天元の花(偽)、異世界に降り立つ。 作:久しぶりに投稿したマン
登場は二巻です。
出せたら出します。
ゲーム終了後、十六夜のサポートがあったもの〝ノーネーム〟のリーダーとして、〝打倒魔王〟を目標を宣言し、自拠点へと戻ってきた私達。先程昔の仲間が景品とされているゲームに参加申請を嬉しそうに届けに行った黒ウサギが今にも泣きそうな表情で帰って来た。
「何かあったな?」
「......はい、実は申請しに行った先でゲームが延期という事を知りました。もしかしたら、中止になるという可能性もあるそうです」
黒ウサギはウサ耳を萎れさせ俯いてしまった。よっぽど昔の仲間が戻る事を心待ちにしていたのだろう。一方でゲームが出来ない可能性が出てきた事に私達は肩透かしを食らっって頭を抱えてしまった。
「ええ~~、折角黒ウサギの元仲間に会えると思ったのにな」
「ああ、俺も同じ気持ちだぜ。白夜叉に言っても如何にか出来ないのか?」
「それは不可能でしょう。聞いた所によると巨額の買い手が付いたそうですから」
ゲーム延期を聞いて不快そうな表情だった十六夜がより不快感を強めた表情になっていた。それは売り買いに向けた不快感ではない。ゲームの景品として一度は出したものを、金を積まれたから取り消したコミュニティに対してのものだった。
「......所詮は売買組織か。エンターテイナーとしては三下にも劣るレベルだ。そもそも〝サウザンドアイズ〟は巨大な商業コミュニティじゃないのか?誇りはないのかよ」
「十六夜さん、それは仕様もない事です。〝サウザンドアイズ〟は直轄の幹部が半分、傘下が半分で構成されている群体コミュニティなのです。そして、今回の主催は傘下コミュニティである〝ペルセウス〟が主導で行っており、〝サウザンドアイズ〟の看板である双女神に傷が付く事さえ、気にならない程の金やギフトがあれば撤回もあり得ます」
冷静に達観した事を話している黒ウサギだが、十六夜が感じている何倍もの悔しさを堪えている。そのような心境でも話せているのは、箱庭においてギフトゲームは絶対の不文律。魔王に敗れて散り散りになってしまい、所有された仲間を集めるのは一筋縄ではいかない。......それでも元仲間を取り戻す事が出来るのもギフトゲームである。今回はそのチャンスがなかっただけなので、次回に賭けるしかないのだ。
「はぁ、次に期待か。一つ聞くが.....その賭けられていた仲間は一体どういう奴なんだ?」
「そうですね。言い表すならば、超絶プラチナブロンドの御髪をお持ちで、指を通すとシルクのように肌触りが良く、濡れている時なんて光に反射してキラキラと輝くんですよ!」
「ほほう?そんな可愛い?綺麗?な女の人会ってみたいな~~」
「ああ、同感だぜ。見応えありそうだな!」
「そう!そうなんですよ十六夜さん武蔵さん!黒ウサギの先輩でもありまして、困ってる時は大変お世話になっておりましたとも!なので、再び会えると思い喜んでいたのですよ.....」
「嬉しい事を言ってくれるじゃないか。黒ウサギ」
私と十六夜、黒ウサギの会話の間に、割って入って来た声の方へその場にいる皆は向けた。そこにいたのは窓ガラスをコンコンとノックする金髪の少女がにこやかに笑っていた。窓の外でういて少女に驚愕した黒ウサギは急いで窓を開けた。
「レ、レティシア様!どうしてここに!?」
「敬称はよせ。今は人に所有されている身だ。〝箱庭の貴族〟である黒ウサギが所有物に敬意を払うなぞ。背中を後ろ指で指されるぞ」
開いている窓からレティシアと呼ばれた少女が苦笑しながら入室した。目に前の彼女は金糸を編んだような金髪を特注であろうリボンに結ばれており、血のような赤色で塗られているレザージャケットに囚人の拘束具を彷彿させるスカートを身に纏っている。先程の黒ウサギが先輩と言ってたにしては随分と幼く見える。
「こんな所からすまない。ジンには今の私を見られたくないのでな」
この場にいないジンはガルドの一件で行うべき業務が押し寄せており、その対応をするためあちこちに足を運んでいる。飛鳥と耀はそのサポートへジンと共に行動している。
「そうですか!......で、では!黒ウサギは紅茶でも淹れてきますね!」
久々に会えた元仲間にウキウキとスキップでもしそうな位の足取りで紅茶を淹れに行った。自分に視線が集まっている事に気が付いたレティシアは私達に声を掛ける。
「どうした?じっと私の顔を見て......何か付いているのか?」
「そりゃ_______」
「おおぉ!黒ウサギから聞いてた通りの美人さん.......いや!美少女!も~~最っ高!」
「武蔵、人が言おうとした所を被せるな!」
「えぇ.....いいじゃん別に」
「こいつ......!」
私と十六夜のやり取りを傍らで見てたレティシアは心の底から哄笑を上品に口元を押さえて席に着いた。
「ふふ。白夜叉から聞いてた通りだな。君らが十六夜と武蔵か」
お盆に人数分の紅茶を乗せてやって来た黒ウサギはそれぞれの前に一つずつ丁寧に置いた。
「して、どういう用件で来られたのですか?レティシア様」
今ここにいるレティシアは誰かに所有される身分にも拘らず、主に逆らってまで古巣にやって来たのは余程の用件なのだと私達は予想していた。
「用件という程のものじゃない。噂に聞く新生したコミュニティがどの程度のものかを見定めに来ただけだ。ジンに会いたくないというのも、今の私じゃ合わせる顔がないからさ」
〝見定めた〟と言ったレティシアにハッと黒ウサギは思い出した。〝フォレス・ガロ〟戦にて鬼化した木々は予想していた中に〝レティシア様がやったのではないか?〟という考えがあり、彼女の発言からその予想が事実となった。
「ん?どういう話の流れになってるの?今の言った事って、そんなにヤバい?」
「そういえば言ってなかったな。私は元魔王であり、吸血鬼なんだ。しかも.......純血の吸血鬼だ」
箱庭のにて創始者の眷属である黒ウサギの一族が〝箱庭の貴族〟と呼ばれているように、箱庭の太陽でのみ浴びれる吸血鬼の一族を〝箱庭の騎士〟と呼ばれている。彼らが授ける恩恵はあらゆる儀式様式を省き、互いの体液を交換する事により鬼種化する。この恩恵を与えられた者は食人気質を持つことになるが、純血以外の吸血鬼からは鬼種化する事はない。食事である血を吸う行為は独自にギフトゲームを開催し、参加チップとして吸血を行う。そのため人と吸血鬼は共存し合い、互いにルールを尊重している。
太陽の日を浴び、平穏と誇りを胸に守護する姿から純血の吸血鬼を〝箱庭の騎士〟と呼び称されるのだ。
「なるほどねー?納得した!」
「.......だな」
「え?」
「は?」
「こっちの話だから気にしなくいいよー」
関係のない話へ逸れかけたので、本筋に戻るよう促した。
「......実はな。新たに仲間を呼び出してコミュニティの再興しようとする話を聞いた時は、なんて愚かな.....と憤りを感じた。実現するにはどれだけの茨の道を歩む事を理解してないと黒ウサギは理解してないのかと思っていたしな」
「.............」
「そんなお前達を説得する為のチャンスを伺ってた時.......神格級のギフト保持者の男、白夜叉と互角とはいかぬものの良い動きをする評価した剣士がいるという事を知った」
黒ウサギの視線が十六夜と私に反射的に向いた。恐らく私達の事は白夜叉から聞いたのだろう。何故四桁に居を構えている白夜叉がわざわざ最下層である七桁にいたの理由は、レティシアを連れてくる為だったのだろう。
「その事を知った私は一つ確認しようと考えた。その新人は一体どういう力を秘めているのかどうかを」
「......結果は?」
黒ウサギは真剣な眼差しで問う。レティシアは微かに笑いながら答えた。
「生憎、ガルドでは試金石にならなかった。君はあの場での判断力と行動力はよかった。だが、他の二人はまだ計りかねている。.........この場に足を運んで来たものの、お前達になんて声を掛けたらいいか悩んでいる」
何故、自分はここに来てしまったのか分からないレティシアは遠目から見定めて思った事を伝えず、己の心内に秘めて立ち去る事だってできる......にも拘らず、わざわざ会いに来てたという事は何かしら伝えたい気持ちがある筈だ。...........そんな彼女に呆れた表情を浮かべて十六夜は笑う。
「はっ、古巣に檄を飛ばしに来たんじゃねぇ。ちゃんとやれているかを確認して、自分を安心したいという自分善がりなだけだろ?」
「.......言われてみれば、そうなのかもしれないな」
十六夜が掛けた言葉を肯定するレティシア。〝自分の古巣を託す〟という目的は果たされなかった。というのも、飛鳥と耀は人間レベルでは相当な才能を持ってはいるが、所詮は人間レベル......今後戦うであろう相手には神格級がいるかもしれない。しかも、まだまだ原石だ。元仲間の将来を託すには些か力が足りないにしても、〝フォレス・ガロ〟戦が終わった後に説得するにはもう遅い。
元々考えてた計画が私達の活躍のおかげ?せい?で中途半端になってしまった。そんな自嘲をしているレティシアに十六夜が声を掛けた。
「なら!そんな悩みを振り払う方法があるぜ」
「何?」
「あんたは俺達が魔王と渡り合えるのかが不安でしょうがない。そこでだ!一騎打ちのゲームでその力を間近で見定めればいいさ」
十六夜の意図を理解したレティシアはスッと立ち上がった。彼女は涙目ながらも高らかに笑っている。
「ははっ!.....そうか。下手に工作せずに初めからそうすればよかったな。その方が分かりやすいしな!」
戦う雰囲気が出てきて焦る黒ウサギは二人を諌める為に、私に助けを求めて声を掛ける。
「武蔵さん。お二人を止めましょうよ」
「え?なんで、面白そうじゃん」
黒ウサギは頼みの綱?である私に裏切られたような反応を返されて、結局この状態を変える事が出来ず静観に徹する事にした。一方、十六夜とレティシアは中庭へと移動しており、いつでも一騎打ちを始められる態勢に入っていた。
「やっぱり吸血鬼って、翼が生えているだな」
「正確に言えば飛んでいる訳ではないんだが........なんだ。制空権を握られるのは不満か?」
「いや?別に制空権取られても、打ち堕とせばいい話だ」
「そうか」
向かい合っている二人は天と地で分かれて向かい合う位置は一見十六夜に不利な戦いになりそうだが、そんな事は特段に気にしている様子のない姿勢にレティシアは評価した。
どのギフトゲームにおいても、対戦者の実力は未知数なのは基本中の基本だ。例えば、対戦相手が空を飛び回る鳥人を飛び回れない人間が不平不満を漏らそうとも
「(ふむ、気概は十分だ。後はそれに実力が伴うか....だ)」
空を舞うレティシアは微かに笑みを零した共に黒い翼を大きく広げ、己のギフトカードを十六夜へと向けた。黒と金、紅の三色が彩るギフトカードを取り出したレティシアに焦る黒ウサギは驚愕して叫んだ。
「レ、レティシア様!?そのギフトカードは一体!?」
「下がっていろ黒ウサギ。力試しとはいえ、これは決闘である事には違いない」
ギフトカードが光輝き、中からギフトが粒子となり溢れ出した。粒子が集まり、形成したそれは......西洋の騎士のような長槍だった。
「互いに一撃を振るい、倒れた方が負けとしよう。......では、行くぞ!」
「おうよ!」
レティシアは息を整え、大きく広げた翼をぎゅっと縮める。全身を引き締め、手に持っている長槍を勢いを乗せて投擲した。
「はぁあ!!」
十六夜へ向かう長槍は瞬く間に熱を帯び、それは熱線と言っても過言ではないだろう。流星の如く落下する長槍を前に十六夜は獰猛な笑みを浮かべ、
「ハッ.......しゃらくせぇ!」
_____弾き飛ばした。
「え?」
「は?......ぐっは!」
驚きを通り越して、呆然とするレティシアと黒ウサギ。長槍を弾き飛ばした勢いのまま十六夜はレティシアの腹部へと殴り込んだ。十六夜の一撃を食らったレティシアは常識外の実力を目の当たりにした瞬間、己の目測を恥じた。しかし、その実力に安堵した。
「(こ、これほどの.....であれば!)」
レティシアは地面に叩き落ちる覚悟を決めた瞬間。観客側で見ていた黒ウサギによって抱き込まれた事により、十六夜から受けた傷以外は受けずにすんだ。
「な、黒ウサギ!何をする!」
一騎打ちに割って入られた事による憤慨ではなく、黒ウサギに自身のギフトカードを掠め取られた事に対してだった。そんなレティシアの抗議を気にも止めず、ギフトカードを見た黒ウサギは震えた声で向き直った。
「..........ギフトネーム:〝
「っ!」
私達.....特に黒ウサギに気付かれたくなかったのか、さっと目を背けるレティシア。黒ウサギの方へ歩み寄っていった私と十六夜。
「え?元なんだから神格とか無くなるじゃないの?」
「いえ、そういう事ではなくてですね。......武具には多少残っているので自身のギフトに残っていないと言っていいでしょう」
黒ウサギの説明に納得したのか、呆れた表情で肩を竦めた十六夜は盛大に舌打ちをした。自信満々に勝負を挑まれたのにも関われず、手を抜いたと言ってもいい程の状態で相手にされた事が不満だったのだろう。
「チッ!どうりで手ごたえが無かった訳だ。他人に所有されちまったら、ギフトも奪われちまうのか?」
「......それは違います。魔王に奪われてのは〝人材〟であって、ギフトではありません。武具や防具等の手に触れる系のギフトとは違い。十六夜さんのような所持している人と魂の繋がりがある系のギフトは基本は相手の合意が必要です。例え隷属させた相手だろうとも、奪う事は不可能です」
要するにレティシアは己の命と言い換えてもいいギフトを差し出した事だ。三人から何とも言えない視線を受けたレティシアは苦虫を嚙み潰したような顔を逸らした。黒ウサギは苦々しい表情で問う。
「レティシア様は元から鬼種の純血と神格を備えており、その為魔王と称する程の力を誇っていました。ですが、今の貴女は当時の十分の一もありません。何故このような......」
「それは......」
何度も言葉にしようとして呑み込む動作を繰り返した。そして、回数を重ねるごとに間隔長くなり、口を閉じてしまった。私はこの鬱蒼した状態を頭を掻きながら言う。
「あの.....黙って聞いてたけど、さ。お腹空いてきたし、おうどんでも食べない?」
「そういえば昼飯食ってなかったな!屋敷の方に戻ろうぜ」
二人は沈鬱そうな表情で、静かに頷くのだった。
後々出るかもしれないキャラクター
-
柳生但馬守宗矩
-
佐々木小次郎
-
どっちでもいいよ
-
ここにはいないから感想で教えるぜ!