあるの?」
「い、いえ、やむを得ない状況で稀にありますが、コミュニティ存続を賭けるのはかなり珍しい事です」
同じく聞いていた猫耳の店員も頷く。
「そうよね。来たばかりの私達でも分かるもの。〝主催者権限〟を持たない貴方がどうして出来たのか
教えてくださる?」
ガルドは口を閉じようという意思に反して言葉を紡ぐ。
「人質をとって脅迫や周囲のコミュニティを取り込みゲームをやらざる得ない状況にしていった」
「そんなことだろうと思いました。そんな方法で取り込んだコミュニティは素直に従うかしら?」
「各コミュニティから幼い者達を人質に取っている」
飛鳥と耀は表情や態度に出てはいないものの二人の覆う雰囲気は嫌悪感に満ちていた。
「......そう。なんという外道ね。それで、その子達は今どうなっているのかしら」
「もう殺した」
その場の空気がピシッと凍り付くのを感じた。その場で話を聞いていた私を除く全員が一瞬思考を停止した。そのままガルドは飛鳥に命令された通り、淡々と答え続けた。
「初めてガキ共を連れてきた日、泣き声がうるさくて___」
先程以上にガルドの口は勢いよく閉じた。
「怒りを通り越して、素晴らしいとさえ思ったわ____絵に描いたような外道は。他の所にもこいつと同じような事をしているのかしら....ジン君?」
飛鳥からの冷ややかな視線を受けながら、ジンは否定する。
「彼のような悪党は箱庭でも滅多にいません」
「そう。それはよかった。ちなみにだけど、この外道を箱庭の方で裁く事はできるかしら?」
「厳しいですね。彼が述べていた事は勿論違法行為になりますが、裁く前に外界へ逃げられると、無理です」
外界へ逃げる事もある意味では罰となるだろう。今まで築いたものが泡となるからだ。飛鳥はそんな事では満足しなかった。
「そう。ならば仕方がないわ」
パチンと飛鳥が鳴らすと、ガルドを拘束してた力は霧散し、体の自由を取り戻したガルドは叫びながら勢いよく立ち上がった。
「こ.....この小娘がァァァァァアァァァ!テメェ、一体どういうつもりかは知らねぇが、俺の上が誰かってわかってんだろうなぁ!箱庭第六六六外門を守る魔王が後見人だぞ!?つまり!俺に喧嘩を売るって事は魔王に喧嘩を売ると同義だ!その意味を理___」
「
ガチンと黙り込んだが、変形したガルドの太い剛腕が飛鳥に振り落とされた瞬間、私は彼女の前に出て刀で受け止め弾き返した。
「ギャ」
「ふぅ、危ない危ない。大丈夫?飛鳥ちゃん」
「ちゃん付けはやめて、でも助かったわ。ありがとう」
耀もどうやら飛鳥を守ろうとしてたようで、拗ねたように愚痴る。
「......むぅ、出そこなった」
飛鳥は何処か楽しそうに笑っていた。
「では、ガルドさん?私は貴方が何処の傘下だろうと何とも思いません。それは恐らくジン君も同じでしょう。だって彼の最終目標は、自身のコミュニティを潰した〝打倒魔王〟ですもの」
飛鳥の言葉にジンは大きく息を呑んだ。魔王の名が出た瞬間、内心は恐怖に震えそうになった。しかし、自分達の最終目標を言われ、我に返った。
「......そうです。僕達の最終目的は、かの魔王を倒し僕らの誇りである名と旗印.....仲間を取り戻す事です!今更、そんな脅しに屈しはしません」
「そういう事なの。要するに貴方には喧嘩を買って、私達によって破滅する道しか残ってないのよ」
「く......くそが!」
弾き返した拍子に私は仰向けに倒れたガルドの背に馬乗りし首筋に刀を添えていた。地に伏したガルドに飛鳥は機嫌を良くしたのか足先でガルドの顎を持ち上げ、意地悪そうな笑顔で話し出す。
「しかしね。私はそれでも満足できないの。だって、貴方のような外道はさらに罰せられるべきだと考えたわ____そこで、提案というか命令かしら」
飛鳥は上げていた足先を離し、自身の指先でガルドの顎を乱暴に掴んで言った。
「私達と『ギフトゲーム』をしましょう。貴方のコミュニティの存続と私達の誇りと魂を賭けてね」